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林 良典

監修医師
林 良典(医師)

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【出身大学】
名古屋市立大学
【経歴】
東京医療センター総合内科、西伊豆健育会病院内科、東京高輪病院感染症内科、順天堂大学総合診療科、NTT東日本関東病院予防医学センター・総合診療科を経て現職。
【資格】
医学博士、公認心理師、総合診療特任指導医、総合内科専門医、老年科専門医、認知症専門医・指導医、在宅医療連合学会専門医、禁煙サポーター
【診療科目】
総合診療科、老年科、感染症、緩和医療、消化器内科、呼吸器内科、皮膚科、整形外科、眼科、循環器内科、脳神経内科、精神科、膠原病内科

胃切除後症候群の概要

胃切除後症候群とは、胃を部分的または全体的に切除した後に現れる、さまざまな症状の総称です。
代表的なものとしてダンピング症候群(早期型・後期型)小胃症状逆流性食道炎栄養障害(貧血・体重減少・骨粗鬆症など)などが挙げられます。これらの症状は、摂取した食物が通常より早く腸に流れ込み、消化・吸収の不良や血糖値の急な変動が生じることによって引き起こされます。また、行われた手術の様式も症状の現れ方に影響を及ぼします。

胃切除後症候群の原因

胃切除症候群は、手術によって胃の一部、またはすべてが失われたことが原因で発症します。胃は食物を一時的に貯留する働きや、消化・吸収する働き、胃酸により殺菌する働きを担っています。手術によってこれらの働きが失われるため、さまざまな症状が引き起こされるのです。

胃切除後症候群の前兆や初期症状について

胃切除後症候群の症状の現れ方や重症度は、手術の方法や胃の切除範囲によってさまざまです。主に、以下のような疾患として症状が現れます。胃切除後症候群の症状が現れた場合、まずは手術した病院の消化器外科を受診しましょう。

ダンピング症候群

ダンピング症候群とは、食物が胃を通らずに急に小腸や十二指腸に流れ込むことで現れる症状の総称です。早期型と後期型の2つに分けられます。

早期ダンピング症候群

食事中または、食後30分以内に出現する症状です。食物が急に腸に流れ込むと腸液が高濃度の状態になり、それを薄めようとして血管内の水分が腸に移動するため発症します。主に血管作動性症状(全身倦怠感、動悸、顔面紅潮)と消化器症状(吐き気、腹痛、下痢)がみられます。

後期ダンピング症候群

食後2~3時間後に出現する症状です。腸に糖分が吸収されて血糖値が一気に上昇した後、インスリンが過剰に分泌され、血糖値が急激に低下することで発症します。
主に強い空腹感や手の震え、冷や汗、眠気、脱力感、失神などの低血糖に伴う症状が現れます。

貧血

鉄やビタミンB12の吸収が悪くなるために起こる症状です。
症状には息切れ、疲労感などがあり、ビタミンB12が不足している場合は手足のしびれが現れることもあります。

小胃症状

胃切除によって、本来の貯留機能や排出機能が失われるために起こる症状です。食後の腹部膨満感や不快感、吐き気などの症状が現れます。また胃の殺菌機能や消化機能の低下により、下痢を起こしやすくなります。

輸入脚症候群

手術の際に、ビルロートⅡ法や、ルーワイⅡ法という再建法を受けた患者さんに起こりやすい症状です。胃を切除して腸をつなぎ直した後、輸入脚(十二指腸~空腸の一部)に胆汁や膵液がたまり、詰まって腸が腫れてしまう状態を指します。
主な症状に食後の腹痛や嘔吐、発熱、黄疸などがみられます。
 

逆流性食道炎

胃全摘術や、噴門側胃切除術を受けた場合、胃の食道側が切除されたことで胃の逆流防止機能が失われます。その結果、腸液や胃酸が食道へ逆流しやすくなり逆流性食道炎を発症します。主な症状は胸やけ、吐き気、胸痛、背部痛、食物の逆流感などです。胃切除後1~6ヶ月で発症することが多いようです。

術後胆石症

手術の際に胆嚢周囲の神経が切断されると、胆嚢の収縮を促すホルモンの分泌が減少します。その結果胆嚢の中に胆汁がたまり、胆石ができやすくなります。主な症状には右上腹部痛、吐き気、発熱などがありますが、無症状である場合も多いようです。

骨代謝障害

カルシウムやビタミンDの吸収が悪くなるために起こります。骨代謝障害には、骨軟化症と骨粗鬆症が含まれます。いずれも骨がもろくなり、骨折しやすくなる疾患です。

胃切除後症候群の検査・診断

胃切除後症候群の検査は、主に以下のような方法で行われます。

血液検査

血糖値の変動や貧血の状態、感染症の有無を評価します。

経口ブドウ糖負荷試験

特に後期ダンピング症候群の症状がみられる場合に行います。空腹時にブドウ糖液を飲んで、時間ごとの血糖値の変化を測定します。

上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)

手術後の胃や腸の状態を確認するために実施します。吻合部(手術で腸をつないだところ)の状態や炎症の有無、食べ物の通り具合を検査します。

X線造影検査

主に早期ダンピング症候群の検査を目的として実施します。造影剤の流れ方をチェックし、食物が早く腸に流れ過ぎていないかを調べます。

超音波検査(腹部エコー)

腸の動きや、ほかの臓器の状態を確認します。腸内のガスや内容物の移動を見ることができます。

胃切除後症候群の治療

胃切除後症候群の治療は、症状の重さや種類によって異なります。基本的には食事療法や薬物療法が中心に行われます。

食事療法

食事療法では胃が小さくなったり、なくなったりした状態に身体を慣れさせるために、食事のとり方を工夫します。具体的には以下のような方法がよいとされています。

  • 1回の食事量を少なめにして、食事の回数を1日5~6回に増やす
  • ゆっくりよく噛んで食べる
  • 食後すぐに横にならない
  • 低糖質・高タンパク・高脂肪の食事を心がける(ダンピング症候群)
  • ビタミンB12や鉄分の多い食品を意識する(貧血)
  • ビタミンDやカルシウムを含む食品を摂取する(骨代謝障害)

食事療法においては、1回の食事量を減らすだけでなく、食事内容やタイミングにも工夫が求められます。
特に後期ダンピング症候群を予防するには、急激な血糖変動を避けることが重要です。糖質は単体でとるのではなく、タンパク質や脂質と一緒に摂取することで吸収がゆるやかになります。例えば、白米単体でとるのではなく、魚や豆腐、野菜と一緒に食べるようにするとよいでしょう。食事をとってから2時間後に間食をとるのも効果的です。
また、液体は食事と同時にとると腸への流入が早まるため、食前または食後30分以上あけて摂取するのが望ましいです。

また、貧血がある場合には、鉄分やビタミンB12が多く含まれている食品をとるのが効果的です。具体的にはレバー、赤身肉、ほうれん草、ひじき、卵などを意識的にとるとよいでしょう。ビタミンCが多く含まれる野菜や果物も一緒にとると鉄の吸収が促進されるためおすすめです。
骨代謝障害に対しては、カルシウムを多く含む食品(牛乳やチーズなど)やカルシウムの吸収を助けるビタミンDを含む食品(キノコ類など)を摂取するとよいです。

逆流性食道炎がある場合は、就寝前2時間は食事を控えるほか、脂質の多いものや、カフェイン、アルコールなどの逆流を促進する食品を避けるとよいとされています。

薬物療法

薬物療法では、症状に応じて、以下のような薬剤を使用して治療を行います。

症状 使用される主な薬剤
ダンピング症候群 抗コリン薬(腸の動きをゆるやかにする)
αーグルコシターゼ阻害薬(糖の吸収をゆるやかにする)
下痢 整腸剤
胃もたれ、吐き気 制吐薬、消化酵素製剤
貧血 鉄材、ビタミンB12注射や内服
胃酸の逆流・胸焼け PPIやH2ブロッカー(胃酸を抑える薬)

再手術

急性輸入脚症候群を発症した場合や吻合部に潰瘍が生じた場合などには、緊急手術を行うこともあります。
その他、食事療法や薬物療法で、症状が改善されない場合にも再手術が検討されます。
再手術を検討する際には、専門医と十分に相談し、リスクと利益を慎重に評価することが重要です。

胃切除後症候群になりやすい人・予防の方法

なりやすい人

胃切除症候群は以下のような条件が重なることで、発症リスクが高まるとされています。

胃全摘手術を受けた方

胃の全体を切除することで、食物が直接小腸に流れ込み、ダンピング症候群や栄養吸収障害、貧血などが起こりやすくなります。

残胃の大きさが小さい方

残った胃の容量が少ないと食物を十分に保持できず、小腸への流入速度が早まるため、早期ダンピング症候群を起こしやすくなります。

高血糖や糖尿病のある方

糖代謝に異常がある場合、インスリンの分泌や血糖コントロールが不安定になりやすく、後期ダンピング症候群に関連する血糖値の急変動が起こりやすくなります。

高齢の方

加齢により消化機能や代謝障害が低下しているため、胃切除の影響が出やすくなります。

予防法

胃切除後症候群は、先に述べた食事療法によって発症や症状の悪化を予防できます。また、適切な食習慣を継続するには、医療機関との連携や周囲のサポートが重要です。
手術後も定期的な検査や食事指導を受けて、胃切除後症候群を予防しましょう。食事指導の際には、ご家族も一緒に指導を受けられるとよりよいでしょう。

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