

監修医師:
本多 洋介(Myクリニック本多内科医院)
がん前駆症の概要
がん前駆症は、がんに進行する可能性の高い病変のことです。「前がん病変」とも呼ばれています。
代表的ながん前駆症には、皮膚がんの原因になる日光角化症、子宮頸がんの前がん状態である子宮頸部異形成、悪性化して大腸がんになる大腸ポリープ、口腔がんを引き起こす白板症などが挙げられます。
がん前駆症の状態は厳密にはがんではありませんが、病変が進行すると高い確率でがんになり得ます。
日光角化症を治療せずに5年間おいておくと約2.5%、子宮頸部の高度異形成では約10%、白板症では約2%でがんに進行すると言われています。
6~10mmの大腸ポリープでは、約9%にがん化が認められたという報告もあります。
がん前駆症が長期化するほど、がんを発症するリスクが高まるため、早期発見、治療などの対応が欠かせません。
ただし、これらのがん前駆症の疾患は自覚症状に乏しいケースが多く、他の目的で検査を受けた際に偶然指摘されることもあります。
がん前駆症の治療では基本的に外科的治療がおこなわれますが、疾患や進行度によっては経過観察が選択されることもあります。

がん前駆症の原因
がん前駆症は、疾患によって発症する原因が大きく異なります。
皮膚がんとの関連性が高い日光角化症は、長い年月にわたって皮膚表面が紫外線によるダメージを受けて発症すると言われています。
子宮頸がんの前がん状態である子宮頸部異形成では、ヒトパピローマウイルス(HPV)の持続感染が原因となる場合が多いです。
感染状態が続き、数年以上経過して子宮頸がんを発症するケースが指摘されています。
大腸ポリープの一部は、悪性化して大腸がんになることが分かっています。
大腸ポリープの原因には、食生活や家族歴の関与が指摘されており、アルコールの摂取や特定の遺伝子などは、大腸ポリープの発症との関係性が報告されています。
口腔がんのがん前駆症である白板症は、発症の原因がはっきりとはわかっていません。
一部には、物理的刺激やビタミンの欠乏などにより発症する可能性が示唆されています。
がん前駆症の前兆や初期症状について
がん前駆症に分類される各疾患は、はっきりした自覚症状が現れないケースも多いです。
日光角化症では、約1~3cmの赤い発疹がみられ、白い角質が付着しているケースが多いです。
顔面や耳、腕、手の甲などの紫外線が当たりやすい部位に多く見られ、湿疹やしみと区別がしにくいことも特徴の一つです。
子宮頸部異形成では、自覚症状がなく一般的に出血やおりもの、痛みなどもない場合が多いです。
ただし、進行して子宮頸がんを発症すると、月経ではないタイミングや性交時の出血、おりものの変化などがみられることがあります。
大腸ポリープでも、自覚症状のない場合が多いです。
腹痛や血便などの原因精査で大腸検査をおこなった際に、偶然発見される場合が珍しくありません。
ただし、大きくなったポリープにより腹痛や血便などが起こるケースもあります。
白板症では、舌や歯茎、頬の粘膜などに表面が盛り上がった白い斑点がみられます。
こすってもとりづらく、ざらざらした触感に触れるケースが多いです。
がん前駆症の検査・診断
自覚症状に乏しいがん前駆症は、検査で偶然指摘されるケースが珍しくありません。
子宮頸部異形成は子宮頸がん検診、大腸ポリープは便潜血検査や下部消化管内視鏡検査(大腸カメラ)などの大腸がん検診、白板症は歯科検診などで発覚するケースが多いです。
異常が疑われる場合には、組織の一部を採取して病変を調べる病理検査がおこなわれる場合もあります。
病理検査の結果がんが疑われる場合には、追加の画像検査や血液検査などの実施が検討されます。
がん前駆症の治療
がん前駆症の治療では、外科的治療が基本ですが、場合によっては経過観察となることもあります。
日光角化症の代表的な治療法には、外科的治療や液体窒素による凍結療法、外用薬の使用などが挙げられます。
病変の部位や数、年齢に応じて適切な治療法が選択されます。
子宮頸部異形成では、進行度をもとに治療方針を検討します。
進行している場合では外科的治療が選択されますが、早期では直ちに治療をせず経過観察となるケースも珍しくありません。
大腸ポリープの治療では、通常、内視鏡による切除が選択されます。
病変の大きさや形状、家族性大腸腺腫症をはじめとした多発病変では、外科的治療が必要なケースもあります。
白板症では、外科的治療やレーザー蒸散術(レーザーの熱で病変を焼く治療法)などを検討します。
切除の範囲や再発のリスクを考慮して、適切な治療法が選択されます。
がん前駆症になりやすい人・予防の方法
がん前駆症は、リスク因子への長期間暴露や家族歴などがある人で発症リスクが高まります。
日光角化症は、長期にわたる紫外線の暴露により発症のリスクが高まります。
一度発症すると、すでに皮膚がダメージを受けているため、再発しやすいと言われています。
直射日光を避け、帽子や日焼け止め、サングラスなどを活用して過度な紫外線を浴びないようにしましょう。
子宮頸部異形成は、ヒトパピローマウイルス(HPV)の持続的な感染が大きな要因です。
主に性交渉によって感染を生じるため、感染の機会が少ない10代のうちにHPVワクチンを接種することが重要です。
定期的な子宮頸がん検診も、子宮頸部異形成や子宮頸がんの早期発見につながります。
大腸ポリープでは、加工肉の過剰摂取や喫煙、飲酒などの生活習慣、家族歴などが発症のリスクを高めます。
食生活の見直しや禁煙、大腸カメラを受けることは、ポリープの発見に有効です。
白板症は、義歯による物理的刺激との関連性が指摘されています。
サイズが合わない義歯の使用や義歯による痛みが続いている状態は、白板症を生じやすくなると考えられています。
口腔内の衛生保持、定期的な歯科検診、物理的刺激をきたす義歯などの除去は予防に効果的です。
また、喫煙は歯周病のリスクを高めます。
口腔内の衛生状態を悪化させる可能性があるため、禁煙に取り組むことをおすすめします。
がん前駆症の予防は、がんの発症予防につながり、長期的には死亡リスクの低下が期待できます。
とくに前述したリスク因子をもつ人は、がんの前段階であるがん前駆症の状態で発見、治療することが生活の質の維持に大きく役立つでしょう。
定期的に健康診断やがん検診を受け、がん前駆症の早期発見に努めましょう。
参考文献
- 皮膚悪性腫瘍ガイドライン第 3 版 有棘細胞癌診療ガイドライン 2020 日本皮膚科学会ガイドライン
- 慶應義塾大学病院 医療・健康情報サイト 子宮頸部異形成に対する子宮頸部レーザー蒸散術ー婦人科ー
- 東京医科大学茨城医療センター 大腸・直腸がんの早期発見と予防
- 慶應義塾大学病院 医療・健康情報サイト 日光角化症
- 東邦大学医療センター 大橋病院 産婦人科 子宮頸部異形成について
- 国立がん研究センター ポリープの大腸がん化に腸内細菌が関係していたー家族性大腸腺腫症(FAP)から知る大腸がん発生のメカニズムー
- 国立病院機構 大阪医療センター 口腔がん
- 北里大学 アルコールとの上手な付き合い方
- 四国がんセンター 家族性大腸腺腫症
- 口腔白板症の臨床と病理 北関東医学40巻1号
- 日本臨床皮膚科医会 ひふの病気
- 国立がん研究センター 子宮頸がんの原因と症状
- 関西医科大学附属医療機関 大腸ポリープ
- 巨大結腸ポリープを伴ったPeutz-Jeghers症候群の1例 消化器内視鏡の進歩 42巻
- 家族性大腸腺腫症の内視鏡診断と治療の最前線 日本消化器内視鏡学会雑誌
- 舌白板症に対する切除生検-病理診断と設定すべき安全域について- 頭頚部癌 47巻3号
- 国立がん研究センター 知ってください ヒトパピローマウイルス(HPV)と子宮頸がんのこと
- 兵庫医科大学病院 大腸ポリープ




