MFT(口腔筋機能療法)とは? 歯科医が小児の歯並びに良い舌・口のトレーニングを解説
子どもの歯列の乱れ、口呼吸や「口ポカン」、食事の遅さ、前歯の着色。もしかしたら、個別と思われてきたこれらの症状は、「一連の結果」なのかもしれません。つまり、舌や口の動きに原因があるかもしれないということです。小児を対象とした舌や口のトレーニング「MFT」(口腔筋機能療法)について、「伊東歯科医院」の伊東先生が解説します。
監修歯科医師:
伊東 昌俊(伊東歯科医院 院長)
1981年神奈川歯科大学卒業。顕心会大塚歯科医院にて副院長として勤務したのち、1985年、横浜市神奈川区に「伊東歯科医院」を開院。「歯科医師、歯科衛生士・助手、患者の三者が互いに礼を尽くし、敬意を払うことが最善の治療に繋がる」と考え、開院以来約30年に渡って地域医療に貢献している。歯学博士。日本歯科医療管理学会常務理事。ほか、神奈川県の高校や保育園で校医・園医を務める。
歯科医が指摘する子どもたちの「口ポカン」の影響
編集部
昨今、歯並びの乱れている子どもが散見されるようです。
伊東先生
歯列の乱れには遺伝要因と環境要因が関わっています。このうちの遺伝要因だけが、最近になって顕著になったとは思えません。やはり、食生活といった環境要因によって、お子さんの歯列に乱れが生じているのでしょう。
編集部
「よく咬まない」から顎が小さくなって、歯のスペース不足を生じさせているのでしょうか?
伊東先生
一般にそう言われているようですが、もともと小さなお子さんは、よく咬んでいません。それよりも、鼻呼吸ができていないお子さん、つまり口呼吸のお子さんほど、歯並びが乱れてくるようです。口呼吸するためには、「舌を上顎に付け“ない”状態」で通気を確保しないといけませんよね。すると、「舌で上顎を押せない」ので、顎が大きく成長しません。また、乾燥により前歯が変色していることも多いです。
編集部
いわゆる「口ポカン」ですね。そのような子どもは、飲み込み方が不自然とも聞きます。
伊東先生
そのとおりです。通常、モノをのみ込むとき、舌が上顎に付きますよね。ところが、口ポカンのお子さんは、「舌を上顎に付けてみて」と言ってもできないことがあります。食事が遅いお子さんの多くは、うまく飲み込めていません。加えて、呼吸と飲み込みを同時に口でしているのですから、遅くなりますよね。
編集部
最近の子どもは、よく咬んでいないだけではなく、舌の動きができていないのでしょうか?
伊東先生
そう思います。日々の飲み込むときの舌の圧が、「歯列矯正」の役割を果たしているのです。そこで、起きてしまった結果に対して小児矯正をおこなうのではなく、予防していこうという流れが生まれてきました。その一例が、「MFT」(口腔筋機能療法)というトレーニング手法です。また、前述した前歯の汚れにも注目してみましょう。けっして、保護者の仕上げ磨きが足りていないとは限りません。
MFTとは? トレーニング内容や開始時期について
編集部
続けて、MFTの中身について教えてください。
伊東先生
じつは、ここに書ききれないくらい多彩です。また、全ての項目を全てのお子さんに実施するのではなく、「必要と思われる項目」をトレーニングしていきます。一例を挙げれば、「舌打ちで音を出す動き」ですね。詳しくは「MFT」で検索してみてください。ほか、動的な訓練に限らず、「舌の正しい位置をマウスピースなどで覚えさせる」といった静的な舌の訓練もあります。
編集部
一律にトレーニングメニューが決まっているのではなく、オーダーメイドで組んでいくのですね?
伊東先生
はい。トレーニングの中身の選択は当然として、「ゲーム感覚で取り組めるような歯科医師による工夫」も求められるでしょう。その点では、歯科医院間で差が生じると思われます。「MFTをどの歯科医院で受けても中身が一緒」とは限りません。当院でおこなう導入としての指導は、指を唇の両端にかけて広げるストレッチ運動です。「バ行」や「パ行」が言いにくくなるので、面白がるお子さんもいらっしゃいますよ。
編集部
MFTをはじめるタイミングは、早いほうがいいのでしょうか?
伊東先生
前提として、歯科医師とコミュニケーションが取れる年齢になってからです。ですが、本格的なMFTに進む前の“予備トレーニング”を含めると、3歳半~4歳くらいからはじめたほうがいいかもしれませんね。乳歯の段階で歯列が乱れていたら、永久歯でも同じ事になるでしょう。また、「受け口」といった顎の不正も早い段階から治していくに限ります。
編集部
子どもには「3歳児健診」がありますよね?
伊東先生
はい。その段階で歯列の乱れや顎の不正を指摘されたら、MFTについて調べてみてください。そして、お子さんの通いやすそうな歯科医院で話を聞いてみてはいかがでしょうか。舌打ちや唇の両端にかけて広げるストレッチ運動くらいなら、幼いお子さんでもできると思います。まずは「遊び感覚の運動」で慣れておいて、6歳ころから本格的なMFTをはじめましょう。
トレーニングは子どもだけでなく、保護者、歯科医師の連携が必要
編集部
3歳時健診で指摘されなくても、そこから歯列が乱れる可能性はありますよね?
伊東先生
はい、その確認のために、MFTに取り組んでいる歯科医院を適宜、受診してみましょう。結果、「MFTは不要ですよ」という結論に至るかもしれません。また、舌の動きや口の筋肉以外の、例えば指しゃぶりによる弊害の有無も確認できます。「現状確認のための受診」という発想をしてみてください。
編集部
仮に「MFTをはじめたほうがいい」と判断が付いたとして、その後の流れは?
伊東先生
歯科医師からトレーニングメニューをご提案させていただきます。メニューは段階的に進み、「1つの課題がクリアできたら、次に進む」ようなイメージです。最初から難しいことに挑むと、できなくて脱落しかねないですからね。このような「トレーニング+効果測定+次のトレーニング」というサイクルを、症状によりますが、半年から数年にかけて実施します。通院間隔は、月に1度程度です。MFTに必要な期間は個人ごとに異なります。
編集部
約1カ月は、指示を受けずに自宅で練習するわけですか?
伊東先生
はい。MFTの受診時には、ぜひ、保護者の方も同席してください。自宅での1カ月間は、お母さんやお父さんに「トレーナーの役割」を担っていただきます。また、一緒に勉強していけば、大人でも自分自身への気づきが生まれるのではないでしょうか。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあればお願いします。
伊東先生
大人も含め、食事のとき奥歯は“そんなに”使っていません。舌で食べ物を移動させるにしても、奥の奥までは振り分けませんよね。奥歯を使うには「頬張る」ことが必要です。エチケットの観点から「食べるときにはしゃべらない」と言われていますが、モノが口に入っていても、頬張っているときはしゃべることができます。この状態からモノを咬もうとすると自然と奥歯で咬めます。「会話のある食卓」は歯並びにとって理想的です。会話により血行促進効果や認知症予防効果も期待できますので、ぜひ、モノを舌で頬の内側へ振り分けて(頬張る)、奥歯で咬んでみてください。
編集部まとめ
MFTは、子どもの顎を十分に広くするための運動療法といえそうです。そして、未就学児でも取り組める「遊び感覚の予備トレ」もあるということでした。もちろん、MFTが不要という子どももいるはずです。その確認を、乳歯の段階から早めに確認することが、親の務めといえそうですね。3歳時健診で指摘がなかったことをもって、「わが子の歯列は乱れない」と思い込まないようにしましょう。もちろん、指摘を受けていたら、なおさらのことです。
医院情報
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診療科目 | 歯科 |