インプラント手術の安全性を高める「シミュレーションソフト」とは? 仕組みや使用目的、メリットなどを歯科医が解説
近年はインプラント治療もデジタル化が進み、手術の前にあらかじめインプラントを入れる位置や角度などをシミュレーションできるソフトが誕生しています。今回は、シミュレーションソフトの導入によって従来のインプラント治療と何が変わるのか、治療を受ける側にどのようなメリットがあるのかについて、「ファースト歯科クリニック」の松本先生に解説していただきました。
監修歯科医師:
松本 高順(ファースト歯科クリニック)
目次 -INDEX-
インプラントシミュレーションソフトとは? 従来のインプラント治療と何が違う?
編集部
インプラント治療の「シミュレーションソフト」について教えてください。
松本先生
簡単に言えば、歯科用CTの検査データを活用して、事前にインプラント手術のシミュレーションができるソフトです。近年は一般の開業医でもデジタルCTを設置するところが増えており、むし歯治療をはじめ、根管治療や親知らずの抜歯などに活用しています。インプラント治療ではそこからさらに飛躍し、画像のデータを元にインプラントの埋入する位置や方向、角度などを画像上で設定できるようになっています。
編集部
つまり、パソコンの画面上で実際の手術を再現できるということでしょうか?
松本先生
そういうことです。シミュレーションではポジショニングのほかに、埋入するインプラントの長さや太さなども細かく設定できます。また、インプラントの場合は骨の中にある神経や血管、さらに「上顎洞」という鼻の横にある空洞の位置を正確に把握し、そこを避けて埋入しなければなりません。このような重要な組織を傷つけずにインプラントを埋入し、安全に手術を進めるという点において、シミュレーションソフトは今や必須のツールとなりつつあります。
編集部
ちなみに、シミュレーションソフトがなかった時代は、どのようにインプラントの埋入位置や角度などを設定していたのでしょうか?
松本先生
二次元のレントゲン画像や患者さんの歯型模型を参考に設定していました。このような方法は格好よく言えば「職人技」ですが、術者の経験や勘にある程度頼らざるを得ないところがあります。シミュレーションはそのような術者の感覚に頼らずに、画像上で緻密に計算しながら正確な位置や方向、角度を設定できるのが大きな特徴です。また、手術をする前からゴールが決められるというのは、患者さんにとっても安心材料となるでしょう。
編集部
シミュレーションの様子は患者側も観ることが可能なのでしょうか?
松本先生
もちろん可能です。患者さんもこれまでは歯科医の話のみで、自分のお口の中にどのようにインプラントが入るのかイメージしづらかったと思います。シミュレーションソフトでは画面上でその様子がご覧いただけるので、以前よりも手術に対する安心感・納得感は得られやすくなっています。
インプラントシミュレーションソフトのメリット
編集部
インプラントシミュレーションソフトを使用するメリットはなんですか?
松本先生
一番のメリットは、インプラントの埋入手術をより正確・精密におこなえることです。神経や血管など重要な組織を損傷するリスクも大幅に減少するため、手術の安全性が向上します。また、シミュレーションによってあらかじめ骨の状態がわかるので、傷口をできるだけ小さく、侵襲を抑えて手術ができるのも大きなメリットと言えるでしょう。
編集部
傷口が小さいということは、痛みや腫れも少なくなるということでしょうか?
松本先生
はい。シミュレーションのおかげで無駄に歯ぐきを切ったり、骨を削ったりすることもないため、術後の腫れや痛みも大幅に軽減できます。さらに、近年はインプラントのシミュレーションに「サージカルガイド」という装置を併用した手術も盛んになってきました。サージカルガイドを用いると、条件が揃えば歯ぐきを切らずにインプラントを埋入することも可能です。
編集部
サージカルガイドについてもう少し詳しく教えてください。
松本先生
簡単に言うと、インプラント手術に用いる「ものさし」のようなものです。シミュレーションソフトがどんなに優秀で的確な設定ができても、実際の手術でそれを再現できないと意味がありません。そこで、シミュレーションで決めたインプラントの位置や方向、角度などを正確に写したマウスピース型の装置であるサージカルガイドを作製します。サージカルガイドを手術の際に患者さんのお口に装着してガイドに沿ってドリルを挿入すると、シミュレーション通りにインプラントが埋入できるようになっています。
編集部
インプラント治療もデジタル化が進んでいるのですね。
松本先生
はい。CTやシミュレーションソフトのほかにも、近年は歯型を取るのも「光学印象」といって、専用のカメラでお口の中をスキャンし、パソコン上で立体化する技術も誕生しています。インプラント手術までの準備工程にこのようなデジタル技術を活用するようになってからは、人の手でおこなっていたときのような寸法の変化や誤差もほとんどなくなりました。インプラント手術のデジタル化は、手術の精度を飛躍的に向上させたといっても過言ではないでしょう。
安心・安全なインプラント治療を受けるための歯科医院選びのポイント
編集部
インプラントシミュレーションソフトは、インプラント治療を実施する歯科医院であればどこでも使用しているのでしょうか?
松本先生
インプラントシミュレーションは歯科用CTをはじめ、専用のソフトや機器の導入が必要です。したがって、インプラント治療をおこなう全ての歯科医院で実施しているわけではありません。術前のシミュレーションをおこなっているかどうかについては、医院のホームページに掲載されていることが多いため、あらかじめチェックしてみてください。
編集部
安全かつ安心してインプラント治療を受けるための歯科医院選びのポイントを教えてください。
松本先生
まずはインプラント治療にどれだけ精通しているか、どれだけ設備が整っているかをチェックしていただきたいと思います。先ほどもお話ししたように、今はインプラント治療もデジタル化で安心・安全が担保されるようになってきています。調べてもよくわからない場合は、直接その歯科医院に電話で聞いてみましょう。
編集部
最後に、読者へメッセージをお願いします。
松本先生
インプラントは「ほかの歯に負担をかけない」「入れ歯のような煩わしさもない」など非常に優れた治療法です。一方で、治療には外科手術が必須であるため、どうしてもリスクを伴います。そのリスクを減らし、安心・安全にインプラント治療を進めるうえで、今回ご紹介したインプラントシミュレーションソフトは有効な手段となります。ぜひ、こうした点に精通した歯科医院を探してみてください。
編集部まとめ
インプラントシミュレーションには、「手術がより安全・的確に進められる」「手術によるダメージを最小限に抑える」という2つのメリットがあることがわかりました。近年のインプラント治療は「デジタル化」が安心・安全を担保する大きなカギとなっているようです。歯科医院を選ぶ際は、インプラント治療に精通していることに加えて、このようなデジタル技術を活用しているかもチェックしてみましょう。
医院情報
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診療科目 | 歯科 |