障がい者に対する治療を受け入れている歯科医院の探し方を紹介、断られないための事前リサーチ
関わりがないと知る機会も限られますが、障がい者が歯科医院で治療を受けるには様々な困難があります。ときには、クリニックから診察を断られてしまうこともあるようですが、その理由はなんでしょうか。また、障がい者の治療をおこなっている歯科医院を見つける方法も気になります。今回は、基礎疾患や障がいのある人の歯科治療を積極的におこなう、「六町もやい歯科口腔外科」の北村先生にお話を伺ってきました。
監修歯科医師:
北村 智久(六町もやい歯科口腔外科 院長)
東京医科歯科大学歯学部卒業。埼玉医科大学大学院医学研究科修了。埼玉医科大学病院歯科・口腔外科助教、複数の歯科医院勤務などを経て、2021年、東京都足立区に「六町もやい歯科口腔外科」を開院。支え合い、助け合いながら医療機関としての責務を果たしていきたいという願いを込めて、助け合いを意味する「もやい」を医院に名付ける。日本有病者歯科医療学会専門医、日本口腔外科学会認定医、日本顎関節学会認定医。丸木記念福祉メディカルセンター非常勤歯科医師、東京医科歯科大学 顎顔面外科学分野非常勤講師。
障がい者の歯科治療とは?
編集部
障がい者が歯科医院で治療を断られてしまうケースもあると聞きました。
北村先生
はい。残念ながら、そういうケースがあるのも事実です。例えば、施設の設備や構造の観点から、物理的に障がい者を受け入れることができないということが考えられます。「医院がビルの3階に位置しており、エレベーターがない」、「階段や段差が多く、バリアフリー設計になっていない」といった場合には、障がいを持つ人が通院するにはどうしてもハードルが高くなってしまいます。
編集部
たしかに、物理的に「通えない」という難しさがあるのですね。
北村先生
そうです。ほかには、「待合室や診察室でほかの患者さんに迷惑をかけるのではないか」と、受診をためらうご家族もいらっしゃいます。しかしその一方で、障がいを持っている人たちは口腔内を衛生に保つことが難しい場合が多く、症状が進行してしまっているケースも少なくありません。そのため、放置していい問題ではないと考えます。
編集部
では、歯科医院は障がい者に対して、どのように対応しているのでしょうか?
北村先生
前提として、ひとくちに障がい者といっても、どのような障がいを持っているかによって対応方法が変わってきます。一般的には「身体障がい」、「知的障がい」、「精神障がい」の3つに分類することができます。
編集部
それぞれの障がいで考えられる対応方法の説明をお願いします。
北村先生
まずは、身体障がいからお話します。体の一部が欠損していたり、機能が失われていたりすると、自分の症状を細かく伝えられなかったり、歯磨きがしっかりできなくなったりすることがあります。身体障がいの場合は、「家族が歯を磨いてくれるのか」、「施設が介助してくれるのか」など、家族の支援体制や使用できる医療福祉資源を見極めながら、適切に指導していく必要があります。
編集部
次に、知的障がいの説明をお願いします。
北村先生
知的障がいの場合、ご自身の状態をうまく伝えられないなど、治療時のコミュニケーションの難しさがあります。また、ダウン症の患者さんは、叢生や歯周病源細菌への免疫学的抵抗性の低下から、歯周病を罹患するリスクが上昇します。そのため、そうした問題を重症化させないために、もし本人にできることが少ないなら、どのようにして補うかを考えなければなりません。
編集部
最後、精神障がいについてはいかがでしょうか?
北村先生
例えば「うつの症状が強く、なかなか自宅から外に出られない」場合は、歯科医院で治療を始めても通院が途絶えがちになってしまいます。そのため、治療における信頼関係を構築し、治療を継続することが重要です。
編集部
なるほど。障がい者の口腔環境を衛生的に保つというのは困難が伴うケースが多いのですね。
北村先生
はい。そのため、「障がい者を診察したいけれど、経験や知識が不足している」と、断ってしまう歯科医師もいるかもしれません。しかし、障がい者の口腔環境はトラブルを抱えがちであることは事実ですから、あきらめずに治療してくれる歯科医院を探してほしいと思います。
障がい者の歯科治療をしてくれる医院を探すには?
編集部
障がい者の歯科治療をおこなっている歯科医院を探すには、どうしたらいいのでしょうか?
北村先生
各地区の歯科医師会が、障がい者歯科をおこなっている歯科医院を紹介しています。お住まいの地域の歯科医師会のウェブサイトをチェックすれば、障がい者に対応している歯科医院を探すことができるので、まずは調べてみることをおすすめします。
編集部
障がい者治療の資格などはないのでしょうか?
北村先生
※一般社団法人日本障害者歯科学会「認定医のいる施設」
http://www.kokuhoken.or.jp/jsdh-hp/html/wp2/?page_id=696
編集部
障がい者の歯科治療をおこなっている歯科医院はそれほど多くないのでしょうか?
北村先生
現時点では冒頭にお伝えしたとおり、すべての歯科医院が障がい者を受け入れているわけではありません。しかし今後、より多くの歯科医院が障がい者診療に取り組むことを願っています。そうなれば、よりいい社会になるのではないでしょうか。
障がい者歯科治療はどのようにおこなうの?
編集部
障がい者に対する治療は、どのようにおこなわれるのですか?
北村先生
治療中の姿勢を保つことができる場合であれば、一般の歯科と同じように治療をおこないます。もし、本人が治療に関する説明をあまりよく理解できていない場合は、ご家族や介護者にも聞いていただくことがあります。また、イラストや図などを使ってわかりやすく患者さんにお話しする工夫も取り入れています。
編集部
治療の姿勢を保つことができない場合はどうするのですか?
北村先生
クッションを使って姿勢を維持したり、車椅子のまま治療をしたりと、その人の状況に合わせて治療の方法をアレンジします。それでも困難で鼻呼吸ができる場合には、笑気ガス(低濃度詳記吸入鎮静法)が適応になりますので使用を検討します。笑気ガスには心地いい気分になり、痛みや不安、緊張などが弱まる効果があるため、リラックスしながら治療を受けていただくことができます。
編集部
そのほかには、どんな治療法がありますか?
北村先生
「静脈内鎮静法」という、腕や足などの静脈から静脈麻酔剤や抗不安薬、鎮痛剤などを注入する方法もあります。静脈内鎮静法によってウトウトと心地よい状態となり、治療による不安や恐怖、ストレスなどを感じにくくなります。それに伴って血圧や脈拍の変動、嘔吐反射などの症状も軽減することができます。
編集部
麻酔を使うこともあるのですね。
北村先生
はい。静脈麻酔だけでなく、複数本を同時に抜歯するなどの大掛かりな治療をおこなうときには、全身麻酔を使用することもあります。全身麻酔を使用する場合は入院が必要になることもありますが、眠っている間に治療を終えることができるメリットがあります。ただし、笑気ガスや静脈内鎮静法、全身麻酔はそれぞれリスクもあるので、スタッフと設備の整った医療機関で実施する必要があります。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
北村先生
いい治療を受けるには、いい歯科医師との出会いが何よりも大切です。とくに、障がい者に対する診察は、歯科医師の経験や専門知識、モチベーション、医院の人的な体制などの医療資源が重要になってきます。障がい者を診察してくれる歯科医師を探す場合は、信頼できる知人に紹介してもらうのも1つの手です。また、学校へ通っているのであれば、学校医に紹介してもらったり、同じく障がい者を抱えた家庭に紹介してもらったりすると、いい歯科医師に出会える確率が高くなるでしょう。
編集部まとめ
障がい者の歯科治療では、「歯科医院側」と「患者側」の、両方に難しさがあります。しかし、歯科治療を受けずに放置しておくとますます口の中の環境が悪くなることもあり得ます。ぜひ信頼できるかかりつけ医を見つけ、定期的に診察を受けるようにしましょう。その際は、各地区の歯科医師会や日本障害者歯科学会のウェブサイトが役立つはずです。
医院情報
所在地 | 〒121-0072 東京都足立区保塚町17-3 ルーデンス保塚101 |
アクセス | つくばエクスプレス「六町駅」 徒歩14分 |
診療科目 | 歯科 |