歯科用3Dプリンターと歯科技工士の修復物って、どちらの精度が高いの?
ものづくりの現場で必ずと言っていいほど問われるのが、「機械は人にとって代われるのか」という命題です。AIやIT技術は表裏一体、恩恵もあれば弊害もあるでしょう。そうしたなか、歯科技工の世界では、どのような変化が起きているのでしょうか。「かめだ歯科クリニック」の亀田先生に歯科用3Dプリンターと歯科技工士の精度や費用、リスク面などを比較してもらいました。
監修歯科医師:
亀田 充生(かめだ歯科クリニック 院長)
日本大学歯学部卒業。日本大学歯学部付属歯科病院口腔外科学第II講座、都内開業歯科医院勤務を経た2004年、東京都渋谷区に「かめだ歯科クリニック」開院。2012年には法人化し、医療法人社団東京弘生会理事長に就任。「患者、スタッフ、自分、それぞれが居心地のいい歯科クリニック」を目標としている。日本歯科審美学会、日本口腔外科学会、国際口腔インプラント学会の各会員。
精度はニーズの一端でしかない
編集部
よく見る入れ歯や詰め物などは、誰がつくっているのですか?
亀田先生
一般には、「歯科技工士」という国家資格者にお願いしています。外注ということもあれば、歯科医院内に自前の歯科技工所を設けていることもあります。また、歯科医師が自ら技工を手掛けるケースも散見されてきました。今では、歯科用3Dプリンターなどを手軽に購入できますからね。
編集部
「歯科用3Dプリンター」ってなんですか?
亀田先生
作業を代わりにおこなってくれる機械のことです。CTなどで解析した治療跡の形状を歯科用3Dプリンターに送ると、修復物が自動的に成形されます。ただし、「削って失われた箇所」は解析しようがないので、標準的な歯の形を部分的にプログラムすることもあります。
編集部
なるほど。3Dプリンターの精度が気になりますが、そもそもどういう仕組みなのでしょうか?
亀田先生
一般的な3Dプリンターには、「わたがし」のように素材を盛っていくタイプと、「彫刻」のように大きな素材から削り出すタイプがあります。歯科用3Dプリンターの多くは、削り出すタイプです。また、医療メーカーが提供している「CAD/CAM」というシステムも、後者のタイプです。
編集部
仕組みは理解できました。では結局、歯科技工士と3Dプリンターではどちらの方がクオリティは高いのでしょうか。
亀田先生
結論としては、歯科技工士のほうが勝るでしょう。歯科用3Dプリンターで自動成形されてきた歯の形を「もう少しどうにかしたい」とおっしゃる患者さんは、一定数いらっしゃいます。ただし、価格の安さや即日施術可といった観点から、「CAD/CAM」が選ばれるケースもあります。歯形を取り、また1週間後に来院する手間を嫌がる患者さんもいますしね。
編集部
精度以外にも、納期や価格で検討する余地があるということですね。
亀田先生
はい。加えて、仮歯で過ごしている間に、むし歯菌などが再感染する恐れも考えられます。1週間程度の期間なら問題ありませんが、仕事の都合などで治療が伸びてしまうと、再発リスクを増加させてしまうのです。その点で、歯科用3Dプリンターは即日施術できるので、大きなメリットと言えるでしょう。
考えられる補綴治療のバリエーション
編集部
歯医者で補綴(ほてつ)治療をする際に、一番よくあるパターンはなんでしょうか?
亀田先生
オーソドックスなのは、「歯形を取って、外部へ発注するパターン」です。手作業の割合は最も多く、歯科技工士の腕が問われます。また、納期に1週間前後かかります。
編集部
院内に歯科技工士が在籍しているパターンもありますよね。
亀田先生
そうですね。「同じように歯形を使うものの、院内技工士が患者さんに立ち会うパターン」です。患者さんの「生の声」を聞くことができるので、歯の色合いや形、角度といったリクエストを反映しやすくなります。個人的には、このパターンが「最も満足につながりやすい」印象です。
編集部
医院に歯科用CTがなくて、スキャンできない場合はどうするのでしょうか?
亀田先生
「歯科用CTを備えていないものの、他院で撮ってきてもらって、『CAD/CAM』などのサービスに乗せるパターン」も少なくありません。CT撮影は二度手間になりますが、施術そのものを即日でおこなえます。また、グループ内の分院がCTのみ完備していて、「CAD/CAM」のある本院とデータのやりとりをするパターンもあります。一方、「歯科用CT・歯科用3Dプリンターを完備し、歯科医師がピピッと入力するパターン」も当然にしてあります。「CAD/CAM」を導入しているケースも、これに含んでいいでしょう。歯科技工士の介在はありません。
編集部
歯科技工士と3Dプリンターをどちらも活用する方法もありますか?
亀田先生
機械と人の組み合わせ例としては、「歯科用CT・歯科用3Dプリンターの完備に加え、最後の微調整を院内技工士がおこなうパターン」や、「技工所が『CAD/CAM』を使い、加えて手作業で仕上げてくるパターン」などです。もちろん、以上が全ての組み合わせではなく、かつ、患者さんの症状やニーズによっても変わってくるでしょう。おおまかな目安としてください。
なり手不足や人材育成といった社会的要因も関係
編集部
補綴治療にいろいろなバリエーションがあることは分かりました。では、もし精度を最優先するならどのパターンがいいのでしょうか?
亀田先生
精度を重要視するなら「歯形を使い、院内技工士が患者さんに立ち会うパターン」か、「歯科用CT・歯科用3Dプリンターの完備に加え、最後の微調整を院内技工士がおこなうパターン」ですね。形状としての精度はもちろん、審美的にも機能的にも優れた技工物を得られるでしょう。
編集部
価格を最優先するとしたら?
亀田先生
今回、銀歯やレジンというプラスチック素材による保険治療は除外しますよ。セラミック系の技工物に限れば、「歯科用CT・歯科用3Dプリンターを完備し、歯科医師がピピッと入力するパターン」でしょうか。施術内容によるものの、手づくりでするケースより3割から5割ほど安くなることもあります。かつ、「CAD/CAM」なら、一部の歯に保険適用が認められています。
編集部
長持ちや再発リスクの少なさを最優先するとしたら?
亀田先生
「同じように歯形を使うものの、院内技工士が患者さんに立ち会うパターン」を自費の素材で進める方法だと思います。私自身、「CAD/CAM」を導入してから7年になり、今のところ破損などのクレームは生じていません。ですから、「CAD/CAM」の耐久性をどうこう言うつもりはないです。ただし、比較するとやはり自費素材の方が優れているでしょう。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあれば。
亀田先生
現状の総論としては、歯科技工士の修復物が優れています。しかし昨今、「CAD/CAM」の精度は飛躍的に向上してきました。また、こうした傾向が、歯科技工士のなり手を減らしているようです。なので、将来的に「CAD/CAM」が圧倒的な主流になったら、ここまで話してきたことが今後もずっと続くとは思えません。ぜひ、その点にご留意ください。
編集部まとめ
「精度」にはさまざまな意味があり、「設計図的な精度」もあれば、「コミュニケーション的な精度」もあるでしょう。その全てを含めて考えるなら、現状においては、歯科技工士の修復物が一歩リードしているようです。AIテクノロジーがどんなに進歩したとしても、「人にとって代わることのできない領域」は存在するでしょう。また、治療のニーズによっても補綴治療の選択肢は変わってきそうです。自分に合ったパターンで治療を進めていくのがいいのではないでしょうか。
医院情報
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診療科目 | 歯科 |