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歯周病が膵臓がんのリスクを高める!?

 更新日:2023/03/27

こんにちは、有楽町デンタルオフィス勤務、日本歯周病学会歯周病認定医の佐藤正敬と申します。
今回は、歯周病が膵臓がんのリスクを高めるのか? について、歯周病の原因となる細菌や、今まで歯周病と関連していることが言われている全身疾患など、知っておきたい事柄を交えながら紐解いていきたいと思います。

佐藤 正敬(日本歯周病学会認定医)

執筆歯科医師
佐藤 正敬(日本歯周病学会認定医)

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東京歯科大学卒業。日本歯周病学会認定医、日本口腔インプラント学会会員。

 歯周病原細菌について

歯周病は細菌感染症であり、原因因子は歯に付着したプラークという細菌の塊です。そのプラークの中には歯周組織を破壊し、歯周病の原因となる細菌が存在します。その細菌のことを歯周病原細菌と呼びます。口の中には約800種類の細菌がいると言われているため、プラークはそれぞれの環境にあった細菌で構成されます。例えば、歯周病原細菌は嫌気性菌(空気がないところで発育する)が主なため、歯周ポケット(歯と歯茎の境目にある溝)内のプラークに多く検出されます。歯を磨かない、あるいは磨けていないことによって歯茎が腫れると、そのぶん歯周ポケットは深くなります。深くなった歯周ポケット内はさらに空気が無くなり、磨きづらくなることから、歯周病原細菌が発育しやすい環境となります。歯周病原細菌の代表的な例として、Porphyromonas gingivalis(P.g菌)やAggregatibacter actinomycetemcomitans(A.a菌) などが挙げられます。これらの菌は非常に強力な内毒素(細菌が内部に持つ毒素)を持っています。それらに体が対抗するために炎症が惹起され、その代償として歯を支える骨が吸収されることで、最終的には歯を失うことに繋がっていきます。
歯周病原細菌の持つ内毒素、それに伴う炎症、そしてそれに対抗するための体の反応は、口腔内に留まらず全身疾患にも影響することが分かっています。全身疾患と歯周病に関しては次の項目でお話ししましょう。

 全身疾患と歯周病について

現在、歯周病は様々な全身疾患と関連している事が分かっています。これまで、歯周病が関連すると報告されている疾患の例を以下に記します。
 ・1型, 2型糖尿病
 ・動脈硬化
 ・虚血性心疾患
 ・慢性腎臓病
 ・低体重児出産, 早産
 ・誤嚥性肺炎
 ・骨粗鬆症
これらの疾患は、歯周病と実際にどのようなメカニズムで関連しているか詳細に分かっているものもあれば、そうでないものもあります。なかでも糖尿病は歯周病と深い関係があり、歯周病は糖尿病の合併症の一つです。また、相互に発症のリスク、悪化を助長する関係にあります。歯周病も糖尿病も生活習慣病であり、毎日のブラッシング、食生活を含めた生活習慣を見直すことで予防することが可能です。歯周病治療で糖尿病も改善する事が明らかとなっているため、歯科医師と医師の連携も重要となってきます。もしお近くで糖尿病でお困りの方がいれば、是非お医者さんだけでなく、歯医者さんへの受診も勧めてみてください。

 歯周病と膵臓がんについて

ここまで、歯周病原細菌や全身疾患と歯周病についてお話してきました。それでは、本題ですが歯周病と膵臓がんに関連性はあるのでしょうか。ここからは2017年に掲載された研究論文(Fan X, et al. Gut 2017; 67: 120-127.)を参考にお話をしていきましょう。
膵臓がんは診断されてから5年以内に死亡する確率が93%という恐ろしい病気です。今まで、口腔内環境が悪いことや、歯周病原細菌に対する血清中の抗体(細菌に対する体の防御機構)が多いと膵臓がんのリスクが高くなると言われてきましたが、歯周病原細菌が直接膵臓がんと関連しているかどうかは不明なままでした。そこで、膵臓がん患者群と対照群のうがい薬中に含まれる細菌を遺伝子レベルで同定し、細菌の種類が膵臓がん発症のリスクと関連があるかを調べました。その結果、歯周病原細菌である Aggregatibacter actinomycetemcomitans の保菌者で約2.2倍、同じく歯周病原細菌である Porphyromonas gingivalis の保菌者で約1.6倍膵臓がん発症のリスクが高いという結果が出たのです。さらにこの研究では、細菌採取後2年以内に膵臓がんを発症した人を対象から排除しており、逆因果(膵臓がんは歯周病になりやすい)の可能性を低くすることで、より信憑性の高い結果となっています。
しかし実際に口腔内の細菌が膵臓という遠く離れた臓器にいるのでしょうか? Swidsinski らが2005年に発表した論文では、口腔内細菌を含む多種多様の菌が膵炎患者の膵臓内に存在したとしています。実際に口腔内の菌が移動し、そこから繁殖したかどうかは分かりませんが、口と膵臓という離れた部位にも口腔内細菌がいることが分かったのです。また、膵臓だけではなく、アテローム性動脈硬化症のアテローム(動脈の内側に向かって成長する斑状の内膜)や食道アルツハイマー病患者の脳胎盤など多くの部位に口腔内細菌が存在することが分かっています。歯周病原細菌により歯茎の炎症が引き起こされ、出血しやすい環境が生まれれば、細菌は血流にのって全身へ、口腔内がプラーク(歯周病原細菌を含む細菌の塊)で汚れていれば食事と共に全身へ、口腔内細菌の移動は膵臓だけでなく他の部位にも波及する可能性があるのです。歯周病が必ずしも膵臓がんを引き起こすわけではないですが、一つの重要なリスクとなっている事は否定できません。

 まとめ

口腔内という環境は粘膜で覆われていながらも外界と交通しており、なおかつ全身と繋がる体の中でも非常に特殊な環境です。歯周病は歯を失うだけでなく、口腔内というその環境が汚染されることで、全身疾患へとつながる火種となる事を覚えておきましょう。

この記事の監修歯科医師