オーバーデンチャーとは?メリット・デメリットや毎日のお手入れ方法を解説

歯を多く失った場合の治療法として、入れ歯やインプラントが知られています。そのなかで近年注目されているのが「オーバーデンチャー」という方法です。これは、インプラントや残っている歯を土台として入れ歯を固定する治療で、通常の入れ歯より安定性が高いことが特徴です。一方で、取り外し式であるため日々のお手入れや定期的な管理も欠かせません。この記事では、オーバーデンチャーの仕組みや通常のインプラントとの違い、メリット・デメリットについて歯科医師の立場から解説します。

監修歯科医師:
松浦 明(歯科医師)
医療法人 松栄会 まつうら歯科クリニック
出身大学
福岡歯科大学
経歴
1989年福岡歯科大学 卒業
1991年松浦明歯科医院 開院
2020年医療法人松栄会まつうら歯科 理事長就任
資格
厚生労働省認定研修指導医
日本口腔インプラント学会認定医
ICOI (国際インプラント学会)Fellowship認定医
所属学会
ICOI(国際口腔インプラント学会)
日本口腔インプラント学会
日本臨床歯科学会(SJCD) 福岡支部 理事
日本顎咬合学会 会員
日本臨床歯科CAD/CAM学会(JSCAD)会員
オーバーデンチャーの基礎知識

まずはオーバーデンチャーの仕組みと通常のインプラントとの違いを理解しておきましょう。
オーバーデンチャーの仕組み
オーバーデンチャーとは、顎の骨に埋め込んだインプラントや残っている歯を支えとして、その上から入れ歯を装着する治療法です。入れ歯の裏側には特殊な装置が取り付けられており、インプラント側の部品と連結することで安定した装着状態を保ちます。
一般的な総入れ歯は歯茎の粘膜の上に乗せる構造のため、噛む力がかかると動いてしまうことがあります。とくに下顎の入れ歯では、舌や頬の動きによってズレやすく、食事や会話に影響が出る場合もあります。オーバーデンチャーではインプラントが支えとなるため、入れ歯の位置が安定しやすくなります。
たとえば下顎の場合、2本程度のインプラントを埋め込み、その上に入れ歯を固定する方法がよく行われます。これにより、従来の総入れ歯よりもしっかりとした装着感を得やすくなります。また、取り外し式である点も特徴です。食後や就寝前に外して清掃することができるため、お口の衛生管理を行いやすいという利点があります。
通常のインプラントとの違い
一般的なインプラント治療は、人工歯根の上に被せ物を固定する固定式の構造です。
たとえば歯を1本失った場合には、その部分にインプラントを埋め込み、その上に人工歯を取り付けて噛める状態を回復させます。一方、オーバーデンチャーは取り外し式の入れ歯をインプラントで支える方法です。そのため、固定式インプラントとは次のような違いがあります。
まず、必要なインプラント本数が少ない点です。全ての歯をインプラントで補う場合、顎全体で8本前後のインプラントが必要になることがあります。しかしオーバーデンチャーでは、顎の状態にもよりますが2〜4本程度で対応できる場合があります。また、取り外し可能であることから、入れ歯部分の清掃や点検を行いやすいという特徴があります。固定式の場合は歯科医院で専用器具を用いた清掃が必要になることがありますが、オーバーデンチャーでは患者さん自身でのケアもしやすくなります。
ただし、装着感や噛む力の点では固定式インプラントのほうが優れるケースもあります。治療法の選択には顎の骨の状態や身体の健康状態、生活習慣など多くの要素が関わるため、歯科医師と相談しながら決めることが重要です。
オーバーデンチャーのメリット

オーバーデンチャーには、従来の入れ歯や固定式インプラントとは異なる利点があります。歯を多く失った患者さんのなかには、治療の選択肢として検討されることがあります。ここでは主なメリットについて解説します。
取り外しができるため清潔を保ちやすい
オーバーデンチャーの特徴のひとつは、入れ歯を取り外して清掃できる点です。
食事をすると、食べかすや細菌がお口の中に残ることがあります。固定式のインプラントでは、歯と歯の間や装置の下部に汚れがたまりやすい場合があります。
一方、オーバーデンチャーでは入れ歯を外すことで歯茎やインプラント周囲を直接確認できます。そのため汚れの付着に気付きやすく、日常的なケアを行いやすいという利点があります。また、入れ歯自体も洗浄することができるため、臭いの原因となる細菌の増殖を抑えることにもつながります。お口の衛生状態を保つことは、インプラント周囲の炎症や歯周病の予防にも関わります。
通常の入れ歯より安定性が高い
総入れ歯を使用している患者さんのなかには、食事中に入れ歯が動くことに悩んでいる方もいます。とくに下顎の入れ歯は歯茎の面積が小さいため、吸着が弱くなることがあります。
オーバーデンチャーでは、インプラントが入れ歯を支える役割を果たします。これにより、噛むときの力が分散され、入れ歯がずれにくくなります。たとえば硬い食べ物を噛むときや会話をしているときでも、入れ歯が安定しやすくなります。その結果、食事や発音に対する不安が軽減されることがあります。また、入れ歯の安定性が高まることで、噛み合わせのバランスも保ちやすくなります。噛み合わせが安定すると顎への負担が減り、顎関節への影響を抑えることにもつながります。
全顎的なインプラント治療より費用を抑えられる
歯をすべて失った場合、固定式インプラントで全ての歯を再建する方法もあります。
しかしこの方法では多くのインプラントが必要となるため、治療費が高額になることがあります。
オーバーデンチャーでは、少ない本数のインプラントで入れ歯を支えることができます。
そのため、治療費の負担を抑えながらインプラントの利点を取り入れることが可能です。また、顎の骨の状態によっては、多数のインプラントを埋め込むために骨造成と呼ばれる治療が必要になる場合があります。インプラント本数が少なく済むオーバーデンチャーでは、このような処置が不要となるケースもあります。
ただし、費用は歯科医院や治療内容によって異なります。治療を検討する際は、診査や検査を行ったうえで、費用や治療計画について十分な説明を受けることが大切です。
オーバーデンチャーのデメリット

オーバーデンチャーには多くの利点がありますが、すべての患者さんに適しているとは限りません。治療法を選択する際には、メリットだけでなく注意点についても理解しておくことが大切です。
毎日の取り外しケアが必要
オーバーデンチャーは取り外し式の入れ歯のため、日々の清掃が欠かせません。食後には入れ歯を外して汚れを落とし、インプラント周囲や歯茎の状態も確認する必要があります。こうしたケアを怠ると、細菌が増殖し、お口の中の環境が悪化することがあります。
とくにインプラント周囲では炎症が起こると骨に影響が及ぶ可能性があるため、清潔な状態を維持することが重要です。固定式インプラントのように常に装着したままの治療とは異なり、取り外して管理する手間がある点は理解しておく必要があります。
定期的なメンテナンスが欠かせない
オーバーデンチャーは、長く使用していると装置の部品が摩耗することがあります。インプラントと入れ歯をつなぐ部分は、噛む力が繰り返し加わるため、少しずつ劣化することがあります。
そのため、歯科医院での定期的な点検が重要になります。装置の状態や噛み合わせを確認し、必要に応じて部品の交換や調整を行います。また、インプラント周囲の歯茎の状態を確認することも大切です。炎症の兆候に早く気付くことで、トラブルの進行を防ぐことにつながります。
固定式インプラントと比べると噛む力に限界がある
オーバーデンチャーは入れ歯の一種であるため、固定式インプラントと比べると噛む力には差があります。インプラントの本数が少ない場合、噛む力の一部は歯茎の粘膜にも伝わります。そのため、硬い食べ物を噛む際に違和感を覚えることがあります。食事内容によっては入れ歯が動く感覚が残る場合もあります。とはいえ、通常の総入れ歯と比べると安定性が高いことは確かです。治療法の選択では、噛む力、費用、清掃のしやすさなど複数の要素を踏まえて検討することが重要です。
オーバーデンチャーのお手入れ方法

オーバーデンチャーを長く使用するためには、日常的なお手入れが欠かせません。インプラントを土台とする入れ歯は安定性が高い一方で、清掃を怠ると歯茎の炎症やインプラント周囲炎につながることがあります。ここでは日常生活のなかで行うべき基本的なケア方法につ
いて説明します。
入れ歯を外して流水で汚れを落とす
オーバーデンチャーは取り外し式の入れ歯であるため、食後には外して清掃することが大切です。入れ歯の内側には食べかすや細菌が付着しやすく、そのまま装着を続けると口臭や歯茎の炎症の原因になることがあります。
まずは流水の下で入れ歯を軽くすすぎ、表面についた汚れを落とします。このとき、落として破損することを防ぐため、洗面器に水をためた状態で行うと安心です。入れ歯の裏側やインプラントと接触する部分には汚れが残りやすいため、形状を確認しながら丁寧に洗い流します。必要に応じて、専用の清掃器具も使用します。
また、お口の中も同時に清掃しなければなりません。歯茎の表面や舌の汚れを落とすことで、細菌の増殖を抑えることにつながります。こうした習慣を毎日続けることが、インプラント周囲の健康維持に関わります。
洗浄剤に浸けて細菌・臭いを除去する
流水による清掃だけでは、目に見えない細菌や臭いの原因物質が残ることがあります。そのため、入れ歯専用の洗浄剤を使用して定期的に浸け置き洗浄を行うことが推奨されます。
洗浄剤には、細菌の増殖を抑える作用や汚れを分解する働きがあります。入れ歯を一定時間浸けることで、流水だけでは落ちにくい汚れを取り除くことができます。とくに就寝前など、入れ歯を外している時間に行うと効率的です。
ただし、熱湯を使用すると入れ歯が変形することがあるため注意が必要です。洗浄の際は製品の説明を確認し、適切な温度の水を使用します。また、洗浄後は再び流水でよくすすぎ、洗浄剤が残らないようにすることも大切です。
インプラント周囲を歯間ブラシ・フロスでケアする
オーバーデンチャーの治療では、インプラント周囲の清掃も重要です。入れ歯を外すとインプラントの支柱が見えるため、その周囲に汚れがたまりやすいことがあります。
この部分の清掃には、歯間ブラシやデンタルフロスが役立ちます。歯と歯の間を清掃する道具として知られていますが、インプラント周囲の清掃にも活用できます。インプラントの周囲に付着した汚れを取り除くことで、歯茎の炎症を防ぐことにつながります。
清掃の際は力を入れすぎないよう注意します。強い力でこすると歯茎を傷つけることがあります。歯科医院で指導を受け、自分のお口の状態に合った清掃方法を身につけることが大切です。
就寝時は外して保管する
オーバーデンチャーは、就寝時には外して保管することが一般的です。入れ歯を装着したまま長時間過ごすと、歯茎に持続的な圧力がかかり、粘膜に負担がかかることがあります。
入れ歯を外すことで歯茎を休ませることができ、お口の環境を整えることにつながります。また、就寝中は唾液の分泌量が減るため、細菌が増えやすい状態になります。入れ歯を外して洗浄しておくことで、細菌の増殖を抑えることができます。
保管の際は乾燥を防ぐため、水や専用の保存液に浸けておくことが望ましいです。乾燥した状態が続くと入れ歯の素材が変形することがあります。日々の保管方法にも注意を払うことで、入れ歯を長く使用することにつながります。
メンテナンス不足で起こるトラブル

オーバーデンチャーはインプラントと入れ歯を組み合わせた治療であるため、日常ケアと歯科医院での点検の両方が重要です。清掃や定期管理が不十分な場合、さまざまなトラブルが起こる可能性があります。
インプラント周囲に炎症が起き骨吸収が進む
インプラント周囲に細菌が蓄積すると、歯茎に炎症が起こることがあります。炎症が進行すると、インプラントを支える顎の骨に影響が及ぶことがあります。
骨は新しい骨を作る細胞と、骨を壊す働きをする細胞のバランスによって維持されています。しかし炎症が続くと、このバランスが崩れ、骨を壊す働きが強くなることがあります。その結果、インプラントを支える骨が少しずつ減少する可能性があります。この状態はインプラント周囲炎と呼ばれ、進行するとインプラントの安定性に影響することがあります。早期に気付くことが重要であり、歯科医院での定期検診が重要な役割を果たします。
入れ歯の劣化・変形が早まる
入れ歯は長期間使用するなかで摩耗や変形が起こることがあります。とくに清掃が不十分な場合、汚れが蓄積して材料の劣化を早めることがあります。また、噛み合わせの変化や顎の骨の変化によって、入れ歯の適合状態が変わることもあります。合わない入れ歯を使い続けると、歯茎に強い圧力がかかり痛みが生じることがあります。
歯科医院では入れ歯の状態や噛み合わせを確認し、必要に応じて調整を行います。こうした定期管理によって、入れ歯を良い状態で使用することができます。
口臭や歯周病、インプラント周囲炎につながることがある
お口の清掃が不十分な状態が続くと、細菌が増殖しやすくなります。細菌は食べかすを分解する過程で臭いの原因物質を作り出すため、口臭につながることがあります。また、細菌が歯茎に影響すると歯周病が進行することがあります。インプラント周囲でも同様に炎症が起こることがあり、放置すると症状が進むことがあります。
こうしたトラブルを防ぐためには、日常の清掃と定期検診の両方が大切です。歯科医院ではお口の状態を確認し、適切なケア方法を指導します。患者さん自身のケアと専門的な管理が組み合わさることで、お口の健康を維持することにつながります。
まとめ
オーバーデンチャーは、インプラントを支えとして入れ歯を安定させる治療法であり、従来の入れ歯よりも安定性が高いという特徴があります。一方で、取り外し式であるため日常のお手入れと定期的なメンテナンスが欠かせません。入れ歯の清掃やインプラント周囲のケアを続けることで、トラブルの予防につながります。治療後も歯科医院での定期管理を受けながら、お口の状態を確認していくことが大切です。
参考文献



