「顎関節症」の原因は噛み合わせに限らない! 様々な要因と対処法を歯科医師が解説
顎が痛くなったり、口が開かなくなったりする「顎関節症」。普段の噛み合わせが影響するものと考えがちですが、「歯と歯が接する時間は1日の中で20分以下」という報告もあります。そこでMedical DOC編集部が、歯科医師の石本先生(目黒石本歯科クリニック)に顎関節症の最新事情を取材しました。
監修歯科医師:
石本 光則(目黒石本歯科クリニック)
顎関節症の症状・原因
編集部
顎関節症は、日頃の食べ方・噛み方によって起きるのでしょうか?
石本先生
そうとも限りません。まず、顎関節症の症状は大きく「3つある」ということを知っておいてください。「①顎が痛む」「②口が引っかかって数cmくらいしか開けられない」「③顎を動かすと音がする」です。
編集部
では早速ですが、①の原因からお願いします。
石本先生
まず、顎が痛むものの、咀嚼筋(そしゃくきん)、関節炎、関節軟骨、骨の異常以外の要因であれば、顎関節症とは診断されません。そして、これら複数が絡んでいることもあります。
編集部
もう少し詳しく教えてください。
石本先生
頻度として多いのは、咀嚼筋の動きによって周囲の神経が刺激され、痛みを感じるケースですね。通常なら起こらない症状なので、この症状がみられたことをもって、顎関節症と診断されます。
編集部
あと、歯ぎしりや無意識の食いしばりも関係してくるのでしょうか?
石本先生
はい。歯ぎしりや食いしばりは顎に負担がかかるので、顎関節症に発展することがあります。一般的に、噛み合わせというと「食べるときの噛み方」のことだと考えられがちですが、「歯と歯の当たり方」です。精神的な緊張で歯ぎしりなどを起こしているとしたら、取り除くべき原因にはストレスも含まれます。
注意したい症状とは?
編集部
続いて、②の「口が開けられない」の原因について解説をお願いします。
石本先生
顕著なのは、関節のズレによって物理的に引っかかっているケースです。ただし、心理的に「痛んだら嫌だと思って、口を大きく開けられない」ケースも考えられます。また、別途の腫瘍などができていて口を開けられないことも考えられます。仮に腫瘍が原因なら、顎関節症とは診断されません。
編集部
③の「顎を動かすと音がする」というのも、物理的な原因のような気がします。
石本先生
そうですね。ただし、いわゆる「クリック音」は、関節の骨同士がこすれた音ではありません。骨と骨の間にある「関節円板」がズレたり、元の位置に戻ったりするときの音とされています。このように、顎関節症の原因は様々なので、心の問題なのか器質的な問題なのかを単独に切り分けて考えないようにします。
編集部
音が鳴る人は、普段から口を大きく開けすぎているんでしょうか?
石本先生
なんとも言えませんね。骨や軟骨は刺激を受け続けているとすり減ったり、逆に発達したりします。また、こうした刺激は口を大きく開けることでも生じますし、顎の位置のズレでも生じます。例えば、頬杖などがクセになっていると顎の位置をズラしかねません。その場合、ただちに顎関節症とは言えませんが、生活習慣の改善が求められます。
編集部
生活習慣も顎関節症の要因になり得るということですね。
石本先生
はい。総じて「顎関節症の原因は噛み合わせに限らない」ということです。顎関節症がしばらく続いていて支障になるようでしたら、専門の歯科医院に相談してみてください。顎に限らず、いずれ歯にも影響を及ぼすことがあります。わかりやすい例としては、食いしばりが続いていることによる歯の破折です。知らないうちに、歯の根っこの先が折れていることも考えられます。
顎関節症になったときの対処法
編集部
③の「顎を動かすと音がする」は程度問題で、受診の必要性をあまり感じませんが、どうなのでしょうか?
石本先生
たしかに、症状が音だけなら、そこまで神経質にならなくてもいいと思います。ただし、痛みが出たら、歯科医師に相談するようにしましょう。また、治療とは別に、原因の把握だけでもされてみてはいかがでしょうか。その結果、「今は平気だけども、このままの状態が続くと重篤化する」ことが判明するかもしれません。原因を意識して回避することで、将来的な治療が不要になる場合もあるでしょう。
編集部
顎関節症の痛みだと思っていたら、じつは歯の深い部分でのむし歯という想定外もありそうですね。
石本先生
顎関節症ではなかったというケースですよね。実際に少なくありません。ですから、お口周りの痛みと顎関節症を安直に結び付けないようにしましょう。顎関節症の原因そのものが様々ですし、一言で「顎の痛み」といっても漠然としていて、調べてみないとなんとも言えません。実際の症例で、抜歯した向かい側の対抗歯が伸びてきて、抜歯跡を刺激していたケースなどもありました。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
石本先生
顎関節症と歯の治療は必ずしも密接に関係しているとは言えませんが、歯の問題が顎関節症を起こすことも、逆に顎関節症が歯に影響を及ぼすこともあるでしょう。また、抜歯などのせいで、左右一方の歯だけで物を噛むようになると、そちら側の筋肉が発達します。前述した「咀嚼筋の動きによって周囲の神経が刺激されるケース」が生じるかもしれません。こうした個々の事情を歯科医院で明らかにしていきましょう。
編集部まとめ
「顎の筋肉が神経を刺激しているケース」「過去の痛みがトラウマになるケース」「頬杖や寝方などの生活習慣が関係しているケース」など、顎関節症の原因は様々であることがわかりました。加えて、複数の原因が関わっていることも十分に考えられます。受診する際は、多角的な診断のできる歯科医院を選ぶことをおすすめします。
医院情報
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アクセス | JR「目黒駅」 徒歩1分 |
診療科目 | 歯科 |