裏側矯正(舌側矯正)で舌が切れる?舌が切れたときの対処法や舌を傷めないためのポイントを解説
ワイヤー矯正は、表側矯正と裏側矯正(舌側矯正)の2種類に分けることができます。前者は標準的な歯列矯正の方法で、後者は装置が目立ちにくい特殊なワイヤー矯正です。装置が目立ちにくく、歯列矯正中も口元の審美性が低下しにくいですが、舌が切れるという症状に悩まされることも少なくありません。ここではそんな裏側矯正(舌側矯正)で舌が切れる原因や対処法、舌を傷めないためのポイントを解説します。裏側矯正(舌側矯正)で舌が切れる症状を何とかしたいと考えている方は参考にしてみてください。
裏側矯正(舌側矯正)について
はじめに、裏側矯正(舌側矯正)の基本事項を確認しておきましょう。
裏側矯正(舌側矯正)とは
裏側矯正(舌側矯正)とは、矯正用ワイヤーとブラケットを歯列の裏側に固定するタイプのワイヤー矯正です。舌がある方に器具が位置していることから、舌側矯正(ぜっそくきょうせい)やリンガル矯正と呼ばれることもあります。
矯正に使用するワイヤーとブラケットは、ギラギラと光を反射する金属製ですが、歯列の裏側に隠れるため、歯列矯正をしていることに気付かれにくいです。近年では、透明なマウスピースのインビザラインが人気ですが、審美面では裏側矯正(舌側矯正)の方が優れています。
裏側矯正(舌側矯正)がおすすめの人
裏側矯正(舌側矯正)は、次に挙げるような人におすすめです。
◎目立ちにくい装置で矯正をしたい
裏側矯正(舌側矯正)は歯列矯正のなかでも、特に目立ちにくい方法です。上顎の装置は、正面からはまったく見えないといっても過言ではありません。
人に見られたりカメラで撮られたりする職業の人は、裏側矯正(舌側矯正)で歯並びの治療を行うケースが少なくありません。タレントや芸能人だけでなく、一般の人でも歯列矯正中の審美性を重視する方は、裏側矯正(舌側矯正)がおすすめです。
◎スポーツや楽器演奏が習慣化している
仕事でスポーツや楽器演奏を行っている方にも、矯正装置による影響を抑えられる裏側矯正(舌側矯正)がおすすめです。裏側矯正(舌側矯正)なら、スポーツ中に転倒してもお口のなかを傷めにくいですし、吹奏楽器の演奏の妨げにもなりにくいです。
◎マウスピース型矯正の適応が難しい
マウスピース型矯正を希望していたにも関わらず適応外となった方にも、裏側矯正(舌側矯正)がおすすめです。裏側矯正(舌側矯正)の適応範囲は、表側矯正とほぼ同じで、重症例でも問題なく治せることが少なくありません。同時に、裏側矯正(舌側矯正)なら装置が目立ちにくいという要望も満たすことができます。
◎出っ歯の症例
歯列矯正は、装置が付けられている方向に歯を動かしやすいです。表側矯正であれば、歯を外側に引き込む力が強いですが、裏側矯正(舌側矯正)は逆方向になります。 日本人に少なくない出っ歯の症例は、裏側矯正(舌側矯正)で治しやすいとされています。患者さんの出っ歯の症状によっては、裏側矯正(舌側矯正)にアドバンテージがなくなることもありますが、まずは歯科医師に相談してみることをおすすめします。
◎むし歯リスクが高い人
過去にむし歯を発症した経験があり、むし歯リスクが高いと自覚している方は、裏側矯正(舌側矯正)がおすすめです。なぜなら裏側矯正(舌側矯正)の装置が固定される部位では、唾液による自浄作用や抗菌、殺菌、再石灰化、緩衝が働きやすいからです。前歯のエナメル質は、表側より裏側の方が厚いことから、むし歯が重症化しにくいという利点もあるのです。
裏側矯正(舌側矯正)のメリットとデメリット
続いては、裏側矯正(舌側矯正)に伴うメリットとデメリットを解説します。
裏側矯正(舌側矯正)のメリット
【メリット1】矯正装置が目立ちにくい
裏側矯正(舌側矯正)のメリットは、装置が目立ちにくい点です。ワイヤーとブラケットを歯列の裏側に固定するため、一見すると何もつけていないように見えます。
【メリット2】むし歯リスクが低い
歯列の裏側には、唾液腺の開口部があり、唾液による自浄作用や殺菌作用が働きやすくなっています。そのため裏側矯正(舌側矯正)は、表側矯正よりもむし歯リスクが低いです。
【メリット3】歯の着色を防ぎやすい
表側矯正では、ブラケットの周りに色素が沈着して、歯の着色を引き起こしやすいですが、装置が歯列の裏側にある裏側矯正(舌側矯正)では、歯の表側の着色が防ぎやすくなります。
裏側矯正(舌側矯正)のデメリット
【デメリット1】発音に影響が出やすい
言葉を正しく発音するためには、舌が適切に動かなければなりません。舌の運動範囲に矯正装置が固定される裏側矯正(舌側矯正)では、発音や滑舌が悪くなることが少なくありません。ただし、裏側矯正(舌側矯正)を始めてから数週間も経過すれば、舌を上手に動かす方法が身に付き、発音や滑舌も徐々に良くなっていきます。
【デメリット2】費用が高い
裏側矯正(舌側矯正)は、標準的な表側矯正よりも費用が数十万円程度、高くなります。これは裏側矯正(舌側矯正)に特別な器具が必要なため、適切に治療するには高度な技術と知識が必要だからです。
【デメリット3】対応できる歯科医院が一部に限られる
裏側矯正(舌側矯正)は、行える矯正歯科が限られています。そのため裏側矯正(舌側矯正)に対応している歯科医院は、全国的にも一部に限られるため、遠方まで通院しなければならないことがあります。
【デメリット4】舌への負担が大きい
表側矯正の装置は、歯列の表側にワイヤーとブラケットを結紮線で固定するため、舌の運動を妨げたり舌が切れることはありません。一方で、舌を取り囲むような形で装置が固定される裏側矯正(舌側矯正)では、舌に関するトラブルが少なくありません。
裏側矯正(舌側矯正)で舌が切れる原因
次に、裏側矯正(舌側矯正)で舌が切れる原因について解説します。
装置と舌の摩擦
裏側矯正(舌側矯正)では、矯正装置が舌を取り囲むような形で固定されます。そのため舌には常に装置との摩擦が生まれることで舌が切れたり、痛みが生じる症状が現れやすくなります。ワイヤーやブラケット、結紮線が適切な状態に調整されていても起こりうるトラブルなので、裏側矯正(舌側矯正)を選択した場合はリスクを正しく理解しておく必要があります。
ワイヤーの突出
歯列矯正では、歯が動く過程でワイヤーの位置や形が変わることがあります。ワイヤーの一部が突出をして舌を刺激すると、切れたり傷めたりする症状を引き起こします。ワイヤーの鋭利な部分が突出している場合は、かなりの確率で舌が切れるため十分な注意が必要です。
結紮線が突起の様に飛び出す
裏側矯正(舌側矯正)で舌が切れる原因は、結紮線の飛び出しもあります。標準的な裏側矯正(舌側矯正)では、ブラケットにアーチワイヤーを通した後に、結紮線という細いワイヤーで結びつけます。
結紮線は手作業でグリグリと回しながら結びつけるものなので、装置に大きな圧力が加わることで徐々に緩んで行きます。その一部が舌を刺激すると、舌が切れるという症状を引き起こしかねないのです。
ちなみに、ブラケットが外れたり、ワイヤーが突出したりするトラブルは、患者さん自身で対応することは不可能ですが、結紮線に関しては少し話が変わります。例えば、結紮線の先端が舌の方へと向いている場合は、患者さん自身で内側に折り曲げたりすることも可能だからです。とはいえ結紮線を無暗にいじると、より深刻な症状を引き起こしかねないことから、自分での対応が難しいと判断した場合は、専門家に調整を任せるようにしてください。
舌が切れたときの対処法
裏側矯正(舌側矯正)で舌が切れたときは、次の方法で対処しましょう。
早めに歯科を受診する
裏側矯正(舌側矯正)では、歯が痛い、しゃべりにくいなど、さまざまな症状に悩まされることがありますが、時間の経過とともに慣れてくるため、早急に対処が必要になるわけではありません。
一方、裏側矯正(舌側矯正)で舌が切れるのは、深刻な外傷を負っているのと変わりがないため、早期に歯科を受診するのが望ましいです。そのまま放置すると、患部に細菌感染が起こったり、舌の粘膜組織により深刻な異常が生じたりする可能性があるからです。歯科を受診する前には主治医に電話で相談し、今の状況を細かく伝えましょう。ケースによっては、舌が切れるのは一時的な症状で、早期の受診が不要である場合もあります。
◎歯科医院での対処法
矯正装置で舌が切れて歯科を受診した場合は、ワイヤーや結紮線を調整して対処します。「ワイヤーがあたって痛くないですか?」と聞かれるので、正確に伝えることが大切です。調整後もワイヤーが少し当たっていたり、食事や会話をするとワイヤーが当たったりしそうな場合はしっかりと伝えて、再び舌が切れないよう対処が大切です。矯正の診療で遠慮は、患者さん自身の不利益が大きくなるので、納得のいくまで調整を加えてもらいましょう。
矯正用ワックスを活用する
裏側矯正(舌側矯正)のワイヤーや結紮線が原因で舌が切れている場合は、装置が突出している部分に矯正用ワックスを貼り付けると効果的です。蝋で作られている矯正用ワックスは、形態を自由に変えることができ、装置にぴったりフィットして貼り付けられます。
矯正用ワックスは、矯正歯科からもらえるのが一般的ですが、近年ではシリコーンタイプの硬化するワックスも市販されており、必要に応じて使い分けてみるのもよいでしょう。
口内炎用軟膏やシールを使用する
矯正装置で舌が切れた部分への対処に、口内炎用軟膏やシールの使用が推奨されます。どちらもドラッグストアや薬局、ネットで販売されており、誰でも手に入れることができます。傷口を癒す作用はそれ程高くはありませんが、応急的な処置としては有効です。
裏側矯正(舌側矯正)で舌を傷めないためのポイント
裏側矯正(舌側矯正)で舌が切れる、舌を傷める症状を予防するためのポイントを解説します。
食事内容を工夫する
裏側矯正(舌側矯正)は、食事のときに傷つけることが少なくありません。安静にしているときは特に症状は現れないのに、なぜか食事のときだけ舌が痛くなったり、舌が切れたりする場合は、食事内容を工夫することから始めてください。
具体的には、硬い食べ物や弾力性の高い食べ物は、上下の歯と舌を激しく動かすため、舌を傷めるリスクも高まります。私たちの舌は食事のときに、驚く程複雑な動きをしていることを知っておいてください。だからといって噛まずに飲み込めるものばかり食べるのも顎や筋肉に良くないので、柔らかい食べ物を選んだり、適度に歯応えがある食事を心がけたりすたりするとよいでしょう。同時に、舌が矯正装置に当たらない噛み方を覚えることも重要となります。そのためには食事のときにゆっくりと噛むことも大切です。
矯正装置に力がかからないように気を付ける
歯ぎしりや食いしばりは、歯や歯茎だけでなく、矯正装置にも過剰な力をかけてしまいます。その結果、ワイヤーや結紮線が逸脱したり、噛んだ時に舌を巻きこんだりして傷めるため、歯ぎしりや食いしばりは意識的に改善するようにしましょう。
歯ぎしりや食いしばりを自分で抑えることができず、装置の破損や舌の外傷を引き起こす原因となっている場合は、早期に主治医へ相談しましょう。そのまま放置していると、患者さんが痛い思いをすることに加え、矯正治療自体に大きな悪影響が生じかねません。
定期的に歯科医院で検診を受ける
矯正期間中は、歯科医院での定期的なメンテナンスが義務付けられています。裏側矯正(舌側矯正)なら1ヵ月に1回の通院が一般的です。定期的なメンテナンスをしっかり受けることでも矯正装置で舌が切れるようなトラブルは予防しやすくなります。一般歯科での定期検診も3~4ヵ月に1回くらいの頻度で受けていれば、その他のお口のトラブルも防ぎやすくなるでしょう。
まとめ
今回は、裏側矯正(舌側矯正)で舌が切れる原因と対処法、舌を傷めないためのポイントについて解説しました。裏側矯正(舌側矯正)で舌が切れる主な理由は、ワイヤーや結紮線による刺激、装置との摩擦です。これらは歯列の裏側にブラケット装置を固定する裏側矯正(舌側矯正)で起こりやすいトラブルです。裏側矯正(舌側矯正)で舌が切れた場合は、その原因に応じて応急的な処置を施すことが推奨されますが、いずれにしても主治医に相談することは忘れないでください。ワイヤーや結紮線が突出して舌を傷めているということは、専門家による調整が必要です。
参考文献