

監修医師:
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)
目次 -INDEX-
POEMS症候群の概要
POEMS症候群は、5つの主症状である「多発性神経炎」「臓器の腫大」「内分泌の異常」「Mタンパク(腫瘍化した形質細胞から産生される異常な抗体)」「皮膚症状」の頭文字をとって名付けられた、まれな疾患です。
日本では報告者の名前から「クロウ・深瀬症候群」とも呼ばれ、厚生労働省の指定難病に登録されています。
POEMS症候群では成人の幅広い年代で発症例が報告されていて、女性より男性の発症が多いことが知られています。ただし患者数の少なさもあって、POEMS症候群を発症する原因やメカニズムについては、まだ未知の部分が多いとされています。
一部の骨髄(骨の中心部)やリンパ節に腫瘍化した形質細胞が異常に増殖し「血管内皮増殖因子」というタンパク質が過剰に産生されることが、この病気の発症に関与していると考えられています。
POEMS症候群の典型的な症状は、手足のしびれや脱力などの末梢神経障害です。手足のむくみや腹水の症状が出ることも多いとされています。これは血管内皮増殖因子の増加により、体内の血管から水分が漏れ出すことが原因だと考えられています。病状が進むと、色素沈着や多毛などの皮膚症状もみられるようになり、骨や臓器にも障害が及ぶケースもあります。
POEMS症候群の治療法は研究が進められているものの、まだ確立されていません。病変に対し外科的切除や放射線療法が試みられることもありますが、多くの場合、薬物療法が選択されます。
POEMS症候群はかつては予後不良の疾患として知られていました。しかし近年ではさまざまな治療法が試みられ、長期寛解の可能性も高まっています。治療が奏功しても数年内での再発も多くみられるため、慎重な経過観察が必要な疾患です。
(出典:難病情報センター「クロウ・深瀬症候群(指定難病16)」)

POEMS症候群の原因
POEMS症候群は患者数が少ないこともあり、発症原因などについて未知の部分が多い疾患です。
各症状に対しては、部分的な発症メカニズムが判明しつつあるものも存在します。
たとえばむくみや腹水の症状では、血管内皮増殖因子の過剰産生が主に関与していると考えられています。
血管内皮増殖因子は血管の透過性を亢進(増大)させたり、新しい血管の形成を促したりする作用があります。この作用により、全身のさまざまな組織で水分が血管外へ漏れ出し、むくみや胸水、腹水などの症状が引き起こされると考えられています。
POEMS症候群の特徴的な症状である末梢神経障害の発症メカニズムについては、十分には解明されていません。
POEMS症候群の前兆や初期症状について
POEMS症候群の初期症状は、主に末梢神経障害による手足のしびれや脱力として現れます。
しかし、症状の出現パターンは多様で、手足のむくみや胸水、腹水、皮膚症状から始まることもあります。
また、男性では女性化乳房が初期症状になる場合もあります。
病気の進行に伴い、手足のむくみや皮膚症状がより顕著になります。
適切な治療を受けられない場合、症状は徐々に悪化して手足の麻痺が進行したり、心不全や腎不全などの重篤な合併症を引き起こしたりする可能性があります。
POEMS症候群の検査・診断
POEMS症候群の診断は、複数の検査結果を総合的に評価しておこなわれます。
主な検査項目には、末梢神経障害の評価や骨病変の検出、血液中のMタンパクの検出および血管内皮増殖因子の測定が含まれます。
末梢神経障害の検査では、深部腱反射検査やRomberg徴候の確認などがおこなわれます。
深部腱反射検査では腱を刺激したときの筋肉の反応を観察し、神経系の機能を評価します。
Romberg徴候では、両足をそろえて立った状態で閉眼したときに、感覚の異常によって体が大きく揺れるか確かめます。
骨病変の検査には、CT検査やPET検査が用いられ、骨髄の異常や骨硬化性病変を詳細に観察します。
Mタンパクや血管内皮増殖因子は血液検査によって測定します。
Mタンパクが微量でも検出されたり、血管内皮増殖因子が高値を示したりする場合は、POEMS症候群が疑われます。
そのほか、皮膚症状の観察もおこなわれます。
特徴的な赤黒い色素沈着や多毛、チアノーゼ、白状爪、血管腫などの皮膚症状を確認します。
皮膚症状は病気の進行に応じて変化することがあるため、経過観察にも有用です。
これらの検査結果を総合的に評価し、診断基準に照らし合わせることで、POEMS症候群の診断が確定されます。
POEMS症候群の治療
POEMS症候群の治療では、腫瘍の発生部位や患者の状況に応じて選択されます。
一か所にだけ腫瘍が認められる場合などでは、外科的切除や局所的な放射線療法が選択されることがあります。
しかし、これらの局所療法をおこなった後も、ほかの部位で新たな腫瘍が発生している可能性があるため、臨床症状や検査値の慎重な経過観察が不可欠です。
腫瘍が多発している場合などでは薬物療法が主な選択肢になります。骨髄腫の治療法に近い手法が、いくつか研究されています。
代表的な治療法として、自家末梢血幹細胞移植と化学療法の併用があります。
この方法では、抗がん剤(主にメルファラン)を大量投与して腫瘍を破壊し、その後自己の造血幹細胞を移植して血液機能を回復させます。
治療の選択は、患者の年齢や全身状態、臓器機能などを考慮し、個々の状況に応じた適切な方法が選択されます。
症状の管理や生活の質の改善を目的とした対症療法も重要な役割を果たします。
POEMS症候群になりやすい人・予防の方法
POEMS症候群の発症リスクを高める明確な要因は、現在のところ特定されていません。
遺伝的な要因は指摘されておらず、親族間での遺伝などはしないものと考えられています。
疫学的には女性より男性に患者数が多く、発症年齢の平均値は50代とされるものの、20代から80代まで幅広い年齢層に発症例が報告されています。
予防法についても現時点では確立されたものはありません。
しかし、POEMS症候群が疑われる症状が出た場合は、できるだけ早期に診断を受け、適切な治療を開始することが重要です。
早期発見と適切な治療により、症状の進行を抑えられる可能性があります。
参考文献




