妊娠中に歯周病があると、早産や低体重出産になるリスクが7.5倍
現在妊娠している方やこれから妊娠を希望する方に、ぜひ気をつけてほしいのが歯周病。実は、歯周病があると早産や低体重のリスクがぐんと高くなるのです。それは一体なぜでしょうか。阿部歯科医院の阿部先生に教えていただきました。
監修歯科医師:
阿部 健一郎(阿部歯科医院 副院長)
2008年大阪歯科大学卒業、大阪歯科大学附属病院臨床研修医修了。2009年大阪歯科大学附属病院歯周治療科医員、牧草歯科医院勤務。その後、森田歯科医院、しおみ歯科クリニックなどを経て2014年4月阿部歯科医院副院長就任。日本歯周病学会、日本歯周病学会専門医、日本口腔インプラント学会専門医養成講座終了、大阪歯科大学歯周治療科非常勤研修医。大学を卒業後1年目から大学病院で歯周病治療を学び、日本歯周病学会認定の専門研修施設に勤務していた経験を生かし、歯周病をはじめ、さまざまな口腔内のトラブルに精通し、「行ってよかった」と言われる歯科医院をめざす。
妊娠と歯周病の関係は?
編集部
妊娠中に歯周病があると、早産、低体重のリスクがあると聞きました。
阿部先生
そうです。妊娠中に歯周病があると、低体重児や早産のリスクが高くなるのです。それらのリスクは7.5倍にものぼるという研究データもあります。
編集部
7.5倍とは、非常に高い倍率ですね。
阿部先生
そもそも、妊娠中は歯周病のリスクが高くなるもの。そのため、妊娠している女性は普段よりも、もっとこまめに歯を磨いたり、歯科に通って口腔内の検査をしてもらったりしなければなりません。
編集部
なぜ、妊娠していると歯周病のリスクが高くなるのですか?
阿部先生
それには、女性ホルモンが関係しています。妊娠中の女性は、女性ホルモンのエストロゲンやプロゲステロンの分泌量が10〜30倍にも増加します。実はこれらの女性ホルモンが歯周病の元となる菌の増殖を促して、ほんの少しのプラークや歯石も歯周病へ進行させてしまうのです。
編集部
歯周病の元となる菌が増えるため、歯周病になるリスクが高くなってしまうのですね。
阿部先生
そうです。ほかにも、妊娠初期にはつわりが起こり、「気持ちが悪くて歯磨きができない」ということもあります。その結果、磨き残しが増えて、むし歯や歯肉炎、歯周病の症状が現れやすくなります。
編集部
さまざまな要因が重なるのですね。
阿部先生
それから、お腹に赤ちゃんがいると、胃が圧迫されてしまい、食事をしてもすぐにお腹がいっぱいになってしまいます。しかし、食後すぐにお腹が減るので、つい間食が多くなりがちです。また、食べづわり(お腹が空くと気持ち悪くなってしまうつわり)による頻回食事が起きることもあります。その結果、口腔内が不衛生の状態となって、歯周病になりやすいということもあります。
なぜ、歯周病があると早産や低体重のリスクが増えるの?
編集部
一体なぜ、歯周病があると早産や低体重児のリスクが増えるのでしょうか?
阿部先生
歯周病にかかると、組織で炎症が起こります。すると炎症はサイトカインという物質を放出。さらにこのサイトカインは、陣痛促進剤に似た物質を分泌してしまいます。そのため、この物質が子宮を収縮させたり、子宮頚部を拡張させたりして、出産をうながしてしまうのです。
編集部
なるほど、歯周病になると、体内で陣痛促進剤を作り出している状況になるのですね。
阿部先生
そうです。一般に早産とは妊娠24週目以降、37週未満の出産のことをいいます。体内で育つ時間が短いので、結果的に低体重の状態で生まれてくることになります。
編集部
そのほか、妊娠中の女性が歯周病であることが、胎児に悪影響を与えることはありますか?
阿部先生
胎児が歯周病菌に感染するというリスクもあります。お母さんの血液中の歯周病菌は、血液とともに体内をめぐり、胎盤に付着します。その結果、出産のときに胎盤を通して胎児に歯周病菌がうつるリスクがあるのです。
編集部
そうなると、赤ちゃんは生まれた時から歯周病に感染しているという状態になるのですね。
阿部先生
そうです。妊娠中の歯周病は、早産や低体重のリスクになるだけでなく、生まれた赤ちゃんにも影響を及ぼしてしまうのです。そのため妊婦さんには、普段以上に、口腔内の衛生環境に気を配っていただきたいですね。
妊娠中の口腔ケアは、どのようにすればいい?
編集部
妊娠中に歯周病にならないようにするためには、どうしたら良いのでしょうか?
阿部先生
妊娠を希望している女性は早めに歯周病のチェックを行い、もし歯周病がある場合はしっかり治療しておくことが大切です。また、妊娠している間も歯科医院で妊産婦歯科健診などを受け、定期的に歯周病の検査を行いましょう。
編集部
妊産婦歯科健診で妊娠中もチェックすることが大切なのですね。
阿部先生
残念ながら、現在、妊産婦歯科健診の受診率は非常に低く、自治体によってバラつきはありますが、50%に満たないのではないでしょうか。しかし、歯科検診を受けなければ、むし歯や歯周病などの発見が遅れてしまいますし、妊娠の周期によっては行える治療が限られてしまいます。また妊娠期間中だけでなく、出産後にむし歯があると、赤ちゃんもむし歯になる確率が高いことがわかっています。
編集部
妊娠する前に、歯周病やむし歯は全部治療しておくこと、そして、妊娠中も定期的に検診を受け、歯周病やむし歯にならないよう気をつけることが大事なのですね。
阿部先生
そうです。特に妊娠中は唾液の量が減り、口腔内の自浄作用が弱まる傾向にあります。そのため、食後の歯磨きをしっかり行い、歯周病やむし歯にならないよう気をつける必要があります。
編集部
でも、つわりの時期は歯磨きが辛いという話を聞くこともあります。
阿部先生
確かに、つわりがひどいときはどうしても歯磨きができず、口腔内が不衛生になりがちです。その場合は、せめて一日のなかで体調のよい時間に歯磨きを行うなどの工夫をしましょう。また、下を向いて歯を磨くと、少し楽になるかもしれません。
編集部
妊娠中でも歯周病を含めた歯科治療を受けられるのですか?
阿部先生
一般的に、妊娠の安定期に入っていれば歯周病の治療を受けることができます。症状によっても異なるので、詳しくはかかりつけの歯科医院でご相談ください。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあれば。
阿部先生
よく患者さんから、「妊娠中はどのようにむし歯や歯周病を予防すれば良いのですか」と聞かれるのですが、その時に私が答えるのは、「お母さんだけでなく、パートナーの方も一緒に歯科検診を受けてください」ということ。お母さんの口のなかがきれいでも、パートナーの方が不衛生にしていれば、赤ちゃんがむし歯になる確率が上がってしまいます。妊娠しているときから、赤ちゃんの抱っこの仕方や食育などを学んだり、口のなかを衛生に保つ努力をしたりすることが、赤ちゃんの健康を育み、子どもの歯を守ることにつながるのです。ぜひ、現在妊娠している方やこれから妊娠を希望する方は、歯に対する意識をしっかり持っていただきたいと思います。
編集部まとめ
妊娠中の口腔ケアが、生まれてくる赤ちゃんにとって、むし歯のリスクを減らすことにつながります。また、赤ちゃんの口の中の状態には、お母さんだけでなく、パートナーの影響も大きいということは、つい忘れがち。ぜひ、誘い合って定期検診を受けましょう。
医院情報
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診療科目 | 歯科、矯正歯科、小児歯科、口腔外科 |