不正咬合にはどのような種類があるのかとその治療方法
不正咬合(ふせいこうごう)とは、上下の歯が正確に噛み合っていない状態の歯並びのことを指します。不正咬合の種類は、上下の顎の骨の位置がずれているタイプや、上下の顎の骨の大きさがチグハグになっているタイプのものなど様々です。不正咬合は人それぞれタイプも重症度も違うもので、当然歯科矯正における治療方法も様々になってきます。治療に取り掛かる年齢にもよりますが、場合によっては治療にある程度の期間がかかってしまう場合もあります。
今回は不正咬合にはどのような種類があるのか、またどのような治療方法があるのかを、しぶたに矯正歯科の院長 渋谷直樹先生に伺ってみました。
渋谷 直樹 (しぶたに矯正歯科 院長)
目次 -INDEX-
歯が段違いに生えている叢生といわれる不正咬合
上下どちらか、または上下どちらもの顎の大きさがアンバランスなため、歯の生え方に段差が生じたり、重なり合って生えてしまったりした不正咬合を叢生(そうせい)と呼びます。
叢生は歯の大きさに対して顎が小さい場合に生じる不正咬合ですが、代表的な例として八重歯があげられます。叢生の場合、口を開いた時に見た目が気になってしまうだけでなく、歯の段差部分に歯ブラシが届きにくいため虫歯や歯周病を起こしやすくなってしまいます。
抜歯の必要がない叢生の治療方法
歯槽骨の大きさに対して、歯の大きさが大きい場合は歯が綺麗な一列にならず、段違いになってしまいます。このような場合の治療としては、成長期であれば取り外しの装置で歯槽骨の幅を拡げることができます(1期治療)。すべて永久歯に生え変わった時に歯槽骨と個々の歯の大きさのバランスを整えることができる症例であれば、比較的抜歯の可能性は低くなります。その後一本一本の歯を理想的な位置へと整えるには、成人歯科矯正治療(2期治療)を行う必要があります。
抜歯が必要な叢生の治療方法
すべて永久歯になる中学生を過ぎてから歯の段差をなくすための叢生治療を行う場合は、顎の大きさを拡げる処置が効果的でないため、歯を並べるスペースを作るため、場合によっては抜歯が必要になってきます。歯槽骨の大きさに対して歯の大きさが大きい場合、無理をして抜歯をせずに歯槽骨ぎりぎりに歯を並べると、治療が終わった瞬間は凸凹がなくなってきれいな歯並びなのですが、10年、20年と経っていくうちに全体的に歯茎が下がって歯が長くなり、冷たいものがしみるなど知覚過敏の症状が出たり、ひどいときにはその歯がもたず複数の歯を失ってしまうこともあります。矯正治療開始前の検査を行い、レントゲンや歯型の模型などを分析したうえで必要であれば抜歯を行う治療方針を立て、しっかり抜歯したスペースを閉じきる噛み合わせを作ります。その際はマルチブラケット装置で治療を行います。
抜歯の必要はないが先天欠如歯がある場合の治療方法
歯槽骨の大きさに対して、歯の大きさが大きすぎるため歯の生え方に段差が生じる叢生。歯槽骨が小さい人の場合、永久歯が先天欠如している症例も珍しくありません。乳歯が残っている場合もありますが、乳歯はあまり長持ちしないため、叢生治療において抜歯を行いそのスペースを使って歯を並べる治療方針を立てることもできます。乳歯や小臼歯を抜歯した場合は、マルチブラケット装置で治療を行なっていきます。
歯が前に出ている上顎前突と言われる不正咬合
上顎前突(じょうがくぜんとつ)と聞くと聞き慣れない人も多いかと思いますが、いわゆる「出っ歯」と呼ばれる不正咬合を指します。
上顎前突は噛み合わせが悪いことにより満足な咀嚼ができず、顎の関節に負担がかかり、痛みの症状がでてしまったりすることがあります。
また、笑った時に歯茎が出ていること(ガミースマイル)が気になったり、唇が閉じにくかったりなどの審美歯科の面においても気にする人が多い不正咬合です。
抜歯の必要がない上顎前突の治療方法
乳歯から永久歯に生え変わる期間や、永久歯が生えてすぐの時期に上顎前突の治療を行う場合、歯槽骨の幅を拡げたり、下顎の前方への成長を促すことができます。永久歯の大きさにあった歯槽骨の大きさになり、上下顎の前後的なバランスを整えることができれば、抜歯をせずに治療を行うことが可能です。また、すでに永久歯列であっても上の奥歯を後ろに動かすことが可能であることがレントゲンなどの検査により確認できれば、奥歯を後ろに動かした隙間を使って前歯を下げることにより、歯を並べることができるます。骨格的な要因でなく歯の傾きなどの歯性な要因の上顎前突の場合は非抜歯で治療ができる可能性があります。
抜歯が必要な上顎前突の治療方法
凸凹の度合いが大きく、顎の大きさに対して歯が大きい場合や、骨格的に下顎が後ろの位置にあったり小さい場合、乳歯の時から骨格の成長を促す治療をしていても、完全にはバランスが整わないことがあります。永久歯が生え揃って安定してきたころ以降の年齢で、顎の大きさにあった歯の本数にするためや、上の歯列の大きさを小さい下顎に合わせて小さくするために抜歯を行うことで、しっかりしたかみ合わせを作る治療が可能となり、無理して非抜歯で矯正治療をした場合より長期安定性が高まる場合があります。
前歯が出ているため口が閉じにくい、笑って口を開けた時の見た目が気になる、など矯正治療をはじめるきっかけは人それぞれ違います。しっかり検査をしたうえで、今のかみ合わせの状態の原因に対する治療方針を立てることにより、治療を行う必要があります。治療を行う上で抜歯が必要な場合は、治療期間を短くするために、マルチブラケット装置に歯科矯正用のアンカースクリューを併用する治療方法も主流になってきています。
下の歯が前に出ている下顎前突と言われる不正咬合
下の歯並びが上の歯並びに対して前方へ突出している不正咬合を下顎前突と呼びます。いわゆる「受け口」と呼ばれる状態ですが、特に前歯の噛み合わせが上下逆になってしまっている状態を「反対咬合」と呼びます。
下顎前突は、上の前歯が後方に傾いたり、下の前歯が前方に傾いたり、下顎の骨が前方に過度に成長してしたり、上顎の成長が少なく小さく後方にあったりする場合に発症します。食べ物を噛み切りづらく、したったらずのような喋り方になり、違和感を覚えることもあります。また、骨から飛び出すように歯が傾いていることもあるため、歯周病になったときに歯茎が下がりやすい状態になっています。治療可能な年齢に制限はありませんが、治療内容の選択肢がふえるため、早期に治療を行うことが推奨されています。
抜歯が必要ない下顎前突の治療方法
前歯が乳歯から永久歯に生え変わる時期に下顎前突の治療を行う場合、上顎の前方への成長を促したり、歯の傾きを改善することで、抜歯の必要がなくなる状態にすることも可能です。幼少期であれば、「喋り方が少しおかしい」「言葉が聞き取りにくい」など家族の方が気づいてあげることが大切です。成長期に使用する矯正装置は、在宅時にのみ使用して上顎の成長を促しながら歯の傾きを改善するものを使用できます。永久歯列に生えそろっている場合は治療の開始時期を慎重に見極める必要があります。下顎前突の原因が上の前歯が内側に傾いているなどの歯が原因である場合は、マルチブラケット装置などでその傾きを改善することで治療を終えることが可能です。骨格的に下あごが上あごに前方にある場合は、これから高校生頃までさらに下顎の前方への成長が来る可能性があるため、それまであえてマルチブラケット装置を使って治療しないことをおすすめします。下顎の成長が終わってから治療を行うのですが、骨格性の要因が大きい場合、無理に歯だけの矯正治療を行っても期待したようなかみ合わせができないことがあります。「顎変形症」の適応であると判断された場合、骨格的な問題を改善する外科的な処置を併用する矯正治療として保険適応となる治療を受けることの可能ですので専門の先生に相談することをおすすめします。
抜歯が必要な下顎前突の治療方法
下顎前突と併発して叢生がある場合、治療方法のひとつとして抜歯を含めた方法があります。また、上顎が小さすぎることが原因であった場合、下顎の抜歯を行い下顎の歯列を上顎に合わせるために小さくすることによって治療を行うことができる場合もあります。抜歯を行なってからはマルチブラケット装置を用いて隙間をしっかり閉じてかみ合わせを改善する治療を行います。
不正咬合とは何かを正しく理解した上で治療方法を検討
不正咬合とは今回ご紹介した以外にも、人それぞれに様々な症例があります。自分の場合はどのタイプの不正咬合なのか、必ず矯正専門医のもとで検査を行ない、判断してもらうことが大切です。その不正咬合の原因を特定し、その原因に対する治療方針を立てることでしっかりした歯並びかみ合わせを得られるためです。無理して抜歯を行わないことにより、また、不正咬合の治療は取り掛かる年齢や歯槽骨の成長具合によって、治療方法が大きく変わってきます。幼少期に治療に取り掛かかると、歯槽骨の成長に合わせて歯列を整えることが出来るため、比較的抜歯の可能性が低くなります。しかし、成人してからも治療は可能であり、「口を開いた時の見た目が気になる」「言葉が聞き取りにくい」など、社会性を気にして治療に踏み切る人も多くいます。
いずれの場合でも、不正咬合はある程度の治療期間を必要とするため、自分のライフスタイルにあった治療方法を専門医と一緒に相談しながら決めていきましょう。
監修ドクター:渋谷 直樹 歯科医師 しぶたに矯正歯科 院長
歯列矯正でおすすめの矯正歯科 関東編
しぶたに矯正歯科
出典:http://shibutani-kyousei.com/
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