【歯科・歯周病】妊娠中に気をつけること
こんにちは。日本歯周病学会認定医の飯島佑斗と申します。
妊娠中に歯が痛くなってしまった、歯茎が腫れた、歯茎から出血する。妊娠中だけど放置していて大丈夫?治療するにしても普通に治療できるの?
今回はこのような疑問にお答えするために妊娠中にお口の中で気をつけることについてお話しさせていただきたいと思います。
監修歯科医師:
飯島 佑斗(飯島歯科医院・院長)
目次 -INDEX-
妊娠中のお口に関連するトラブルとは
妊娠するとホルモンバランスの変化やつわりでお口の中の環境が変わり、お口の中の環境が不良になります。それが原因で虫歯や歯周病になってしまうことが多いと言われています。
さらに妊娠時のトラブルの1つである早産・低体重児出産は歯周病と関連しているとされています。早産は妊娠22週以降37週未満の分娩を、低体重児出産とは2500g未満の新生児の出産のことをいいます。
この早産・低体重児出産を起こしやすい要因としては年齢(17歳以下、35歳以上)、喫煙、飲酒、麻薬、人種などがありますが、歯周病もその一つであると言われています。
歯周病と早産・低体重児出産の関係
歯周病と早産・低体重児出産の関連性は1996年に米国の研究者に初めて報告されて以降多くの研究が行われています。現在では歯周病の早産・低体重児出産に対する危険性は2.83倍、早産に対する危険ん率は2.27倍、低体重児出産に対する危険率は4.03倍であるといわれています。このことから歯周病は早産・低体重児出産のリスク因子となる可能性が高いと考えられています。
歯周病になるとなぜ早産・低体重児出産になるのでしょうか。現在2つのメカニズムが考えられています。
①歯周病により炎症をひきおこすサインが上昇する
歯周病になってしまうとIL-1、TNF-α、PGE2などの炎症性サイトカインといわれる物質が上昇し、その影響で早期に子宮の収縮などが引き起こされて早産に至ると言われています。
②産科器官への歯周病細菌の直接の感染
口の中の歯周病をひきおこす最近が血液の中に入り、産科器官にまで達してそこで直接感染が起こることで影響を及ぼすと考えられています。直接感染を起こすことで炎症を引き起こし早産を起こすだけでなく、感染による胎児の発育不全により低体重児出産も引き起こすとされています。
妊娠中の歯科治療について
妊娠時のお口のトラブルによる胎児への影響について説明させていただきました。次は妊娠時の歯科治療で注意しなくてはいけないことについてもお話ししたいと思います。
妊娠中の歯科治療の時期
妊娠初期(12周目まで)
妊娠初期では流産の可能性があります。また薬剤による催奇形性(16周目まで)があるとされているため、極力この時期の歯科治療は避けるか最低限の応急処置にとどめるようにしましょう
妊娠安定期(4~7ヶ月)
比較的安全な時期です。治療を行うのであればこの時期ですが母体胎児への影響を考慮して担当医の先生と治療を行うか相談してください。
妊娠後期
早産の可能性がある時期のため極力応急処置にとどめ、出産後の治療が勧められます。また薬剤により早産や胎児への蓄積による影響も注意が必要です。
妊婦への薬剤の影響について
基本的には不必要な薬剤の内服はさけたほうが良いとされています。どうしてもという場合は最小限としましょう。また内服する場合は影響の少ない薬剤を選択してもらいましょう。
また特に妊娠初期では薬剤の影響により催奇形性の危険があるため避けたほうが良いです。歯科で良く使われる薬剤は痛み止め、抗生物質ですが、痛み止めはアセトアミノフェン、抗生物質ではセフェム系という薬剤であれば影響が少ないとされています。
また歯科治療時の局所麻酔薬については妊娠初期の催奇形性、流産、早産の可能性は小さいと言われています。胎盤を容易に通過して胎児の血中に移行しますが胎児に悪影響を及ぼすほどの濃度は通常使用することはありません。しかし大量投与により分娩の促進が起こるなどの報告があるため最小限の使用にとどめるべきと言われています。
歯科治療時の姿勢について
妊娠中の歯科治療で注意しなければならない事として治療時の姿勢があります。妊娠後期になると大きくなった胎児と羊水により子宮はかなりの大きさ、重量になります。妊娠中期から後期にかけて仰向けに寝ることで急激な血圧の低下を引き起こすことで仰臥位低血圧症候群という状態になることがあります。
これは大きくなった子宮により下大静脈と言われる血管が圧迫されることで起こります。この仰臥位低血圧症候群により血圧が低下し母体の脳や胎児に循環する血液量が減少します。それにより母親の意識が遠のいたりひどいと気絶をしてしまいます。また胎児の心拍数も低下し長時間続くと低酸素状態となることもあります。
この仰臥位低血圧症候群を予防する方法としては枕などで体を左側に少し傾けて寝ていただくことで対処できます。
レントゲンについて
レントゲンは歯科治療の診断を行うにあたって重要なツールです。胎児に影響がでる被曝量は国際放射線防護委員会(ICRP)で100mSv以上と言われています。
また日本産婦人科学会では胎児に影響のでる被曝量は50mSv以上と規定されています。歯科医院で撮影するレントゲンは歯を1~2歯撮影する小さなレントゲン1枚で0.01mSv、お口全体を写すレントゲンで0.03mSv、歯科用のCTでも0.1mSvとなっています。
これは東京~ニューヨークを往復する際に発生する被曝量の0.19mSvより低い値となります。さらに撮影時には防護エプロンをするため胎児に対する被曝量はほぼゼロと言ってもいいでしょう。
妊娠中の歯周病治療
もし妊娠期間中に歯周病が認められたらどうすれば良いのでしょうか。
歯周病の治療は大きく分けて歯石などに潜む歯周病の原因細菌の除去などを目的とする歯周基本治療、お口の中を歯周病になりにくい環境に改善する目的の歯周外科治療に分けられます。
妊娠期間中には歯周病の細菌の除去まで行えば胎児に対する影響は軽減させることができるため、歯周外科治療まで行う必要は基本的にはありません。
歯周基本治療はブラッシング指導、歯茎の上の歯石除去、歯茎の下の歯石除去、虫歯の治療などが含まれていますが、妊娠中にどこまで治療を行うかは担当の先生としっかり相談して決めていきましょう。
まとめ
今回お話しさせていただいた内容のまとめとしては以下のようになります。
①妊娠中は妊娠されていない時と違い虫歯や歯周病になりやすい環境にある
②歯周病はご自身の体だけでなく胎児にも影響してしまうことがある
③妊娠中の歯科治療は色々と制限がでてしまう
まず一番大切な事としては妊娠中は歯科治療が受けにくい状況にあると思いますので、そういったことのないように事前にご自身のお口の中の環境を把握し、普段から歯科医院への定期的な受診をしていくということです。
これは自分の健康を守るためだけでなく、生まれてくる赤ちゃんのためにも非常に重要なポイントです。しかし、残念ながら妊娠中になにか症状がでてしまったという場合は早めに歯科医院へ受診をし現在のお口の中の状態を診査・診断してもらいましょう。応急処置が必要かそのまま経過観察で良いのか判断してもらう必要があります。
お口の中の汚れがたまってしまうと歯周病の初期である歯肉炎なってしまうため、例えなにも症状がなかったとしても定期的なクリーニングなどされることをお勧めします。
また検査結果や治療に対して不安な部分があるようでしたら受診された歯科の歯科医師や産婦人科医に相談してください。
参考文献:
日本歯周病学会 歯周治療の指針2015
オーラルヘルスと全身の健康
放射線医学総合研究所 放射線被ばくの早見図