歯のインプラントを長期維持するコツ 歯科医が教える正しいケアとメンテナンス
インプラント治療後のケアでは、「何か特別なケアが必要?」「歯医者通いはいつまで?」「ケアを続けるのが面倒」など、疑問や不安をお持ちの方も少なくないようです。そこで、インプラントの正しいケアや定期メンテナンスの重要性、モチベーション維持のポイントなどを、まつのき歯科間々田クリニックの小松先生に解説してもらいました。
監修歯科医師:
小松 貴紀(医療法人社団 まつのき会)
目次 -INDEX-
インプラントケアの基本:天然歯とインプラントでケアの方法はどう変わる?
編集部
インプラントは天然歯(自分の歯)とは違う、何か特別なケアが必要なのでしょうか?
小松先生
インプラントと天然歯は、一見すると同じ構造に見えますが、実は細かい点で違いがあります。例えば、天然歯は細菌の侵入に対してある程度の抵抗性を持っていますが、インプラントはその点が弱いため、より丁寧なケアが必要です。また、インプラントは天然歯よりも細い歯根(人工歯根)の上に大きな歯が乗っているため、そのつなぎ目のギャップ(すき間)が天然歯よりも大きくなります。したがって、インプラントに適した歯ブラシの大きさや形状を選ぶことが大切です。
編集部
歯の磨き方(ブラッシング法)はいかがでしょうか? 天然歯と何か違うこと、注意したいことはありますか?
小松先生
先述の構造の違いから、インプラントは天然歯に比べて磨きにくい箇所が多いため、ブラッシングにもある程度の工夫が必要です。とはいえ、新たに何かをプラスするのではなく、まずは「歯ブラシ1本でいかに効率よく磨くか」を意識していただきたいと思います。理想は歯ブラシ1本で100%磨けることですが、これは現実的ではありません。したがって、歯ブラシで落とせない箇所は、歯間ブラシやデンタルフロスなどの補助器具が必要となります。しかし、補助器具も使い方を完璧に習得するのは難しく、使いこなすまでに時間がかかります。したがって、まずは歯ブラシの効率的な磨き方をマスターしたうえで、補助器具を使うことをおすすめします。
編集部
効率的なブラッシングを習得するためには、どうすればよいでしょうか?
小松先生
例えば、今のブラッシング法で汚れ全体の50%しか落とせないとすると、残りの50%は補助器具に頼ることになります。しかし、基本のブラッシングを60%、70%と引き上げれば、補助器具は残り30~40%で済むわけです。そのためには、歯科医院で自分にあった歯ブラシの選び方や磨き方を指導してもらうことが非常に重要です。プロのアドバイスを受けることでブラッシングの技術が向上し、セルフケアの効率を上げることができます。
編集部
インプラントのセルフケアに適した歯磨き剤や洗口剤はありますか?
小松先生
基本的に、今まで使っていたもので問題ありません。一部で「フッ素(フッ化物)はインプラントを錆びさせる」という情報が広がっていますが、歯磨き剤や洗口剤に含まれる程度のフッ素濃度で錆びることはありません。フッ素の有効性は科学的に証明されているので、安心して使っていただきたいと思います。
編集部
歯磨き剤や洗口剤の選び方・使い方について、アドバイスはありますか?
小松先生
重要なのは、自分のお口の状態に合った製品を選ぶことです。例えば、歯磨き剤の用途は大きくわけて「むし歯予防」と「歯周病予防」の2タイプがあります。今の自分はどちらのリスクのほうが高いのか、少なくともその点だけは考慮して選んでいただきたいと思います。洗口剤に関しても同様ですが、使用に関してはあくまで補助的なものととらえておくことが肝心です。セルフケアのメインは、あくまで歯ブラシや補助器具による清掃ですので、洗口剤に頼りすぎないようにしてください。
インプラントケアには歯科定期メンテナンスが不可欠 その理由や頻度を解説
編集部
毎日の歯磨きのほかに、インプラントを入れた方に必要なケアはありますか?
小松先生
インプラントのケアは日々の歯磨き(セルフケア)にくわえ、歯科医院でのメンテナンスが不可欠です。100点満点の歯磨きができる人はほとんどいないので、できない部分を歯科医院で補ってもらうイメージでいるとよいでしょう。インプラントは見えないところに意外と汚れがつきやすいので、歯科医院でプロフェッショナルケアやブラッシング指導を受けることが大切です。
編集部
歯科医院のメンテナンスには、そのほかにどのような効果やメリットがあるのでしょうか?
小松先生
「早期発見」も歯科定期メンテナンスにおける重要なキーワードです。例えば、インプラントを入れた後にとくに注意したいのは「インプラント周囲炎」です。天然歯の歯周病と同じ病態を示しますが、インプラント周囲炎は進行が非常に早く、歯周病の5倍から10倍のスピードで進むと言われています。また、インプラントも長く使っているうちに、ネジが緩んだり、噛み合わせが変わったりすることがあります。これらはいずれも自身では気づきにくいため、歯科医師による定期的なチェックで早期に発見し、大きなトラブルに発展させないことが重要です。
編集部
歯科医院のメンテナンスは、どのぐらいの頻度で通うのがよいのでしょうか?
小松先生
基本的には3か月に1回のメンテナンスをおすすめしています。ただ、これはあくまで1つの目安で、頻度を決める際には、天然歯の状態も十分に考慮する必要があります。なぜなら、近年の研究で、歯周病の管理状態がインプラントの予後に影響することが明らかになってきたためです。したがって、歯周病が安定している人なら3か月に1回でも問題ありませんが、不安要素のある方は2ヶ月に1回、状況によっては1ヶ月に1回のペースで通うのが最善だと思います。
編集部
歯科医院のメンテナンスは、いつまで続ける必要がありますか?
小松先生
インプラントの定期メンテナンスは、一生続ける必要があります。ただ、これは「インプラントを入れたから必要」というわけではありません。インプラントに限らず、お口の健康を守るうえでメンテナンスを受けることは当然のことだと思ってもらいたいですし、歯の大切さやその価値を十分に理解すれば、それほど苦にはならないと思います。
インプラントケアのモチベーションを維持するためのポイント
編集部
インプラントのケアやメンテナンスの重要性は理解しても、モチベーションの維持が難しいと感じてしまうのですが、何か良いアドバイスはないでしょうか?
小松先生
確かに、モチベーションの維持は患者さんにとって大きな課題です。私からのアドバイスとして、まずはご自身の「歯の価値」について、より深く知ることから始めていただきたいと思います。これはインプラントに限った話ではなく、天然歯のケアやメンテナンスにおいても重要な考え方です。
編集部
「歯の価値」について、もう少し詳しく教えてください。
小松先生
価値観というのは人によって様々ですが、1つ興味深い例があります。日本では過去の裁判で、1本の歯を失った場合の損害賠償として「150万円」という判決が出された事例があります。これを上下左右28本の歯に換算すると、私たちの口の中には実に4200万円の財産が詰まっていることになるわけです。しかし、天然歯にそれほどの価値があるということはあまり知られていませんし、それを意識して生活している人もほとんどいないと思います。
編集部
確かに、自分のお口にそれほどの価値があると意識すれば、モチベーション維持にもつながりそうです。
小松先生
自身の歯の本来の価値を理解すれば、ケアやメンテナンスも「面倒なこと」ではなく、将来に向けた大切な「自己投資」ととらえることができると思います。このような意識を持つことが、長期的なモチベーション維持のカギと言えるでしょう。
編集部
最後に、読者へメッセージをお願いします。
小松先生
今回はインプラントのケアを中心にお話ししましたが、「インプラントを入れたからケアが必要」というわけではありません。自分の歯でもインプラントでも、セルフケアと定期メンテナンスは生涯にわたって継続していく必要があります。私たち歯科医が普段、口腔ケアの重要性を強調してお伝えするのも、それを無理強いしたいわけでなく「これ以上、歯を失ってほしくない」という想いからです。この記事をきっかけに、ぜひご自身の歯の価値について考え、積極的に口腔ケアに取り組んでいただきたいと思います。
編集部まとめ
インプラントは天然歯と構造が異なる点も多く、より丁寧なケアとブラッシングの工夫が必要となります。また、インプラントを長期的に維持していくうえでは、毎日のケアにくわえ、歯科医院での定期メンテナンスが欠かせません。セルフケアとプロフェッショナルケアの両立こそが、インプラントを快適に長く使い続けるための鍵となります。お口のケアは「将来への価値ある投資」ととらえ、新たな意識を持って取り組んでいきましょう。
医院情報
所在地 | 〒329-0207 栃木県小山市美しが丘1丁目19-1 ベルク間々田店敷地内 |
アクセス | 東北本線(宇都宮線)「間々田」駅出口より車で5分 |
診療科目 | 歯科・小児歯科・矯正歯科・歯科口腔外科 |