歯列矯正が痛いのはなぜ?痛みの原因や軽減する方法を解説します

歯列矯正を始めると、治療の過程で痛みや不快感を経験します。「どのくらい痛いのか」「いつまで続くのか」と不安に感じる方も少なくないでしょう。
本記事では、歯列矯正の痛みについて以下の点を中心に解説します。
- 歯列矯正で痛みが生じる原因とメカニズム
- 痛みを感じやすいタイミングと続く期間の目安
- 痛みを和らげるための具体的な方法
歯列矯正治療中の痛みへの正しい理解と対処法を知るためにも、ぜひ最後までお読みください。

監修歯科医師:
小田 義仁(歯科医師)
院長 小田 義仁
岡山大学歯学部 卒業
広島大学歯学部歯科矯正学教室
歯科医院勤務をへて平成10年3月小田歯科・矯正歯科を開院
所属協会・資格
日本矯正歯科学会 認定医
日本顎関節学会
日本口蓋裂学会
安佐歯科医師会 学校保健部所属
広島大学歯学部歯科矯正学教室同門会 会員
岡山大学歯学部同窓会広島支部 副支部長
岡山大学全学同窓会(Alumni)広島支部幹事
アカシア歯科医会学術理事
目次 -INDEX-
歯が動くメカニズムと痛みの理由

歯は歯槽骨(しそうこつ)という顎骨の中にあり、その間に歯根膜(しこんまく)というクッションのような組織が存在することで、歯を支えています。
歯列矯正装置で歯に圧力をかけると、この歯根膜が伸縮し、移動する方向では組織が縮み、反対側では引き伸ばされます。すると、縮んだ側では周囲の歯槽骨が吸収されて道が開かれ、逆に引き伸ばされた側では新しい骨が作られて隙間を埋めていきます。
この、骨の吸収と再生という代謝が繰り返されることで、歯は少しずつ目的の位置へと移動していくのです。
この仕組みをまとめると、以下のとおりです。
・歯列矯正装置で歯に力をかけると、歯根膜が伸び縮みする
・縮んだ側の歯槽骨が吸収され、歯が動くスペースが生まれる
・引き伸ばされた側に新しい骨が作られ、歯を支える
歯列矯正の痛みは、この骨と歯根膜に変化が生じる過程で起こるものです。痛みは治療が進んでいるサインでもあります。
歯列矯正における痛み

歯列矯正の痛みについて、痛みのピークや経過、痛みの感じ方などを解説します。
歯列矯正の痛みのピーク
歯列矯正装置を装着したり、ワイヤーを調整したりした後、痛みは装着や調整から4〜6時間程度で現れ始め、翌日から2〜3日目にかけて強くなることが多い傾向にあります。その後は徐々に和らぎ、1週間程度でほとんど気にならなくなる方がほとんどです。
痛みの強さや期間には個人差がありますが、初期の強い痛みは一時的なものであるとされています。「ずっと痛みが続くのでは」と心配しすぎず、まずは数日様子を見てみましょう。
時間の経過で痛みは和らぐ
歯列矯正の痛みは、調整後の2〜3日間が強く、時間の経過とともに落ち着いていくのが多いとされる経過です。常に痛みが続くわけではなく、あくまで一時的なものです。
また、治療を重ねるごとに歯や身体が慣れてくるため、調整のたびに感じる痛みが徐々に軽くなると感じる方もいます。最初の痛みが強くても、治療を続けるうちに対処しやすくなっていくことがほとんどです。
痛みが強い時期には、無理に硬いものを食べたり、患部を刺激したりしないよう日常生活でも意識することが大切です。痛みのつらさから歯列矯正治療を途中でやめてしまうケースもありますが、痛みのピークは過ぎていきます。
焦らず、担当の歯科医師と相談しながら治療を継続していきましょう。
痛みの感じ方は個人差がある
歯列矯正治療の痛みの感じ方は、年齢や歯並びの状態、個人の痛覚の感受性など、さまざまな要因によって異なります。歯並びが複雑で歯の移動量が大きいほど、痛みが強くなる傾向がありますが、これはあくまで傾向であり、例外もあります。
また、痛みの強さは必ずしも治療の進み具合と比例するわけではありません。痛みを感じにくいからといって歯が動いていないわけではなく、逆に強い痛みがあるからといって治療効果が期待できるとも限りません。周囲の経験談に惑わされず、自身の状態は担当の歯科医師へ相談しましょう。
さらに、治療の段階によって痛みの感じ方が変わることがあります。歯を大きく動かす治療初期は痛みが出やすく、細かい位置調整を行う後半になると痛みが軽くなるケースもあります。
また、体調が優れないときや睡眠不足のときは痛みを感じやすくなることもあるため、治療期間中は体調管理にも気を配るとよいでしょう。
歯列矯正で痛みを感じるタイミング

歯列矯正において、痛みを感じやすいタイミングには、次のようなケースがあります。
歯が動いているとき
歯列矯正装置をつけてから2〜3日程度は、歯に装置の力が強くかかっているため、引っ張られるような鈍い痛みを感じることがあります。これは歯を支える歯根膜に圧力がかかっているためで、歯が動いているサインです。
特に、治療開始直後の、歯が初めて動き始める頃に痛みが出やすい傾向があります。痛みが強い場合は歯科医師に相談しましょう。
矯正装置が頬や舌に触れるとき
ワイヤー矯正では、ブラケットやワイヤーが頬や舌、歯茎に触れることで、鋭い痛みや不快感が生じることがあります。また、歯が動くにつれてワイヤーが後方からずれ出し、粘膜を傷つけて口内炎が生じることも少なくありません。
マウスピース型矯正でも、装置のふちが歯茎に当たって痛みを感じる場合があります。
いずれも我慢せず、早めに担当の歯科医師に相談してワイヤーの長さ調整やマウスピースの修正を行ってもらいましょう。
食事のとき
食事中は歯に負荷がかかるため、痛みを感じやすいタイミングです。日常生活や会話では気にならなくても、噛むときだけ痛みが出るというケースもみられます。
痛みが強い時期は、肉や野菜など硬いものを噛み切るのが難しくなることがあります。そのような場合は、ヨーグルト、ゼリー、おかゆなど、噛む力をほとんど使わずに食べられるものを選ぶようにしましょう。
矯正装置を調整・交換した直後
ワイヤー矯正では、1ヶ月に1回程度の頻度でワイヤーの調整や交換を行います。計画どおりに歯を動かすためにワイヤーを締め直すため、調整直後は新たな圧力がかかり、痛みが出やすくなります。
この痛みは一時的なもので、2〜3日程度で軽減する傾向にありますが、歯を大きく移動させる段階や新しいワイヤーへの交換時には、1週間程度痛みが続くこともあります。
夜間に痛みが強くなることもある
歯列矯正中は、日中よりも夜間のほうが痛みを強く感じることがあります。日中は活動や会話などで意識が分散されますが、夜間は身体が休まり静かになることで、痛みが意識に上りやすくなるためと考えられています。
また、夜間は唾液の分泌量が減少し口腔内が乾燥しやすくなることも、痛みを増幅させる一因とされています。就寝前に痛みが気になる場合は、後述する冷やすケアや鎮痛薬の活用を検討してみましょう。
ワイヤー矯正とマウスピース型矯正はどちらが痛い?

マウスピース型矯正のほうがワイヤー矯正よりも痛みを感じにくいとされています。ワイヤー矯正は特定の歯に集中して力をかけるのに対し、マウスピース型矯正はすべての歯に均等に圧力を分散しながら少しずつ歯を移動させるためです。
それぞれの特徴を整理すると、以下のとおりです。
【ワイヤー矯正】
・特定の歯に集中して力をかけるため、調整直後の痛みが強く出やすい
・ブラケットやワイヤーが粘膜に触れて口内炎が生じやすい
・複雑な歯並びにも対応でき、幅広い症例に使用される
【マウスピース型矯正】
・すべての歯に圧力を分散するため、痛みを感じにくい傾向がある
・装置を取り外せるため、食事や口腔ケアがしやすい
・対応できる症例に制限がある場合がある
ただし、マウスピース型矯正でも歯が動く際の鈍い痛みや、装置のふちによる歯茎への刺激は生じることがあります。そのため、自身の歯並びの状態や治療目標に合わせて歯科医師と相談したうえで選択することが重要です。
歯列矯正の痛みを軽減する方法

歯列矯正期間中の痛みを軽減するために、次の5つの方法を紹介します。
鎮痛薬を服用する
どうしても痛みが強く、日常生活や睡眠に支障をきたす場合は、鎮痛薬(ちんつうやく)の服用を検討しましょう。歯科医師から処方されている場合は指示に従い、市販薬を使用する場合は薬剤師に相談したうえで、用法・用量を守ることが重要です。
ただし、軽い痛みで安易に服用することは避けましょう。鎮痛薬には炎症を抑える作用があり、歯の動きが鈍くなるおそれがあるためです。あくまで我慢できないほど強い痛みが続く場合の対処法として活用してください。
冷やす
痛みが生じているときは、患部を冷やすことで炎症を和らげる効果が期待できます。保冷剤や氷を薄い布で包み、痛みを感じる部分の頬の外側に当てるとよいでしょう。入浴後など身体が温まるタイミングは痛みが出やすいため、そのような時間帯に試してみてください。
ただし、冷やしすぎると歯列矯正力が弱まるおそれがあります。長時間、直接お肌への使用は避け、短時間にとどめましょう。
矯正用ワックスを使用する
歯列矯正用ワックスは、ブラケットやワイヤーが頬や舌、歯茎に当たって痛みや傷が生じるときに役立つアイテムです。米粒ほどの量を取り、装置の表面に押しつけるように貼ることで、粘膜への刺激をやわらげられます。
治療開始時に歯科医院から提供されることもあり、ドラッグストアでも入手できます。ワイヤーが折れたり外れたりした緊急時の応急処置としても活用できるため、常備しておくと安心につながります。なお、食事や会話で外れやすいため、こまめに貼り直しましょう。
食事を工夫する
食事内容を工夫することで、痛みの軽減につながります。
やわらかいものを食べる
痛みが強い時期は、噛む力をあまり必要としないやわらかい食べ物を選びましょう。魚や野菜をやわらかく煮たもの、ハンバーグやオムレツ、マッシュポテトなどは食べやすくおすすめです。
ただし、やわらかいものばかり食べ続けると顎の筋肉が衰えることがあるため、痛みが落ち着いたら通常の食事に戻すようにしてください。
繊維質の少ないものを食べる
繊維質が多い食べ物は歯列矯正装置に絡まりやすく、食後の不快感や痛みにつながることがあります。鶏肉の筋やマグロの刺身などは繊維が残りやすいため、鶏ひき肉料理やマグロのたたきに変えるなど、形状を工夫すると食べやすくなります。
ホタテやサーモンなど、繊維の少ない食材に置き換えるのもよい方法です。
食べやすい形にする
硬い食材を食べる際は、細かく刻んだりすりおろしたりして、噛む回数や力をできるだけ減らす工夫をしましょう。野菜はミキサーでペースト状にしてスープや野菜ジュースにする、りんごや大根はすりおろして食べるなどの工夫で、噛む負担を軽減できます。
こうした調理の工夫で、栄養バランスを保ちながら歯列矯正中の食事の負担を和らげられます。
水分量の多いものを選ぶ
同じ栄養素を摂れるのであれば、水分量が多くやわらかい食品を選ぶのがおすすめです。例えば、肉類が食べにくいと感じるときは、同じくたんぱく質が豊富な豆腐や豆乳を取り入れると歯への刺激を抑えられます。
痛みが強くて食事自体がつらいときは、煮込みうどんやおかゆなど、ほとんど噛まずに食べられるメニューを活用しましょう。
口内炎を予防しやすい栄養素を摂る
歯列矯正治療中は装置による刺激で口腔内が荒れやすく、口内炎ができやすい状態になります。そこで積極的に摂りたいのが、粘膜を保護するビタミンB2・B6です。口内炎の予防や回復を助ける働きが期待できます。
ビタミンB2はワカメ・レバー・卵・マッシュルーム・海苔などに、ビタミンB6はまぐろ、にんにく、じゃがいも、鮭、バナナなどに多く含まれています。切り刻んだワカメの味噌汁、卵料理、まぐろのたたき、鮭雑炊、バナナジュースなど、歯列矯正中でも食べやすいメニューに取り入れてみましょう。
歯科医院に相談する
自身でのケアで痛みが軽減しない場合や、以下のようなトラブルが起きた場合は、早めに歯科医院への相談が大切です。
・ワイヤーが外れたまたは折れた、ブラケットが剥がれた
・1週間以上痛みが続き、日常生活や睡眠に支障が出ている
・口内炎がひどくなり、食事や会話が困難になっている
・特定の歯だけ強い痛みが続き、むし歯や炎症が疑われる
歯科医師はワイヤーの調整や鎮痛薬の処方など、痛みの原因に応じた処置を行ってくれます。「歯列矯正中だから痛みは仕方ない」と我慢し続けると、口内炎が悪化するなど口腔内の状態がさらに悪化するおそれがあります。気になることがあれば遠慮せず、担当の歯科医師に伝えるようにしましょう。
まとめ

ここまで、歯列矯正の痛みの原因や感じやすいタイミング、対処法についてお伝えしてきました。要点をまとめると以下のとおりです。
- 歯列矯正の痛みは、歯槽骨の吸収と再生によって歯が動く過程で生じるもので、調整後2〜3日がピークで1週間程度で落ち着く傾向にある
- 痛みを感じやすいのは歯が動いているとき、装置が粘膜に触れるとき、食事のとき、装置の調整直後、夜間などに多い傾向にある
- 痛みが強いときは、鎮痛薬の服用、患部を冷やす、歯列矯正用ワックスの使用、食事の工夫などで対処し、改善しない場合は早めに歯科医院への相談が重要
歯列矯正中の痛みは一時的なものがほとんどですが、我慢しすぎずに対処することが治療をスムーズに続けるうえで重要です。気になる症状があれば、担当の歯科医師に遠慮なく相談しましょう。
これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。