噛み合わせの微調整をする—咬合調整—
こんにちは。ナカニシデンタルクリニックの中西伸介(日本歯周病学会専門医)です。
専門的な用語なのであまり聞きなれない方も多いかと思いますが、意味は文字通り咬み合わせを調整することです。れっきとした歯周病治療の1つで、歯、もしくは被せ物の一部分を削ることでバランスを取ります。歯をたくさん削って歯の形を変えたり、被せ物を入れて咬み合わせを調整する訳ではなく、あくまで削る量は1mm以下で相手の歯との当たりを微調整するという感じです。
目次 -INDEX-
咬合調整を行う目的
- 咬んだ時の痛みを軽減するため
- 咬合力をに均一に分散させるため
- 歯周組織に対して悪影響を及ぼす力がかかるのを防止するため(咬合性外傷の予防)
目的として一番重要なものは咬合性外傷を防ぐことです。咬合性外傷とは上下の歯の接触や咬合力が歯周組織に外傷として伝わってしまうことをいいます。
歯周病の原因はもちろんプラークや歯石が主たる原因ですが他の歯よりも負担が大きくなっている歯は周りの支えている骨が溶けてきて歯周病の進行の原因となってきます。
例えば虫歯治療を行い、被せ物を装着する際に左右のバランスが取れていない、または噛み合わせが高い状態が続いた場合、数日は気になったものの、しばらく使っていたら慣れてきてしまい数年特に気にせず使用していた。それ以降特に気になる箇所もなく歯科医院に通院することもなかったが、数年経過したらその被せ物の歯が急に揺れてきた、腫れてきた、もしくは痛くて噛めないというケースです。そしてレントゲンを撮ってみると全体的な歯周病は軽度であるが、その被せ物の歯の周りの骨が著しく溶けていることがよくあります。他の例として矯正で歯を動かしてかみ合わせが変わった、歯周病が悪化したことにより歯が動いてしまい更に歯が相手の歯と強くぶつかるようになってしまったなども同様のケースが見られる場合があります。
何が言いたいかというとそれだけ噛み合わせのバランスは歯周病の進行の重大なリスクファクターになり得るということです。そこで咬合力が1箇所に集中しないように調整していく必要があります
どのような歯に行うか
- 噛むと痛みが強い歯
- 周囲の歯と比べて明らかに強く当たっている歯
- 歯周病により周囲の骨が溶けてひどく揺れている歯
被せ物の歯だけでなく自分の歯を削ることに抵抗がある方もいらっしゃるかもしれませんが、削る量はごくわずかです、歯の表面の一番硬いエナメル質の範囲内なので歯の形が変わってしまったり、しみるようになったということはほとんどありません。逆にしみるほど大幅に削らなければいけない場合は、咬合調整の範囲ではなく被せ物の適応になってきます。
どのような時に行うか
- 初診時
- 歯周病基本治療後
- 外科治療後
- 被せ物装着時
- メインテナンス移行時
- メインテナンス時
- その他 (動揺歯の固定の前後)など
いわゆる全ての過程においてチェックし、必要があれば行います。
特に歯周病の患者さんは歯を支える周囲の骨が溶けているため揺れていたり、歯が通常より動きやすい状態にあります。そうすると噛み合わせも歯周病治療の前後で変化することもありステップごとに細かいチェックが必要となります。
被せ物の装着後は、治療後しばらく積極的に使用していない部位に急に咬む力が加わるので違和感が生じるケースが多いと思いますが翌日以降には違和感は消失していることが殆どです。数日経過しても高い、噛み合わせたときに1歯だけが必ず先に当たる場合は調整が必要になってくると思います。
実際の調整の仕方
- 上下に歯をかみ合わせたり、歯軋りしてもらうなど様々な顎の動きを診査し、咬合紙(当たっているところに色がつきます)で強く当たっているところを印記します。
- 強く当たっている部位を特定し少しずつ微調整します(この時隣接歯の咬合の状態とも比較します)。
※咬合調整には虫歯などを削るのと同じタービンという器材を使用しますが、先端についているのは虫歯を削るものとは異なり、非常に細かい粒子の研磨用のバーなので体感的にはたくさん削られているような気がしても、実際の切削量はごくわずかです。
歯周組織は歯をカチカチ噛む垂直方向の力には比較的抵抗性がありますが、横からの力には弱いと言われています。1本の歯だけ横からの強い力を受けてしまうと歯周組織が破壊されやすくなってしまうため、調整するときには垂直方向に噛んだときに強く当たっているところだけではなく、歯軋りしてもらいそこでも強く当たっている部位を調整することが重要です。
まとめ
いかがでしたでしょうか?歯周病の原因としてもちろん大きなものは歯周病原因菌ですが、咬み合わせも非常に重要であることがわかります。例え軽度の歯周病であっても、短期間で重症化してしまう原因で重要なものの一つが咬合性外傷と言われています。
また咬み合わせのバランスだけではなく、残っている歯の本数や奥歯の有無も考慮する必要があります。
咬合調整は自分の歯や被せ物を少し削る必要がありますが、極力少ない本数で最小限の調整に留めて治療効果を引き出していきます。
また病的な移動だけでなく健康な歯周組織であっても歯は年齢とともに少しずつ移動します。昔は歯並び綺麗だったのにだんだん位置が変わってきことを感じている方もいらっしゃると思います。このように病的な移動でなくても咬合性外傷が生じる場合があります。
そのため定期検診であってもクリーニングだけではなく、咬合状態を定期的に確認していくことが歯周病の予防に繋がることもありますので歯周病専門医のいる医院でチェックされることをおすすめします。