水銀中毒
田頭 秀悟

監修医師
田頭 秀悟(たがしゅうオンラインクリニック)

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鳥取大学医学部卒業。「たがしゅうオンラインクリニック」院長 。脳神経内科(認知症、パーキンソン病、ALSなどの神経難病)領域を専門としている。また、問診によって東洋医学的な病態を推察し、患者の状態に合わせた漢方薬をオンライン診療で選択する治療法も得意としている。日本神経学会神経内科専門医、日本東洋医学会専門医。

水銀中毒の概要

水銀中毒は、体内に水銀が過剰に取り込まれることで起こる中毒です。

水銀には「金属水銀」「無機水銀化合物」「メチル水銀(有機水銀化合物)」があります。
このうち消化管から取り込まれる可能性が高いのは主にメチル水銀で、カジキマグロ、アコウダイ、金目鯛、クジラなどの魚に多く含まれています。そのため、これらの魚介類の過剰摂取には注意が必要です。

摂取されたメチル水銀は通常、肝臓と腎臓に取り込まれ、尿や便で排出されますが、過剰に取り込むと体内に蓄積する可能性があります。
メチル水銀は、脳の毒物を取り込まない性質(血液脳関門)に逆らって、脳に蓄積することもあります。

水銀中毒の症状は、成人では感覚障害、小脳失調、視野障害、聴覚障害などが現れます。
これらの症状はハンター・ラッセル症候群と呼ばれる中枢神経症状の一部です。
特に深刻なのは、母体が水銀中毒になった場合で、胎児に脳性麻痺や知能障害などの重篤な症状を引き起こす可能性が高まります。
症状の程度は、摂取した量や期間、年齢によっても異なります。

水銀中毒の治療は、まず水銀の摂取を絶ち、体内に取り込んだ水銀を排出させることが基本になります。
水銀の毒性を弱める「キレート剤」などの投与もおこないます。
症状が慢性化している場合は、リハビリテーションをおこなうこともあります。

水銀中毒の原因

水銀中毒の主な原因は、水銀の過剰摂取です。
特に有害なのはメチル水銀で、主に魚介類を通じて人体に取り込まれます。

摂取されたメチル水銀は、約70日で体内から排出されていきます。
尿や便、頭髪などを通じて徐々に体外に排出されるため、永久に体にとどまることはありません。

メチル水銀は、一般的に一定濃度以下であれば、毎日摂取しても健康上の問題は生じないとされています。
しかし、胎盤を通過して胎児に影響を及ぼしやすいことがわかっており、中枢神経系の発達に影響を与える可能性があるため、特に妊婦の摂取量は注意が必要です。

水銀中毒の前兆や初期症状について

成人の場合、神経症状が主な症状となります。
手足や顔面のしびれ感(じんじんする感覚)、触覚の低下などの感覚障害が現れます。
まっすぐに歩きにくくなるなどの小脳失調や、視野障害、聴覚障害も生じることがあります。
症状の程度や進行は、取り込んだ水銀の量や期間、年齢、個人の感受性によっても異なります。

妊娠中の母体が水銀中毒になると、胎児に脳性麻痺や知能障害などの重篤な神経発達障害が起こる可能性があります。

水銀中毒の検査・診断

水銀中毒の診断は、複数の検査を組み合わせることによっておこないます。
まず、血液検査にて総水銀(Hg)濃度や、肝臓や腎臓の機能を評価するマーカーなども調べます。
尿や毛髪のメタル解析によって水銀の含有量も確認されます。

さらに、脳の障害の程度を調べるため、CT検査やMRI検査などの画像検査が実施されます。
これらの検査結果を総合的に判断し、水銀中毒の診断がおこなわれます。

水銀中毒の治療

水銀中毒の治療は、まず水銀の摂取を絶つことから始まります。
患者には魚介類などの摂取を控えるように指示し、同時に体内に取り込まれた水銀の排出を促します。

治療の中心となるのは、キレート剤の投与です。
キレート剤は水銀中毒の解毒剤として機能し、体内の水銀と結合して毒性を弱めながら排泄を促す作用があります。

感覚障害や小脳失調、視野障害、聴覚障害などの症状が慢性化した場合は、薬物療法やリハビリテーションによる治療がおこなわれます。
リハビリテーションでは、失われた機能に対して代替機能を活用しながら、日常生活動作の再獲得を目指します。

出生した赤ちゃんに脳性麻痺や知的障害が起こった場合、早期からの適切な療育や支援が重要となります。
個々の症状や発達段階に応じた専門的なケアが必要となり、長期的な支援体制が求められます。

水銀中毒になりやすい人・予防の方法

水銀中毒になりやすい人は、主にメチル水銀を含む魚介類を過剰に摂取する人です。
特に、マグロ類(本マグロ、メバチマグロ、メカジキなど)、深海魚類(金目鯛、ムツ、ユメカサゴなど)、クジラ類(バンドウイルカ、マッコウクジラ、ツチクジラなど)などの水銀濃度が高い魚介類を頻繁に食べる人がリスクが高いとされています。

また、虫歯の詰め物に使用される「アマルガム」という金属水銀も、水銀蒸気になって体内に吸収される可能性がありますが、水銀に対して過敏な人でなければ、通常は健康状態に影響及ぼすことがありません。

水銀中毒の予防には、水銀濃度が高い魚介類の過剰な摂取を控えることが重要です。
一般の人は、水銀濃度が高い魚介類を主菜とする食事を週に2回以内(合計で週100〜200g程度以下)に抑えることが推奨されています。

特に注意が必要なのは、妊娠している人や、近いうちに妊娠を予定している人です。
メチル水銀は胎児の中枢神経の発達に影響を及ぼす可能性があるため、これらの人は水銀濃度が高い魚介類を主菜とする食事を週1回以内(合計で週50〜100g程度以下)に抑えることが推奨されています。

サンマやイワシ、サバなどのメチル水銀濃度が低い魚介類の摂取を控える必要は特にありません。
バランスの取れた食事を心がけ、特定の食品に偏らないことが水銀中毒の予防につながります。

(出典:日本生活共同組合連合会 食品の安全に関するQ&A


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