口唇口蓋裂の歯列矯正治療|成長段階別の治療の流れから期間・費用まで解説

口唇口蓋裂の治療は、出生直後から成人期まで続く疾患です。「いつ、どのような矯正治療が必要なの?」「多額の費用がかかるのでは?」と、お子さんの成長の節目ごとに不安を感じることもあるのではないでしょうか。
口唇口蓋裂に伴う歯列矯正は、単に歯並びを整えるだけでなく、噛む力(咀嚼)や言葉の発音、そして顎骨の健やかな成長を支えるための重要な役割を担っています。
本記事では口唇口蓋裂の矯正治療について以下の点を中心に紹介します。
- 口唇口蓋裂の原因と特徴
- 口唇口蓋裂の治療方法
- 口唇口蓋裂の費用目安と助成制度
口唇口蓋裂の矯正治療について理解するためにもご参考いただけますと幸いです。
ぜひ最後までお読みください。

監修歯科医師:
小田 義仁(歯科医師)
院長 小田 義仁
岡山大学歯学部 卒業
広島大学歯学部歯科矯正学教室
歯科医院勤務をへて平成10年3月小田歯科・矯正歯科を開院
所属協会・資格
日本矯正歯科学会 認定医
日本顎関節学会
日本口蓋裂学会
安佐歯科医師会 学校保健部所属
広島大学歯学部歯科矯正学教室同門会 会員
岡山大学歯学部同窓会広島支部 副支部長
岡山大学全学同窓会(Alumni)広島支部幹事
アカシア歯科医会学術理事
目次 -INDEX-
口唇口蓋裂の基礎知識と歯への影響

口唇口蓋裂とはどのような疾患なのでしょうか。ここでは口唇口蓋裂の原因や特徴を解説します。
口唇口蓋裂の原因と発生頻度
口唇口蓋裂とは、生まれつき唇やお口の中の天井(口蓋)が正常につながらず、裂けた状態で生まれてくる先天的な疾患です。胎児の発育では、口唇は胎生8週頃、口蓋は胎生12週頃に形成されますが、これらを作る組織が中央でうまく癒合しない場合に口唇裂や口蓋裂が生じます。
発症の原因は一つではなく、遺伝要因や環境要因などが複雑に関係する多因子しきい説によって起こると考えられています。具体的には、遺伝的要因、染色体異常、母体の感染症(風疹など)、栄養状態、精神的ストレスなどが影響するとされていますが、実際には約70%が原因不明とされています。
口唇口蓋裂の発生頻度は、日本ではおよそ500~600人に1人とされ、体表に現れる先天異常のなかでも発生割合が高い傾向にある疾患です。
また、家族に口唇口蓋裂の方がいる場合は、発生しやすいとされています。さらに、口唇口蓋裂の子どもの約15~20%には、ほかの疾患が合併しているケースもみられます。
口唇裂・口蓋裂・顎裂の違い
口唇裂、口蓋裂、顎裂は、いずれも顔面の形成過程で組織が十分に癒合しないことで生じる先天的な疾患で、裂けている部位によって名称が異なります。
【口唇裂】
唇の部分に裂が生じている状態を指します。唇だけに裂がある場合は口唇裂と呼ばれますが、唇に加えて歯槽骨(歯が生える部分)にも裂がある場合は唇顎裂と呼ばれることがあります。
【口蓋裂】
お口の中の天井にあたる口蓋の骨や軟組織が裂けている状態です。裂の範囲はさまざまで、硬口蓋と軟口蓋の両方に及ぶものや、軟口蓋のみが裂けているものなどがあります。
【顎裂】
上顎の骨や歯槽部に裂がある状態を指し、歯の先天欠如や上顎の狭窄を伴うことがあります。これらが同時にみられる場合は、口唇口蓋裂や唇顎口蓋裂と呼ばれ、唇から上顎、口蓋まで連続して裂が生じるケースもあります。
口唇口蓋裂が歯並びや咬合に与える影響
口唇口蓋裂は、唇や上顎の形成に影響が生じる先天的な疾患であり、歯並びや噛み合わせにもさまざまな影響を及ぼすことがあります。なかでも上顎の発育が十分でない場合が多いとされており、上下の顎のバランスが崩れることで、反対咬合(受け口)などの咬合異常が起こりやすくなります。
また、歯が生える位置に異常がみられたり、歯がねじれて生えたりするなど、歯並びの乱れが生じることも少なくありません。歯の数が不足するケースや、歯のもととなる歯胚が存在せず永久歯が生えてこない場合もあります。
さらに、歯列弓が狭くなることで歯が並ぶスペースが不足し、咀嚼機能に影響が出ることもあります。
口唇口蓋裂の治療の特徴

ここでは、口唇口蓋裂の治療について解説します。
出生直後から成長完了まで続く長期的な歯列矯正管理
口唇口蓋裂の治療は、出生直後から開始され、顎の成長が落ち着く成人期まで長期にわたって行われることが特徴です。形成外科や口腔外科、矯正歯科、小児歯科、耳鼻科など複数の診療科が連携しながら、成長段階に合わせた治療が進められます。
出生後は哺乳障害の改善や口唇と口蓋の形態を整える目的で、初回手術前にNAMプレートと呼ばれるプラスチック製の装置を用いて、鼻を持ち上げる矯正治療を行う場合があります。
その後は乳歯の生え方や顎の発育を観察しながら、3歳頃や4〜6歳頃から小児矯正を開始し、上顎の成長を促しつつ歯列を整えていきます。
顎裂部への骨移植後も成長に合わせて矯正治療を継続し、永久歯が生えそろう11〜12歳頃から本格的な矯正治療が検討されます。顎の成長は16〜18歳頃まで続くとされているため、噛み合わせの変化に対応しながら、長期的な歯列管理が求められます。
咬合と口腔機能の回復を目標とした包括的治療
口唇口蓋裂の治療は、見た目の改善だけでなく、噛み合わせや口腔機能の回復を目標とした包括的な医療が行われます。そのため、形成外科や小児科、矯正歯科、耳鼻咽喉科、言語聴覚士など複数の専門職が連携するチーム医療が重要とされています。
出生後は、口蓋裂によって哺乳が難しい場合があり、新生児科の管理のもとで哺乳指導や専用乳首の使用などの支援が行われます。
また、口蓋裂のある子どもは中耳炎を合併しやすい傾向があるため、耳鼻咽喉科による診療も必要です。さらに、言語の発達に影響が出る場合は、言語訓練が行われることもあります。
このように口唇口蓋裂の治療は、成長段階に応じて複数の専門分野が関わりながら進められます。歯並びや噛み合わせの改善を含め、口腔機能を総合的に回復させることが治療の大きな目的です。
【成長段階別】口唇口蓋裂の歯列矯正治療の流れ

ここまで口唇口蓋裂の特徴についてみてきました。ここでは、口唇口蓋裂の治療の主な流れを解説します。
乳幼児期|哺乳補助と術前顎矯正
口唇口蓋裂の治療は出生直後から始まり、乳幼児期には哺乳を助ける処置と術前の顎矯正が検討されます。上顎に裂がある場合、鼻とお口がつながった状態のため、ミルクが鼻に漏れてしまい、赤ちゃんがうまく哺乳できないことがあります。
この問題に対応するため、出生後早期から口蓋床と呼ばれるプレートを装着し、鼻とお口を分けることでミルクを飲みやすい環境を整えます。
口蓋床は赤ちゃん用の入れ歯のような装置で、哺乳を助けるだけでなく、上顎の形態を整える役割もあります。また、NAMプレートを用いることで鼻軟骨の形を整え、裂による鼻の変形を軽減する術前矯正が行われることもあります。
こうした準備を行ったうえで、生後約3〜9ヶ月頃を目安に口唇形成術が実施され、自然な口唇の形態や口周囲の筋肉機能の回復を目指します。
乳歯列期~混合歯列期前半|咬合管理
乳歯列期から混合歯列期前半にかけては、口蓋形成術後の成長を見ながら噛み合わせを管理していく時期です。
基本的に口蓋形成術は1歳半〜2歳頃までに行われ、鼻とお口の境目となる口蓋を形成することで、鼻咽腔閉鎖機能の回復や言語発達の基盤を整えます。その後は乳歯の生え方や顎の成長を定期的に観察しながら、歯並びや咬合の状態を確認していきます。
口唇口蓋裂の子どもは、上顎の発育が不足しやすく、反対咬合(受け口)になりやすい傾向があります。そのため、4〜6歳頃になると上顎の成長を促す矯正治療や、将来の外科治療に備えた歯列の調整が行われることもあります。
混合歯列期|成長誘導と顎裂部骨移植(顎裂がある場合)
混合歯列期(およそ4〜12歳頃)は、乳歯と永久歯が混在する時期であり、顎の成長を利用しながら噛み合わせを整えていく重要な段階です。
口唇口蓋裂のある子どもは上顎の発育が不足しやすく、反対咬合(受け口)になるケースが多いとされているため、第一期矯正治療によって上顎の成長を誘導し、上下の顎のバランスを整える治療が行われます。
また、顎裂がある場合には、歯茎の骨が不足しているため永久歯が正常に生えることが難しくなることがあります。そのため、骨移植を行う前に歯列の幅を広げたり、歯の位置を整えたりする矯正治療を行い、顎裂部骨移植術に備えます。
さらに、永久歯の生えかわりの過程では、歯がねじれて生えたり位置がずれたりするケースもみられ、必要に応じて部分的な矯正装置を用いて歯列を整えます。この時期の治療は、将来の歯並びや咬合の安定につながる大切なステップとされています。
永久歯列期|第2期治療
永久歯が生えそろう12〜18歳頃になると、第2期矯正治療が行われます。この段階では、永久歯による安定した噛み合わせを完成させることを目標に、歯並びや顎のバランスを総合的に整えていきます。
可能な限り天然歯で機能的かつ安定性の高い咬合をつくるとともに、顔貌や口元のバランスにも配慮した治療が進められます。
治療期間は主に2〜3年程度で、1〜2ヶ月ごとの通院を続けながら矯正装置を用いて歯列を整えていきます。
成長終了後|顎矯正手術
顎の成長が終了した後も、骨格のバランスに問題が残る場合には顎矯正手術が行われる場合があります。口唇口蓋裂のある方では、上顎の発育が十分でないことから、反対咬合(受け口)など上下顎の位置関係に不調和が生じることがあります。このような場合、外科的に顎骨を移動させることで噛み合わせを整え、機能的な咬合の回復を目指します。
また、顔の成長が落ち着いた段階で、唇や鼻の形を整える口唇鼻二次修正術が行われることもあります。これらの治療により、咬合機能の改善とともに、顔貌のバランスを整えることが目的とされています。
歯列矯正治療後|保定管理と長期フォローアップ
歯列矯正治療が終了した後も、安定した歯並びと噛み合わせを維持するためには保定管理と長期的なフォローアップが欠かせません。
矯正治療で整えた歯や顎は、時間の経過とともに元の位置へ戻ろうとする後戻りが起こる場合があるため、保定装置(リテーナー)を装着して歯列の維持へとつなげます。
なかでも口唇口蓋裂のある方は、上顎の歯列が再び狭くなりやすく、歯並びが乱れる再発が起こる場合があります。そのため、矯正治療後も定期的な経過観察が重要です。主には年に3〜4回程度の通院で、歯並びや噛み合わせの状態を確認します。
このような長期的な管理を行うことで、治療によって得られた咬合や歯列の状態をできるだけ安定させ、再発のリスクを抑えることが期待できます。
口唇口蓋裂の歯列矯正治療にかかる費用と助成制度

治療が長くなりがちな口唇口蓋裂ですが、費用の目安や助成制度はあるのでしょうか。以下で解説します。
健康保険の適用範囲と条件
基本的に歯列矯正は医療保険の対象外ですが、口唇口蓋裂に伴う矯正治療は先天性疾患の治療として認められているため、健康保険が適用されます。ただし、保険診療として治療を受けるためには、国が定める“指定自立支援医療機関”で治療を行うことが条件です。
指定医療機関には、口唇口蓋裂の治療経験を持つ医療スタッフの配置や必要な医療設備が整えられているため、専門的な治療を受けることが期待できます。
さらに、乳幼児医療費助成制度や自立支援医療制度(育成医療、更生医療)を利用することで、自己負担額の軽減が受けられる場合があります。
補助の内容は自治体や所得条件によって異なりますが、これらの制度を活用することで、長期にわたる治療費の負担を抑えることにつながります。治療を開始する前に、保険適用の条件や助成制度について確認しておきましょう。
育成医療や更生医療などの公費負担制度
口唇口蓋裂の治療は、長期にわたる手術や矯正治療が必要になるため、医療費の自己負担を軽減する公費負担制度が利用できます。代表的な制度として、育成医療と更生医療があり、条件を満たすことで治療費の負担が抑えられます。
制度内容は次のとおりです。
【育成医療制度】
18歳未満の児童を対象とした制度で、口唇・口蓋裂の手術や歯列矯正治療などにかかる健康保険の自己負担分を国や自治体が補助します。所得状況によって負担額は異なりますが、医療費の軽減が受けられます。
【更生医療制度】
18歳以上で身体障害者手帳の交付を受けた方が対象となる制度です。口唇口蓋裂によって音声・言語機能や咀嚼機能に障害があると認められた場合に、矯正治療などの医療費の自己負担を軽減できます。
これらの制度は、指定された自立支援医療機関での治療が対象となるため、申請方法や利用条件については事前に医療機関や自治体へ確認することが重要です。
まとめ

ここまで口唇口蓋裂の矯正治療についてお伝えしてきました。口唇口蓋裂の矯正治療の要点をまとめると以下のとおりです。
- 口唇口蓋裂は、胎児期に唇や口蓋を形成する組織がうまく癒合しないことで起こる先天性疾患で、原因は遺伝や環境など複数の要因が関係すると考えられおり、歯並びや噛み合わせにも影響が生じる場合がある
- 口唇口蓋裂の治療は出生直後から始まり、成人期まで成長段階に合わせて進められ、手術や歯列矯正、言語訓練などを組み合わせて行われるほか、噛み合わせや口腔機能の回復を目指すために複数の診療科が連携するチーム医療が大切である
- 口唇口蓋裂に伴う矯正治療は、先天性疾患の治療として健康保険の対象になることに加えて、育成医療や更生医療などの公費負担制度を利用することで、自己負担額を軽減できる場合があるが、指定医療機関での治療が条件である
口唇口蓋裂の治療は長期間にわたりますが、お子さんそれぞれに合った時期に専門的な治療を受けることで、噛み合わせや口腔機能の改善が期待できます。不安や疑問がある場合は、専門医療機関へ早めに相談しましょう。
これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
参考文献