

監修医師:
勝木 将人(医師)
目次 -INDEX-
シャイ・ドレーガー症候群の概要
シャイ・ドレーガー症候群は「多系統萎縮症」と呼ばれる疾患のうち、自律神経障害を主症状とする病型を指します。
多系統萎縮症とは、自律神経や小脳、大脳など複数の神経系が障害される疾患の総称です。シャイ・ドレーガー症候群は多系統萎縮症全体の約15%を占め、50歳以降の中高年層に発症することが多いといわれています。
はっきりとした原因はわかっていないものの、発症者の脳の細胞にはタンパク質の凝集がみられるほか、発症に関与する遺伝子があることがわかっています。また、ごくまれに血縁者間での発症を認められることもあります。
シャイ・ドレーガー症候群の発症初期には、立ちくらみや起立性低血圧、尿失禁などの自律神経症状が目立ちます。病状が進行すると、便失禁や発汗障害、睡眠時無呼吸症候群などが生じたり、男性では勃起不全を認めたりすることもあります。また、小脳の障害やパーキンソン症状がみられるようになり、歩行が困難になるケースもあります。
現在、シャイ・ドレーガー症候群の進行を抑えるための治療法は確立されておらず、症状に対する対症療法のほか、日常生活をサポートするための対策が講じられます。
出典:公益財団法人難病医学研究財団難病情報センター 「多系統萎縮症(3)シャイ・ドレーガー症候群(指定難病17)」

シャイ・ドレーガー症候群の原因
シャイ・ドレーガー症候群のはっきりとした原因はわかっていません。
しかし、発症者の脳の細胞には「封入体」と呼ばれる特殊なタンパク質の集まりがあることがわかっています。また、発症に関わる遺伝子が複数報告されているほか、ごくまれに家族内での発症を認めるケースもあります。
そのため、発症しやすい体質など遺伝的な側面があるのではないかと考えられています。しかし、未だ原因の解明には至っておらず、封入体や遺伝子を元手に研究がおこなわれています。
シャイ・ドレーガー症候群の前兆や初期症状について
シャイ・ドレーガー症候群の初期症状では、起立性低血圧や排尿障害などの自律神経症状が顕著にみられます。
起立性低血圧や立ちくらみ、めまいなどが生じ、血圧が低下して食事や入浴などの日常生活動作時に強い倦怠感を伴うことがあります。また、血圧低下によって立ち上がった際に失神するケースもあります。
排尿障害としては、頻尿や尿失禁、排尿困難、残尿感、夜間頻尿、尿閉などを認めることがあります。
進行性の疾患であるため、病状が進行するにつれて発汗障害や排便障害、勃起不全、歩行障害などが現れることもあります。
シャイ・ドレーガー症候群の検査・診断
シャイ・ドレーガー症候群を診断するためには、自覚症状を確認するための問診や身体診察のほか、脳の異常を確認するための画像検査がおこなわれます。
身体診察では、歩行障害の程度などを確認します。
画像検査では、頭部のMRI検査やCT検査、PET検査がおこなわれることがあります。頭部のPET検査は、陽電子を用いた検査機器で特殊な薬剤を体内に投与し、薬剤の広がりを見て脳の機能や代謝を確認する検査です。
このほか、起立性低血圧を確かめる「head up tilt試験」や、残尿量を測定する検査をおこなうことがあります。
シャイ・ドレーガー症候群の治療
シャイ・ドレーガー症候群の進行を抑える治療法は確立されておらず、症状に対する対症療法が中心におこなわれます。
起立性低血圧に対しては、ふくらはぎに圧をかける弾性ストッキングの着用や「ミドドリン塩酸塩」「メチル硫酸アメジニウム」などを用いた薬物療法が考慮されます。
排尿障害に対しては症状や病態によってさまざまな薬剤があり、発症者の状態によって選択されます。自力での排尿が困難な場合には、尿道にカテーテルを挿入して尿を排泄させるための処置がおこなわれることもあります。
睡眠時無呼吸障害を認める場合には「持続陽圧呼吸(CPAP)」や「非侵襲的陽圧換気療法(NPPV)」など睡眠中の呼吸をサポートするための呼吸療法が考慮されます。無呼吸状態によって突然死のリスクがあると考えられる場合には、気管を切開することもあります。
また、歩行障害などの小脳症状に対しては「甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン」の内服薬や注射薬の投与、リハビリテーションがおこなわれることがあります。
このほか、発症者は起立性低血圧や歩行困難で転倒しやすかったり、発汗障害のために高体温になりやすかったりするため、日常生活上での注意が必要です。症状に応じて転倒防止のための対策や、体温の調整のため室温や衣服への配慮が必要になります。
シャイ・ドレーガー症候群になりやすい人・予防の方法
シャイ・ドレーガー症候群は明確な原因が解明されていないため、なりやすい人や予防の方法についてはわかっていません。
しかし、ごくまれに血縁者間で発症を認めるケースがあるため、家族内でシャイ・ドレーガー症候群の発症者がいる場合には医療機関で相談してみることも、予防につなげるための一つの方法です。




