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「歯周病」と「肺炎」の関係について

 更新日:2023/03/27

こんにちは、埼玉県さいたま市中央区にある『ナカニシデンタルクリニック』院長で日本歯周病学会歯周病専門医の中西伸介と申します。みなさんは歯周病と他の病気の関係性はご存知でしょうか?歯周病は様々な病気のリスクファクターとなり全身疾患との関連性が強いと言われています。代表的なものでも糖尿病脳血管障害低体重出産早産などが挙げられます。
今回は歯周病誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)との関係についてお話しさせて下さい。

中西 伸介

執筆歯科医師
中西 伸介(日本歯周病学会専門医)

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《保有資格》日本歯周病学会認定歯周病専門医、臨床歯周病学会歯周病認定医等。
《自己紹介》ナカニシデンタルクリニック院長の中西です。近年、歯周病と全身疾患との関連性もわかってきています。歯周病や虫歯は一度なってしまうとそのあといくら頑張って磨いても治ることがないのが実情です。そこでどうせ治らないとあきらめないで一日でも早めの治療をしましょう。

 はじめに

現在日本では高齢化社会により肺炎で亡くなる方が増加しています。日本人における病気が原因の死因の1位ががん、2位が心疾患でありその次の3位が肺炎となっています。肺炎で亡くなる人の多くは65歳以上でありその多くは誤嚥性肺炎であると言われています。

 誤嚥性肺炎とは?

食事をした際に食べ物が通過するのが食道であり、呼吸する際の空気が流れていくのは気道となります。これらは隣接しており喉頭蓋という蓋のようなものを閉開することで気道に食物や唾液が入らないようにコントロールしています。
食事をした際食べ物を飲み込むことを嚥下(えんげ)と言いますが通常は食事の際は食道に食べ物が流れ込んで行きますが、嚥下機能障害により唾液や食べ物、嘔吐したものが食道ではなく気道に入ることがあります。
これを誤嚥(ごえん)と言います。
誤嚥が起こると、気道に入った唾液や食べ物が肺に入り込み、それらに混入した細菌が肺で炎症を起こします。
これを誤嚥性肺炎と言います。

誤嚥性肺炎の原因は?

・細菌を含む分泌物の誤嚥

口腔内の衛生状態が悪い場合(プラークは1グラムあたり1000億個の細菌が存在します)細菌を含んだ唾液や食物とプラークを誤嚥することにより起こります。

・胃食道逆流物の誤嚥

胃食道逆流物を誤嚥することにより酸や消化液で科学的に気道粘膜を損傷することにより炎症が起こります。

なりやすい人は?

嚥下機能が低下する高齢者が多いのは前述した通りですが、以下の方もリスクが高いと言われています。

・嚥下障害がある方

年齢以外にも脳梗塞を起こした方やパーキンソン症候群、アルツハイマー型認知症、寝たきりの方がなりやすいと言われています。

・せき反射の働きが低下している方

通常誤嚥が起こるとせき反射が起こることにより期間に入ったものを口腔内に戻します。高齢者や脳梗塞の方などはそのせき反射の働きが低下することにより誤嚥が生じやすくなります。

・体力や抵抗力が低下した方

高齢者や重い疾病を抱えている方は抵抗力が低下し細菌感染しやすくなります。

・口腔内の衛生状態が悪い方

持病のある方や後遺症のある方の場合ブラッシングが十分にできず食事を飲み込みきれず残ってしまう場合があります。その状態ですと細菌が繁殖してしまい誤嚥性肺炎のリスクが上昇してしまいます。

誤嚥性肺炎の原因菌は?

肺炎球菌や口腔内の嫌気性菌レンサ球菌グラム陰性菌が多く認められます。
細菌種別では歯周病原性細菌のグラム陰性嫌気性が多く認められ歯周病との関連が非常に高いです。嫌気性菌とは空気に触れない場所で活動する細菌で虫歯の原因となる歯の表面ではなく、歯周ポケット内で繁殖するため歯周病が進行するとさらに活動が活発になり細菌数も増大します。

誤嚥性肺炎の対策は?

口腔内の衛生状態を良い環境にする

・歯周病治療をする

歯周病が発症している場合にはきちんと治療を受けることが重要です。ブラッシングでは取れない歯石やバイオフィルムを除去し歯周組織を健康な状態に保つようにしましょう。

・ホームケア

毎回食事後にきちんとブラッシングを行いプラークや食物残渣を徹底的に除去する(プラークコントロールを確立させる)ことが重要になります。

・プロフェッショナルケア

歯周病の早期発見、早期治療及び予防を行いましょう。かかりつけの医院があると良いです。

摂食嚥下機能療法

嚥下造影検査(VF)

食べ物を飲み込むスピードや誤嚥を起こしていないか映像で評価します。

嚥下内視鏡検査(VE)

鼻から内視鏡を使って喉に食べ物が残っていないか検査します。

口腔機能訓練

開口訓練や連続して音を発声する音節連続訓練や表情筋や舌の運動をしたりするのも有効です。

禁煙

喫煙は気道が粘膜を綺麗にする働きを阻害するだけでなく、歯周病のリスクファクターでもあります。歯周病治療を行うには禁煙は必須となります。

まとめ

いかがでしたでしょうか?誤嚥性肺炎には歯周病原因菌とされるグラム陰性菌が多く関わってきます。高齢になると嚥下機能はどうしても低下してしまいますが、口腔内の環境は歯周病の治療をしっかりと行い、早期発見及び治療をかかりつけの歯科でチェックしてもらうこと、またご自身で十分なプラークコントロールを行うことで口腔内を清潔に保つことが可能となります。
ぜひ定期的なメンテナンス及び治療を受けられることをおすすめします。

この記事の監修歯科医師