歯医者で使われるマイクロスコープって?マイクロスコープのメリット・デメリットも解説します
マイクロスコープとは医療用の顕微鏡のことで、患部を拡大して詳細に観察できる利点があり、従来の方法では見えなかった細かな部分の治療が可能となります。歯科ではどのような治療ができるのか、保険は使えるのか、疑問が尽きない方も少なくないでしょう。この記事では、歯科におけるマイクロスコープについて、メリットやデメリットを交えて解説します。
マイクロスコープについて
マイクロスコープはさまざまな診療科で使われており、歯科治療には1990年代から導入され始めました。どのような場面で使われ、歯科治療ではどう生かされているのか解説します。
- マイクロスコープとはどのようなものか教えてください。
- マイクロスコープとは、医療用の高性能な顕微鏡です。患部を明るく照らし、数倍〜数十倍に拡大することで、細部まで確認しながら治療できるのが強みです。血管外科や脳神経外科、眼科、耳鼻咽喉科などさまざまな分野でマイクロスコープが活用されています。歯科領域のマイクロスコープは、20倍程度まで拡大可能です。
- マイクロスコープはどのような場面で使われますか?
- マイクロスコープは、患部を拡大して細かな処置を行いたい場面で使われます。例えば、細い血管をつなぎ合わせる手術や、目の手術などです。歯科においては、むし歯治療や歯周病の治療などが当てはまります。また、マイクロスコープには強力な照明が付いており、狭く深い患部も奥まで見やすい特徴があります。歯の内部などの狭い部分を治療しやすいほか、切開が必要な治療においても、小さな傷で奥まで処置できる利点があります。
- マイクロスコープで可能な歯科治療を教えてください
- 歯科領域では、以下のような治療にマイクロスコープが有用です。
- 根管治療
- むし歯治療
- 詰め物・被せ物の調整
- 歯周病治療
- 口腔外科領域の治療
根管治療では、複雑で狭い歯の内部を細かく確認しながら治療できます。根管の形は人によって異なるうえ、奥歯では2〜4本ある根管をくまなくチェックしなければならず、肉眼での作業は困難です。そのため、マイクロスコープを使うと、肉眼よりも正確に病変部の確認が可能となり、より精密な処置が行えます。また、むし歯治療においては、歯を拡大して観察することで、肉眼では見えないむし歯を早期発見できる可能性があります。治療の際は病変部だけを正確に削ることができ、不要な切削を防げるため健康な部分を多く残せるでしょう。
詰め物・被せ物の調整では、マイクロスコープを使うとミリ単位の調整が可能です。歯との間のわずかな隙間も残さないことで汚れが溜まるのを防ぎ、歯を長持ちさせる効果が期待できます。歯周病治療における歯周ポケットの測定や歯石の除去も、マイクロスコープを使えば拡大しながら処置が行えます。治療器具を正確に当てられるため、歯や歯肉を傷つけにくく、痛みや出血をなるべく少なく抑えられるでしょう。ほかにも、難しい抜歯や歯茎の切開が必要な治療など、口腔外科領域の治療にもマイクロスコープが役立ちます。切開する範囲が少なく済み、出血や腫れも抑えられる可能性があります。
マイクロスコープによる歯科治療のメリット・デメリット
マイクロスコープでの歯科治療には、従来の方法では得られなかったメリットがあります。一方で、マイクロスコープならではのデメリットも存在します。
- マイクロスコープによる歯科治療のメリットは何ですか?
- マイクロスコープによる歯科治療のメリットは以下の3点です。
- 精密な治療ができる
- 予後にもよい影響がある
- 画像をモニターに映して見られる
精密な治療が可能となることで微細なヒビやむし歯を発見できるだけでなく、歯を削る量を少なく抑えられる、見落としそうな部分も残さず治療できるといったメリットがあります。結果として、健康な部分を多く残せたり、病変を残さず取り除けたりする可能性が高まるため、予後にもよい影響が期待できるでしょう。また、マイクロスコープの画像をモニターに映せば、患者さんもお口の中を見ながら治療が受けられます。治療を実際に見ることで、気持ちが落ち着く方もいるかもしれません。歯科医院によっては治療後に録画を見ながら説明を受けられる場合もあり、より納得して治療を進められるでしょう。
- マイクロスコープによる歯科治療のデメリットは何ですか?
- マイクロスコープによる歯科治療のデメリットは、以下の3つです。
- 1回の治療時間が長くなりがち
- 歯科医師の技術が必要
- 自費診療になる場合がある
治療時間が長くなる理由は、歯や歯茎の細部まで確認するためです。丁寧な作業にはどうしても時間がかかるため、まとまった通院時間が取りにくい方には合わないかもしれません。もっとも、治療を完遂すれば再発の恐れは少なく済む可能性があり、結果的に治療の総時間も少なく済む可能性があります。また、マイクロスコープでの治療は、歯科医師の技術によって治療成果が左右されます。歯科治療では歴史の浅い器具のため、熟練した歯科医師が少ないです。そして、健康保険でマイクロスコープの使用が認められる治療は限られています。治療内容によっては費用負担が大きくなる恐れがあるため、事前に確認するのが大切です。
歯医者でマイクロスコープの治療を受ける場合
マイクロスコープの治療を受けられる歯医者はどのように探せばよいでしょうか。治療を受ける前の注意点と、マイクロスコープが推奨される患者さんの特徴もお伝えします。
- マイクロスコープが設置されている歯医者はどのように探せばよいですか?
- 歯医者にマイクロスコープが設置されているかどうかはホームページなどに記載されていることがほとんどです。マイクロスコープでの治療を希望する場合は通院したい歯医者のホームページを確認してみましょう。また日本顕微鏡歯科学会のホームページでは、マイクロスコープの認定医や認定歯科衛生士と、その勤務先を見ることができます。こちらで近隣の歯医者を探すのもおすすめです。
- マイクロスコープを使用した治療は保険適用になりますか?
- 保険適用となるマイクロスコープ治療は歯根端切除術と大臼歯の根管治療のみです。歯根端切除術とは、歯根の先端にある血管や神経のとおり道を切除・密封し、細菌が入り込まないようにする手術です。根管治療は、根の形が複雑な奥歯のみ適用です。これらの治療を希望する患者さんは、保険が使える可能性があります。
ただし、マイクロスコープでの治療を一律で自費診療とするクリニックも少なくありません。希望の歯医者で保険が使えるかどうか、ホームページなどで必ず確認しましょう。
- どのような方がマイクロスコープを使用した治療を受けるべきでしょうか?
- たとえ自費診療であっても、以下のような方はマイクロスコープを検討する価値があります。
- 根管治療後の再発を繰り返す方
- 抜歯を避けたい方
- 治療後の痛みや腫れを抑えたい方
従来の根管治療は半分手探りであり、先端まで消毒が行き届かない場合や、治療すべき根管を見逃してしまう場合もあったといわれています。しかし、マイクロスコープも用いることで詳細に観察することで隅々まで治療しやすくなり、再発率の低下につながります。また、細かな部分を治療できるため、歯を温存できる可能性も高まります。ただし、すべてのケースで抜歯を避けられるわけではありません。従来の方法では抜歯しかないと言われた場合、マイクロスコープで治療の可能性を探るのも有効な手段といえるでしょう。
処置後の痛みや腫れを少しでも楽にしたい方も、マイクロスコープを検討する価値があります。拡大して見ると器具を正確に当てられるため、不要な部分まで触ってしまうのを防げます。歯茎を切開する場合は少ない傷で処置可能です。また、従来より細い糸で縫合できるため、早い回復が期待できます。
編集部まとめ
マイクロスコープを使用した歯科治療では、肉眼では困難だった繊細な治療が可能です。根管治療では複雑な根管内部を隅々まで処置でき、治療成功率の向上につながります。ほかにもむし歯や歯周病、外科的処置など、治療の可能性が広がります。保険適用の範囲が限られるのは難点ですが、費用がかかってもなおメリットを感じる方もいるでしょう。歯の症状で困っている方は、マイクロスコープを使った治療を検討してみてください。
参考文献