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無芽胞嫌気性菌感染症
本多 洋介

監修医師
本多 洋介(Myクリニック本多内科医院)

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群馬大学医学部卒業。その後、伊勢崎市民病院、群馬県立心臓血管センター、済生会横浜市東部病院で循環器内科医として経験を積む。現在は「Myクリニック本多内科医院」院長。日本内科学会総合内科専門医、日本循環器学会専門医、日本心血管インターベンション治療学会専門医。

無芽胞嫌気性菌感染症の概要

無芽胞嫌気性菌感染症は、「嫌気性菌」のうち、芽胞(悪化した環境下で形成される耐久性の高い細胞)を形成しない菌による感染症です。

嫌気性菌は周囲に酸素がない、あるいは酸素が少ない環境で活動するタイプの細菌であり、無芽胞嫌気性の代表的な菌種として「バクテロイデス」や「プレボテラ」などが挙げられます。これらは人体の消化管、口腔内、腟内などに常在菌として存在することが知られています。

無芽胞嫌気性菌は通常は健康被害を引き起こすことはありませんが、手術、外傷、腫瘍などにより体内の組織や血液に侵入すると、感染症の原因となる可能性があります。

感染症が生じると、脳膿瘍や肺膿瘍、歯性膿瘍などの膿瘍形成、敗血症、誤嚥性肺炎、細菌性腟炎、蜂窩織炎、慢性中耳炎などが現れることがあります。
重篤な場合は、発熱、寒気、嘔吐といった全身症状に加え、血圧低下や意識障害などのショック症状を呈することもあります。

診断は主に細菌の培養検査によって行われます。
無芽胞嫌気性菌は好気性細菌と同じ部位に存在するケースが多いため、正確に見分けることが重要です。
感染部位や全身状態を確認するために、血液検査や画像検査が併せて実施されることもあります。

治療の中心は抗菌薬の投与です。
培養検査で明らかになった種類に応じて投与される抗菌薬が決定されます。
また、膿瘍形成がある場合は、ドレナージなどの外科的処置によって膿を排出させることもあります。

無芽胞嫌気性菌感染症の原因

無芽胞嫌気性菌感染症は、消化管や口腔内、腟内などに常在菌として存在するバクテロイデスやプレボテラなどの無芽胞嫌気性菌が、無菌であるべき部位(腹腔内や血液など)に侵入し、増殖することで発症します。

感染が起こる主な原因は、消化管の手術や外傷、腫瘍、褥瘡(床ずれ)、糖尿病による潰瘍、組織の壊死などで生じた組織損傷です。
これらによって、無芽胞嫌気性菌が本来存在すべきでない部位に到達し、感染を引き起こす可能性があります。

また、感染した無芽胞嫌気性菌は、患者さんの栄養状態や免疫力の低下によっては、さらに増殖して重症化する恐れがあります。

無芽胞嫌気性菌感染症の前兆や初期症状について

無芽胞嫌気性菌感染症の初期症状は、通常、感染部位における痛みや腫れなどの局所的な炎症から始まることが多いとされています。
感染が進行すると、感染部位に膿瘍が形成されます。

症状が悪化すると、全身症状が現れ始め、発熱や嘔吐なども生じます。
さらに重症化すると、意識レベルの低下やショック症状が現れ、生命を脅かす状態に陥る可能性があります。

特に肺に感染した場合は、呼吸器系の症状が顕著となり、息苦しさや咳、胸痛などが生じやすくなります。
これらの症状は徐々に進行するため、無芽胞嫌気性菌感染症では、早期発見と適切な治療が重要です。

無芽胞嫌気性菌感染症の検査・診断

無芽胞嫌気性菌感染症が疑われる場合、主に培養検査によって診断が行われます。
膿瘍形成、傷口の悪臭、全身症状などの臨床所見がある場合、感染部位から採取した膿や血液、粘液を用いて特殊な培養検査が実施されます。

培養検査では、酸素を遮断した環境で菌を増殖させ、菌種の同定を行います。
無芽胞嫌気性菌は好気性菌と共存していることもあり、両者を区別することが重要です。

また、症状に応じて血液検査や画像検査も併せて行われます。
血液検査では炎症マーカーの上昇などを確認し、全身状態を評価します。
誤嚥性肺炎や肺膿瘍が疑われる場合は、胸部レントゲンやCT検査によって肺の状態を詳細に観察します。

これらの検査結果を総合的に判断し、適切な治療方針が決定されます。

無芽胞嫌気性菌感染症の治療

無芽胞嫌気性菌感染症の治療は、主に抗菌薬の投与と膿瘍の排出が行われます。
培養検査の結果に基づき、メトロニダゾールやカルバペネム系、チゲサイクリン、モキシフロキサシンなどの抗菌薬が用いられます。
細菌性膣炎では、抗菌薬の腟錠が処方され、指定された日数分使用するのが一般的です。

膿瘍が形成されている場合は、ドレナージなどで排膿の処置が実施されます。
必要に応じてデブリドマンも行い、壊死組織を除去して創部を清浄します。

そのほか、病態に脳膿瘍や肺膿瘍、敗血症などの症状や重症度に応じた治療が行われます。

無芽胞嫌気性菌感染症になりやすい人・予防の方法

無芽胞嫌気性菌感染症は、消化管手術を受ける人、糖尿病患者、免疫力が低下している人などに発症しやすい疾患です。
また、栄養状態が悪い人、寝たきりで褥瘡(床ずれ)がある人なども感染リスクが高まる場合があります。
外傷によって傷口から無芽胞嫌気性菌が侵入し、感染を引き起こすケースもあります。

予防として、大腸などの消化管手術を行う際は、医師が抗菌薬の注射投与や下剤、浣腸剤などの術前処置を徹底することが重要です。
また、糖尿病患者や寝たきりの方は特に栄養管理が必要であり、栄養バランスの整った食事を毎日3食摂取することで免疫力低下や低栄養状態を防げます。

これらの対策を講じることで無芽胞嫌気性菌の感染リスクを減らすことが可能です。

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