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入れ歯の作り方|作製の流れや完成までの期間の目安、メンテナンスも解説

 公開日:2025/12/05

入れ歯は、失われた歯を補うための大切な治療法です。むし歯や歯周病、事故などさまざまな原因で歯を失うと、食事や会話に支障が出て生活の質が低下してしまいます。そのような状態を改善する入れ歯は、単に歯の見た目を補うだけでなく、噛む・話すといったお口の機能を回復し日々の生活の質(QOL)を大きく向上させる重要なものです。本記事では、入れ歯が必要になる背景や種類の基礎知識、実際の入れ歯作製の流れ、完成までにかかる期間の目安、そして作製後の定期メンテナンスについて解説します。

入れ歯の基礎知識

入れ歯の基礎知識

入れ歯について検討し始めた方向けに、まずは基礎知識を押さえておきましょう。入れ歯が必要となる代表的なケースや、入れ歯の種類と素材の違いを解説します。

入れ歯が必要なケース

入れ歯はどのような場合に必要になるのでしょうか。高齢の方だけでなく、さまざまな要因で歯を失った場合に入れ歯治療が選択されます。代表的なケースを挙げてみます。

  • 重度のむし歯・歯周病
  • 事故や外傷による歯の喪失
  • 加齢による歯の喪失
  • 残存歯が少なくブリッジが困難
  • インプラントが難しい場合

以上のように、入れ歯は一本から多数の歯を失ったさまざまなケースで必要です。歯を失ったまま放置するとほかの歯や顎にも悪影響が及ぶため、早めに歯科医師に相談し適切な補綴治療の提案を受けることが大切です。

入れ歯の種類

一口に入れ歯といっても、失った歯の本数やお口の状況、使用する素材によっていくつかの種類に分けられます。ここでは大きく総入れ歯部分入れ歯に分類し、それぞれの特徴や素材の違いを解説します。

区分内容・構造特徴・メリット注意点・デメリット
総入れ歯・上顎または下顎の歯がすべて失われた場合に使用します。
・義歯床(入れ歯の土台)が歯茎を覆い、粘膜と顎骨への吸着で安定します。
・すべての歯を一度に補えるため、食事や会話機能を回復できます。
・見た目も自然に仕上がります。
・天然歯より噛む力が弱く、吸着が不十分だと外れやすいことがあります。
・精密な型取りが重要です。
部分入れ歯・一部の歯が残っている場合に使用します。
・残存歯に金属のバネ(クラスプ)をかけて固定する構造です。
・失った歯の数や位置に合わせて設計でき、支えがあるため安定性が高いです。
・取り外しも可能です。
・クラスプが見えると見た目が気になる場合があります。
・残っている歯への負担も考慮が必要です。

このように、総入れ歯と部分入れ歯にはさまざま違いがあり、それぞれメリットとデメリットは異なります。これらの特徴を考慮して、患者さんの歯の状態に合った入れ歯を選択します。

総入れ歯・部分入れ歯の作り方

総入れ歯・部分入れ歯の作り方

ここからは、実際に入れ歯ができるまでの作製工程について解説します。総入れ歯でも部分入れ歯でも基本的な流れは似ており、いくつかのステップを経て完成します。

カウンセリングを受ける

入れ歯作製は、まず歯科医師とのカウンセリングから始まります。患者さんの現在のお口の悩みや要望をしっかり聞き取り、入れ歯治療への不安や疑問に答えながら治療方針を立てていきます。

具体的には、最初の診察時にお口の状態の簡単なチェックレントゲン撮影を行い、歯が残っているか・歯茎や顎骨の状態はどうかを確認します。そのうえで「どのような入れ歯が適しているか」「入れ歯以外の選択肢はあるか」などについて歯科医師から説明があります。

また、患者さんの生活スタイルや希望も大切です。よく噛めることを重視したい、見た目を自然にしたい、費用はできるだけ抑えたいなど、それぞれの要望に合わせて入れ歯の種類や素材の提案が行われます。

口腔内の検査を受ける

カウンセリングに続いて、より詳しいお口の検査を行います。入れ歯を作る前提として口腔内を健康な状態に整える必要があるため、この段階で問題がみつかれば対処します。

歯科医師が口腔内を隅々まで検診し、残存歯の本数や位置、歯茎の粘膜の状態、噛み合わせの癖などを詳しく調べます。具体的には歯周病の検査やむし歯の有無のチェック、義歯を安定させる顎骨の形状確認などを行います。

残っている歯については、入れ歯を支える支柱となるため、グラつきが強い場合は抜歯を検討したり、むし歯がある場合は事前に治療します。

歯茎の型を取る

入れ歯作りでもっとも重要な工程の一つが、お口の型取りです。歯科医師が患者さんの歯茎や残っている歯の形を型取りし、その型をもとに入れ歯を作製します。

具体的には、まずやわらかい印象材(アルジネートなど)を用いて上顎・下顎それぞれの型を採ります。トレーと呼ばれる枠にペースト状の印象材を盛り、お口の中に数十秒あてがって硬化させます。

硬化後にそっと外すと、歯茎や歯の形状が陰型として写し取られます。この一次印象をもとに石膏模型を作り、さらに精密な個人トレー(患者さん専用の型枠)を製作して、二次印象を行う場合もあります。二次印象ではシリコン系の印象材を使い、より歯茎の細かな凹凸まで写し取ります。この型取りによって、ぴったり合う入れ歯の土台ができます。

噛み合わせを確認する

正しい噛み合わせの確認も、入れ歯作りには欠かせない工程です。特に総入れ歯ではすべて人工の歯になるため、上下の顎の位置関係や噛み合わせの高さを一から決め直す必要があります。

型取りから作った模型上に、歯科技工士がろう義歯と呼ばれる仮の土台を作製します。ロウ堤は蝋でできた土手のようなもので、この上に歯を並べることで噛み合わせの高さや前後左右の位置を測定します。患者さんにはこのロウ堤をお口に入れて咬んでもらい、適切な高さか、唇の厚みや見た目は自然かなど細かく確認します。
部分入れ歯の場合も、残っている歯と人工歯がスムーズに当たるように噛み合わせを調整します。残存歯の噛み癖や動揺の程度も考慮しながら、高さや位置を決定します。必要に応じて残存歯の噛み合わせ面をわずかに削って調整することもあります。

仮の入れ歯を試す

本番の入れ歯が完成する前に、仮の入れ歯を実際にお口に入れてみて、見た目や噛み心地を確認する段階です。この時点で細かな調整を加えることで完成度を高めます。

前工程で得られた噛み合わせや型の情報をもとに、歯科技工士が人工歯を並べた仮の入れ歯を作ります。この仮の入れ歯を患者さんのお口に入れてみて、歯並び咬み合わせ発音顔貌などを確認します。もしこの段階で不具合が見つかれば、人工歯の配置を直すことができます。

完成した入れ歯の装着・調整

いよいよ完成した入れ歯をお口に装着する段階です。歯科医師が装着し、痛みや違和感がないか確認します。初日の段階では多少の異物感はあるかもしれませんが、強い痛みやまったく噛めないほどの不具合があれば調整が必要です。

歯科医師と歯科技工士が入れ歯を作る流れ

歯科医師と歯科技工士が入れ歯を作る流れ

入れ歯は歯科医師だけでなく歯科技工士とが協力して作ります。ここでは、総入れ歯と部分入れ歯それぞれの製作工程を、歯科医師と歯科技工士の連携の視点から解説します。

総入れ歯を作る流れ

総入れ歯では、お口全体に合う入れ歯を作るために、歯科医師と歯科技工士の綿密な連携が重要です。

工程内容
型取りと模型作製歯科医師が口腔内の精密な型を採り、歯科技工士がその型に石膏を流して口腔模型を作製します。
咬合採得と人工歯の配列模型上に蝋(ろう)の土手(ロウ堤)を作り、歯科医師が噛み合わせの高さと顎の位置関係を決定します。その情報をもとに技工士が人工歯を並べて仮義歯を作製します。
試適(トライイン)と調整指示蝋義歯を実際にお口に入れ、見た目や噛み心地を確認します。必要に応じて歯の位置や噛み合わせ、発音などを修正します。
最終仕上げ試用後、蝋の部分を最終材料(レジン樹脂)に置き換え、加熱・重合・研磨して仕上げます。
装着と最終調整完成した義歯を装着し、噛み合わせ・適合を最終確認します。不快感や圧迫感がある部分を微調整します。

このように、総入れ歯製作では型取りから完成まで技工士の技術が欠かせません。歯科医師が患者さんから得た情報を技工士に正確に伝え、技工士はそれを形にすることで総入れ歯は作られていきます。

部分入れ歯を作る流れ

部分入れ歯はお口の中に残っている歯がある状態で作る入れ歯です。そのため総入れ歯とは異なる点がいくつかあります。

工程内容
金属フレームの製作多数の歯を失っている場合や強度・薄さを求める際に金属床を使用します。技工士がロウで形を作り、コバルトクロムやチタン合金などの金属を鋳造してフレームを作製します。
人工歯の配列と床の形成金属フレームの上にピンク色のレジン床(歯茎部分)を蝋で形成し、人工歯を並べます。フレームを使わない保険義歯では樹脂床で同様に作製します。
試適と調整仮の部分入れ歯をお口に装着して、クラスプのかかり具合・噛み合わせ・見た目・違和感などを確認します。歯科医師が着脱を実演し、患者さんにも練習してもらいます。
最終仕上げと装着技工士が蝋床を硬いレジンに置き換え、研磨して完成した義歯を作製します。歯科医師が最終的な噛み合わせ・クラスプ調整を行い装着します。

以上が部分入れ歯製作のおおまかな流れです。金属フレームを使用するなどの違いはありますが、患者さんから見た治療の流れ自体は総入れ歯と似ています。

入れ歯の型取りから完成までの期間の目安

入れ歯の型取りから完成までの期間の目安

入れ歯治療を始めるにあたり、「完成までどのくらい時間がかかるのだろう?」と不安に思う方も多いでしょう。ここでは、一般的に入れ歯作製に必要な通院回数や期間の目安を総入れ歯・部分入れ歯それぞれについて解説します。

総入れ歯が完成するまでの期間の目安

総入れ歯の場合、失った歯が多いため工程も多く、完成までにある程度の期間を要します。総入れ歯はおよそ1ヶ月で完成します。各工程の間は技工士の作業期間が必要なため、通常間隔を空けて予約を取ることが多く、初診から装着まで約1ヶ月かかります。

参照:『総義歯の作りかた – 図工』(長崎県歯科医師会)

部分入れ歯が完成するまでの期間の目安

部分入れ歯は残っている歯の状態や欠損部位によって工程が多少省略できることもあり、総入れ歯より短い期間でできることもあります。早い場合は約2週間で部分入れ歯ができあがる場合もあります。しかし、1ヶ月ほどかかることもあるため、総入れ歯と同じくらいの期間をみておいた方がよいでしょう。

入れ歯が完成した後の定期メンテナンスの内容・頻度

入れ歯が完成した後の定期メンテナンスの内容・頻度

入れ歯は完成後も定期的なメンテナンスを続けることが大切です。一度作った入れ歯を長く使うには、時間の経過とともに起こる変化に対応したケアが必要です。本章では、入れ歯装着後の定期検診でどのようなことを行うのか、その内容と受診頻度の目安について解説します。

定期メンテナンスで行うこと

入れ歯を使い始めた後も、定期的に歯科医院でチェックを受けることでトラブルを未然に防げます。定期メンテナンスの際に歯科医師が行う主な内容は以下のとおりです。

  • お口の中の状態確認
  • 汚れや歯石の除去
  • 入れ歯にひび割れや変形はないかなど状態確認
  • 噛み合わせ・適合の調整
  • 残存歯のケア

このように、定期検診では入れ歯とお口の総合的なメンテナンスが行われます。患者さん自身では気付きにくい細かな不具合も確認できるため、「特に問題を感じていない」という場合でも受診する価値があります。

定期メンテナンスの頻度

では、入れ歯の定期検診はどのくらいの頻度で受けるのが望ましいのでしょうか。入れ歯の定期検診は、一般的に半年に1回が目安ですが、口腔の状態によっては3~4ヶ月ごとがよいこともあります。

装着直後の1〜2ヶ月は慣れるまで頻回に調整し、その後は安定に合わせて間隔を延ばします。入れ歯の使用中に外れやすいなどの違和感がある場合は、定期受診日を待たず早めに受診しましょう。

また、何年も同じ入れ歯を使っている場合は顎の変化によるズレも生じやすいため、定期的な見直しが推奨されることもあります。

まとめ

まとめ

入れ歯治療の流れを導入から完成、そしてその後のケアまで一通り解説しました。初めての入れ歯は不安も多いかもしれませんが、信頼できる歯科医師・歯科技工士のもとで順を追って治療を進めれば、より快適な生活を送ることができるでしょう。そして、手に入れた入れ歯は大切に扱い、定期検診を受けながら長く付き合っていってください。入れ歯を通じて、皆さまの食事をおいしく楽しめる毎日と笑顔が守られることを願っております。

参考文献

この記事の監修歯科医師
松浦 京之介歯科医師(歯科医)

松浦 京之介歯科医師(歯科医)

出身大学:福岡歯科大学 / 経歴:2019年 福岡歯科大学卒業、2020年 広島大学病院研修修了、2020年 静岡県、神奈川県、佐賀県の歯科医院で勤務、2023年 医療法人高輪会にて勤務、2024年 合同会社House Call Agencyを起業 / 資格:歯科医師免許 / 所属学会:日本歯科保存学会、日本口腔外科学会、日本口腔インプラント学会

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