歯周病と血糖値の関係
こんにちは。千葉県市川市行徳にあります、杉澤デンタルクリニック行徳の杉澤 幹雄です。日本人において、糖尿病になっている方または予備軍の割合は5人に1人と言われています。そんな多くの日本人を悩ます糖尿病において気になる値が血糖値です。
また、糖尿病患者の口腔内で高頻度にみられる疾患が歯周病であり、これもまた多くの方が向き合わなければならない疾患です。今回は歯周病と血糖値の関係について書いていこうと思います。
執筆歯科医師:
杉澤 幹雄(日本歯周病学会認定医)
杉澤デンタルクリニック行徳 院長の杉澤幹雄です。歯周病の専門的な治療を行ってきましたので、その知識と経験を活かして、歯の土台となる歯茎や骨からしっかりと健康な状態にしていくことを大切にしています。歯周病をそのままにした状態で、歯だけきれいにしても長持ちしません。まずは歯を支えている土台からきれいにし、いつまでも健康な歯を使い続けられるようにしましょう。
目次 -INDEX-
歯周病について
歯周病は歯肉や歯槽骨(歯を支える骨)、歯根膜(歯と骨の間のクッション)、セメント質(歯根の表面を覆う歯質)からなる歯周組織への細菌感染によって引き起こされる炎症性の疾患です。歯と歯肉の間の溝に細菌が多く含まれるプラークが停滞することにより発症します。その進行は緩慢であり、症状も少ないため気が付かないまま進んでしまう傾向にあります。
歯周病の原因は歯周病原細菌ですが、歯周病の発症を起こりやすくしたり、進行を早めたりする危険因子があります。歯周病にならないため、またはその進行をストップするためには原因となる細菌による感染を予防または阻止することと、歯周病の発症や進行を促進させる危険因子を取り除くまたは軽減させることが必要になります。
血糖値について
私たちは生活するためにエネルギーを必要とします。そのエネルギーの一つが炭水化物であり、体の中でブドウ糖として血液により全身の細胞に運ばれ細胞の活動を支えることになります。その血液中のブドウ糖の値を血糖値といいます。また、血液中のブドウ糖を全身の細胞へ取り入れる役割を担うのがインスリンであります。炭水化物を摂取することで血糖値は上昇し、細胞にブドウ糖が取り込まれることで血糖値は減少します。
正常の血糖値
食前:110mg/dL未満
食後2時間:140mg/dL未満
HbA1c(ヘモグロビンエーワンシ―)
血液中の赤血球の中にヘモグロビンというたんぱく質が存在します。その役目は酸素を全身に運ぶ働きをしますが、血液中のブドウ糖と結合する特徴があります。一度結合したブドウ糖はヘモグロビンから離れることが無いため、赤血球の寿命(120日)までくっついたままになります。血糖値が高い状態が続くとブドウ糖が結合したヘモグロビンの割合が徐々に多くなり、血糖値が低い状態が続くと糖化したヘモグロビンの割合はゆっくり減少していきます。その増減には時間がかかるため検査当日の食事の影響は受けず、血糖値の1~2か月間の状態を反映します。
糖尿病について
全身のエネルギー源である血液中のブドウ糖を細胞に取り込む働きのあるインスリンの作用や量が減少する病気が糖尿病です。インスリンの量または機能が減少することで、血液中のブドウ糖は細胞へ取り込まれにくくなり、結果として血中にブドウ糖が多く残ってしまい血糖値が高くなってしまいます。また細胞へエネルギー源であるブドウ糖も取り込まれにくくなりため、細胞の活動性が減少してしまいます。
インスリンの量または作用が減少する理由
主にⅠ型糖尿病の場合
何らかの原因にてインスリンを産生する膵臓のβ細胞が破壊され、インスリンを作り出すことができなくなることによりインスリンの量が明らかに少なくなることによって生じます。若年者から幅広い年齢で発症します。
主にⅡ方糖尿病の場合
遺伝や糖質の過剰摂取や運動不足などが原因で膵臓の機能が低下することによりインスリンの分泌量が減少するほか、ブドウ糖を取り込むはずの細胞がインスリンに対して鈍感になりインスリンに対する抵抗性が生じ、血中のブドウ糖がうまく組織に取り込まれないことにより発症します。Ⅰ型と異なり遺伝や生活習慣の乱れが発症に大きく関与します。
歯周病と血糖値の関係
血糖値が改善すると歯周病も良くなる!?
血糖値のコントロールが不良の糖尿病患者において、高い割合で歯周病が重症化し歯を失うことが報告されています。かといって糖尿病の治療による血糖値の改善のみでは歯肉の炎症は改善される可能性はあるが、さらに深い部位での歯周組織の改善は認められていません。よって、歯周病の治療は行わず、糖尿病治療だけで歯周病がよくなることを期待することは推奨されていません。
しかし、血糖コントロールの不良が歯周病を進行させるリスクとなるため、歯周病を改善させるために歯周病治療と共に血糖をコントロールすることは必須であると考えられています。
歯周病が血糖値のコントロールを悪化させる!?
歯周病により歯周組織には慢性的に炎症が生じます。炎症部位は免疫細胞などが細菌の体内への侵入を防ぐために色々な道具を用いて対応します。その道具の一つにTNFαという細胞間における情報伝達物質があります。そのTNFαが様々な細胞に作用し、インスリンの抵抗性増強させてしまうのです。重度の歯周病の状態では、TNFαが多くかつ長期に産生されてしまい、全身の細胞や組織がインスリンに対する抵抗性が増してしまい、インスリンの作用が減少し、血中のブドウ糖がうまく取り込まれず血糖値が下がりずらくなってしまう可能性があります。
しかし、逆に糖尿病患者において歯周病の治療がHbA1cの改善に有効であるという報告があります。歯周治療により炎症がコントロールされTNFαなどの量が減少することにより組織のインスリン抵抗性が改善する可能性があるのです。よって、糖尿病患者に対して歯周病の治療が勧められています。
まとめ
共に生活習慣病である歯周病と糖尿病は合併しやすく、かつ互いの疾患を増強しうる病気です。日頃の食生活やブラッシングなどの生活習慣を見直し、予防することが大切です。また、合併してしまったら、一つの病気の治療だけでなく、糖尿病の治療と歯周病の治療を並行して行うことをお勧め致します。