外科的矯正治療とは?適応や治療の流れ・種類を解説

外科的矯正治療という言葉を聞いたことはありますか?
一般的な歯列矯正は歯並びに対するアプローチで噛み合わせの改善を目指すのに対し、外科的矯正治療は骨に対する手術を併用して噛み合わせを改善します。
この記事においては、外科的矯正治療の具体的な内容や、適応となる症状などについて解説します。

監修歯科医師:
中山 雄司(おとなとこどもの歯並び 中山矯正歯科・小児歯科 西大寺)
出身大学:大阪歯科大学歯科矯正学講座
経歴: 2012年3月 大阪歯科大学卒業
2018年3月 大阪歯科大学大学院歯学研究科博士課程終了
2019年4月 大阪歯科大学 歯科矯正学講座 助教
2021年4月 大阪歯科大学 附属病院矯正科 診療主任
2024年6月 おとなとこどもの歯並び 中山矯正歯科・小児歯科 西大寺 開院
2025年1月 大阪歯科大学大学院歯学研究科(歯科矯正学)講師(非常勤)
取得資格:日本矯正歯科学会 認定医
所属学会:日本矯正歯科学会/ 近畿東海矯正歯科学会 / 日本舌側矯正歯科学会 / 日本顎変形症学会 / 近畿矯正歯科研究会
目次 -INDEX-
外科的矯正治療の基礎知識

外科的矯正治療とは、外科手術を含む噛み合わせ治療のことです。
一般的な噛み合わせ治療の場合、ワイヤー矯正やマウスピース型矯正といった歯列矯正によって歯並びを整えて噛み合わせを改善します。しかし、骨格から大幅に噛み合わせのズレが生じている場合は歯列矯正のみでは良好な噛み合わせの実現が難しく、骨格から改善する必要があります。
特に、顎骨が大きすぎる場合は骨の一部を切り取って縮小する必要があるため、外科手術によって骨格を縮める対応が行われます。
なお、外科的矯正治療は、手術だけではなくワイヤー矯正などによる歯列矯正と併せて行います。
骨格を修正しただけでは噛み合わせが合わずに状態が悪化する可能性が高いため、歯列矯正を併用することで、しっかりと噛むことができる状態を目指します。
歯列矯正は手術前後に行われ、手術前の歯列矯正は、術後すぐにある程度良好な噛み合わせを実現できるようにするために行われ、手術後の歯列矯正は理想的な噛み合わせを実現するための最終調整として行われます。。
外科的矯正治療の適応となる症状
外科的矯正治療は、主に顎変形症という診断がされた場合に適応となる治療法です。
顎変形症には下記のようなタイプがあります。
- 下顎前突(下顎の骨が前方に突出している受け口)
- 上顎後退症(上顎が後方にあることによる受け口)
- 下顎後退症(下顎が正面から見えないほど後方に下がっている上顎前突症)
- 下顎側方偏位(顎が曲がって顔面非対称な状態)
- 骨格性開咬(骨格が原因で上下の歯に隙間が生じる)
- 重度のガミースマイル(通常状態で歯茎が見える)
このようなタイプの方は、しっかりとした噛み合わせの実現が歯列矯正だけでは難しいため、骨格から治療を行う外科的矯正治療が適応です。
一方で、受け口上顎前突症ではあっても歯列矯正だけで改善が可能な場合などでは、外科的矯正治療は適応となりません。
外科的矯正治療が保険適用となるケース
上述のような症状があり、顎変形症の診断を受けている場合、下記の条件を満たすことで外科的矯正治療を保険適用で受けることができます。
まず、歯列矯正や手術は厚生労働省によって指定されている施設で受ける必要があり、どの歯科医院や病院でも保険適用での治療を受けられるわけではありません。
また、外科的矯正治療は手術前後の歯列矯正と組み合わせで行われる場合にのみ保険適用で、手術前の歯列矯正を行わない場合は自費診療です。
そして、歯列矯正の方法についてもマウスピース型矯正装置などを利用する場合は保険適用外で、ワイヤー矯正かつ表側矯正のみが保険適用となっています。
外科的矯正治療に対応している医療機関
外科的矯正治療は、手術内容によっては全身麻酔や入院が必要であるため、大学病院などの大きな病院で行われることが一般的です。
ただし、下顎前方歯槽部骨切り術のように身体への負担が少ない手術で対応が可能なものについては、口腔外科や形成外科を取り扱うクリニックなどでも対応している場合があります。
保険適用で治療を受ける場合は厚生労働省による指定を受けた施設で治療を行う必要があるため、まずは保険適用で外科的矯正治療を提供している歯科医院を探して相談するとよいでしょう。
外科的矯正治療のメリット

外科的矯正治療には、下記のようなメリットがあります。
骨格から噛み合わせを改善できる
外科的矯正治療の最大のメリットは、骨格から噛み合わせの改善が可能である点です。
噛み合わせは歯列矯正でも可能ですが、顎骨のサイズなどによってはどうしても歯列矯正だけでは良好な噛み合わせの実現ができない場合があります。
顎の骨格そのものを変化させる外科的矯正治療なら、歯列矯正による対応が難しい方でもしっかりとした噛み合わせを手に入れることが可能です。
噛み合わせ改善でむし歯・歯周病リスクの低減が期待できる
噛み合わせが改善されると歯磨きなどのケアをしやすくなるほか、特定の歯にばかり強い負担がかかることがなくなるため、むし歯や歯周病のリスクを抑えられます。
外科的矯正治療が適応となる反対咬合などの方は80歳まで20本以上の歯を残す8020運動の達成が困難であることがわかっていますが、しっかりとした治療を受けることで歯のさまざまなトラブルを予防できるため、歯を残し続けやすくなるといえるでしょう。
顎関節症の改善が期待できる
顎変形症などにより噛み合わせに大きなずれが生じている方の場合、咀嚼などの際に通常よりも顎に強い負担がかかりやすく、顎関節症が引き起こされやすいという問題があります。
顎関節症は顎関節への負担などによって生じるもので、顎の痛みやお口の開きにくさ、場合によっては頭痛などのトラブルを引き起こすものです。
外科的矯正治療によって噛み合わせを整えると、顎関節への負担が軽減されるため、顎関節症の改善によりQOLの向上が期待できます。
輪郭など見た目の悩み解消につながる
下顎が大きすぎるしゃくれ顎や、顎が見えないような状態は見た目への影響も大きいといえます。外科的矯正治療で骨格を整えることで、こうした見た目の悩みも解消可能です。
外科的矯正治療のリスク・デメリット

外科的矯正治療には、下記のようなリスクやデメリットがあります。
身体への負担が大きい
外科的矯正治療は、顎骨を切り取って骨格を修正するという大がかりな手術が必要です。
術式にもよりますが、全身麻酔を使用して手術が行われることも多く、それだけに身体への負担が大きい治療といえます。
治療に時間がかかる
外科的矯正治療の多くは、手術をしてすぐに帰宅が可能な日帰り手術ではなく、骨をしっかりと癒着させるために金属のプレートなどで固定し、入院して安静に過ごす必要があります。
また、手術だけで良好な噛み合わせを実現できるものではなく、治療の前後に歯列矯正も行う必要があり、歯列矯正にも数ヶ月から数年単位での期間が必要です。
保険適用の有無で自己負担が大きく異なる
外科的矯正治療を保険適用で受ける場合は、3割負担の方の場合で、手術前後の歯列矯正に30万円程度、手術に20万円程度が少なくともかかります。
ほかにも歯列矯正が必要な期間や入院期間などによって費用が加算されるため、保険適用の場合でも合計で60万円以上の費用がかかると考えてよいでしょう。
なお、高額療養費制度の対象となるため、収入に応じて一定以上の支払い分の支給を受けることが可能であり、実質の負担額はさらに抑えることができます。
一方で、マウスピース型矯正などの保険適用とならない方法で治療を受ける場合は、歯列矯正と手術のどちらも自費診療で行われるため、数百万円以上の費用がかかります。
自費診療の場合は費用負担がとても大きくなるという点がデメリットといえます。
外科的矯正治療の流れ

外科的矯正治療を行う際の一般的な流れを紹介します。
検査や治療計画の作成
外科的矯正治療を行う際は、まずはじめにX線による画像診断などを含む精密な検査を行い、治療が適応となるかどうかなどを診断します。
そのうえで、骨格や歯並びに応じた治療内容を検討し、どのような流れで治療を進めるかを決めていきます。
術前歯列矯正
外科的矯正治療は、手術によって顎全体の位置をずらすため、そのまま手術を行うとしっかりと噛むことができなくなってしまう可能性があります。噛み合わせが悪いと咀嚼などの際に無理な力がかかりやすく、術後の経過に問題が生じるリスクも生じます。
そのためまずはワイヤーにて歯列矯正を行い、手術直後のタイミングである程度良好な噛み合わせを得られるようにしてから手術を行う方法が一般的で、保険適用で治療を行う場合はこの術前歯列矯正が必須です。
術前の歯列矯正は1年半ほどかけて行われます。
顎矯正手術
術前歯列矯正が進み、手術の見通しが立ったら連携している医療機関を受診して、手術や入院の具体的なスケジュールを決めて手術を行います。
手術は術前の検査などをしっかり行い、安全面に十分配慮を行ったうえで進められ、術後は1週間から2週間程度入院して回復を待ちます。
術後矯正治療
手術後は骨が癒合するのを待ってから、ワイヤー矯正で歯並びを整えます。
また術後半年程は顎間ゴムを24時間装着し、新しい顎の位置で筋肉や噛み合わせを適応させる必要があります。
手術の際に骨をプレートなどで固定している場合は半年から1年ほどでプレートを除去する手術が必要になることもあります。
術後の歯列矯正は1年ほどで行います。
保定
歯列矯正によって歯並びが整い、噛み合わせが安定したら保定を行います。
保定は自分で取り外しが可能なリテーナーと呼ばれる装置を、歯科医師の指示にしたがって毎日決められた時間分を装着することで実施します。
保定の期間は治療法などによっても異なりますが、少なくとも2年程度は保定を行います。
サージェリーファースト法の外科的矯正治療

外科的矯正治療の方法として、サージェリーファースト法と呼ばれるものがあります。この方法は手術前の歯列矯正を行わず、すぐに手術を行ってしまうというものです。
サージェリーファースト法のメリットやデメリットについて解説します。
サージェリーファースト法のメリット
サージェリーファースト法のメリットは下記のとおりです。
- 治療期間が短く済む
- 手術後の歯の移動が早い
- 噛み合わせが悪い期間が短い
サージェリーファースト法は、術前の歯列矯正を行わないため、全体の治療期間が大幅に短縮可能です。
手術を行った後は身体が損傷した組織を回復させようと働くため、歯も動きやすくなっていて、歯列矯正を素早く行いやすいという利点もあります。
噛み合わせが悪い状態を早期に治療可能で、見た目の改善もすぐに行えるため、治療を受ける患者さんにとってはよい点が多い治療法といえるでしょう。
サージェリーファースト法のデメリット
サージェリーファースト法は、保険適用外の治療法です。外科的矯正治療は歯列矯正と外科手術の両方を行うため、自費診療で行うと治療費用が数百万円になる可能性が高く、費用負担が大きい点がデメリットです。
また、すぐに手術を行うため、手術直後の噛み合わせが不安定になりやすい点もデメリットに挙げられます。
外科的矯正治療で行われる手術の種類

外科的矯正治療で行われる術式にはさまざまなものがあります。
下顎枝矢状分割術(SSRO)
下顎枝を矢状に切り取り、骨の一部を取り除いてからプレートなどで接続する手術が下顎枝矢状分割術です。
下顎の骨格が大きすぎる場合などに行われ、下顎のサイズを縮小して噛み合わせを整えます。
下顎枝垂直骨切り術
下顎枝を縦方向に切り取り、一部分を除去してつなげることで下顎の骨を短縮させる手術が下顎枝垂直骨切り術です。
目的は下顎枝矢状分割術と同じですが、下顎枝垂直骨切り術で切除を行う範囲には神経などがないため、神経障害などのリスクを抑えて手術が可能です。
ただし、下顎枝垂直骨切り術では短縮可能な範囲が小さいため、下顎のサイズが大きすぎる場合などにおいては適応となりません。
上顎骨の手術(Le-FortⅠ骨切り術など)
上顎後退症や上顎骨の左右非対称などの症例の場合は、Le-FortⅠ骨切り術などの上顎骨の手術が行われます。
Le-FortⅠ骨切り術は上顎の骨を歯茎の内側から水平に切開して切り離し、骨を移動させて固定する治療法です。
上顎を前方に移動する手術と下顎を短縮する手術は併用して実施されることもあります。
併用する歯列矯正の種類

外科的矯正治療を行う際は、下記のような歯列矯正を併用して行われます。
ワイヤーによる歯列矯正
外科的矯正治療を保険適用で行う場合は、歯の表側にブラケットとワイヤーを取り付ける方法での歯列矯正が行われます。
ワイヤー矯正は、歯の動きに合わせてワイヤーを曲げたり、ワイヤーを交換したりして歯並びを整える方法で、歯科医師の調整により幅広い歯並びのお悩みに対応可能です。
まとめ

外科的矯正治療とは、顎骨を手術によって短縮したり移動したりすることで、骨格が原因による噛み合わせの不調を改善する治療です。
顎変形症の診断がついている場合は保険適用で治療を受けることができますが、保険適用の場合は治療法が限定され、治療を受けることができる施設も厚生労働省の指定を受けている医療機関に限られます。
歯列矯正だけでは改善が難しいような噛み合わせの方も、外科的矯正治療を受けることで良好な噛み合わせを実現できる可能性がありますので、噛み合わせを治したい方は一度外科的矯正治療を取り扱う歯科医院に相談してみてはいかがでしょうか。
参考文献