「ソケットリフト(上顎洞底挙上術)」のメリット・デメリットを歯科医が解説
インプラントをしっかり支えるには、ある程度の顎の骨の「厚み」が必要です。今回ご紹介する「ソケットリフト」は、骨移植材(人工骨や自分の骨)を補充する治療方法の1つです。ソケットリフトのメリットやリスクを、「中島歯科医院」の中島先生に解説していただきました。
監修歯科医師:
中島 和敏(中島歯科医院)
目次 -INDEX-
インプラント治療でおこなう上顎のソケットリフトとは?(上顎洞底挙上術)
編集部
まず、ソケットリフトという治療方法の説明をお願いします。
中島先生
わかりました。ソケットリフトは、上顎の奥歯付近の骨の近くまで上顎洞、つまり「鼻の穴の周囲にある空洞」が広がっている人向けのインプラント治療方法の1つです。上顎の骨の近くまで上顎洞が広がっているとインプラントを支える骨の厚みが薄く、そのままだと適応できません。そのため、骨移植材を補充していくのです。
編集部
ソケットリフトは「上顎洞底挙上術」とも呼ばれていますよね?
中島先生
はい。上顎洞に関係する部位なので適応は「上顎」です。加えて、構造的に奥歯の症例になります。続いて「底挙上」ですが、これは、骨移植材の“注入”によって、上顎洞の底の粘膜を持ち上げるという意味です。この骨移植剤とは、人工骨や場合によっては自家骨を混ぜたものになります。
編集部
その骨移植材がインプラントを支える土台になるということですか?
中島先生
そういうことですね。骨移植材は半年ほど経つと自分の骨に置き換わり、インプラントと骨が結合します。また、ソケットリフトに似た治療方法として「サイナスリフト」という治療もあります。サイナスリフトは、頬骨の側方の骨を1cmほど開けた後、特殊な器具を用いて上顎洞の底の粘膜を剥離して移動させます。そして、移動して空いた空間に骨移植剤を詰めるイメージです。一般に、顎の骨の厚みが4~5mm以上あればソケットリフトの適応になります。
編集部
ソケットリフトは、インプラントと同時に施術できるのでしょうか?
中島先生
はい。多くの症例で同時に施術します。顎の骨の厚みが4~5mm以上あるなら、インプラント埋入時にこの骨がインプラントを支えることができるからです。他方のサイナスリフト、つまり顎の骨の厚みが3~4mm以下の症例では、移植剤が骨に置き換わる半年ほど後にインプラントの埋入手術をしていきます。
ソケットリフトによるインプラント治療のメリット・デメリット
編集部
ソケットリフトのメリットは、やはりインプラントの適応が広がることでしょうか?
中島先生
そうですね。今まで「顎の骨が薄くてインプラント手術は難しい」と言われてきた人の一助になっています。また、サイナスリフトとは異なり、大がかりな手術をおこないません。通常のインプラント治療と同様、3~4カ月もすれば噛めるようになります。さらに、症例によっては、数本のインプラントを埋入することも可能です。
編集部
続けて、ソケットリフトのデメリットについてもお願いします。
中島先生
インプラントを埋入するとき、骨に直径4mmほどの小さな穴を開けて、そこから上顎洞粘膜を特殊な器具で挙上するため、歯科医師が顎の内部を目視することができません。骨移植剤をこの穴から注入し粘膜を挙上する際、粘膜の一部が癒着していたり、繊細に少しずつ挙上しなかったりすると、上顎洞との境目にある粘膜を破ってしまうリスクがあります。もちろん、そのような事故のないよう、歯科CTなどで精密な検査をおこなっています。
編集部
失敗例として考えられるのは、どのようなケースでしょうか?
中島先生
失敗とまでは言いませんが、骨移植剤が上顎洞粘膜を破って上顎洞内に漏出してしまうこともあります。ですが、少量の抗生物質を長めに服用してもらい、経過観察をすればほとんど問題なく、インプラントも骨と結合して良好な経過をたどります。なお、私自身は経験もなく見たこともないのですが、学会などの症例報告ではインプラントが骨と結合せず、上顎洞内にインプラントが落ち込んでしまうような失敗例が報告されています。また、稀に「上顎洞炎」のような術後感染症を発症してしまうような症例もあります。
上顎のインプラントでソケットリフトをする際の注意点・歯科の選び方
編集部
やはり失敗は怖いです……。症例数が豊富な歯科医院で受けるべきでしょうか?
中島先生
1.資格の有無(日本口腔インプラント学会の専門医・指導医、顎顔面インプラント学会の専門医・指導医の資格を持っているか)
2.どれくらいの経験年数と今までのインプラント埋入本数を有しているか
3.どこの勉強会に所属して研修しているか
4.CTや治療用顕微鏡などの設備があるか
5.歯周病の治療システムが整っているか
6.詳細な治療計画を説明し、メリット・デメリットについても説明してくれるか
編集部
ほかにも注意しておきたい観点はありますか?
中島先生
私は上顎洞底挙上術が得意なので、骨の厚さが少なく骨造成した方がいい場合は、積極的にこの方法で治療します。しかし、解剖学的に条件が許すなら上顎洞を避けるようにインプラントを少し斜めに埋入したり、短いインプラントを何本か埋入し連結固定したりすることでも長期予後が良いとの研究結果もあります。患者さんの状態により、治療には複数の選択肢があります。主治医とよく相談して患者さんの希望も取り入れた治療法を受けてもらえればと思います。
編集部
同じサイナスリフトについても、セカンドオピニオンは必要だと思いますか?
中島先生
上述したとおり、それぞれの患者さんの治療法にはいくつかの選択肢があります。また、治療を担当する先生も得意分野と不得意分野もあります。したがって、自分に示された治療方法に不安があったり、疑問を持ったりしたら、セカンドオピニオンを受けることは必要だと考えます。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
中島先生
1.しっかりとしたメインテナンスをしないとインプラントの周りが歯周病になってインプラントがダメになることもあるので、「治療後の管理」が重要になります。
2.治療をお願いする先生の理念や治療技術・経験により結果に大きな違いが出てくることもあるので、「先生選び」も重要になってきます。
編集部まとめ
ソケットリフトのメリットは、顎の骨が薄いことが原因で、今まで「インプラント治療は無理」と言われてきた人にも適応幅が広がってきたことです。また、骨移植剤の注入をインプラントの埋入箇所の穴からおこなうので、低侵襲な治療方法となっています。一方でデメリットとしては、埋入箇所の穴の中の様子を目視できないことでしょうか。もちろん、経験や技術不足が原因の失敗も起こり得ます。これらの点を理解したうえで検討してみてはいかがでしょうか。
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