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出っ歯や受け口の矯正は「ある条件」で保険適用できる 治療法と合わせて解説

 更新日:2024/01/04
出っ歯や受け口の矯正は「ある条件」で保険適用できる 治療法と合わせて解説

見た目にも気になる、受け口や出っ歯。なんとか治療ができないのだろうかと悩んでいる人も多いのでは、と思います。実は、受け口や出っ歯の矯正治療は、「顎変形症」と診断された場合、保険適用になるそうです。一体、顎変形症とはどんな状態なのでしょうか。また、治療はどのように行われるのでしょうか。しぶたに矯正歯科の渋谷直樹先生に聞きました。

渋谷 直樹先生

監修歯科医師
渋谷 直樹(しぶたに矯正歯科 院長)

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国立大学法人東京医科歯科大学卒業。同大学院にて歯学博士を取得。公立大学法人横浜市立大学附属市民総合医療センター歯科・口腔外科・矯正歯科の指導診療医として顎変形症を中心とした矯正治療を担当。(現在非常勤診療医)2017年東京都世田谷区にしぶたに矯正歯科を開院。「エビデンス(医学的根拠)に基づいた、お子様が成人するまでの一貫した治療を提供する」ことをコンセプトに顎変形症などの大学病院と連携した治療にも力を入れている。日本矯正歯科学会認定医。ほか学会発表、論文など多数。

受け口、出っ歯の原因は?

受け口、出っ歯の原因は?

編集部編集部

受け口や出っ歯とはどのような状態のことをいうのでしょうか?

渋谷 直樹先生渋谷先生

まず受け口は、噛み合わせたときに上の前歯よりも下の前歯が前に出ている状態のことで、矯正臨床診断名は「反対咬合」や「下顎前突症」といいます。また出っ歯は、上の前歯や上の歯全体が前に飛び出している状態のことで、矯正臨床診断名は「上顎前突症」といいます。

編集部編集部

なぜ、受け口や出っ歯になってしまうのですか?

渋谷 直樹先生渋谷先生

受け口は、上の前歯が生えてくるときに、たまたま下の前歯の後ろ側に傾いて生えてきたことが原因となる場合があります。それからこれは遺伝子的要因が大きいのですが、骨格的に下顎が上顎よりも前方に成長したことが原因の場合もあります。また、これらの両方が原因となる場合もあります。

編集部編集部

出っ歯の場合はどうですか?

渋谷 直樹先生渋谷先生

出っ歯の原因は、上の前歯が前方に傾いていたり、下の前歯が後ろに倒れていたり、下顎が後ろに下がっていたり、あるいはそれぞれの要素がすべてかかわっていたりすることが原因です。

編集部編集部

出っ歯や受け口は遺伝が原因になることもあるのですか?

渋谷 直樹先生渋谷先生

骨格上の特性は、遺伝することが多いとされています。そのため、子どもの治療を行う場合は、両親や祖父母、兄弟の歯並びの状態を確認するなど、家族歴を参考に治療方針を立てることもあります。

受け口や出っ歯の治療は、どのように行う?

受け口や出っ歯の治療は、どのように行う?

編集部編集部

受け口や出っ歯を放置すると、体にどんなリスクがありますか?

渋谷 直樹先生渋谷先生

どちらも噛み合わせが悪くなり、しっかり噛むことができなくなるため、胃腸など消化器官に負担がかかることもあります。また、噛み合わせたときに歯の接触面積が小さいと、顎が痛くて大きく口が開けにくくなるという、顎関節症状を発症するリスクも高まります。それから唇が閉じづらい状態だと口呼吸になりますから、免疫力が低下したり、むし歯や歯周病になりやすくなったりします。

編集部編集部

歯や口だけの問題ではないのですね。

渋谷 直樹先生渋谷先生

そうです。また、噛み合わせたときに歯の接触面積が小さい場合、睡眠中に歯ぎしりや食いしばりをすると歯や歯根の負担が大きくなり、歯を失う原因にもなります。また滑舌が悪いことや、顎や口元が出ているなど、審美的な側面でも精神的に負担が大きくなる人もいます。

編集部編集部

受け口や出っ歯は治療することができるのですか?

渋谷 直樹先生渋谷先生

口腔内の状態や原因によって治療法は変わりますが、原因に対してしっかりアプローチができる治療が可能であれば、改善することができます。

編集部編集部

どのようにして治療をするのですか?

渋谷 直樹先生渋谷先生

いつ、治療を行うのかによってもかわってきます。たとえば、乳歯列期の子どもなら、取り外しができる装置を使って、顎や骨の成長を誘導し、上下の顎のバランスを整えたり、歯とあごの大きさのバランスを整えたりします。こうすることによって、永久歯列になったときの受け口や出っ歯の状態を軽減するのです。

編集部編集部

大人の場合はどのようにして治療をするのですか?

渋谷 直樹先生渋谷先生

永久歯列完成後の大人の場合は、通常の矯正治療を行うのが一般的です。ただし、骨格的な要因が大きい場合は、手術を併用した矯正歯科治療を行わなければ、改善しないこともあります。

編集部編集部

通常の矯正治療とは、どのようなことを行うのですか?

渋谷 直樹先生渋谷先生

通常、「マルチブラケット」という装置を口のなかに装着し、歯列を整えます。また、マウスピースを利用して歯列を動かすこともあります。出っ歯や受け口を解消するために歯を並べるスペースが不足している場合は、抜歯を行うこともあります。

受け口、出っ歯の矯正は保険適用になる?

受け口、出っ歯の矯正は保険適用になる?

編集部編集部

受け口や出っ歯の矯正治療は保険適用になるのですか?

渋谷 直樹先生渋谷先生

通常は自費診療になります。ただし、ある条件のもとでは保険が適用になることがあります。

編集部編集部

どのようなとき、保険適用になるのですか?

渋谷 直樹先生渋谷先生

まず前提条件は、受け口や出っ歯などの不正咬合のうち、骨格が原因で、それに伴う咀嚼機能障害、発音機能障害が認められること。その場合、手術を前提とした矯正治療を行うと決定した時から「顎変形症」と診断され、保険適用の治療となります。ただし、治療を受ける施設が限られていて「指定自立支援医療機関」でしか治療を受けられません。

編集部編集部

保険適用の条件が厳しいのですね。

渋谷 直樹先生渋谷先生

咀嚼や発音の機能障害が認められない場合、マウスピース矯正や裏側矯正などの保険適用外の材料を使用する場合、手術を行わない場合は顎変形症と診断されず、保険適用外の治療となります。

編集部編集部

外科手術ではどのようなことを行うのですか?

渋谷 直樹先生渋谷先生

手術前の矯正治療である「術前矯正」、顎骨の手術、手術後の矯正治療である「術後矯正」の3段階で治療します。

編集部編集部

矯正治療を受けてから、外科手術を行うのですね。

渋谷 直樹先生渋谷先生

術前矯正は、手術が終わったあとしっかり噛み合う状態になるために、1年から2年程度かけて歯を動かします。その後、外科手術を担当する提携先の大学病院とミーティングを行い、骨の移動様式を決定し、手術を行います。入院期間は1週間程度です。退院後、術後矯正として仕上げの矯正治療を1年程度行います。咬合の安定を確認してからも、装置をはずして後戻りをしないように、保定装置をつける必要があります。

編集部編集部

治療にかなり時間がかかるのですね。

渋谷 直樹先生渋谷先生

歯並びや噛み合わせを治す通常の矯正歯科治療も大抵2〜3年かかるので、全体の期間はほとんど変わらないと思います。通常の矯正治療でも、受け口や出っ歯をある程度は改善することができますが、言ってみればそれは、骨格的に原因があるのに、歯の移動をすることだけで、無理に帳尻を合わせるようなもの。外科手術を併用する矯正歯科治療のほうが、たとえば笑った時の上の歯ぐきが目立つことや、下のあご先が出ていることが気になっている方は、改善するゴールを設定することができますし、また安定性が良くなることが多いですね。

編集部編集部

費用はどれくらいかかるのですか?

渋谷 直樹先生渋谷先生

顎変形症と診断されれば保険適用になるだけでなく、高額医療費控除の対象にもなるので、自己負担額が総額で40万円から60万円程度と、自費で治療するよりも安価に治すことができます。「外科手術で骨を切るのが不安」という人もいるかと思いますが、治療に興味がある方は、一度外科矯正を得意としている矯正歯科治療の専門医に相談すると不安も解消され、悩みが解消されるかもしれません。

編集部編集部

最後に、読者へのメッセージがあれば。

渋谷 直樹先生渋谷先生

私が大学病院に勤務していた当時、他院で顎変形症の治療を行ったものの結果に納得せず、セカンドオピニオンを求める患者さんが大勢いらっしゃいました。「術後に噛み合わせが安定していなくて、前歯でものを噛み切れない」「事前に聞いていた話と違い、口元が出てしまって不満がある」といったことを訴えていらっしゃいました。主治医の先生に治療経過を問い合わせ、なぜそうなったのか精査したところ、手術計画の時点では希望する結果が得られそうなのに、実際は計画通りに進め、顎の移動が達成されていないケースがほとんどでした。

編集部編集部

うまくいくためには何が必要なのですか?

渋谷 直樹先生渋谷先生

顎変形症の治療は、矯正歯科専門医と顎変形症手術専門医が綿密な連携をとって治療計画を立て、その計画に沿った治療を実現することにより、機能的な咬合の改善や術後の安定性はもちろん、患者さんが希望する顔の変化を達成することができます。そのため治療を検討している場合は、矯正歯科専門医や顎変形症手術専門医に手術の内容やリスクなどをしっかり聞き、両者の間に意見の相違がないか確認すること。それから、ご自分と同じような歯並びの患者さんの治療経過を見せてもらったうえで、決めるといいと思います。

編集部まとめ

受け口や出っ歯で人知れず悩み、あきらめている人も多いのではないでしょうか。保険が適用になるケースは限られていますが、条件を満たせばその範囲内で受けられます。自由診療なら当然治療することは可能です。費用や治療の内容は個々の症例により異なりますから、悩んでいる人は、一度、歯科医師に相談してみると良いかもしれません。

医院情報

しぶたに矯正歯科

しぶたに矯正歯科
所在地 〒154-0003 東京都世田谷区野沢3-31-7 ロイジェント世田谷野沢1F
アクセス 東急田園都市線駒沢大学駅 徒歩14分
診療科目 一般歯科、小児歯科、矯正歯科

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