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カラアザール
大坂 貴史

監修医師
大坂 貴史(医師)

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京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学大学院医学研究科修了。現在は綾部市立病院 内分泌・糖尿病内科部長、京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・糖尿病・代謝内科学講座 客員講師を務める。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医。

カラアザールの概要

カラアザール (内臓リーシュマニア症) は、リーシュマニアという原虫がサシチョウバエという小さな吸血昆虫を介して人間に感染する病気です。熱帯・亜熱帯地域を中心に報告され、ブラジル、エチオピア、インド、ケニア、スーダンなどで特に多く発生しています。感染すると数週間から数か月後に高熱や全身の倦怠感、腹部の膨満感などの症状が現れ、治療が遅れると致死的になることがあります。早期の診断と治療が重要であり、感染地域への渡航時には十分な予防対策が求められます。
感染後数十年経過してから発症する場合があるため、一度でも流行地域への渡航・滞在歴がある場合には、受診時に必ず申し出てください。

カラアザールの原因

カラアザール (内臓リーシュマニア症) は、リーシュマニアという原虫によって引き起こされる感染症です。この原虫はサシチョウバエという小さな吸血昆虫を介して人間に感染します。感染したサシチョウバエが人間を吸血する際、リーシュマニア原虫が人体に侵入し感染が成立します。

カラアザールはに熱帯・亜熱帯地域で広がっており、2015年にWHOに報告された新たな患者の90%以上が、ブラジル・エチオピア・インド・ケニア・ソマリア・南スーダン・スーダンで発生していました (参考文献 1) 。

カラアザールの前兆や初期症状について

カラアザールはリーシュマニアに感染した後、発症までに数週間から数か月、場合によって年単位の時間がかかることがあります (参考文献 2)。一般的な症状は長期間続く高熱、体重減少、全身倦怠感などの風邪に似た症状です (参考文献 2, 3)。そのほかに脾臓・肝臓が腫れるため腹部膨満感を自覚する場合もあります。

カラアザールは無治療であれば多くの患者が死亡します。後述する感染リスクが高い行動歴がある方で、気になる症状がある場合には、近くの総合病院を受診してください。問診の際には渡航・滞在歴を必ず伝えてください。

カラアザールの検査・診断

カラアザールの診断においては問診で得られる情報が非常に重要です。患者がリーシュマニア流行地域に滞在した経歴、はカラアザールの診断に不可欠です。
カラアザールは、白血球・赤血球・血小板が減少する汎血球減少が特徴の1つで (参考文献 2, 3) 、これは一般的な血液検査で確認されます。画像検査によって肝臓や脾臓の肥大を確認することで臓器の状態を把握することも有用です。
診断の確定には生検組織を採取して顕微鏡でリーシュマニア原虫の存在を直接確認する方法と、血液検査により抗体の有無を調べる血清学的診断が有用です (参考文献 1, 3) 。

カラアザールの治療

抗寄生虫薬の内服による治療を行います。アムホテリシンBとよばれる薬剤を用いることが一般的です (参考文献 4) 。HIVとの重複感染をすることがあり、その場合にはHIVによる症状と内蔵型リーシュマニア症の相乗作用により症状が悪化しやすいので、HIVの治療も併せて行います。
早期診断・早期治療を開始することが、回復のための鍵となります。治療が遅れ重症化すると死亡リスクが非常に高くなるため、症状ある場合には受診をためらわないでください。

カラアザールになりやすい人・予防の方法

リーシュマニア症全般の感染リスクが高い集団は、感染地域に長期滞在した経験のある人、現地居住者、特に衛生状態が整っていない貧困地域で生活する人々です (参考文献 3) 。普段日本に居住している私たちに当てはめると、現地での仕事やボランティアの経験がある方で発症リスクが高いといえるでしょう。
流行地域に渡航して感染した後、数十年経過してから発症する症例も報告されています。「あれは昔学生時代に行っただけだから、関係ないかな」と考えずに、流行地域への渡航・滞在歴が一度でもあれば、受診時に必ず伝えるようにしてください。
流行地域を訪れる際の予防策として、感染地域への渡航や滞在時には、肌の露出を控える長袖・長ズボンの着用、虫よけ剤 (DEETなど) の使用、夜間の活動を避ける、睡眠時には蚊帳を使用するといった方法があります。これらはリーシュマニアを媒介するサシチョウバエとの接触を予防する目的のものです。

カラアザールの流行地域は暑い地域が多いため、半袖半ズボンなどの肌の露出が多い服装をしたくなるかもしれませんが、昆虫との接触が原因となる疾患を予防する観点からすると、このような服装はハイリスクと言えます。
活動する時間も重要です。サシチョウバエは主に夕方から夜間に活動するため、この時間帯の外出を避け、就寝時には蚊帳を使用することで刺されるリスクを低下させることができます (参考文献 2) 。
サシチョウバエは非常に小さい昆虫で、一般的な蚊帳は通り抜けてしまいます。目の細かい蚊帳に防虫剤をかけて使用してください。

その他にも、サシチョウバエは自ら飛べず風に乗って移動するという特徴を逆手にとる予防法もあります。地面と同じ高さではなく、できるだけ高い階で生活することでサシチョウバエとの接触を予防できるといわれており (参考文献 2) 、二階以上のフロアで寝ることが予防に有効と考えられます。


関連する病気

  • リーシュマニア症
  • 熱帯熱マラリア
  • 結核
  • 脾腫
  • 発熱
  • 免疫不全

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