

監修医師:
五藤 良将(医師)
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オクシピタル・ホーン症候群の概要
オクシピタル・ホーン症候群(Occipital Horn Syndrome)は、体内の銅の利用がうまくできないことで、皮膚や血管などの組織に異常をきたす非常にまれな遺伝性の疾患です。
日本では指定難病に定められており、大半が男児に発症します。発症頻度は男児の出生約68万人に1人と推定されています。
名称の「オクシピタル・ホーン」は、頭蓋骨の後方(後頭骨)に角のような小さな突起が生じる特徴に由来します。先天的な遺伝子の変異によって発症する疾患で、同じ遺伝子の変異によるメンケス病の軽症な型でもあります。
主な症状は、銅不足による結合組織の異常によって、よく伸びる皮膚や柔らかい関節、筋力の低下、膀胱の憩室(袋状のふくれ)などが見られます。メンケス病に比べて発症時期が遅く、幼児期後半~学童期に発見されることが多いです。知的発達の遅れは軽度か正常範囲におさまります。
現在、根本的な治療法は確立されていません。
(出典:難病情報センター「オクシピタル・ホーン症候群(指定難病170)」)

オクシピタル・ホーン症候群の原因
オクシピタル・ホーン症候群は「ATP7A」という銅の輸送に関わる遺伝子の変異によって生じます。ATP7A遺伝子の変異が影響して、小腸からの銅の吸収が低下し、一部の組織で銅が不足します。
ATP7A遺伝子がすべて損失するわけではなく、一部読み取りにくくなっているタイプや、遺伝子の情報が少しだけ異なるタイプなど、機能がある程度残っていることが多いです。そのため、遺伝子の機能が失われる範囲が多いメンケス病よりも症状が軽いとされています。
オクシピタル・ホーン症候群はX染色体上にある遺伝子の変異によって発症します。遺伝形式は伴性劣性遺伝(X連鎖劣性遺伝)です。女性はX染色体を2本持つため片方のX染色体に変異があっても、もう一方が正常であるため発症せず、保因者(病気の遺伝子を持っているが発症していない状態)になります。一方、男性はX染色体が1本しかないため、遺伝子の変異を受け継ぐと発症する可能性が高くなります。
オクシピタル・ホーン症候群の前兆や初期症状について
オクシピタル・ホーン症候群では銅が不足し、結合組織を強くする酵素が働かなくなることで、様々な症状を引き起こします。症状が現れ始める年齢は1〜10歳と幅広く、乳幼児期には一見わかりにくいこともあります。関節や筋肉、運動発達などに影響がでる一方で知的発達は正常か軽度の遅れにとどまる点が、重い脳症状が出るメンケス病とは異なります。
関節・筋肉などの症状
オクシピタル・ホーン症候群の約6割で幼少期に鼠径ヘルニア(足の付け根の脱腸)がみられることがわかっています。また、赤ちゃんの頃から筋肉の緊張が弱く、抱っこするとぐったりする様子が見られたり、関節が過度に柔らかい状態になって必要以上に曲がるなどの症状が見られる場合もあります。皮膚を引っ張ると通常よりも伸びやすく、肌にハリがないように感じられることもあります。
運動発達障害
幼児期から学童期にかけて、運動発達の遅れが目立つようになります。筋力が弱いため、お座りやつかまり立ち、歩行などの開始時期が同年代の子どもより遅くなることが多いです。歩行を獲得してからもふらつきながらゆっくり歩くなど、運動面で不安定さが見られます。小脳のわずかな機能低下によるバランス障害を伴うためだと考えられます。
消化器症状
慢性的な下痢を幼少期から繰り返すこともあります。これは自律神経の障害による腸の機能異常が背景にあると考えられています。
オクシピタル・ホーン症候群の検査・診断
臨床症状からオクシピタル・ホーン症候群が疑われた場合、血液検査や画像検査、遺伝子検査によって診断を確定します。
血液検査
血液検査では銅の代謝状態を調べます。血液中の銅濃度や銅を運ぶタンパク質の値を測定します。
画像検査
画像検査では、頭部のレントゲン撮影によって後頭部の骨に角状の石灰化(オクシピタル・ホーン)が写っているかどうかを調べます。また、膀胱の憩室の有無を確認するために腹部の超音波検査やCT検査を行います。血管系の異常(血管の蛇行など)を確認するためにMRA(磁気共鳴血管撮影)を実施することもあります。
皮膚生検
皮膚の一部を採取して組織検査を行い、培養した皮膚細胞内の銅濃度を調べます。コラーゲンなどの結合組織の異常がみられることもあります。
遺伝子検査
最終的な確定診断には遺伝子検査が有効です。採取した血液からATP7A遺伝子の変異を確認できれば診断が確定します。
オクシピタル・ホーン症候群の治療
オクシピタル・ホーン症候群を根本的に治す治療法は確立されていません。しかし、適切な対症療法によって症状の進行を遅らせたり、合併症を予防したりすることが可能です。
合併症への対応
膀胱の憩室が原因で尿路感染症(膀胱炎や腎盂腎炎など)を繰り返す場合には、抗生物質や手術による治療を行います。感染を起こしにくくするために抗生剤の予防的な内服を継続したり、大きい憩室を手術で切除・修復したりする治療が検討されます。
また、骨粗鬆症への対策として、骨折予防のため骨密度の経過観察やビタミンD製剤の投与などが行われることもあります。消化管の運動低下による慢性の下痢や便秘には整腸薬を用いるなど、各症状に合わせた対症療法を組み合わせていきます。
リハビリテーション
関節の過度なゆるみや筋力低下に対しては、リハビリテーションによる筋力増強訓練やストレッチを継続して行います。必要に応じて関節が脱臼しないよう固定したり、装具や車椅子を使用したりします。筋力が低下して歩行が難しくなってきた場合には、転倒予防の工夫を行うとともに、生活の場で介助や介護サービスを受けられるように環境を整えます。
オクシピタル・ホーン症候群になりやすい人・予防の方法
オクシピタル・ホーン症候群は保因者の母親から遺伝子の変異を受け継いだ男児が発症しやすい疾患です。患者の母親がATP7A遺伝子の変異を保因している場合、生まれてくる男児も50%の確率で同じ疾患を発症する可能性があります。オクシピタル・ホーン症候群を予防する方法は基本的にありません。
家系内にオクシピタル・ホーン症候群の患者さんがいる場合、遺伝カウンセリングを受けることで、将来子どもが生まれる際のリスクや選択肢について検討できます。
関連する病気
- メンケス病
- ATP7A関連遠位運動ニューロパチー
- ウィルソン病
- エーラス・ダンロス症候群
- 銅欠乏性神経障害
参考文献




