歯列矯正に外科手術は必要?手術が必要なケースや流れ、費用などを解説

歯列矯正は、矯正装置を用いて歯を動かし、歯並びや噛み合わせを整える治療が基本となります。一方で、噛み合わせの乱れの原因が歯の位置だけでなく、顎の骨格そのものにある場合には、矯正治療のみでは十分な改善が見込めないことがあります。そのようなときに検討されるのが、歯列矯正と外科手術を組み合わせた治療方法です。ここでは、外科手術を伴う歯列矯正において想定される費用の考え方と、治療後に意識したいケアのポイントについて説明します。

監修歯科医師:
宮島 悠旗(歯科医師)
愛知学院大学歯学部
・経歴
2005年 愛知学院大学卒業 歯科医師免許取得
2006年 東京歯科大学千葉病院 臨床研修医修了
2006年 東北大学大学院歯学研究科 口腔発育学講座 顎口腔矯正学分野 入局
2010年 東北大学大学院歯学研究科 口腔発育学講座 顎口腔矯正学分野 卒業 歯学博士取得
2011年 東北大学大学院歯学研究科 口腔発育学講座 顎口腔矯正学分野 助教就任
日本矯正歯科学会認定医取得
2014年 宮島悠旗ブライトオーソドンティクス開業
2017年 著書『国際人になりたければ英語力より歯を“磨け”-世界で活躍する人の「デンタルケア」-』出版(幻冬舎)
2021年 著書『歯並び美人で充実人生:幸せを呼ぶゴールデンスマイル』出版(合同フォレスト)
2022年 (株)オーティカインターナショナル/オーティカプロモーション myobrace® 認定講師就任
・資格
歯科医師免許、歯学博士(東北大学)、日本矯正歯科学会認定医
・所属学会 ほか
日本矯正歯科学会所属、invisalign® DIAMOND Status、 myobrace® 認定講師
目次 -INDEX-
歯列矯正で外科手術が必要になるケース

歯列矯正では、次に挙げるようなケースで外科手術が検討されやすいです。
重度の受け口(下顎前突症)
下顎前突症は、下の顎が上の顎より前方に位置している状態を指します。軽度であれば歯の移動によって噛み合わせを調整できることもありますが、顎の骨格そのものが前に出ている場合には、歯列矯正だけで対応することが難しくなります。
このような状態で歯の位置調整のみを行うと、歯や歯茎に無理な力が加わりやすく、負担が大きくなることがあります。また、見た目の変化が限定的になったり、噛む機能の改善が不十分にとどまったりする可能性も考えられます。そのため、保険適応の外科矯正では、術前矯正、入院・骨切り手術・リハビリ、術後矯正という3段階で治療が行われます。まず術前矯正で歯を適切な位置に動かしたうえで外科手術によって顎の骨の位置を修正し、その後に術後矯正で最終的な噛み合わせを整える治療計画が検討されます。なお、保険適応の外科矯正では、術前矯正と術後矯正にはワイヤー矯正が用いられます。
出っ歯(上顎前突症)や顎のズレがある
上顎前突症は、上の顎が前方に位置している、あるいは下の顎が後方にある状態です。一般的には「出っ歯」と表現されることが多いものの、その原因が歯の傾きによるものか、顎の骨格によるものかによって治療の進め方は異なります。
顎の前後的なズレが大きい場合、歯列矯正のみで見た目や噛み合わせを整えようとすると、歯の移動量が過度になり、治療後の安定性に影響が出ることがあります。特に上下の顎の位置関係が大きくずれているケースでは、外科手術によって骨格のバランスを整えることが、噛む機能と見た目の調和を目指すうえで重要と考えられます。
開咬や顎の左右非対称
開咬とは、奥歯を噛み合わせた際に前歯が接触せず、上下の歯の間に隙間が生じる状態です。舌の使い方や成長過程が関わる場合もありますが、顎の骨格に原因がある開咬では、歯列矯正のみでの改善が難しいことがあります。
また、顎が左右どちらかに偏っている非対称の状態も、外科手術を含めた治療が検討されることがあります。左右の顎の位置に差があると、噛み合わせのバランスが崩れ、特定の歯や顎関節に負担が集中しやすくなります。こうした状態が続くと、噛むときの違和感やお口の動かしにくさにつながる可能性があるため、骨格の調整を含めた治療が考えられます。
歯列矯正の外科手術の診断から治療完了までの流れ

外科的矯正治療は、歯を動かす矯正治療と、顎の骨格を調整する外科手術を組み合わせ、段階的に進めていく点が特徴です。歯並びだけでなく噛み合わせや顎の位置関係を総合的に整えるため、治療には一定の期間が必要となります。各工程は互いに関係しており、一つひとつを丁寧に進めることが、治療結果の安定につながります。
初診から手術決定までの検査と診断
治療の初期段階では、歯並びや噛み合わせ、顎の状態を正確に把握するための検査と診断が行われます。お口の中の診察に加え、顎の位置関係を確認するための矯正治療用のレントゲン検査、咬む力・咀嚼能率・顎の運動範囲などの機能検査を行い、上下の顎の前後や左右のズレ、噛み合わせの状態を多角的に評価します。
検査結果をもとに、問題の主な原因が歯の位置にあるのか、それとも顎の骨格に由来するのかを総合的に判断します。歯列矯正のみで対応できる場合と、外科手術を併用したほうが適切な場合とでは、治療計画は大きく異なります。
歯列矯正だけでは目標とする噛み合わせに到達しにくいと判断された場合、外科手術を含めた治療計画が検討されます。この段階では、治療の目的や治療期間の見通し、想定される変化について説明が行われ、患者さんが内容を理解したうえで方針が決定されます。
術前矯正で歯並びを整える
外科手術に先立ち、多くのケースで術前矯正が行われます。これは、手術後に上下の顎が適切な位置で噛み合うよう、事前に歯の位置を調整しておく工程です。
術前矯正では、顎の骨を正しい位置へ移動させた際に、噛み合わせが安定するよう歯の傾きや配置を整えます。その過程で、治療開始時より歯並びが一時的に乱れたように感じることがありますが、これは骨格を正しく修正するために必要な準備段階です。
この工程を丁寧に進めることで、外科手術後の噛み合わせが整いやすくなり、術後矯正の負担軽減にもつながります。術前矯正は、外科的矯正治療全体の基盤となる重要なステップです。
外科手術の実施と入院
術前矯正が終了すると、顎の位置を調整する外科手術が行われます。手術では、上顎または下顎、あるいは両方の顎の骨を計画にもとづいた位置へ移動させ、噛み合わせのバランスを整えます。手術方法や対象となる顎は、症状や治療計画によって異なります。
外科手術に伴い、一定期間の入院が必要となることが一般的です。入院中は、腫れや痛みの状態、噛み合わせの安定性などを確認しながら経過観察が行われます。
術後には顎周囲に腫れや違和感が出ることがありますが、医療機関の管理のもとで回復の過程を見守ります。身体の回復状況に合わせて、日常生活への復帰を段階的に進めていくことが重要です。
術後矯正と保定
外科手術後は、顎の位置が変化した状態に合わせて噛み合わせを整えるための術後矯正が行われます。顎の骨格が整ったあとも、歯の位置が安定するまでには矯正治療が必要となります。
術後矯正では、上下の歯が適切に噛み合うよう微調整を行い、噛み合わせの仕上げを進めます。この工程によって、見た目だけでなく噛む機能の安定も目指します。
その後、歯並びと噛み合わせが落ち着いた段階で、保定装置を使用する期間へ移行します。保定は、治療によって整えた状態を維持するために欠かせない工程であり、外科的矯正治療の最終段階として重要な役割を担います。
歯列矯正の外科手術にかかる費用目安

歯列矯正に外科手術を伴う場合、治療にかかる費用は一つの項目で完結するものではなく、複数の工程に分かれて発生する点が特徴です。具体的には、治療前に行われる各種検査、術前・術後に行う歯列矯正、そして顎の位置を調整する外科手術および入院に関する費用などが含まれます。これらは治療内容や顎の状態、医療機関の体制によって差が生じるため、金額はあくまで目安としてとらえ、個別の治療計画にもとづいて確認することが重要です。
事前検査費用
外科手術を前提とした歯列矯正では、一般的な矯正治療よりも詳細かつ多角的な検査が行われます。お口の中の診察だけでなく、レントゲン撮影による顎の骨の形態確認、上下の顎の位置関係を調べる分析、噛み合わせのバランス評価などを通じて、顎のズレの程度や治療の必要性を判断します。
これらの検査は、歯の問題と顎の骨格の問題を正確に区別し、適切な治療方針を立てるために欠かせません。検査項目が増えるほど費用は高くなる傾向があり、事前検査費用は数万円程度となることが多く見られます。十分な検査を行うことは、治療の安全性や結果の安定に関わる重要な工程といえます。
術前・術後矯正費用
外科手術を伴う歯列矯正では、手術前に歯の位置を整える術前矯正と、手術後に噛み合わせを仕上げる術後矯正が段階的に行われます。これらは、矯正装置を用いて歯を動かす点では通常の歯列矯正と共通していますが、外科手術を前提とした計画にもとづいて進められる点が特徴です。
術前矯正では、顎の骨を正しい位置に移動させた際に噛み合わせが合うよう、歯の並びや傾きを調整します。術後矯正では、手術後の顎の位置に合わせて歯の噛み合わせを細かく整えていきます。
矯正費用は治療期間や装置の種類によって幅がありますが、保険適応の外科矯正の治療費は40~50万円程度です。自由診療の外科矯正の治療費は数百万円程度です。治療計画の説明時に、矯正費用に含まれる範囲や追加費用の有無を確認しておくことが大切です。
歯列矯正の外科手術を受けた後のケアポイント

歯列矯正に外科手術を伴う治療では、手術そのものだけでなく、術後の過ごし方やケアの内容が治療結果の安定に深く関わります。顎の骨を動かしたあとの身体は、回復と適応の過程にあるため、適切な管理が欠かせません。ここでは、術後に患者さん自身が意識しておきたい重要なポイントについて解説します。
腫れや痛みへの対応と管理を行う
外科手術後は、顎の周囲を中心に腫れや痛みが生じることがあります。これは、骨や周囲組織に外科的な処置が加わったことに対する身体の自然な反応であり、回復過程の一部ととらえられます。術後は、医療機関から指示された安静期間を守り、処方された痛み止めや炎症を抑える薬を適切に使用することが重要です。
腫れは術後数日から1週間程度で徐々に落ち着くことが多いですが、その程度や回復のスピードには個人差があります。また、外科手術後は顎の動きが制限されるため、歯科医師の指示に従って開口訓練などのリハビリを行う必要があります。こうしたリハビリは、顎の機能を回復させるうえで重要な役割を果たします。痛みや違和感が長引く場合、あるいは強くなるようなときには、自己判断せず、早めに歯科医師や医療機関へ相談することが望まれます。こうした早期対応は、術後のトラブルを防ぐうえでも大切な要素です。
食事制限を守り硬い物を避ける
術後の顎は、骨が安定するまでの期間、外からの強い力に対して敏感な状態にあります。そのため、一定期間は顎に負担をかけない食事内容が求められます。硬い物や噛む力を強く必要とする食事は避け、やわらかく調理された物や、噛まずに摂取しやすい食事を中心に選ぶことが基本となります。
食事制限は一時的なものですが、この期間をどのように過ごすかが、顎の安定や回復に関わります。無理に通常の食事に戻そうとすると、手術部位に余計な負担がかかる可能性があるため、医療機関からの指示をもとに段階的に食事内容を戻していくことが重要です。
術後矯正の通院スケジュールを守る
外科手術後は、顎の位置が変化した状態に合わせて噛み合わせを細かく調整するための術後矯正が行われます。この工程は、歯列矯正治療の仕上げにあたる重要な段階です。
術後矯正では、歯の動きや噛み合わせのバランスを確認しながら調整が進められます。そのため、決められた通院スケジュールを守ることが治療の安定につながります。通院の間隔が空きすぎると、歯の移動が計画どおりに進まないこともあるため、無理のない範囲で治療計画を継続することが大切です。
保定装置を装着して後戻りを防ぐ
歯列矯正や外科手術によって整えられた歯並びや噛み合わせも、治療終了直後はまだ安定していない状態です。歯には元の位置に戻ろうとする力が働くため、その動きを抑える目的で保定装置が使用されます。
保定装置の装着期間や使用方法は、歯並びや顎の状態によって異なりますが、歯科医師から指示されたとおりに装着することが重要です。保定期間を適切に過ごすことは、治療結果を長期的に維持するうえで欠かせない工程であり、歯列矯正全体の仕上げといえる段階です。
まとめ
歯列矯正に外科手術を伴う治療は、顎の骨格にズレがあるケースで検討される方法です。治療には事前検査、術前・術後の矯正、外科手術と入院が関わり、費用や期間も段階的に発生します。また、術後のケアや通院、保定装置の使用は、治療結果を安定させるために欠かせません。歯列矯正と外科手術を組み合わせるかどうかは、検査と診断をもとに判断されます。不安や疑問がある場合は、早めに歯科医師へ相談し、納得したうえで治療方針をとらえることが大切です。




