

監修医師:
林 良典(医師)
血清病の概要
血清病とは、ヒト以外の血清に対するアレルギー反応です。血清病は、III型アレルギーに分類され、抗原と抗体からなる免疫複合体がアレルギー反応に関与しています。抗原であるヒト以外の生物由来の物質が体の中に入ると、異物と認識され抗体を産生、抗原と抗体が結合してできた免疫複合体が体の組織に障害を引き起こします。
血清病では、発熱・発疹・リンパの腫れ・関節痛などがみられます。重症な場合はアナフィラキシーで呼吸困難やショックに至ったり、腎臓などの臓器に障害をきたす場合もあります。
血清病は、血清療法の副作用として発見されました。19世紀末から20世紀初頭にかけて、Behringと北里柴三郎はジフテリアに対し、病原体を動物に注入し、動物から得られた血清を注射する血清療法を開発しました。血清療法を行った際、じんましんや発熱、アナフィラキシーなどの異常な反応が発現することがありました。
破傷風、ジフテリア、ヘビ咬傷などの血清療法による血清病は大幅に減少しているものの、抗体製剤や抗胸腺細胞グロブリン製剤などによる血清病は現在も発生しています。
血清病の原因
血清病は、主にヒト以外の抗体(異種抗体)が投与されることにより起こります。異種抗体の投与により、免疫複合体が形成され、組織に沈着することで、さまざまな症状を引き起こします。血清病の発生頻度は投与量に関係しているといわれています。
血清病の原因となりうる、異種抗体を含む薬剤には以下のようなものがあります。
異種抗体を含む薬剤の一つ目は、血清療法の薬剤です。マムシ毒に対する血清は、ウマの抗体を含んでいます。狂犬病免疫グロブリンも、海外では動物由来のこともあります。
異種抗体を含む薬剤の二つ目は、抗胸腺細胞グロブリン製剤です。抗胸腺細胞グロブリン製剤は、臓器移植の免疫抑制に使われ、ウサギ由来の抗体が使用されています。
異種抗体を含む薬剤の三つ目は、抗体製剤です。抗体製剤は、悪性腫瘍・関節リウマチ・炎症性腸疾患・乾癬・気管支喘息などに使用されています。日本ではマウスの抗体の一部を使用したキメラ型抗体、ヒトの抗体に近づけたヒト化抗体、完全ヒト抗体があり、ヒト化抗体・完全ヒト抗体で血清病が出ることは稀です。
また、ハチ毒・感染症・薬剤・ワクチンなどで血清病と似た症状が出ることがあり、血清病様症状と呼ばれます。
ハチ毒は、ハチ由来の異種蛋白が体内に入ることにより起こります。薬剤は、血清蛋白と結合し、異種血清と類似の反応を引き起こすと考えられています。
血清病の前兆や初期症状について
血清病は、異種抗体が投与され、異種抗体に対する抗体の産生を経て発現します。
初めてその異種抗体が体に入る(暴露する)場合は、血清病の発現までに通常1〜3週間の期間があります。異種抗体とそれに対する抗体が免疫複合体を作り、組織に沈着することで、組織に炎症反応が起こります。
血清病の初期症状は、発熱・発疹・リンパ節の腫れ・関節痛などです。重症の場合は、アナフィラキシーを起こしたり、腎臓などの臓器に影響が及ぶことがあります。
血清病の発疹は、蕁麻疹が多いです。腹痛・下痢・悪心などの消化器症状、末梢神経炎・心筋炎などが起こることがあります。
合併症として、血管炎、急性腎障害、神経障害などが起こる場合があります。腎臓症状としては、タンパク尿、乏尿などがあります。
免疫複合体は、体内から排出されるため、原因となる薬剤を止めることで比較的短い期間で回復していくケースが多いです。軽症の場合は1〜2週間で軽快します。
すでに同じ異種抗体に暴露している場合は、より早くあるいは強くアレルギー反応が出るおそれがあります。マムシ咬傷に対し1度目に血清療法を受けたときには血清病にならなかった患者さんが、再びマムシに咬まれて2度目の血清療法の際に血清病を発現した例もあります。
症状が現れた際はアレルギー科を受診していただきます。
血清病の検査・診断
血清病はIII型アレルギーです。血清病を発症した経緯と症状を確認することで診断します。
血清病の症状は、発熱・皮膚症状・関節痛などほかの疾患でも起こりやすいものであり、鑑別診断が重要となります。
共通する症状を伴う疾患として、チクングニア熱・デング熱などのウイルス感染症、全身性エリテマトーデス、猩紅熱、急性リウマチ熱、川崎病、IgA血管炎やスティーブンス・ジョンソン症候群などの過敏性血管炎といった疾患があります。血液検査、免疫学的検査、X線やCTなどの画像検査を行うことがあります。
皮疹が出る頻度も高いため、皮膚部位の組織を採取し、免疫複合体の沈着を確認することもあります。
また、腎障害の有無を評価するため、尿検査などを行うこともあります。
血清病においては、臨床検査結果に変化がみられることがあります。白血球の減少または軽度の白血球増多、末梢血塗抹標本上の形質細胞、赤血球沈降速度の上昇、軽度のタンパク質または血尿、血清クレアチニン直の一時的な上昇、補体レベルの低下(C3、C4)などがあります。
血清病は、心臓、動脈、関節、腎臓などの組織に影響が及ぶことがあります。動脈炎病変や関節滑膜における浮腫、腎臓における糸球体毛細血管の内皮増殖などがみられることがあります。
血清病の治療
血清病は、免疫複合体によるアレルギー反応のため、血清病の治療は、アレルギーの原因をこれ以上取り入れないことが先決です。
血清病の治療では、まず原因薬剤を中止します。免疫複合体は、体外に排出されるため、新しく原因薬剤が供給されなければ回復に転じることが多いです。
原因薬剤を中止するとともに、症状に対しての治療を行います。
抗ヒスタミン薬にて、痒みや皮膚症状の軽減を図ります。
発熱や関節痛に対しては、解熱鎮痛剤を用います。
重症例の場合、症状が持続している場合、臓器に障害が及んでいる場合には、ステロイド薬を使用します。
アナフィラキシーを起こしているときは、気道を確保し、アドレナリン投与などの救急対応が必要になります。
また、腎障害などの臓器障害が起きたときは、障害した臓器に対する治療も行われます。
重症例において、血中の免疫複合体を除去するための血漿交換療法により症状が軽減できることがあります。血漿交換療法は、患者さんの血液を体外に取り出し、血球成分と血漿成分に分離し、免疫複合体を含む患者さんの血漿を廃棄し、健常な血漿に置き換えます。
血清病になりやすい人・予防の方法
血清病になりやすい人は、異種血清に対するアレルギーがある人、過去に血清病や血清病様反応が出たことがある人です。
異種血清に対するアレルギーがある人は、異種抗体を含む薬剤の投与により血清病になるリスクは高いといえます。マムシ血清などは、使用前に事前にウマ抗体に対するテストを行うこととなっており、事前に血清病リスクの高い方を把握できます。
血清病リスクを把握することで、必要性とリスクを慎重に比較して使用判断ができ、万一血清病が起きた場合のために準備することもできるでしょう。
過去に血清病や血清病様反応が出た方も、十分注意を払う必要があります。特に、前にアレルギー反応が出ており同じ血清療法を行わざるをえない場合は、すでに一度抗体が産生されているため、より速やかに、より強く血清病の症状が出る恐れがあります。
病歴を医師が正確に把握できるよう必要な情報を伝えておくことが大切です。
また、使用する薬剤の量により血清病発現のリスクが変化するといわれているため、できるだけ少量の薬剤投与とするという対策方法もあります。モノクローナル抗体では、異種抗体を含む度合いが少ないほど血清病のリスクが低くなると考えられるため、ヒト化抗体、完全ヒト抗体を選択する方法もあります。
関連する病気
- 全身性エリテマトーデス
- クリオグロブリン血症
- 全身性血管炎
- 血管炎関連疾患
- レンサ球菌感染後糸球体腎炎
参考文献