

監修医師:
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)
目次 -INDEX-
免疫不全症候群の概要
免疫不全症候群は、免疫機能が正常に働かなくなる病気です。
細菌やウイルスに感染しやすくなり(易感染性)、さまざまな病気に罹患(りかん:病気にかかること)したり、症状が重症化したりする傾向があります。
免疫不全症候群には、先天的な原因で発症する原発性免疫不全症候群と、後天的な原因で発症する続発性免疫不全症候群があります。
原発性免疫不全症候群は、遺伝子の変異によって引き起こされる免疫不全症候群の総称です。
毎年約1万人に1人の割合で発症し、疾患は400以上に分類されます。
発症時期はさまざまで、生後3ヶ月〜2歳ごろに症状が現れる例もあれば、出生直後や成人後に発症する例もあります。
症状も多様で、風邪症状が頻繁に現れ、治りにくい場合もあれば、易感染性がなくリンパ節の腫大や悪性腫瘍、アレルギーなどを呈する場合もあります。
(出典:難病情報センター「原発性免疫不全症候群(指定難病65)」)
続発性免疫不全症候群は、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)感染症や糖尿病、がん、免疫抑制療法などが原因で発症します。
特にHIV感染症は重要で、感染してから数週間〜十数年後に風邪症状が出現し、その数年後に免疫機能が徐々に低下して肺炎や結核などの重篤な感染症に至ります。
(出典:厚生労働省「HIV感染症(HIV Infection)・AIDS(後天性免疫不全症候群)」)
免疫不全症候群を完全に治癒させる治療法は少なく、各疾患の特性や重症度に応じて適切な対症療法がおこなわれます。
治療の主な目的は、感染症の予防と管理、患者の生活の質の向上です。

免疫不全症候群の原因
免疫不全症候群の原因は、原発性免疫不全症候群と続発性免疫不全症候群によって異なります。
原発性免疫不全症候群
原発性免疫不全症候群は、主に免疫に関わる遺伝子の異常によって発症します。
遺伝子の異常により、免疫細胞の機能や生成に影響を与え、免疫系の正常なはたらきを妨げます。
家族のなかに同様の症状をもつ人や、遺伝子変異の保因者がいる場合は発症リスクが高まります。
続発性免疫不全症候群
続発性免疫不全症候群の原因は、HIVの感染や免疫抑制剤の投与、糖尿病、がんなどが挙げられます。
HIV感染は特に重要な原因の一つです。
HIVは主に性行為を通じて感染し、感染者の体液(精液、膣分泌液、血液、母乳など)を介して伝播します。
免疫系の中核を担うT細胞を攻撃し、徐々に体の免疫機能を低下させます。
免疫不全症候群の前兆や初期症状について
免疫不全症候群の初期症状は多くの場合、一般的な風邪症状に似ています。
咳や鼻水、発熱などの症状が長引いたり、頻繁に繰り返したりすることが特徴的です。
これらの症状が通常よりも長期間続く、あるいは何度も再発する場合、免疫不全症候群の可能性を考慮する必要があります。
症状が進行すると、肺炎や中耳炎、膿瘍、髄膜炎などのより重篤な感染症を繰り返し発症することがあります。
これらの疾患が増悪することで、難聴や気管支拡張症などの合併症が生じる場合もあります。
さらに免疫系の異常により、悪性腫瘍やアレルギー疾患、自己免疫疾患などを併発することもあります。
HIV感染症の場合は、ほかと異なり症状の進行パターンが特徴的です。
感染後、数週間から十数年にわたる潜伏期間があります。
その後、風邪に似た症状が現れますが、多くは一時的に落ち着きます。
しかし、一定の期間が空いた後、発熱や下痢、リンパ節の腫れなどの症状が再び現れ、免疫機能がさらに低下していきます。
最終的には、肺炎や皮膚炎、悪性腫瘍など、通常では発症しにくいさまざまな疾患(日和見感染症:ひよりみかんせんしょう)に罹患しやすくなります。
免疫不全症候群の検査・診断
免疫不全症候群の診断は、主に血液検査を中心におこなわれます。
血液検査では、白血球や好中球、Bリンパ球、Tリンパ球などを測定します。
HIV感染症が疑われる場合は、HIVに対する抗体検査がおこなわれます。
さらに原発性免疫不全症候群の場合は、原因を調べるために遺伝子検査が実施されることもあります。
免疫不全症候群の治療
免疫不全症候群の治療では、主に感染症に対する対症療法が中心になります。
抗菌薬や抗ウイルス剤、抗真菌剤などを用いて、発生した感染症を治療したり、予防的に投与したりします。
原発性免疫不全症候群では、欠損している免疫系の要素を月1回の静脈注射で補充する治療もおこなわれます。
重症例では根治的治療として同種造血細胞移植が検討されることもあります。
HIV感染症では病気の進行を抑えるための抗HIV薬が開発されています。
3〜4種類の抗HIV薬を組み合わせた多剤併用療法をおこなうことによって、体内のウイルス量を抑え、免疫力を回復・維持することが可能になっています。
糖尿病などの疾患によって発症している場合は、原因に対する治療をおこないます。
また、感染症予防のための生活指導も大切です。手洗いやうがいなどの基本的な衛生管理を徹底し、感染症の人との接触を避けるように指導します。
食中毒予防のために生の肉や魚、卵の摂取を控えることも推奨されます。
免疫不全症候群ではこれらの治療により、感染症の予防や管理、生活の質の向上を目指します。
免疫不全症候群になりやすい人・予防の方法
免疫不全症候群になりやすい人は種類によって異なります。
原発性免疫不全症候群の場合、一親等の家族や親族に発症者がいる人がなりやすい傾向にあります。
HIV感染症は主に性行為によって発症リスクが高まります。
糖尿病やがんなどの疾患をもつ人は、薬剤の使用などにより免疫機能が低下し、続発性免疫不全症候群になりやすくなります。
全ての免疫不全症候群を予防することは難しいですが、HIV感染症は性行為の際にコンドームを適切に使用することで、感染リスクを大きく減少させることが可能です。
また、免疫不全症候群の家族歴がある場合や、日常生活で感染症を繰り返す場合は、専門医による診断を受けることが推奨されます。
定期的な健康診断や予防接種の実施も、免疫機能の維持と感染症予防に役立ちます。
参考文献




