入れ歯orインプラントどっちがいいの? それぞれの特徴やメリット・デメリットを歯科医が解説!
失う歯の本数が増えるにつれ、「インプラント」と「入れ歯」のどちらの治療法が自分にとって最適か、迷う人も多いのではないでしょうか。とくに、シニア世代は見た目や使用感はもちろんのこと、長期的な予後や将来の健康状態をふまえた選択が重要となります。今回は、20~30年先を見据えた最適な治療の選び方について、「浜松歯科」の中野先生に解説していただきました。
監修歯科医師:
中野 陽平(浜松歯科)
目次 -INDEX-
インプラントor入れ歯 それぞれの治療の特徴や使用感、費用・治療期間の違い
編集部
インプラントと入れ歯、それぞれの特徴や使用感を教えてください。
中野先生
インプラントは人工の歯根を顎の骨に直接埋め込み、その上に人工の歯を被せる治療法です。骨にしっかり固定されるため、自分の歯に近い感覚で噛むことができます。その一方、入れ歯は歯を失った部分に装着する取り外し可能な人工の歯で、治療が比較的簡単で外科手術の必要もありません。ただし、装着感や噛む力、話しやすさはインプラントに劣ります。実際に、入れ歯で噛む力は天然歯の3割程度と言われています。
編集部
噛み心地や装着感は、インプラントの方が優れているのですね。
中野先生
はい。しっかりと噛めるインプラントは食事面のメリットだけでなく、近年は認知症の予防効果も期待できます。臨床の現場においても、入れ歯を長期間使用している人は、認知症のリスクが高まる傾向が統計的にも確認されています。ただ、保険適用の入れ歯だと「安く作れる」というのも特徴の1つなので、コスト面の恩恵は大きいと思います。
編集部
実際に、インプラントと入れ歯では、費用面でどのくらいの違いがあるのでしょうか?
中野先生
インプラントは自費診療となるため、1本あたり30~50万円程度が一般的な相場となります。これに対して、入れ歯は保険適用の場合だと、部分入れ歯で5000~1万5000円前後、総入れ歯で1万5000円前後(3割負担)です。ただし、入れ歯は定期的な作り直しが必要なため、長い目で見たトータルコストも考慮しなければなりません。より高品質な自費の入れ歯という選択肢もありますが、個人的には同程度の費用をかけるのであればインプラントをおすすめしたいところです。ただ、費用面だけで見れば保険の入れ歯も魅力的な選択肢だと思います。
編集部
治療期間についてはいかがでしょうか? 両者で違いはありますか?
中野先生
治療期間は患者さんの状態や治療法によって異なりますが、インプラントの場合は3カ月から最長で9カ月かかります。一方、入れ歯は最短で1カ月程度と、インプラントと比べて短い時間で治療を終えることができます。
インプラントと入れ歯の予後 それぞれの寿命やケア、メンテナンスについて
編集部
インプラントと入れ歯、それぞれの寿命や交換時期について教えてください。
中野先生
インプラントは、適切なケアとメンテナンスをおこなえば20~30年、場合によってはそれ以上使い続けることができます。その一方で、入れ歯の場合は長く使っているうちに、歯ぐきの形が徐々に変化していきます。それに伴って「痛い」「合わない」という不具合が生じてくるため、その都度調整や作り直しが必要です。もちろん、インプラントも定期的なケアは必要ですが、このような不具合は比較的少なく済みます。
編集部
インプラントと入れ歯は治療後、どのくらいの頻度で歯科医院でのメンテナンスが必要になるのでしょうか?
中野先生
どちらの場合も、長期的な維持のためには定期的な通院が欠かせません。一般的な目安はいずれも3カ月に1回程度ですが、この頻度は個々の状況によって異なります。入れ歯の場合、問題がない時期はメンテナンスの頻度を抑えられますが、不具合が生じてくると頻繁な通院が必要です。また、インプラントに関しても、喫煙習慣のある人や歯周病の既往がある人の場合は1カ月に1回など、より短い間隔でのメンテナンスが推奨されます。
編集部
日々のお手入れ(セルフケア)に関してはいかがでしょうか? 両者に大きな違いはありますか?
中野先生
インプラントは自分の歯と同じように、歯ブラシや歯間ブラシでケアができます。特別な道具は必要ありませんが、インプラント周囲の歯ぐきの健康を保つために、丁寧なブラッシングが欠かせません。入れ歯は毎日お口から取り出し、専用のブラシと洗浄剤でお手入れをする必要があります。食後はブラシで汚れを落とし、就寝中は洗浄剤に浸して消毒することが大切です。どちらも毎日ケアを続けることが必要なので、大変さは両者で大きな違いはないと思います。
シニア世代がインプラント・入れ歯を選択する際に考えておきたいこと
編集部
外科手術をともなうインプラント治療では、年齢的な配慮が必要なケースもあるのでしょうか?
中野先生
基本的に年齢だけで治療を制限することはありませんが、体調面や全身疾患、服薬状況などに十分な配慮が必要です。例えば、重度の糖尿病の人や骨粗しょう症の治療中の人、リウマチが悪化している人などは治療が難しい場合もあります。また、心臓手術をしたばかりの人、血液をサラサラにする薬を飲んでいる人なども注意が必要です。一方で、90歳でも健康であれば治療は十分に可能なので、年齢による制限というよりは、全身の健康状態が判断の基準となります。
編集部
シニア世代が治療をする際、どのような点に注意して選ぶのがいいのですか?
中野先生
将来的な健康状態も視野に入れた歯科医院選びが重要だと思います。例えば、自身が要介護になった場合に、お口の中に何か不具合が生じた際に「歯医者さんがどのように対応してくれるのか」「往診に来てくれるのか」なども大きな判断基準になるでしょう。当院でも、要介護の患者さんのお口に何か問題が起きた際は、ご自宅への訪問診療や介護タクシーを利用した外来での治療に対応しています。このような将来的なケアの体制が整っているかを、よく確認しておくことをおすすめします。
編集部
今が健康でも、将来的に自身でケアや通院が難しくなる状況も考えておく必要があるわけですね。
中野先生
そうですね。とくに、インプラントを選択される場合は、インプラント周囲炎の対応や、必要に応じてインプラントの撤去まで対応してもらえる歯科医院を選ぶことをおすすめします。実際に、介護の現場では、いざという時にインプラントを入れた歯科医院が対応できない・してくれないというケースが問題になっています。したがって、こうした将来的なケアまで視野にいれた歯科医院選びが大切です。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
中野先生
インプラントや入れ歯を選択する際は、お口全体のバランスもよく考えておくことが大切です。例えば、片方が入れ歯で反対が自分の歯という状況では、どうしても自分の歯がある側ばかりで噛むようになり、それが結果的に体全体のバランスを崩すことにつながってしまいます。インプラントと入れ歯、どちらの方法を選択するにしても、お口全体でバランスよく噛めるようになることを第一に考えて、治療法を選んでいただきたいと思います。
編集部まとめ
インプラントは自分の歯に近い噛み心地と快適な使用感が特徴で、適切なケアをおこなえば20年以上使い続けることができます。一方の入れ歯は、定期的な調整や作り直しが必要なものの、保険診療の場合は費用が抑えられるほか、治療期間が短くすむのがメリットです。治療を選択する際はこれらの特徴のほかに、将来的な管理のしやすさも重要なポイントとなります。とくに、シニア世代は定期的なメンテナンスや訪問診療での対応など、長期的なケア体制の整った歯科医院で治療を受けることをおすすめします。
医院情報
所在地 | 〒432-8038 静岡県浜松市中央区西伊場町62-6 |
アクセス | JR「浜松駅」 バスで15分 |
診療科目 | 歯科 |