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高IgD症候群
五藤 良将

監修医師
五藤 良将(医師)

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防衛医科大学校医学部卒業。その後、自衛隊中央病院、防衛医科大学校病院、千葉中央メディカルセンターなどに勤務。2019年より「竹内内科小児科医院」の院長。専門領域は呼吸器外科、呼吸器内科。日本美容内科学会評議員、日本抗加齢医学会専門医、日本内科学会認定医、日本旅行医学会認定医。

高IgD症候群の概要

高IgD症候群は、コレステロールの生成に関わる「メバロン酸キナーゼ(MK)」という酵素の異常によって発症するまれな疾患です。

非常にまれな疾患であるものの、世界中に100人以上の発症者がいることが想定されています。特にオランダで多く認められ、日本国内では2015年に10人の発症者が報告されています。

メバロン酸キナーゼの働きは「MVK」と呼ばれる遺伝子が司っています。高IgD症候群の発症者は、MVK遺伝子の異常によって、メバロン酸キナーゼの機能が低下しています。

また、高IgD症候群は遺伝性疾患であり、両親共にMVK遺伝子の異常がある場合に発症する可能性があります(常染色体劣性遺伝)。

症状として、多くは乳幼児期に40℃を超える発熱が繰り返し見られ、嘔吐や下痢、皮疹、首のリンパ節の腫れなどの症状を伴うことがあります。発熱は、多くの場合2〜8週間の間隔で3〜7日程度持続します(周期性発熱)。これらの症状は突然発症することが多いですが、ストレスやワクチン接種、けがなどをきっかけに生じることもあります。

発熱などの発作を起こす頻度は成人期以降に減少する傾向にあるものの、発症者は生涯に渡り発作を起こす可能性があります。また、胎児の時期の子宮内発育不全や、小頭症や白内障などの奇形、発達の遅れなどを認めることもあります。

発症者のうち、わずかにメバロン酸キナーゼの機能が残っているものは「IgD症候群」、先天的な奇形や発達遅延などを認める重症のものは「メバロン酸尿症」に分類されます。

現在のところ高IgD症候群に対する標準的な治療は確立されておらず、副腎皮質ステロイド薬や非ステロイド性抗炎症薬などを用いた対症療法がおこなわれています。また、重症者に対しては骨髄移植が考慮されるケースもあります。

出典
公益財団法人難病医学研究財団難病情報センター 「高IgD症候群(指定難病267)」
国立研究開発法人国立成育研究センター内小児慢性特定疾病情報センター 「20 高IgD症候群(メバロン酸キナーゼ欠損症)」

高IgD症候群の原因

高IgD症候群は、MVK遺伝子の異常によって発症することがわかっています。

MVK遺伝子は、体内でコレステロールを作るメバロン酸キナーゼ酵素と密接な関わりがあります。MVKと共にメバロン酸キナーゼの機能が低下することで、コレステロールの生成過程に支障が生じ、適切に処理されなかった「メバロン酸」という物質が体内に蓄積して尿中に排泄され、高IgD症候群を発症することがあります。

メバロン酸キナーゼの機能が低下することで発熱などの炎症反応を起こすメカニズムについては未だ明らかになっておらず、研究が進められています。

なお、高IgD症候群は常染色体劣性遺伝で発症することがわかっています。両親ともにMVK遺伝子の異常を認める場合には、産まれてくる子どもがIgD症候群を発症する可能性があります。

高IgD症候群の前兆や初期症状について

高IgD症候群の発症者は、多くの場合、乳幼児期に2〜8週間間隔で繰り返し発熱を認めます。発熱は通常40℃を超え、3〜7日程度持続します。

また、発熱は突然認めることが多いですが、ワクチン接種やけが、ストレスなどを機に誘発されることもあります。さらに、発熱以外に皮疹や首のリンパ節の腫れ、腹痛、嘔吐、下痢、関節痛などの随伴症状を伴うこともあります。他にも、直腸や口腔内の粘膜に潰瘍などの粘膜症状を認めるケースもあります。

国内では、肝臓や脾臓が腫れる「肝腫大」「脾腫大」を生じるほか、出生児から肝機能障害を認めた事例も報告されています。

重症の場合には、このような症状に加えて子宮内発育不全や小頭症、白内障などを認めたり、成長過程で発達の遅れが目立ったりすることもあります。

出典:国立研究開発法人国立成育医療研究センター内障に慢性特定疾病情報センター 「20 高IgD症候群(メバロン酸キナーゼ欠損症)」

高IgD症候群の検査・診断

高IgD症候群の検査では、血液検査や尿検査がおこなわれます。

血液検査では、体内の炎症反応の指標である「CRP」と呼ばれる項目を確認します。また、尿検査では、尿中に排泄されるメバロン酸の数値を調べます。

発熱や随伴症状、CRPの上昇など症状から高IgD症候群が疑われる場合には、さらに採取した血液を用いて遺伝子検査がおこなわれます。

遺伝子検査でMVK遺伝子の異常を認める場合には高IgD症候群の可能性が高いものの、発症者の中には遺伝子検査の結果が陰性になるケースもあります。

そのため、確定診断は臨床症状や血液検査、尿検査、遺伝子検査の結果から総合的に判断しておこないます。

高IgD症候群の治療

高IgD症候群の標準的な治療方針は定まっておらず、発作や炎症反応を抑えるための薬物療法がおこなわれています。

発熱などの発作時の症状に対しては、副腎皮質ステロイド薬や非ステロイド性抗炎症薬などが用いられます。また、高IgD症候群はコレステロールの代謝に深く関わる疾患であることから、一部の発症者に対しては、脂質異常症の治療薬である「スタチン」という薬剤が用いられることもあります。このような薬剤を使用しても症状が緩和しない場合には「カナキブマブ」という生物学的製剤(抗IL-1製剤)を考慮するケースもあります。

このほか、重症の場合には、骨髄移植が考慮されることもあります。

高IgD症候群になりやすい人・予防の方法

両親の双方にMVK遺伝子の異常を認める場合には、産まれてくるその子どもが高IgD症候群を発症する可能性があります。

高IgD症候群を予防する方法はありません。しかし、発症後は発熱などの症状が悪化しないように、手洗いやうがいなどの感染予防対策や、栄養バランスの取れた食事などを心がけることが大切です。

関連する病気

  • メバロン酸尿症
  • 子宮内発育不全
  • 精神運動発達遅延

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