

監修医師:
五藤 良将(医師)
クレゾール中毒の概要
クレゾール中毒は、消毒殺菌薬などに使われる化学物質の1つである、クレゾール (cresol) による健康被害です。クレゾール はフェノール類に分類される有機化合物で「メチルフェノール」とも呼ばれます。特有の強い臭気があるのが特徴です。
この物質は組織浸透性が高く、蛋白質に対して強い変性・破壊作用を示すなど、消毒剤や殺菌剤としてすぐれた性質を持っています。一方で、クレゾールが経口、経気道または経皮により体内に入ると、局所的な損傷のほか、全身性の中毒症状の原因となります。
一般的に、クレゾール中毒の急性症状として、クレゾールの侵入経路に応じて消化管、皮膚、気道などが損傷されます。その後、頭痛、呼吸困難、けいれん、筋力の低下といった全身性の症状に発展することがあります。
クレゾール中毒の重症例では、消化管の穿孔や呼吸麻痺により摂取後数時間内に死亡する可能性があるほか、摂取後数日内には代謝性アシドーシス、メトヘモグロビン血症、腎不全など重篤な合併症を併発して、生命に危険が及ぶことも珍しくありません。
クレゾール中毒に対する解毒薬や拮抗剤は存在しないため、クレゾール中毒の治療では、クレゾールの体外排出を促す治療や、それぞれの症状に応じた対症療法が中心になります。
クレゾールは衛生管理を中心に、さまざまな用途で現在も利用されています。石鹼液と混合したクレゾール石鹸液が有名であり、希釈したものが清掃や手指消毒の用途で使われます。
クレゾールの取扱いや保管においては、クレゾール中毒につながる事故がおきないよう、厳重な注意が必要です。

クレゾール中毒の原因
クレゾールが体内に入ってしまう原因としては、経口、経気道、経皮などの侵入経路が考えられます。具体的には、クレゾールを含む消毒薬などを誤って飲み込むまたは吸入してしまう事故、あるいはクレゾール原液が皮膚にかかってしまう事故等が想定されます。
クレゾール中毒の症状は主に、クレゾールの持つ強い急性毒性によって引き起こされます。
クレゾールには強い蛋白変性(破壊)作用があるとともに、高い組織浸透性も持つため、侵入経路となった組織の細胞を破壊するだけでなく、やがて血液や神経も侵し、臓器に障害が及びます。
適切な濃度に調整されたクレゾールは、このような蛋白変性作用と組織浸透性により、殺菌消毒剤としてすぐれた機能を発揮します。しかし、高濃度のクレゾール原液の保管や取扱いを誤ることや、低濃度のクレゾールを誤飲してしまう事故があることから、取扱いにはじゅうぶん注意すべき薬品と考えられています。
クレゾール中毒の前兆や初期症状について
クレゾール中毒の初期症状は、摂取経路によって異なります。
経口摂取した場合は、口腔、食道、胃など上部消化管が損傷され、腐食や穿孔(穴があくこと)などが生じます。経気道であれば、咽頭の浮腫(ふしゅ=むくみ)や気道の狭窄(きょうさく=狭くなること)を生じます。経皮的に曝露した場合は、クレゾールが付着した部分の皮膚に紅斑(こうはん=赤くなること)や熱傷のような炎症が生じます。
各症状の重症度は、摂取あるいは曝露したクレゾールの濃度や量にもよるものの、重症例では消化管の穿孔や呼吸麻痺により、摂取後数時間内に死亡する可能性もあります。
また、クレゾール中毒では、摂取直後から見られる局所症状のほか、摂取後30分ほど経過すると頭痛、めまい、呼吸困難、脱力、けいれん、体温低下といった全身性の症状も現れることがあります。
さらに摂取後数日内には代謝性アシドーシス、メトヘモグロビン血症、腎不全など重篤な合併症を併発する可能性があります。
クレゾールの濃度が低い場合でも、皮膚、粘膜又は気道から長時間の吸収が続くと、慢性中毒を起こすことがあると指摘されています。
クレゾール中毒の検査・診断
クレゾール中毒と似たような初期症状を示す毒物は他にもあるため、クレゾール中毒の検査・診断ではまず、中毒症状の原因となった毒物を特定することが大切です。
ただし、クレゾールには特有の臭気があり、摂取した患者さんの呼気や、曝露部位周辺の臭いによって推定することが容易であるとされています。その他、問診や臨床所見からクレゾール中毒を診断します。
採尿ができる場合は尿検査も有効です。尿を放置すると黒くなり、塩化第二鉄に反応します。血液検査によりクレゾールの影響を評価します。
クレゾール中毒の治療
クレゾール中毒に対する解毒薬や拮抗剤は存在しないため、クレゾール中毒の治療では、クレゾールの体外排出を促す治療や、それぞれの症状に応じた対症療法が中心になります。
クレゾール経口摂取の初期段階の治療では、胃洗浄などが有効です。ただし、消化管の穿孔にじゅうぶん注意する必要があります。クレゾールの吸収を遅らせる目的で、オリーブ油や活性炭の投与も検討されます。
患者さんの全身状態に注意しながら、下剤や粘膜保護剤の投与、輸液、強制利尿、呼吸管理などがおこなわれます。重症例では血液透析がおこなわれることもあります。
クレゾール中毒になりやすい人・予防の方法
クレゾール中毒になりやすい人は、業務などでクレゾールを含む薬品類に接する人です。認知能力が落ちた高齢者や小児による誤飲事故等を防ぐため、クレゾールの保管方法にはじゅうぶん注意する必要があります。
クレゾール中毒を予防するために、クレゾール製品、特に高濃度で配合された原液などは、慎重な取り扱いが求められます。使用法や希釈手順についても定期的な研修をおこなうなど、個人や組織が連携してクレゾール中毒の予防について努めることが大切です。




