CAD/CAM冠は奥歯でも保険適用できる?条件や費用、注意点を解説

かつて保険で入れる奥歯の被せ物は銀歯が一般的でしたが、制度改定により白い被せ物であるCAD/CAM冠が保険に導入されました。導入当初は小臼歯のみが対象でしたが、現在では奥歯(大臼歯)にも適用範囲が広がっています。ただし、すべてのケースで保険が使えるわけではなく、歯の状態や噛み合わせなどいくつかの条件を満たす必要があります。この記事では、奥歯へのCAD/CAM冠が保険対象になる条件や費用の目安、治療の流れを解説します。

監修歯科医師:
柳下 寿郎(歯科医師)
日本臨床口腔病理学会理事 日本口腔腫瘍学会理事 一般社団法人口腔がん撲滅委員会代表理事
【経歴】
1989年3月 日本歯科大学歯学部 卒業
1993年3月 日本歯科大学大学院歯学研究科 修了
1993年4月 日本歯科大学歯学部病理学教室 助手
1996年1月 州立フロリダ大学歯学部 客員研究員
1998年4月 日本歯科大学歯学部病理学教室 講師
1998年10月 東邦大学医学部第一病理学講座 非常勤研究員(~2004年 8月)
2001年10月 人体解剖資格医 取得 (第7494号)
2004年8月 口腔病理専門医 取得 (第126号)
2004年9月 埼玉県立がんセンター 病理診断科 非常勤研究員(~現在に至る)
2004年10月 日本歯科大学歯学部病理学講座 准教授
2005年10月 日本歯科大学附属病院口腔病理診断室 異動
2009年4月 日本病理学会 評議員
2010年1月 口腔腫瘍学会 評議員
2012年4月 日本歯科大学附属病院歯科放射線・口腔病理診断科 科長
2012年4月 口腔病理専門医研修指導医
2012年12月 細胞診専門歯科医認定医 取得
2014年10月 口腔がん撲滅委員会 活動スタート
2014年12月 1日 東京医科歯科大学非常勤講師
2015年4月 1日 東邦大学医学部客員講師
2016年4月 日本歯科大学附属病院歯科放射線・口腔病理診断科 教授
2017年3月 一般社団法人 口腔がん撲滅委員会 理事
2018年4月 口腔腫瘍学会 理事
2020年10月 一般社団法人 口腔がん撲滅委員会 代表理事
2026年4月 富士市立中央病院 歯科口腔外科 非常勤歯科医師
2026年6月 日本歯科大学附属病院 退職
2026年8月 横浜総合病院 歯科口腔外科 非常勤歯科医師
歯学博士
口腔病理専門医 口腔病理専門医研修指導医 細胞診専門歯科医認定医
日本病理学会評議員 日本臨床口腔病理学会理事 日本口腔腫瘍学会理事 一般社団法人口腔がん撲滅委員会代表理事
目次 -INDEX-
奥歯のCAD/CAM冠が保険対象になる条件

CAD/CAM冠とは、コンピューターで被せ物の形を設計し、専用の既製ブロックを機械で削り出して製作する白い被せ物です。ここでは、奥歯にCAD/CAM冠を保険で入れるための条件を解説します。
第一・第二大臼歯など対象の歯であること
CAD/CAM冠が奥歯で保険の対象になるのは、第一大臼歯と第二大臼歯への単冠(1本ずつの被せ物)です。第一大臼歯・第二大臼歯は前から6番目と7番目の歯で、食べ物をすりつぶす役割を担っており、噛む力がとくに集中しやすい部位です。
保険適用で使用できる素材には、ハイブリッドレジン製とPEEK(ポリエーテルエーテルケトン)製の2種類があります。ハイブリッドレジンはプラスチックとセラミックを組み合わせた素材で、神経がある歯にも対応できます。PEEK冠は航空宇宙産業や医療機器にも使われている高機能素材で、適度なしなやかさがあり噛み合わせの条件なしにすべての大臼歯に使える点が特徴です。なお、複数の歯をつなげて製作するブリッジには使用できず、1本ずつ個別に被せ物を作る単冠であることが条件です。親知らず(第三大臼歯)はハイブリッドレジン製では対象外となっています。また、神経を抜いた歯(失活歯)に対しては、ハイブリッドレジン製のエンドクラウンという被せ物も保険で選択できます。エンドクラウンは被せ物自体が土台の役割を兼ねる構造のため、別途土台を作る必要がない点が通常のCAD/CAM冠との違いです。
上下の歯がしっかり噛み合っていること
ハイブリッドレジン製のCAD/CAM冠を奥歯に使用する場合は、噛み合わせの支え(咬合支持)に関する条件があります。ハイブリッドレジンは金属と比べると強度がやや劣るため、被せ物に噛む力が集中しすぎない状態であるかどうかを事前に確認する必要があるためです。大前提として、被せ物を入れる部位と反対側の奥歯(対合歯)が上下でしっかり噛み合っていることが求められます。そのうえで、被せ物を入れる歯と同じ側については、次の2つのいずれかを満たす必要があります。ひとつは同じ側の奥歯が上下でしっかり噛み合っていて被せ物に過剰な力がかからない状態であること、もうひとつは向かい合う歯(対合歯)が抜けているか入れ歯が入っていて被せ物を入れる歯のすぐ手前の歯まで噛み合わせが確保されていることです。
金属アレルギーがあり銀歯などの金属製の被せ物が使用できない方については、上記の噛み合わせの条件にかかわらず保険が認められます。また、PEEK冠の場合はこうした噛み合わせに関する条件が設けられていないため、従来型のCAD/CAM冠よりも適用できる範囲が広くなっています。
施設基準など保険診療の条件を満たしていること
CAD/CAM冠はすべての歯科医院で保険適用を受けられるわけではありません。歯科医院の側にも一定の条件(施設基準)があり、それを満たした歯科医院だけがこの治療を保険で提供できます。
具体的には、被せ物や入れ歯などの補綴治療に関する専門知識と3年以上の経験を持つ歯科医師が在籍していること、院内に歯科技工士がいるか連携している歯科技工所があること、CAD/CAM装置が院内または連携先の技工所に設置されていることなどが主な基準です。これらの基準は、CAD/CAM冠の製作・装着において一定の品質を確保するために設けられています。基準を満たした歯科医院は厚生局に届け出を行っており、届け出がない歯科医院ではCAD/CAM冠を保険で提供することができません。通院している歯科医院で対応が可能かどうか気になる場合は、受診前に直接確認しておくと安心です。
CAD/CAM冠が保険適用外になるケース

条件を満たせば保険で受けられるCAD/CAM冠ですが、すべてのケースに適用できるわけではありません。ここでは、保険適用外となる代表的なケースを解説します。
審美目的と判断される場合
保険診療の目的は歯の機能を回復することにあります。噛む・話すといった機能に問題がない状態で、見た目の改善のみを目的としてCAD/CAM冠に作り替えるケースなどは、保険診療の対象外となります。
また、保険適用のCAD/CAM冠は素材の特性上、色調の再現性に限りがあります。周囲の歯と精密に色を合わせたい場合や、より高い審美性を求める場合は、自費診療のオールセラミックやジルコニアのほうが仕上がりの満足度が高くなる可能性があります。見た目に対する希望が明確な場合は、担当歯科医師に事前に相談しておくことが大切です。
咬合力や歯ぎしりにより耐久性に問題がある場合
CAD/CAM冠はレジン系の素材が主な材料であるため、金属の銀歯と比べると強い力に対してやや弱い面があります。歯ぎしりや食いしばり(ブラキシズム)が強い方は、通常の何倍もの力が歯にかかるため、被せ物が割れたり欠けたりするリスクが高まります。
加えて、被せる歯の高さが低い場合は被せ物を固定するための保持力が不足し、脱離しやすくなります。本来は複数の歯で分散されるべき噛む力が1本に集中するような噛み合わせの問題がある場合も、CAD/CAM冠への負担が大きくなるため注意が必要です。こうしたケースでは、被せ物の破損や脱離のリスクを考慮して、金属の被せ物やジルコニアなど強度の高い素材が選択されることがあります。
ただし、歯ぎしりがある方でも就寝時にナイトガード(マウスピース)を使用することで被せ物への負担を軽減できるケースがあります。適用の可否については、担当歯科医師と十分に相談することが求められます。
CAD/CAM冠の治療の流れ

CAD/CAM冠を奥歯に装着するまでには、複数のステップを経て治療が進められます。ここでは、一般的な治療の流れを解説します。
診査・適応確認
最初のステップは、レントゲン撮影やお口のなかの検査です。歯の状態(むし歯の進行度、神経の有無、歯根の状態など)、噛み合わせの状態、金属アレルギーの有無、歯ぎしり・食いしばりの傾向などを総合的に確認し、CAD/CAM冠が適応可能かどうかを判断します。
むし歯が深く進行していて根管治療(こんかんちりょう)が必要な場合は、先にその治療を行います。神経を抜いた歯に被せ物を装着する際は、土台(支台築造・コア)を作ってから被せ物の製作に進む流れが一般的です。ただし、エンドクラウンの場合は被せ物自体が土台の役割も果たすため、根管治療後に直接型取りに進むことができます。
歯の形成や型取り
被せ物を適切にはめるため、歯を削って形を整える処置(支台歯形成)を行います。削る量は素材によって異なり、従来型のCAD/CAM冠では噛む面で1.5〜2.0mm程度、側面で1.5mm程度が目安です。PEEK冠の場合は削る量がやや少なく、噛む面で1.0〜1.5mm程度となります。また、形成面が鋭角だと、応力集中が被せ物に生じ、破折する原因にもなるため、「丸めるように」形成することが重要です。
形成後は型取り(印象採得)を行います。従来のシリコン印象材を使う方法が一般的ですが、近年はお口のなかを直接デジタルスキャンする光学印象に対応している歯科医院も増えています。型取りの精度は完成した被せ物の適合性に直結するため、非常に重要な工程です。型取りが終わったら、被せ物が完成するまでのあいだ仮歯を装着して過ごします。
装着・咬合調整
完成した被せ物を歯にセットします。その前に、重要な過程があります。それが「試適」です。被せ物の適合、コンタクト、咬合、マージンのチェックです。装着には接着性レジンセメントという専用の材料を使用し、歯と被せ物をしっかりと一体化させます。この接着操作はCAD/CAM冠の長期的な安定性に関わるため、欠かせない工程です。
装着後は噛み合わせに問題がないかを丁寧に確認します。噛んだときに高さの違和感がある場合や、横に歯をずらしたときに引っかかりがある場合は、その場で調整を行います。表面を研磨してなめらかに仕上げたら治療完了です。装着後に違和感が続く場合は、早めに歯科医院で確認を受けることが望ましいです。
CAD/CAM冠の費用相場

保険適用のCAD/CAM冠にかかる費用の目安について確認しておくことが大切です。ここでは、素材ごとの費用目安を解説します。
保険適用のCAD/CAM冠(奥歯・単冠)の3割負担での費用目安は、従来型CAD/CAM冠がおおよそ7,500〜8,000円前後、PEEK冠がおおよそ8,900円前後、エンドクラウン(失活歯用)がおおよそ8,300円前後です。いずれも被せ物の製作・装着にかかる費用のみの目安であり、実際の治療では初診・再診料、検査料、むし歯治療、根管治療、土台の製作、麻酔などの費用が別途加算されます。
治療内容によっては、3割負担で総額2万円前後になることもあります。1割・2割負担の方はさらに低額です。保険が適用されれば、自費のセラミック系の被せ物(8〜20万円程度)と比較して費用を大幅に抑えられる点は大きな利点です。
参考として、ほかの被せ物の費用と比較すると、保険適用の銀歯は3割負担で3,000〜5,000円前後、自費のオールセラミッククラウンは1本あたり8〜15万円程度、ジルコニアクラウンは1本あたり8〜20万円程度が目安です。CAD/CAM冠は保険適用の銀歯よりはやや高額ですが、自費のセラミック系素材と比べると大幅に費用を抑えられるため、白さと費用のバランスを重視する方にとって選択しやすい治療法として位置付けられます。ただし、保険適用の可否や実際の費用は歯科医院や治療内容によって変わることがあるため、事前に確認しておくことが大切です。
CAD/CAM冠以外の被せ物の選択肢

奥歯の被せ物にはCAD/CAM冠以外にもいくつかの選択肢があります。ここでは、代表的な素材の特徴を解説します。
銀歯
銀歯(金銀パラジウム合金冠)は、日本で長年使用されてきた金属製の被せ物です。金属は非常に強度が高く、噛む力が強くかかる奥歯でも破折しにくい点が大きな利点です。保険が適用されるため、費用面の負担が少ない点も選ばれる理由のひとつとなっています。
一方で、お口を開けたときに金属色が目立ちやすい点はデメリットです。金属アレルギーのリスクがあるほか、長期間の使用により歯茎との境目が黒ずむことがあります。審美性よりも強度と費用を重視する方に向いている選択肢です。
オールセラミッククラウン
オールセラミッククラウンは、金属を一切使用せずすべてセラミックで製作される被せ物です。天然歯に近い透明感と白さを再現できるため、審美性の面ではとくに優れています。金属を使用しないため、金属アレルギーや歯茎の変色の心配がない点もメリットです。
ただし、セラミックは硬い反面、強い衝撃を受けると割れや欠けが生じることがあります。噛む力が強い方や歯ぎしりがある方には慎重な判断が必要です。費用は自費診療で、1本あたり8〜15万円程度が目安となります。
ジルコニアクラウン
ジルコニアクラウンは、酸化ジルコニウムを素材とした被せ物で、セラミック系のなかでもとくに高い強度を持っています。前歯から奥歯まで幅広く使用でき、金属を使わないため金属アレルギーの心配もありません。強度と審美性を両立できる素材として、近年選ばれるケースが増えています。
透明感の面ではオールセラミックにやや劣る場合がありますが、耐久性を重視する方には適した選択肢です。費用は自費診療で、1本あたり8〜20万円程度が目安となります。噛み合わせの調整が不十分な場合は対合歯を摩耗させる可能性があるため、装着後の定期的なチェックが求められます。
まとめ
奥歯のCAD/CAM冠は、噛み合わせや歯の状態、歯科医院の施設基準などの条件を満たすことで保険を適用して装着できます。3割負担で1本あたり8,000〜9,000円前後が目安であり、自費のセラミック系素材と比較して費用を大幅に抑えられる点が大きな利点です。素材には従来型のハイブリッドレジンとPEEK冠があり、それぞれ適用条件が異なります。奥歯の被せ物を検討する際の参考にしてみてください。
参考文献



