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舌側矯正の魅力と懸念点――滑舌への影響などを解説

 更新日:2023/03/27

歯並びの悪さが気になるけれど、矯正をして目立つのはいや――そういった声に応えるのが、歯の裏側に装置を取り付ける「舌側矯正」。目立つことなく矯正治療を受けられると、近年人気を集めています。その種類も多様化し、患者のニーズに合わせた選択が可能になってきました。

その一方で、舌側矯正のデメリットが気になって、なかなか治療に踏み切れないという方も多いのでは? 舌側矯正のデメリットとして取り上げられがちなのは、舌の動きが制限されることです。

ここでは、舌側矯正の方法やその種類、滑舌に及ぼす影響について、Medical DOC編集部がお届けします。

この記事の監修歯科医師
新井 茂 (新井矯正歯科 院長)

見えにくい矯正装置――舌側矯正

ブラケットと呼ばれる装置を歯に装着し、ブラケットに取り付けたワイヤーで歯に力を加えて、歯列を本来あるべき正しい位置に導くのが矯正治療です。従来のワイヤー矯正装置は、歯の表側にこのブラケットを装着するものであったため、「矯正治療=矯正装置の露出」といったイメージがつき、その外見上の問題から、矯正治療をあきらめる方も少なくありませんでした。特に、歯並びの悪さを成人後に気にかけるようになった方にとっては、大きな障害になっていたのは間違いありません。

そこで登場したのが、歯の裏側にブラケットを装着する「舌側矯正(裏側矯正)」や、透明なマウスピースを用いる「マウスピース矯正」です。しかし、マウスピース矯正の場合は、対応症例が限られていることに難点があります。ここでは、より対応症例の多い舌側矯正に焦点を当てて解説していきましょう。

舌側矯正を生んだニーズ

裏側の装置というのは日本人が生みの親であるということはあまり知られていないのかもしれません。しかし、その技術が非常に難しく、きちんと習得する必要があったため、表側矯正と比較して「しっかり歯並びが整わない」「長期間にわたって治療が必要になる」「違和感があって発音しづらい」「舌が切れやすい」などの声があがるようになったのも事実です。
しかし、現在では、装置や材料、技術が徐々に改善・進化し、アジアやヨーロッパで拡大を続けています。装置がより小さくなり、その審美性もより優れたものになってきました。表側矯正と変わらない仕上がりを期待することができ、期間を短縮することが可能になったため、舌側矯正を選択する患者さまが増えています。また治療費を抑えたい方にはハーフリンガルと言って、上顎にリンガルブラケット、下顎にセラミックブラケットを使用して目立ちにくくするという方法もあります。接客業についている方や人前に出ることが多い方などはもちろん、お子さまでも選択可能であり、症例や年齢を選ばない矯正装置であることも、人気の理由でしょう。

舌側矯正のメリット・デメリット

今現在、選択肢として用意されている矯正装置は、実に多様です。表側矯正、裏側矯正だけをとってみてもさまざまな装置があるため、どの方法が自分に合っているのかと悩まれる方も多いのではないでしょうか。その選択肢それぞれのメリット・デメリットを確かめ、ご自分の現状や要望に即した矯正装置を選択することは非常に重要です。ここでは、舌側矯正のメリット・デメリットについてご一緒に見ていきましょう。

舌側矯正のメリット

・他人の視線を気にしなくて済む。ストレスが軽減できる

舌側矯正の最大のメリットは、何といっても、目立たないということ。歯の裏側に装置を装着するため、周囲の人にほとんど気づかれることがありません。接客業についている人でも人目を気にすることなく矯正治療を始められるというのは、非常に大きな利点でしょう。

・虫歯になりにくい

常に唾液が循環している歯の裏側に装置があるため、静菌作用・殺菌作用があるというのもメリットです。唾液の作用によって、表側矯正と比較して虫歯になりにくい環境で矯正治療を受けることができます。さらに、矯正装置を取り外す際、歯の表側のエナメル質を傷つける心配がないことも、メリットでしょう。矯正治療を終えたのちの、審美的な懸念も解消できます。

・歯が後ろに下がりやすい

舌側からの矯正は、動きにくい奥歯を固定源とすることで、前歯をたくさん下げることができます。また、舌を突き出す癖のある人は前歯が下がりにくいことがあったのですが、リンガル矯正装置がその癖も直してくれるので、一石二鳥の効果があります。

・歯の裏側を押す癖(舌癖)の改善

こうした舌癖がある方が表側矯正を受けると、歯の移動が妨げられたり、治療後に後戻りしたりする原因にもなります。しかし、裏側矯正では、装置が装着されているため、舌が無意識にその位置を避けるようになり、舌癖が防止されるのです。

・ボディコンタクトのあるスポーツでも唇を傷つける心配がない

裏側矯正のデメリット

・表側矯正と比較して費用が高くなる

舌側矯正の場合は、特殊な技術が必要で、作業も複雑化しており、手間暇がかかるため、表側矯正と比較してその費用は高くなります。

・舌に違和感を感じやすい

歯の裏側に装置があるため、お口の中の違和感も大きくなります。表側矯正では唇や頬粘膜に対して違和感を感じやすいですが、裏側矯正では装置が舌に当たることで、1週間から1ヶ月ほどの間、違和感がある患者も少なくありません。

・一時的に発音しづらく感じたり、滑舌が悪くなったと感じる方がいる

舌側矯正の影響による滑舌の変化

普段はなかなか意識することがありませんが、私たちが言葉を発するとき、口の中の「舌」「歯」「唇」を複雑に動かしています。裏側矯正を行い、歯の裏側に装置を装着し、舌の動きが制限されれば、滑舌に影響があるのは当然のことです。ここでは、舌側矯正の影響を受けやすい音と、滑舌について見ていきましょう。

舌側矯正の影響を受けやすい音

裏側矯正を行うことで阻害されやすいのが、「前歯の裏に舌を接触させる動き」と「前歯の裏に舌を接近させる動き」です。こうした動きを必要とする音が発音しにくくなるのは、そのためです。日本語でこれらの動きを要する音は、「サ行」「ザ行」「タ行」「ダ行」「ナ行」「ラ行」になります。「サ行」の場合は、舌と前歯の間にブラケットが入り、舌の先端と前歯の歯茎を摩擦することが難しくなるため、発音に困難を生じます。「ザ行」の場合は、声帯を震わせる動きが阻害されるのが、発音のしづらさの原因です。また、「タ行」においては、舌の先端と前歯の歯茎で空気を閉鎖し、一気に開放して音を出しますが、ブラケットによって閉鎖しきれない空気があり、発音しづらくなります。「ダ行」も、「タ行」と同様の理由で、発音が困難になります。「ナ行」を発音する際は、舌の先端と前歯の歯茎で閉鎖した空気を鼻に通す必要がありますが、ここでも、ブラケットが邪魔になり、空気を閉鎖しにくくなります。「ラ行」の場合においても、舌の先端と前歯の歯茎を用いる必要があるため、舌側矯正のブラケットが邪魔な存在になってしまうのです。

舌側矯正中の滑舌

舌側矯正治療中には、前歯の歯茎で出す音を後部の歯茎で出すことが多くなるため、「サ」が「シャ」になったり、「ナ」が「ニャ」になったりする場合が多いようです。小さい「ヤ」が入る「拗音」になるケースも増加します。こうした滑舌については矯正装置をつけるうちに次第に改善され、解消されるとも言われており、4週間もたてば気にならなくなりますが、矯正装置がついていない状態に比べれば多少滑舌が悪くなるのは否めません。滑舌への影響が少ない舌側矯正の装置あれこれ滑舌が悪くなるとは言ってもしばらくの間だから――お仕事の都合などで、そう考えられない状況にある方も少なくありません。電話対応や接客、営業などを生業としている方は、滑舌のよさや正確な発音が求められます。歯並びのよさ、審美性の高さを求めつつも、こうしたことが障壁になって、矯正治療に踏み切れない方のために、近年、ブラケットを薄型化・小型化することで、滑舌への影響を最小限に抑えた舌側矯正装置が開発されてきました。ここでは、こうした舌側矯正装置をご紹介していきます。

クリッピーL

クリッピーLは、セルフライゲーションステムを持ち、日本で製作される矯正装置です。このシステムを用いることで、矯正用ワイヤーとブラケット間の摩擦抵抗が最大限に軽減され、理想的な矯正力をかけることができ、歯周組織とほどよく調和した効率的な歯の移動が可能だと言われてきました。こうしたことから、歯の移動に際しての痛みも最小限になり、治療期間を短縮することも可能です。クリッピーLでは、ブラケットが小型化しており、その違和感も少なく、滑舌への影響も抑えられています。また、独自のクリップ構造を使用することで口腔内での作業時間を短くすることができます。

インコグニート

インコグニートは、専門の技術者が患者の歯並びに合わせた完全オーダーメイドでブラケットとワイヤーを設計する舌側矯正装置で、その精度は非常に高くなります。ひとりひとりの歯の形状に即した矯正装置のため、前歯の裏側といった難しい部分にもフィットし、ブラケットの厚みをさほど感じずにすむのが大きなメリットです。こうしたフィット感により、滑舌への悪影響が抑えられています。ただし、インコグニートが作られるのはドイツに限られており、装着するまでにある程度の期間が空いてしまいます。また、ワイヤーが折れるなどのアクシデントに際しては、ワイヤーをドイツから取り寄せるため、1ヶ月ほど治療が中断することを覚悟せねばなりません。

stbライトリンガルシステム

stbライトリンガルシステムでは、そのブラケットの大きさが、一般的なものと比べて半分程度になっており、丸みを帯びているため、舌への引っ掛かりがほとんどありません。舌の動きが制限されず、滑舌への影響を抑えることができます。

舌側矯正を行う際のポイント

舌側矯正装置を用いた治療に際しては、舌の動きが制限され、これまでと同じように話せないと感じる方が少なくありません。滑舌の悪さを、周囲の人に気づかれることもあります。通常は、1週間から1ヶ月程度で日常生活での支障がなくなると言われていますが、営業や受付、電話対応、接客などの職種にある方の場合は、滑舌への影響が問題となる場合もあります。近年は、ブラケットを小型化したもの、患者ひとりひとりのお口の形状に即したものが登場し、滑舌への影響を最小限に抑えられるようになってきました。舌側矯正装置による矯正治療を望みつつも、職業上の都合でなかなか踏み切れないという方は、信頼のおける歯科医師に相談し、ご自分に合った矯正方法をご相談ください。

新井 茂 歯科医師 新井矯正歯科 院長監修ドクターのコメント
ブラケットの小型化などにより、滑舌や違和感がかなり軽減されてきている舌側矯正。装置が目立つことを好まない日本人の需要が非常に高い装置です。マウスピース型の装置に比較して歯のコントロール量が多く、どんな症例にも対応できる事が魅力的です。
費用面が気になる患者さんには、ハーフリンガルといって上が裏側・下が表側に装置を装着する方法もあり、当院でも人気のある治療方法です。
舌側矯正は表側矯正に比較して歯科医師の技術力がより必要になってくる事は事実です。
一生に一度の歯科矯正治療を失敗しないためにも矯正歯科選びは慎重に行いましょう。
矯正治療を始める皆さんが、ただ単純に見た目を治すだけではなく、かみ合わせや機能面を重視した治療を提供できる技術力や診断能力の高い矯正科医に出会える事を願っております。

監修ドクター:新井 茂 歯科医師 新井矯正歯科 院長

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新井矯正歯科

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