

監修医師:
井林雄太(井林眼科・内科クリニック/福岡ハートネット病院)
目次 -INDEX-
光化学スモッグ障害の概要
光化学スモッグは、工場やガソリン車から排出される排気ガスに紫外線があたり、オゾンなどに分解された有毒物質です。光化学スモッグを吸い込むと喉や気管支炎に炎症を起こし、目に触れると炎症を起こします。めまい、吐き気、呼吸困難、四肢のしびれなど全身症状を起こすこともあります。これらを総合して光化学スモッグ障害と呼びます。
光化学スモッグは、本邦では昭和49年に初確認して以降、社会問題になりました。車の排ガス規制の強化などで発生件数は減少しましたが、現在も根絶にはいたりません。
関東で多く見られますが、海外から海を越えて光化学スモッグが飛来する事例もあり、地方でも被害が出るおそれがあります。
目の痛みなど軽度な症状が目立ちますが、重症化した症例報告もあります。症状が重度でも、治療は対処療法に限られます。
かつては年間4万人の患者さんがいましたが近年は被害件数が減り、令和4年の被害の届出は0人、令和3年は4人の届出に留まっています。過去の病気となりつつありますが、光化学スモッグ発生が多い地域では引き続き警戒が必要です。
光化学スモッグ障害の原因
光化学スモッグに含まれる刺激の強いオゾン、有毒物質のPANやアルデヒドを吸い込む、または触れることで発生します。
1時間値が0.06ppm以下なら、人の健康を保護するうえで維持することが望ましい基準とされています。0.06ppm以上のときは外に出るのを控えましょう。
光化学スモッグ障害は、大気中の光化学オキシダント(オゾンなど)が高濃度に達した際に、人体に引き起こされる健康被害です。光化学オキシダントは、自動車の排気ガスや工場から排出される窒素酸化物(NOx)、炭化水素(HC)から発生します。
これらの排気ガスが日光の紫外線を受けて光化学反応を起こしたものが、光化学スモッグです。
光化学スモッグの主要成分は、刺激性の高いオゾン(O3)です。
ほかにもパーオキシアセチルナイトレート(PAN: 6 Peroxy Acetyl Nitrate、CH3-C(O)O2NO2)などのパーオキシアシルナイトレート(PANs: Peroxy Acyl Nitrates、R-C(O)O2NO2)、アルデヒド(R-CHO)類など有毒物質を含みます。
高濃度の光化学オキシダントが大気中に蓄積すると、白くモヤがかかったように見えます。しかし、身近に漂っていても無色透明で視認することはできません。
光化学スモッグが発生しやすい時間、時期
光化学スモッグは紫外線が強く、晴れまたは曇り、無風の日に発生しやすくなります。
4月から10月頃に発生し、ピークは夏の7月~8月です。時間帯は午後が多いですが、午前10時頃から発生することもあります。
わが国では関東で発生が多く、特に埼玉県、千葉県は毎年複数回発生します。長崎県対馬市など九州地方は、海外の光化学スモッグが海を越えて飛来することがあります。
光化学スモッグ障害の前兆や初期症状について
光化学スモッグ障害は症状が多岐にわたるため、症状に合わせた科を受診しましょう。
目の症状が主に出るときは眼科、喉の症状が強いときは耳鼻咽喉科、動悸が止まらないときは循環器内科、全身症状が出たら内科の受診をおすすめします。
意識障害など症状が重いときはためらわず、救急車を呼んでください。
光化学スモッグ障害は目がチクチクする、涙が止まらない、のどが痛む、せきなど、有毒ガスの刺激による症状から始まります。声がれ、胸痛、吐き気、頭痛、めまいなど数多くの症状が出ます。
光化学スモッグ障害の検査・診断
光化学スモッグ障害の明確な診断基準は、2025年3月時点で確立されていません。
患者さんの症状、行動歴と、その日の光化学スモッグ発生状況を併せ、総合的に判断します。
問診
目の痛み、のどの痛み、息苦しさなどの症状が現れた場合、光化学スモッグによる影響が疑われます。特に、同じ学校のお子さんや同じ場所で屋外作業をしていた大人が複数同じ症状を訴えた場合は、光化学スモッグ障害の可能性が高くなります。医師は患者さんの症状や環境要因を総合的に評価し、ほかの疾患との鑑別を行いましょう。
光化学スモッグの把握
症状が発生した場所や時間帯に、光化学オキシダント濃度が高かったかを確認することが重要です。
患者さんが発生した自治体のホームページ、または環境庁ホームページ『環境省大気汚染物質広域監視システムそらまめくん』(https://soramame.env.go.jp/)を確認し、発生状況を確認します。
検査項目
除外診断のため、疑い症状があれば以下の項目を検査します。
- 体温、脈拍、血圧
- 血清学的検査(ASLO、CRP)
- 検査(蛋白、糖、アセトン、ロビリノーゲンなど)
- 梢血液検査(血球数、血球数、血色素量、ヘマトクリット、白血球像分類)
- 肝機能検査(疸指数、血清総ビリルビン、血清直接ビリルビン、血清総蛋白量、血清蛋白分画)
- 膠質反応(グロブリン、ZTT、CCF、アルカリホスファターゼ)
- GOT、GPT、LDH、コリンエステラーゼ
- 胸部X線
- 動脈血ガス検査
- 自律神経系機能検査
- 薬効的検査(アドレナリン、ピロカルピン、アトロピン)
- 起立性調節障害(OD)検査
- 肺機能検査
光化学スモッグ障害の治療
光化学スモッグ障害の治療は、すべて対処療法になります。
目の疾患は1%生食で洗眼し、洗浄後にコンドロイチン硫酸液点眼を行います。
チアノーゼが出れば酸素吸入(3%CO2混合酸素)、肺水腫まで症状が悪化したら酸素吸入にジキタリス急速飽和とモノフィリン注射を併用します。
光化学スモッグ障害は重症でない限り、対処療法後に安静にすれば、やがて消失します。平均消退時間はめまい18分、目の痛み2時間、咽頭通が4時間半、声がれ13時間、せき9時間半など、急性症状は長くても半日ほどです。
症状が落ち着くまでは、悪化させないためにも対処療法を行います。
光化学スモッグ障害になりやすい人・予防の方法
以下の方たちは、光化学スモッグ障害になるリスクが高い方たちです。
- 中高生(特に運動などで屋外活動するお子さん)
- 自律神経機能障害の患者さん
- アレルギー体質の方、喘息、COPDなど気管が弱い方
- 屋外作業者
小児起立性調節障害(OD)の症状があるお子さん、喘息の屋外作業者など、条件が重なるとさらにリスクが上がります。
中高生のお子さん
光化学スモッグは自律神経が乱れて症状が悪化します。自律神経機能が未発達なお子さんは影響を受けやすくなります。
特に屋外運動をするお子さんは運動時に口呼吸が増え、肺に多くの光化学スモッグを取り込み悪化するリスクが高いです。小児起立性調節障害(OD)のお子さんは特にリスクが高いため、早急な処置が必要です。
アレルギー体質の方、喘息など気管が弱い方
アレルギー体質の方も発症リスクがあります。気道が敏感で、光化学スモッグによる刺激で喘息などが悪化しやすくなります。
同様に喘息やCOPDなど気管が弱い方もリスクが高いです。オゾンは末梢肺領域まで到達しやすく、気管支の痙攣や炎症を引き起こします。
自律神経機能に問題がある方
光化学スモッグ障害と小児起立性調節障害(OD)は関連が指摘されており、症状が重症化しやすくなります。
大人でも自律神経機能が不安定な方は、同様のリスクがあります。
屋外で活動する方(スポーツ・建設作業者、配達業者など)
光化学スモッグが発生しやすい夏季の昼間に長時間屋外で活動することで、光化学スモッグの吸入、接触リスクが上がります。
予防法はただ一つ、光化学スモッグに触れない、吸わないことです。
光化学スモッグはマスクを付けても防除できません。光化学オキシダント注意報が出ている間は屋内に避難しましょう。
部屋に光化学スモッグを入れないために窓は閉め、外気取り込みシステムを停止します。換気が悪くなるので、空気清浄機をかけて空気中の汚れやウイルスなどを吸着させましょう。複数の方がいる部屋では感染症対策でマスクを付けます。
学校関係者やスポーツ監督は、お子さんを運動させる前に自治体の情報か、環境省が公開する『環境省大気汚染物質広域監視システムそらまめくん』(https://soramame.env.go.jp/)を確認し、光化学スモッグが発生していたら屋外練習を中止しましょう。
参考文献




