

監修医師:
前田 広太郎(医師)
目次 -INDEX-
ジカウイルス感染症の概要
ジカウイルス感染症とは、ジカウイルスというウイルスに感染することでかかる病気です。このウイルスは、主にヤブカという種類の蚊を介して人間に伝染します。ジカウイルス感染症にかかっても多くの場合は軽い症状で済み、症状が出ないこともあります。症状が出る場合は発熱や発疹、関節の痛みなどが出ることがあります。また、免疫力が低下している場合は重症化することがありえるため注意が必要です。そして、妊婦さんが感染するとおなかの中の赤ちゃんに影響が出ることがあります。流行地域では母親が感染していると赤ちゃんにもジカウイルスが伝染し、小さな頭で生まれてくる「小頭症(しょうとうしょう)」という病気になる赤ちゃんが見つかっています。ジカウイルス感染症に対する特効薬はないため、治療としては症状を和らげる治療が行われます。(参考文献1)
ジカウイルス感染症の原因
ジカウイルスは、デングウイルスと同じフラビウイルス科フラビウイルス属というグループに入るウイルスです。このウイルスはネッタイシマカやヒトスジシマカなどのヤブカ属の蚊によって人から人へうつされます。ヒトスジシマカは、日本でも特に夏の時期によく見られる蚊で、庭やベランダの水たまりなどに卵を産みます。そのため、日本でもジカウイルスが広がる可能性がゼロとは言えません。(参考文献1)
ジカウイルス感染症の前兆や初期症状について
ジカウイルスに感染しても、約80%の人は症状が出ません。症状が出る場合は、ウイルスに感染してから3日〜12日くらいで以下のような症状があらわれます。
・軽い発熱(38.5度を超える高熱になることは少ない)
・赤い発疹
・関節の痛み、関節がはれる
・目が赤くなる(結膜充血)
・筋肉痛や頭痛、目の奥が痛くなる
・吐き気や腹痛、下痢、めまい など
ほとんどの場合、これらの症状は4~7日間ほどでおさまります。しかし、まれにギラン・バレー症候群という、かぜ症状の1,2週間後に両手足の感覚が鈍くなったり力が入りにくくなったりする症状を起こす病気が起こることがあります。
また、ブラジルでの流行の際には、妊婦が感染したことで、赤ちゃんが小頭症になるケースが多く報告されました。小頭症になると赤ちゃんの脳の発達に影響が出るおそれがあります。(参考文献1)
ジカウイルス感染症の検査・診断
ジカウイルス感染症は、さまざまな症状を引き起こしますが、症状だけでは他の病気と見分けがつきにくいのが特徴です。確実に診断するためには、感染の可能性がある人との接触歴を確認したり、血液や尿を使った検査を行う必要があります。
まず、次のような症状があるかを確認します。
・発熱または発疹
・関節の痛み・腫れ・目の充血
これらのうち、発熱または発疹に加えて、どれか1つでも当てはまると、ジカウイルス感染の可能性が考えられます。
次に、感染者と接触した可能性を確認するために次のようなことを聞くことがあります。
・ジカウイルス感染症が流行している地域(2018年時点ではアフリカ、中南米、西太平洋など)に発症前の12日以内に渡航していたか(参考文献2)
・上記の症状があり流行地域に渡航していたパートナーと適切なコンドームの使用なしに性交渉を行ったか
症状や接触歴からジカウイルス感染症が疑われた場合の検査としては主に以下の4つの方法が用いられます。
①ウイルス分離
血液や尿を培養し、ジカウイルスが検出されないかを調べます。
②遺伝子検査
PCR法を用いて尿や血液からジカウイルスの遺伝子が検出されないかを調べます。
しかし、感染から一定期間経っているとウイルス遺伝子は検出されなくなるため、①ウイルス分離や②遺伝子検査の結果が陰性だったとしても感染している可能性が残ります。そこで、次のような抗体検査も合わせて行います。
③IgM抗体検査
感染してすぐに体内で作られる「IgM抗体」の量を調べます。
④中和抗体検査
血液内にジカウイルスに特有の抗体(中和抗体)があるかを調べます。
ジカウイルスは、デングウイルスや日本脳炎ウイルスなどと似ているため、それらのウイルスに反応して検査結果が陽性になる「交差反応」が起こることがあります。そのため、IgM抗体検査と中和抗体検査を組み合わせて、総合的に判断する必要があります。また、黄熱ワクチンや日本脳炎ワクチンを接種した人では、IgM抗体が上昇することがあるため、ワクチン歴の確認も大切です。
これらの検査はどの医療機関でも行えるわけではありません。ジカウイルス遺伝子検査は国立感染症研究所や検疫所、全国の地方衛生研究所で実施されています。また、ジカウイルスIgM抗体検査は国立感染症研究所および全国9カ所の地方衛生研究所アルボウイルスセンターで実施されています。(参考文献1, 3,4)
ジカウイルス感染症の治療
ジカウイルス感染症には、ウイルスに対する特効薬はありません。そのため、症状をやわらげるための治療が中心になります。熱や痛みをおさえるための解熱鎮痛薬を使うだけで済むことも多いです。もし脱水症状がある場合には点滴を行います。(参考文献1)
ジカウイルス感染症になりやすい人・予防の方法
ジカウイルスはもともと、1947年にアフリカのウガンダにある「ジカ森林」で発見されました。その後、1968年にはナイジェリアで人からもウイルスが見つかっています。2007年にはミクロネシアのヤップ島で大きな流行があり、2013年にはフランス領ポリネシアでも1万人ほどが感染しました。その後、南アメリカのブラジルやコロンビア、さらにカリブ海の国々でも広がりました。現在までに、アメリカ大陸やカリブ海地域の20以上の国や地域で症例が報告されています。日本でも、海外で感染して帰ってきた人がジカウイルスにかかっていたという報告があり、これを「輸入症例」といいます。2016年までに10例の輸入症例が報告されています。
ジカウイルスにかからないようにするためには、蚊にさされないことがとても大切です。ジカウイルスが流行している地域に渡航する場合には、長そで長ズボンを着たり、蚊よけスプレーなどの蚊の忌避剤を使うことが推奨されています。
特に妊婦さんや妊娠の可能性がある女性は、ジカウイルスが流行している地域への渡航をなるべく避けた方が安全です。やむを得ず渡航する場合は主治医との相談のうえ、蚊にさされないように厳密な対策を講じる必要があります。
また、ジカウイルスは性行為によっても感染するため、流行地域に滞在中は症状の有無にかかわらず性行為の際にコンドームを使用するか性行為を控えるようにしましょう。
日本では、ジカウイルス感染症は「4類感染症」という感染症法で定められた病気に分類されています。これは、感染が広がらないようにするために、患者さんが見つかったら保健所などに報告しなければならないという意味です。(参考文献1,5)
参考文献
- 参考文献1:国立感染症研究所 感染症疫学センター「ジカウイルス感染症」(国立健康危機管理研究機構感染症情報提供サイト、最終閲覧日2025年4月5日)
- 参考文献2:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000113142.html
- 参考文献3:高崎智彦「ジカウイルス感染症の実験室診断」(国立健康危機管理研究機構感染症情報提供サイト、最終閲覧日2025年4月5日)
- 参考文献4:国立感染症研究所「蚊媒介感染症の診療ガイドライン(第5.1版)」(最終更新2023年9月6日)
- 参考文献5:国立感染症研究所 感染症疫学センター「ジカウイルス感染症に関するQ&Aについて 問9 流行地域へ渡航をする場合は、どのように予防すればよいですか?」(国立健康危機管理研究機構感染症情報提供サイト、最終更新日2016年12月14日)