歯列矯正に抜歯は必要?理由や非抜歯のケースを解説
歯並び・噛み合わせの改善が期待できる歯列矯正に対し、本来あるべき歯を抜かなければならない抜歯に抵抗を感じる人も多いと思います。
歯列矯正における抜歯はぜったいに必要というわけではありません。場合によっては、歯を抜かずに治療を進める非抜歯矯正を選択肢に入れることも可能です。
この記事では、抜歯の必要性・メリット・デメリット・非抜歯で治療できるケース・歯列矯正の抜歯までの流れなどを紹介しています。
歯列矯正を検討中の人は、ぜひ参考にしてください。
監修歯科医師:
坂本 輝雄(東京歯科大学 千葉歯科医療センター 矯正歯科)
目次 -INDEX-
歯列矯正に抜歯は必要?
なぜ抜歯をするかというと、歯が自然な状態で整列できるようにバランスを取るためです。抜歯後に空く歯と歯のスペースを有効活用して、歯と歯・歯と顎のバランスを整えていきます。
そのため歯が並ぶスペースを適切に確保しないまま治療をスタートしても、噛み合わせ・歯並びが改善していないなどの問題が生じる可能性もあるでしょう。
見栄えを気にして歯列矯正を検討している人にとって、予期せぬ結果になりかねません。
より良い見栄えを目指したい人は抜歯による歯列矯正がおすすめです。
必ず抜歯をしなければならないわけではありませんが、抜歯矯正をしたほうが多くのメリットを得られる場合もあります。
上の歯と下の歯がズレていて噛み合わせが悪かったり、親知らずが歯並びに悪影響を及ぼしていたりなどの歯列の改善に役立つのが抜歯を伴う歯列矯正です。
歯の本数や歯と顎のバランスが整うことで、きれいな歯並び・歯列矯正後の負担軽減に期待できます。
歯列矯正で抜歯が必要になる理由
なぜ歯列矯正で抜歯しなければならないのでしょうか。健康的な歯を抜く必要があり、少なからず不安を感じる人は多いはずです。
ここでは、歯列矯正での抜歯の役割・抜歯が必要な理由を4つピックアップしています。
顎の大きさに対して歯が大きい
歯が大きくて顎が小さいと歯並びが悪くなり、でこぼこ・がたがたに歯が生えてしまいます。
歯は上顎・下顎の骨から生えているものです。歯列矯正できれいな仕上がりを目指すなら、歯と顎の不具合を是正して歯並び・噛み合わせを正しい方向に導かなければなりません。
歯と歯がぎっちり詰まっている状態ではバランスの調整が難しいので、必要なスペースを確保するために抜歯を勧めることがあります。
歯列矯正の治療で抜歯を行う場合は、犬歯の後ろに生えている小臼歯と呼ばれる歯を抜くのが一般的です。
7〜8mmほどの小臼歯を左右1本ずつ抜けば、14〜16mmほどのスペースを確保できます。
この小臼歯は上顎・下顎の両方に生えていて、基本的に抜くのは上下左右1本ずつ。治療方針によっては上顎のみ・下顎のみのケースもあります。
噛み合わせが悪い
いわゆる出っ歯や反対咬合などが、噛み合わせが悪い例です。一般的な治療法として抜歯を行ってから噛み合わせを矯正していく方法が挙げられます。
上の歯を2本、または下の歯を2本、またはその両方の4本を抜くことが多く、抜歯したスペースを利用して噛み合わせを調整していくのが基本です。
抜歯をすれば大きな隙間が得られるので、歯を大きく移動させて噛み合わせを改善できます。
噛み合わせを上手く調整できれば、口が閉じにくい・出っ歯が気になるといった悩みを解決に導けます。
加えて、歯周病・虫歯のリスク軽減にも大きな期待が持てるので、歯の健康を守るひとつの候補として抜歯矯正を検討してみるとよいかもしれません。
親知らずが原因で歯並びに問題が出ている
抜歯のイメージが強い親知らずは、歯並びに悪影響を及ぼしているケースが多々あります。
親知らずはほかの歯と同じように上向きに生えることはほとんどありません。基本的に横や斜めに生えてくるため、手前の歯を押し出すような形になり、結果的に歯並びが悪くなるのです。
親知らずは必ず生えるのではなく、一生のうちで一度も生えない人もいます。埋伏していると肉眼では見えないので、レントゲン撮影が必要です。歯科医師の指示に従って検査を受け、親知らずの有無を確認しましょう。
万が一親知らずの影が見えたら、歯列矯正前に抜歯するかどうかを歯科医師と相談しながら決めるのがおすすめです。
無理に歯を並べることで口元が前に出てしまう
余分なスペースもなしに歯を並べると、治療後に口元に異変が生じてしまう可能性があるため注意が必要です。
親知らず以外の歯を抜歯せずに歯列矯正を施すことを非抜歯矯正と呼びます。
非抜歯矯正の方法として主に「マウスピース型矯正などを用いて奥歯を後方へと移動する」「複数の前歯の側面をヤスリなどの器具で削る」「歯の土台である顎の幅を拡大する」の3つが挙げられます。
歯並び・噛み合わせが軽い状態であれば非抜歯矯正を行える可能性がありますが、歯並びが大きく乱れていたり、歯のでこぼこ・がたがたが大きかったりすると非抜歯矯正が困難です。
歯列矯正で大切なのは、歯と歯の間にある余分なスペース。このスペースを基に歯全体のバランスを整えていかなければならないため、歯の隙間の確保を優先しなければなりません。
非抜歯のケースはどのようなとき?
歯科医師が精密検査を行い、結果次第では抜歯が不必要なケースもあります。できれば歯を抜かずに歯列矯正したいものです。
ここでは、抜歯せずに治療を進められる具体例を紹介していきます。
歯が動くスペースが十分にある場合
歯と歯のあいだに数ミリの隙間があれば、抜歯をしないでも矯正治療を行えるケースがあります。金具・ワイヤーを使用して歯の位置を調整するため、小臼歯を抜歯しなくても問題ありません。
まずは、どの程度歯ががたがたしているか・噛み合わせが悪いか・前歯が突出しているかなどを検査します。検査結果から総合的に判断して、十分なスペースがとれる場合は非抜歯矯正による改善が可能です。
現状十分なスペースを確保できなくても、抜歯以外の方法で歯を動かせるのであれば非抜歯にて施術できます。
抜歯以外の方法としては、マウスピース型で矯正する・歯側面部を削る・上顎を拡大するなどです。
歯並びの乱れが軽度の場合
歯並びの乱れが大きければ大きいほど、乱れを調整してバランスよく歯を配置するためのスペースが必要です。
一方、歯並びの乱れが気になるほどでなければ、非抜歯矯正できる可能性が高まります。
マウスピース型矯正などを使用して、目立ちにくい状態で改善を試みることも可能です。
上の前歯の角度・突出具合が軽度であれば、歯の移動に必要なスペースも少なく済むため、抜歯しなくても矯正治療に臨めます。
歯並びが悪くなる要因は、長期間の指しゃぶり・頻繁な口呼吸・重度の虫歯などです。子どもの頃からの習慣・歯磨き・歯周病ケアなどが歯並びに大きく関わってくるため、日常生活における注意が大切です。
歯列矯正時の抜歯のメリット
健康的な歯を抜くことなく、体への負担を抑えて治療できるのが非抜歯矯正のメリットです。対する抜歯のメリットはなんでしょうか。
実は、抜歯には抜歯ならではのメリットが5つあります。順番に解説していきますので、抜歯・非抜歯による治療の参考にしてください。
歯が動くためのスペースを作れる
抜歯すれば、歯を動かせるスペースをすぐに確保できます。
外科矯正という手段を使ってあごの骨のバランスを整える方法もありますが、顎の骨の切除が必要です。そのため心身への大きな負担を避けられません。
その点、歯列矯正による抜歯は外科矯正と比較して負担を軽減できるため、噛み合わせ・歯並びの改善にうってつけです。
抜歯後は歯の隙間に穴が開いたように見えますが、数ヶ月ほどで歯がバランスよく並んできて、ほとんど気にならなくなります。個人差があり、遅くても1年ほどで隙間が埋まるでしょう。
歯並びがきれいに整いやすい
歯がでこぼこしている原因のひとつは、顎が小さく歯が大きいことです。
顎と歯のバランスが悪いと歯並びに影響を及ぼしますが、抜歯後の矯正治療では歯と顎のバランスを整えやすくなり、歯並びの改善に期待できます。
非抜歯で治療を進めた後、きれいな歯並びに必要なスペースが取れないとき、前歯を前面に押し出してしまう可能性があります。
そうすると、横から見たときに前歯が突出しているような見た目になりかねません。
口元のバランスを整え、審美性を高める手段として抜歯が重要なのです。
見た目の美しさは自信につながり、精神的な余裕が生まれるでしょう。
新しいことにチャレンジしたり、仕事・勉強に積極的に取り組む姿勢を評価されたりなど、前向きな生活を手に入れられるきっかけになるはずです。
矯正で顔つきが変わるリスクを減らせる
歯が並ぶスペースが十分ではないのにも関わらず、非抜歯で治療を進めると、歯が押し出されていわゆるゴリラ顔になる可能性があります。
しかし、抜歯を用いた矯正治療では空いたスペースに自然な形で歯を移動できるため、顔つきの変化を抑制可能です。
抜歯後は、両側でおよそ14〜16mmほどのスペースを得られ、その隙間を基にでこぼこ・がたがたした歯のバランスを整えます。
全体的にちょうどいいバランスがとれたら、残りの隙間に合わせて前歯を後方に移動できるので、出っ歯気味になっている前歯の改善を目指せます。
歯列矯正を施しても顔つきが悪い方向に変わってしまったら本末転倒です。リスクをできる限り軽減して、きれいな顔つき・口元を目指してください。
治療が計画通りに進みやすい
治療計画が立てやすくなり、いつ頃までに治療を完了するという目安をつけられます。おおよその目安が分かれば、結婚式・習い事の発表会などの大切なイベントに合わせて治療を始めることが可能です。
仕事・学校の休みに合わせて治療を進められるのもポイント。自分のライフスタイルに合わせて治療を進めることで、腫れ・痛みの伴う治療にも負担を減らして臨めます。
後戻りのリスクを減らせる
非抜歯矯正の場合、十分なスペースが取れないまま治療を強行してしまうため、歯並びが治療前の状態に戻るリスクが高まります。しかし、抜歯による矯正を行うとスペースの確保をしやすく、後戻りのリスクを軽減可能です。
せっかく矯正が完了しても、数週間後にまた治療が必要になると、時間・費用がもったいなくなります。誰しも余裕があるわけではないので、できる限り時間・費用を抑えての治療が望ましいでしょう。
ただし非抜歯矯正のほうが後戻りしにくいケースもあるため、歯科医師としっかり話し合って治療計画を立てるべきです。
歯列矯正時の抜歯のデメリット
多くのメリットがある抜歯にはデメリットもあります。デメリットを受け入れたうえで治療に専念できるかどうかが大切です。
それでは歯列矯正の抜歯のデメリットについて詳しく解説していきます。
健康な歯を抜かなくてはならない
歯を抜くことで歯の収まりを調整する歯列矯正では、健康的な歯を抜く必要があります。親知らずや虫歯になった歯を抜くのならまだしも、特に問題のない歯を抜くわけですから抵抗があって当たり前です。
抜歯した歯は二度と戻りません。そのため、決断力が必要です。歯科医師と相談しながら考えましょう。
抜歯の直後は麻酔が効いていることもあり食事できませんが、麻酔が切れてからはいつも通りに食事を摂っても大丈夫です。
抜歯における痛み・腫れは個人差により、2〜3時間ほどで痛みがひく人もいれば、1日ほど痛みが続く人もいます。長くても数日で治まるのが一般的です。
痛みに恐怖心を感じる人は多いと思いますが、麻酔・痛み止めといった処置を施して治療するため、あまり心配する必要はありません。
抜歯に費用がかかる
歯列矯正における抜歯は保険適用外です。
自費診療扱いとなり、通常の抜歯よりも費用が高くなります。歯科医院や地域によって費用が異なるため、事前に問合せて確認するのがおすすめです。
抜歯以外にも、歯列矯正には精密検査費用・マウスピース型・ワイヤーなどの矯正器具費用・矯正完了後のメンテナンス費用など、高額な費用がかかります。
歯列矯正に必要な予算を捻出できるかどうかを計算し、問題がない場合のみ治療を開始しましょう。
矯正治療は自費診療となります。メリット・デメリット・費用相場は以下の通りです。
矯正治療のメリットは、主に歯並び・噛み合わせの改善です。
歯並びを改善することで、日々の歯のケアがしやすくなり、歯科疾患を予防しやすくなります。あごの骨の成長発育障害の予防や、一般的な歯科治療をしやすくすることが可能です。唇が閉じにくい・発音がしづらいといった悩みも改善できます。
また、歯並びがコンプレックスになっている場合は自信を持つきっかけになり、前向きになれる方が多いです。
噛み合わせの改善は、食べ物の咀嚼機能の改善や顎関節の咬合を整える効果があります。また、全身のバランスや運動能力の改善にもつながります。
矯正治療のデメリットは、まずむし歯・歯肉炎・歯周病のリスクが増大することです。治療中は装置を付けるため歯磨きなどのケアがしづらく、磨き残しがあると歯や歯肉のトラブルにつながります。
また、歯を動かすために歯根が吸収されて多少短くなったり、歯肉が退縮する場合があります。
治療期間も長く、正確な予測は困難です。予定外の成長発育が起こった場合や、矯正装置の選択が適切ではなかった場合、治療期間が長くなる場合があります。
また、矯正治療は患者さん自身の協力が不可欠です。矯正装置の正しい使用・治療中の口腔ケア・定期的な来院などで協力を得られない場合、治療期間が延長されたり中断されたりする可能性があります。
矯正治療の費用相場は、一般的に80~120万円です。使用する装置や、歯の状態などによって異なるため、費用についても事前に医師とよく相談しましょう。
歯列矯正で抜歯をする際の流れ
診察・各種検査・治療計画の決定・抜歯が基本的な流れです。初めての診察時に総合的な予算について教えてもらったり、気になる点・不安な点・歯の悩みなどを相談したりできます。
矯正を担当する歯科医師・スタッフとは長く付き合うわけですから、最初の診察・カウンセリングの段階で相性や雰囲気が合わないと分かれば、別の歯科医院を探したほうがよいでしょう。
歯科医師・歯科医院との相性が合えばレントゲン撮影・口腔内写真撮影・エックス線CT撮影などの精密検査を実施。その後、検査結果を基に具体的な方針を決めて治療を開始します。
抜歯は、歯列矯正のために必要なスペースを確保するために必要な処置のため、治療開始初期に行うことがほとんどです。
編集部まとめ
口内の状態は一人ひとり異なるため、抜歯が必要か否かは一概にいえません。
きれいな歯並び・噛み合わせを目指せる歯列矯正は、期待が大きい反面、不安も大きくなりがちです。
費用に関しても決して安いものではないため、歯科医師と相談し、不安な点をできる限り解消してから望んだほうが極力後悔しないで済むでしょう。
歯列矯正時の抜歯・非抜歯のそれぞれのメリット・デメリットを把握し、それを踏まえて治療方針を決めるべきです。
自分に合った方法を選択し、口元の悩みを改善して笑顔と自信があふれる生活を目指しましょう。