歯周組織再生医薬品リグロスについて
こんにちは、東急田園都市線たまプラーザの日本歯周病学会認定歯周病専門医が在籍する歯医者「美しの森デンタルクリニック」院長の村野嘉則と申します。
歯周病は歯周病原菌がもとで引き起こされる歯茎の炎症です。歯周病を発症し何もせず放置していると、ほとんど症状を感じないために知らず知らずのうちに進行し、歯を支えている骨などの歯周組織を破壊してしまう怖い病気です。
歯周病で骨がなくなってしまった場合、あきらめるしかないのでしょうか?実はある程度の条件を満たした症例であれば、失った骨などの歯周組織を再生させることが可能となります。今回は歯周病で失った組織を再生させる「歯周組織再生療法」について、特に昨年末に保険適応認可された「リグロス」について詳しくご説明したいと思います。
目次 -INDEX-
歯周病とは
歯周病はお口の中に棲んでいる歯周病原菌がもとで引き起こされる歯茎の炎症です。この歯周病原菌は、歯に付着するプラーク(歯垢)に棲んでいます。そして、そのプラークをブラッシングなどのお口のお手入れで、うまく落とせていないと歯周病を発症してしまいます。
歯周病はまず、歯の周りの歯肉から炎症を起こして、歯肉が赤くなったり腫れてしまったりする歯肉炎を引き起こします。ほとんど症状なく進んでしまうため、歯科医院で定期検診などを受けていないと発見が遅れ、さらに進行し歯の周りにある組織が破壊され結果的に歯を支える歯槽骨が溶けてしまいます。このような状態になったものを歯周炎と呼びます。歯周炎により失った組織を再生させる目的で行う治療に歯周組織再生療法があります。
歯周組織再生療法とは
歯の周りには歯周組織(歯肉・セメント質・歯根膜・歯槽骨)からなるもので構成されています。歯周病により破壊されたこれらの歯周組織を再生させる目的で行う治療を歯周組織再生療法と呼び、基本的な歯周病治療を行っても改善しなかった場合に行う歯周外科治療のひとつです。
詳しくは谷塚藤波歯科医院の藤波先生のブログ「歯周病で溶けてしまった骨は戻らない?歯周組織再生療法」をご覧ください。
歯種組織の再生のための条件として、組織再生のための「細胞」とその成長を促す「成長因子」そして再生のための「足場」が必要であるといわれています。
これまで再生するスペースを確保するために遮断膜を使ったGTR法や、歯周組織を失った部分に成長因子を含んだタンパク質を塗布するエムドゲイン法などが主に行われてきました。
リグロスとは
リグロスは歯周組織の再生のための条件でお話しした「細胞」「成長因子」「足場」の三つの中の成長因子にあたるものです。有効成分として遺伝子組換えヒトbFGF製剤(塩基性繊維芽細胞増殖因子)という成長因子を含むお薬となります。これまで多くの臨床試験が行われ、安全性が確立されている薬剤です。
少し難しくなりましたが、この薬剤を歯の周りの組織破壊が起こった部分に応用すると、なくなってしまった組織のもとになる細胞を増殖させるとともに血管の新生を促すことで歯槽骨、歯根膜、セメント質といった組織が新たにつくられ、その結果として歯周組織を再生させます。
リグロスを使った治療を受けるには
リグロスは歯周病治療における歯周外科治療にあたるものです。
歯周外科治療は歯ブラシ指導や歯周ポケット内に及ぶ歯石除去などの基本的な歯周病治療を行ったにもかかわらず、歯周病が改善しない場合に行う治療となります。
初診で歯科医院を受診してリグロスを使った治療を希望されても、すぐに受けることが出来るものではありません。健康保険で行う治療のため、保険治療に規定された歯周病の基本的な治療のステップを経たうえで、リグロスを応用した場合に効果が期待できると診断され(適応症となって)初めて受けることが可能になります。
リグロスの適応症とは
適応となるものは、歯周ポケットの深さが4ミリ以上で骨欠損の深さが3ミリ以上の垂直性骨欠損とあります。どんなものでも応用すれば治るというわけではなく、液状のリグロスがたまって流れ出ないような形の骨欠損(骨の溶けた形)でなければ本来の効果が出ないのです。ですから、十分な術前の診査を行い応用可能かどうか診断する必要があります。
リグロスを用いた実際の治療手順とは
外科処置ですので、歯の周りの歯肉に切開を加えます。そして、歯の根の表面に残っている歯石や炎症を起こしている組織を除去、リグロスを骨欠損部に塗布し糸で縫合します。その際、骨欠損部が露出しないようにしっかりと縫合することが大切です。
リグロスを用いた歯周外科治療の治療費について
エムドゲイン療法という歯周組織再生療法があります。歯が作られる時期に大切な役割をするたんぱく質をを含む薬剤を塗布する治療法で、術式もほぼリグロスと変わりません。歯周組織の再生療法においては文献や治療実績も豊富にあるため、エムドゲインがこれまで多くおこなわれてきました。しかし、保険が適応できない自費治療となるため、治療費が数十万円以上かかってしまうこともありました。
リグロスは健康保険の適応ですので、2万円程度の治療費となり、費用の負担を軽減することができます。反面、エムドゲインと比べると新しい治療法となるため臨床的効果の実証や実績の報告はまだまだこれからという面は否めません。
まとめ
健康保険適応の歯周組織再生医薬品「リグロス」が登場しました。これまで書いてきたとおり、適応を誤らなければ歯周病で失った骨などの歯周組織を効果的に再生することが可能であると思われます。
ただ、治療薬としてはまだ新しいもので、「リグロス」の治療効果を十分出すためには、歯周組織再生療法を熟知した歯科医師による十分な診査診断のもとに、適応症を誤ることなく応用することが重要であると思います。
「リグロス」などの再生療法に限らず歯周病でお悩みの際は、十分な歯周病治療のトレーニングを受けた日本歯周病学会の認定医や専門医にご相談いただけると安心ではないでしょうか。日本歯周病学会のホームページには地域別の歯周病認定医・専門医のリストが掲示されておりますので、歯科医院を探す参考にしてみてはいかがでしょうか。