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滑膜肉腫
西田 陽登

監修医師
西田 陽登(医師)

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大分大学医学部卒業。大分大学医学部附属病院にて初期研修終了後、病理診断の研鑽を始めると同時に病理の大学院へ進学。全身・全臓器の診断を行う傍ら、皮膚腫瘍についての研究で医学博士を取得。国内外での学会発表や論文作成を積極的に行い、大学での学生指導にも力を入れている。近年は腫瘍発生や腫瘍微小環境の分子病理メカニズムについての研究を行いながら、様々な臨床科の先生とのカンファレンスも行っている。診療科目は病理診断科、皮膚科、遺伝性疾患、腫瘍全般、一般内科。日本病理学会 病理専門医・指導医、分子病理専門医、評議員、日本臨床細胞学会細胞専門医、指導医。

滑膜肉腫の概要

滑膜肉腫は、稀な悪性の軟部腫瘍ですが、軟部腫瘍の中では比較的よくみられる種類の腫瘍です。特に15歳から35歳の若い世代に多く発生し、思春期や若年成人[AYA世代:Adolescent and Young Adult(思春期・若年成人)]に特徴的ながんの一つとされています。

滑膜肉腫の原因

滑膜肉腫は、染色体の異常によって特定の融合遺伝子が形成されることで発生する腫瘍です。この融合遺伝子が細胞の働きを変えてしまうために、腫瘍が形成されると考えられています。

滑膜肉腫の主な原因

融合遺伝子の形成

SS18-SSX融合遺伝子
滑膜肉腫のほとんど(95%以上)で認められる原因遺伝子です。この遺伝子は、第18染色体とX染色体が入れ替わる「染色体転座」という現象によって形成されます。
この遺伝子は、細胞の働きを制御する「BAF複合体」という装置の一部を変化させ、細胞の成長や働きを異常にしてしまいます。

BAF複合体の変化

正常なBAF複合体の代わりに、融合遺伝子によって作られた「変異BAF複合体」が機能します。この変異複合体は、細胞内で特定の遺伝子を異常に働かせ、正常な細胞を腫瘍細胞へ変化させると考えられています。

その他の要因

Wntシグナルの異常
細胞の増殖に関わるシグナルの乱れが滑膜肉腫に関連している可能性があります。
カドヘリン-カテニン系の異常
細胞の結びつきを制御する仕組みの異常が腫瘍の悪性化に関与している可能性があります。
神経関連遺伝子の異常
この腫瘍が神経細胞に由来する可能性も示されています。

滑膜肉腫の前兆や初期症状について

主な初期症状

腫れやしこり
患部に弾力のある硬い腫瘤(しこり)が触れることが多いです。
痛み
腫瘍を押すと痛みを感じることがあり、これを圧痛といいます。
腫瘍の増大
腫瘍は比較的ゆっくりと大きくなるため、良性腫瘍と間違われることもあります。

その他の特徴

発症部位
四肢、特に膝や足首などの関節付近にできることが多いです。
また、体幹や頭部・首など、体のどこにでも発生する可能性があります。

以上のような症状がみられる場合は整形外科を受診しましょう。

滑膜肉腫の検査・診断

滑膜肉腫の診断には、画像検査病理組織検査遺伝子検査が用いられます。

1. 画像検査

X線検査

腫瘍内に石灰化が見られる場合があり、全体の約30%で確認されます。

CT検査

腫瘍内部に石灰化や出血があると不均一な画像が見られることがあります。石灰化の検出に有用です。

MRI検査

腫瘍の特徴を詳しく確認できる重要な検査です。

  • T1強調画像: 低信号を示すことが多い。
  • T2強調画像: 高信号を示し、出血や壊死で信号が多様に変化します。
  • Triple signal sign: 高信号・中間信号・低信号が混在する特徴的な像。
  • 造影MRI: 腫瘍の充実部分が強く造影されます。

FDG-PET検査

腫瘍に特有の代謝活性を確認できます。

2. 病理組織検査

滑膜肉腫の確定診断に必須の検査です。

組織学的分類

  • 二相型: 上皮性細胞と紡錘形細胞が混在。
  • 単相型: 上皮性または紡錘形のいずれかが優勢。
  • 低分化型: 異型が強く、壊死を伴う場合があります。

免疫染色

サイトケラチンやTLE1など、滑膜肉腫に特有のマーカーを用いて診断を補助します。

3. 遺伝子検査

SS18-SSX融合遺伝子

滑膜肉腫の90%以上に特有の遺伝子異常(t(X;18)転座)が確認されます。RT-PCR検査で検出され、確定診断の決め手となります。

鑑別診断

滑膜肉腫と症状が似た以下の疾患との区別が必要です。

  • 腱鞘巨細胞腫
  • 神経鞘腫
  • 明細胞肉腫
  • 横紋筋肉腫
  • Ewing肉腫 など

これらは画像所見や遺伝子検査を用いて慎重に鑑別します。

滑膜肉腫の治療

滑膜肉腫は、手術、化学療法、放射線療法などを組み合わせた治療が必要です。それぞれの患者さんに合わせた最適な治療法が選択されます。

主な治療法

1. 手術(外科的切除)

腫瘍を完全に切除すること(R0切除)が治療の基本です。これにより、再発や転移のリスクを減らします。
不完全な切除となった場合でも、追加手術を行うことで効果が期待できます。

2. 化学療法

化学療法は、滑膜肉腫に対して比較的効果が高いとされています。標準的な薬剤は、アントラサイクリン系薬剤(ドキソルビシンなど)とイホスファミドの併用療法です。
腫瘍が大きい場合や進行している場合には、手術前後に化学療法を行うことがあります。

進行期や切除不能な場合
ドキソルビシン単剤や、トラベクテジン、パゾパニブ(分子標的薬)などの薬剤が使用されます。

3. 放射線療法

手術後の再発予防や、腫瘍が切除できない場合の症状緩和のために使用されます。

4. 免疫療法

NY-ESO-1という腫瘍に特有のタンパク質を標的とした免疫療法が研究されています。
免疫チェックポイント阻害薬(ニボルマブなど)の有効性は、現時点では限定的とされています。

5. 新しい治療法

特定の遺伝子や細胞内の異常を狙った治療法が研究中です。
例: WntシグナルやBAF複合体を標的とした薬剤。

治療の流れ(アルゴリズム)

切除可能な場合

  • 小さな腫瘍: 手術で切除、必要に応じて化学療法。
  • 大きな腫瘍: 手術前後に化学療法を追加。

切除不能な場合
化学療法(ドキソルビシンなど)を中心に治療を行い、効果が見られれば追加治療を検討します。
抵抗性がある場合は、新しい治療法や臨床試験への参加が選択肢になります。

治療後の経過と予後

治療後の5年生存率は約35〜75%、10年生存率は20〜63%とされています。腫瘍が小さく、早期に発見されるほど予後は良好です。
治療後5年以上経過してから再発や転移が起こることもあるため、長期的な経過観察が必要です。

滑膜肉腫になりやすい人・予防の方法

滑膜肉腫になりやすい人

年齢
15歳から35歳の若い年齢層に多く発生します。特に思春期や若年成人(AYA世代)に好発します。

性別
わずかに男性に多いですが、男女差は大きくありません

発生部位
主に下肢の関節近く(膝関節周囲)に発生しますが、体幹部、頭頚部、後腹膜など体のどこにでも発生する可能性があります。

遺伝的要因
染色体転座(t(X;18))により、滑膜肉腫の95%以上で見られるSS18-SSX融合遺伝子が発生の原因です。ただし、この遺伝子異常の正確な発生メカニズムは未解明です。

予後不良因子
腫瘍の大きさが5cm以上、単相型、低分化型、体幹部や頭頚部での発生、20歳以上での発症などが予後を悪化させる要因とされています。

滑膜肉腫の予防法

滑膜肉腫は遺伝子異常が原因であるため、生活習慣の改善で予防することは困難です。ただし、早期発見が予後改善の鍵となります。

自己チェック
体の表面にしこりや腫れがないか注意深く観察しましょう。特に関節近傍に異常があれば早めに専門医を受診してください。

早期受診
関節付近に痛みや腫れがある場合は放置せず、すぐに医療機関で診断を受けることが重要です。

定期健康診断
定期的に健康診断を受けることで異常の早期発見につながります。

関連する病気

参考文献

  • 大塚隆信, 福田国彦, 小田義直(編); 骨・軟部腫瘍―臨床・ 画像・病理, 改訂第2版. 診断と治療社, p.270-271, 2015.
  • 青木 純 , 青木隆敏 , 上谷雅孝・他(編); 骨軟部画像診断スタンダード . メディカル・サイエンス・イン ターナショナル, p.168-169, 2014.
  • Murphey MD, Gibson MS, Jennings BT, et al: From the archives of the AFIP: imaging of synovial sarcoma with radiologic-pathologic correlation. Radiographics 26: 1543-1565, 2006.

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