「Xガイド」によるインプラント治療のメリット・デメリットを解説
国内における展開がはじまったばかりの「Xガイド」。次世代型のインプラント治療という声を耳にする一方で、いくつもある「ガイド」の一形態にすぎないとも思えてしまいます。そこで、インプラント治療の最新事情について「野村歯科クリニック」の野村先生を取材しました。
監修歯科医師:
野村 貴正(野村歯科クリニック 院長)
日本大学松戸歯学部卒業。民間の歯科勤務を経た1992年、群馬県太田市に「野村歯科クリニック」開院。患者と医師の双方に妥協のない、より良い治療を心がけている。国際歯周内科学研究会、日本一般臨床医矯正研究会、日本口腔インプラント学会、日本臨床歯科CADCAM学会の各会員。
Xガイドによるインプラント手術のメリット
編集部
インプラント治療の適応って、何で決まるものなのですか?
野村先生
従来の方法では、「顎の骨の状態」が重要視されていました。インプラントを建物に例えるなら、基礎になる部分の堅さや厚みが問われていたわけです。したがって、土台を埋入する箇所が先に決まり、その前提の範囲で「人工歯の位置」を決めていました。
編集部
必ずしも「理想的な歯並びが先」ではなかったということですか?
野村先生
「理想的な歯の位置」を先に決めると、「理想的な顎の骨」にたどり着けないかもしれません。「Xガイド」のメリットの1つは、「理想的な歯の位置」と「理想的な顎の骨」の双方を、シミュレーションしたデータによって得られることです。
編集部
インプラント治療でマスウピース状の器具を見かけますが、あれは何だったのでしょう?
野村先生
ずれずに「理想的な顎の骨」へたどり着けるための、強制的な施術ガイドといったところでしょうか。「サージカルガイド」などと呼ばれることもあります。この種のガイドをつくるためには、事前に取った歯形が必要です。一方の「Xガイド」は、原則として歯形取りが不要になります。「理想的な歯の位置」と「理想的な顎の骨」を結ぶ「理想的なコース取り」を機械がやってくれます。
編集部
術前のメリットとしては、「歯形取り」という工程を省けることですか?
野村先生
はい。施術までの時短に加え、歯形取りそのものが不正確だと、施術リスクに直結しますよね。歯形模型はコピーしたモデルであり、現物そのものではありません。他方の「Xガイド」では「Xクリップ」という器具を実際のお口にはめて、ドリル先端の位置情報を割り出しています。これにより、施術中に理想的なコース取りをしているかどうかが把握できる仕組みです。
編集部
費用面はどうでしょう。「Xガイド」料金が別途、発生するのですか?
野村先生
インプラント治療自体が自由診療なので、なんともいえませんね。「Xガイド」料金を設定している歯科医師もあれば、トータル費用の中に含めている歯科医院もあるでしょう。ですから、費用を比較するなら、トータル価格で比べてみてください。
Xガイドのデメリットはほとんど「ない」
編集部
続いて、術中の違いについてもお願いします。
野村先生
一般的なサージカルガイドは、ドリルの向きを固定する意味でも、必要最低限の太さの穴しか開いていません。太い穴だと、ドリルがグラグラしてしまいますからね。そのうえで、施術箇所に何が起きているかというと、ドリルと骨との摩擦熱によって患部に“やけど”をもたらしています。サージカルガイドをはめていなければ、冷たい水で冷やし続けることが可能なのですが、必要最低限の穴しか開いていないと、冷却用の水のもっていき場がないのです。
編集部
やけどを起こして、後になってから痛みだすということですか?
野村先生
痛みよりも、生着率や成功率に関わってきます。フレッシュな組織ほどしっかりくっついてくれますからね。痛みが出るのは、むしろサージカルガイドを固定するために「別の穴を開けた跡」です。ここに打ったピンで、マウスピース状の装置を固定することがあります。施術後にピンを抜くと「ただの穴」が開いているわけですから、当然痛みます。一方、インプラントの施術箇所は、穴を開けた跡にインプラント体が埋まるので「ただの穴」となりません。したがって、比較的、痛みが少ないものなのです。
編集部
先ほどの説明だと、「Xガイド」の施術自体は手作業ですよね?
野村先生
手作業です。「Xガイド」は、原則としてマウスピース状の装置を用いません。その代わり、まるで「カーナビ」のように、理想的なドリルのコース取りとコースに沿っているかどうかの位置情報を、リアルタイムでモニターに写してくれます。施術中でも特殊なカメラを使って撮影している点では、カーナビと一緒ですよね。
編集部
「カーナビ」方式の優れているところは?
野村先生
障害物や不慮の事態を、人間の意思によって回避できるところです。一方のサージカルガイドは、例えるなら「コースが固定された電車のレール」のようなものなので、簡単には避けられません。よって、手作業であっても、それなりのメリットが担保されている印象ですね。デメリットとしては、カーナビに沿わない乱暴運転をおこなうと事故の元となりえることですが、歯科医師なら安全運転に努めます。
編集部
「Xガイド」が不向きな箇所はありますか?
野村先生
特にないと思います。比べるなら、サージカルガイドのほうが奥歯の手術をしにくいでしょう。使用するマウスピース状の器具の厚みは1cmほどありますから、奥歯にドリルを当てるためには、この1cm分、大きくお口を開けていただく必要があるわけです。一方の「Xガイド」は、じかに施術できます。
術後の違いはとくになし「今までインプラントと一緒」
編集部
最後は術後です。一般的な進め方と違いがありますか?
野村先生
術後の違いはほとんどありません。同意書などに書かれてある注意事項は守ってください。また、保証内容などが「Xガイドだからといって変わる」ということもないでしょう。マウスピース状の装置を固定するアンカーピンが不要なので、術後の痛みも少ないはずです。
編集部
冒頭に、術後の「噛み具合」の話が出ていました。
野村先生
治療の進め方にもよりますが、インプラントに被せる人工歯を「Xガイド」と連動して作製することが可能です。もともと「Xガイド」は、「理想的な歯の位置」を視野に入れたシステムですので、噛み具合も良好になるでしょう。
編集部
引っ越しなどで転院した場合、「Xガイド」を施術した医院まで通わないといけないのでしょうか?
野村先生
術後のメンテナンスのことですよね。その必要はありません。引っ越し先のお近くにインプラントのメンテナンスを扱っている歯科医院があれば、どこでも構いません。「Xガイド」はプロセスの1種ですから、施術が終われば、一般のインプラントとなんら変わらないということです。インプラントのメーカーも、ほぼ問いません。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあれば。
野村先生
「Xガイド」を導入している歯科医院は国内で70院ほどです。サージカルガイドにしても、3割ほどの歯科医院でしか用いていません。しかし、インプラント治療の考え方や安全性への配慮は刻々と変わってきています。同じ施術を受けるなら、最新事情をアップデートしている歯科医院にご相談されてみてはいかがでしょうか。
編集部まとめ
あおむけになった状態で取った歯型は、起きた姿勢での状態を、完全に再現していないそうです。ドリルの角度や深さを固定するサージカルガイドは、その「固定」というコンセプトが、益にも害にもなりえるとのことです。その点「Xガイド」では、コピペした歯形を用いず、3D化した現物を写しだして施術します。人為的なミスを極限まで減らした施術方法といえるでしょう。
医院情報
所在地 | 〒370-0312 群馬県太田市新田村田町514-2 |
アクセス | 東武伊勢崎線「木崎駅」 車で9分 |
診療科目 | 歯科 |