

監修医師:
佐伯 信一朗(医師)
新生児敗血症の概要
新生児敗血症は、赤ちゃんの血液中に細菌が入り込んで起こる重い感染症です。発症時期により2つのタイプに分けられ、生後3日以内に発症する早期型と、生後3日以降に発症する遅発型があります。早期型は主にお母さんの産道にいる細菌が原因となり、遅発型は生まれた後の環境から感染することが多いです。特に早く生まれた赤ちゃん(早産児)は、免疫力が十分でないことや皮膚が弱いこと、医療処置が必要なことから、感染しやすい状態にあります。正期産の赤ちゃんと比べて、早産児は体を守る機能が未熟なため、一度感染すると重症化しやすく、より慎重な観察と治療が必要となります。
新生児敗血症の原因
早期型の感染は、主にお母さんの産道にいる細菌が赤ちゃんに感染することで起こります。特に破水から出産までの時間が長くなると、感染のリスクが高まります。遅発型では、医療機器(点滴や管など)を通じた感染や、病院環境からの感染が主な原因となります。早産児は特に感染のリスクが高く、これは生まれた時点での免疫力が未熟で、体を守る機能が十分に発達していないためです。具体的には、細菌と戦う白血球の働きが弱く、細菌を排除する力が不十分です。また、皮膚が薄くてデリケートなため、細菌が体内に入りやすい状態です。さらに、早産児は人工呼吸器や点滴などの医療処置が必要なことが多く、その過程で感染するリスクも高まります。特に体重が小さい赤ちゃんほど、これらのリスクが高くなります。
新生児敗血症の前兆や初期症状について
症状は様々で、軽い症状から重い症状まで幅広く現れます。初期の症状として、体温の変化(熱が出る、または逆に体温が下がる)、母乳やミルクを飲む量が減る、元気がない、ぐったりしているなどが見られます。症状が進むと、呼吸が苦しそう、心拍が速くなる、手足が冷たくなる、皮膚の色が悪くなる、おなかが膨らむ、吐き気や嘔吐、下痢などが現れることがあります。早産児の場合は特に体温が下がりやすく、呼吸が止まりそうになる発作(無呼吸発作)が多いことが特徴です。また、早産児は通常の赤ちゃんと比べて、より多様な症状が出やすく、症状の変化も急激に起こりやすい傾向があります。そのため、少しでも普段と様子が違う場合は、すぐに医療スタッフに相談することが大切です。
新生児敗血症の検査・診断
診断の基本となるのは、詳しい問診と診察です。赤ちゃんの様子、お母さんの妊娠・出産の経過、感染症のリスクとなる要因がなかったかなどを確認します。血液検査では、血液中の細菌を直接調べる検査(血液培養)が最も確実な診断方法となります。また、血液中の炎症を示す物質(CRPなど)を測定したり、血液中の白血球の数を調べたりします。これらの検査は時間をおいて何度か行うことで、より正確な診断につながります。ただし、生まれたばかりの赤ちゃんは、これらの検査値が大人とは異なる特徴を持つため、慎重に判断する必要があります。例えば、生後24時間以内は、感染がなくても炎症の値が高くなることがあります。また、感染が脳にまで及んでいないかを確認するため、必要に応じて腰から髄液を採取する検査も行われます。これは敗血症の赤ちゃんの約4人に1人が髄膜炎を合併するという報告があるためです。
新生児敗血症の治療
治療の基本は、適切な抗生物質を使用することです。早期型と遅発型で使用する抗生物質が異なり、発症時期や感染が疑われる細菌の種類によって最適な抗生物質を選択します。通常、2種類の抗生物質を組み合わせて使用します。治療開始後は、赤ちゃんの状態を注意深く観察し、必要に応じて治療内容を調整していきます。特に早産児の場合は、感染に加えて血圧が不安定になりやすく、呼吸の問題も起こりやすいため、全身状態の管理が重要です。また、血液の凝固異常や血小板の減少などの合併症が起きた場合は、それらに対する治療も必要です。感染が重症化した場合は、人工呼吸器による呼吸のサポートや、血圧を維持するための薬剤が必要になることもあります。新生児敗血症の予後は、特に早産児で深刻となることがあります。早産児の場合、敗血症による死亡率は26-37%と報告されており、特に早期型の方が遅発型より約8倍高い死亡率を示します。また、原因となる細菌の種類によっても予後が異なり、グラム陰性菌と呼ばれる種類の細菌による感染は、特に注意が必要です。短期的な影響としては、呼吸の問題や血圧の不安定さ、血液凝固の異常などが起こる可能性があります。長期的な影響としては、肺の慢性的な病気や脳の発達への影響が残ることがあります。これは早産児の場合、各臓器の予備力が少ないため、感染による影響がより大きくなりやすいためです。特に、感染により脳の白質という部分が影響を受けやすく、これが将来の発達に影響を与える可能性があります。
新生児敗血症になりやすい人・予防の方法
早産児、特に体重の小さな赤ちゃんは感染のリスクが高くなります。また、お母さんに感染症がある場合や、破水から時間が経っている場合、お母さんに発熱がある場合なども注意が必要です。予防には、まず適切な妊婦健診を受け、母体の感染症を早期に発見し治療することが重要です。出産時には、清潔な環境を保ち、適切な感染予防措置を行います。生まれた後は、医療スタッフの手洗いの徹底や、清潔な医療処置の実施が重要です。特に医療機器を使用する際は、厳重な衛生管理が必要です。早産児の場合は、お母さんへの治療による赤ちゃんの肺の成熟促進や、適切な栄養管理による免疫力の維持も大切です。また、母乳には赤ちゃんの免疫力を高める成分が含まれているため、可能な限り母乳育児が推奨されます。日常的なケアとして、赤ちゃんの体温管理、清潔な環境の維持、適切な栄養摂取、そして少しでも普段と様子が違う場合は早めに医療スタッフに相談することが大切です。
関連する病気
- 新生児髄膜炎
- 新生児肺炎
- 新生児壊死性腸炎
- 新生児伝染性紅斑
- 新生児心内膜炎
参考文献
- Pammi M:Clinical features and diagnosis of bacterial sepsis in preterm infants <34 weeks gestation. UpToDate, 2023
- Cantey JB:Clinical features, evaluation, and diagnosis of sepsis in term and late preterm neonates. UpToDate, 2023
- Simonsen KA, Anderson-Berry AL, Delair SF, et al:Early-onset neonatal sepsis. Clin Microbiol Rev 27:21–47, 2014
- Basu S, Dewangan S, Shukla RC, et al:Cerebral blood flow velocity in early-onset neonatal sepsis and its clinical significance. Eur J Pediatr 171:901–909, 2012
- Wynn JL, Wong HR:Pathophysiology of Neonatal Sepsis. In:Polin RA, Abman SH, Rowitch DA, et al(eds): Fetal and Neonatal Physiology, 5th ed, Elsevier, pp1536–1552, 2017




