

監修医師:
大坂 貴史(医師)
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京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学大学院医学研究科修了。現在は綾部市立病院 内分泌・糖尿病内科部長、京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・糖尿病・代謝内科学講座 客員講師を務める。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医。
目次 -INDEX-
HIV感染症の概要
HIV感染症はヒト免疫不全ウイルス (HIV) による感染が原因で引き起こされる病気です。HIVは免疫を担う細胞に感染するウイルスで、長期に渡り感染すると体の免疫システムが破壊されてしまい、通常では問題にならないような感染症や特定のがんが発症しやすくなる状態になります。この状態を後天性免疫不全症候群 (AIDS、エイズ) と呼びます。HIV の感染初期には目立った症状がない場合が多いため、感染に気づかない人も少なくありません。しかし、適切な治療を受けることで、HIV感染者 でも健康的な生活を続けることが可能です。 現在、世界中で 約3,670万人のHIV感染者がいるとされ、毎年約180万人が新たに感染していると報告されています。日本でも、感染者や エイズ患者 の報告数は年々増加傾向にあります。このような現状を踏まえ、HIV感染症 について正しい知識を持ち、予防や治療について理解を深めることが重要です。 (参考文献1)HIV感染症の原因
HIV感染症の原因は、HIVというウイルスへの感染です。HIVは人から人へ以下のような方法で感染します。 HIV は主に性的接触を通じて感染します。特に、コンドームを使用せずに行われる性行為は、感染リスクが高まります。性行為には、膣性交、肛門性交、そして稀に口腔性交も含まれます。特に肛門性交は粘膜が傷つきやすく、感染リスクが高いとされています。 また、HIV は感染者の血液を介して広がることがあります。たとえば、注射器や針を使い回した場合、血液に触れる可能性が高くなります。特に薬物を注射で使用する人々の間での感染が問題視されています。また、不適切な医療行為や輸血による感染のリスクもありますが、近年は輸血用血液の厳しい検査によりリスクは大幅に低下しています。 そして、HIVは感染した母親から胎児や乳児に感染することがあります。妊娠中、出産時、あるいは母乳を通じて感染が起こります。しかし、妊娠中に抗HIV薬を飲む、帝王切開で出産する、粉ミルクで養育するなど適切な治療と対策をとることで、このリスクを大幅に減らすことができます。 (参考文献1,2)HIV感染症の前兆や初期症状について
HIV に感染した場合、症状は段階によって異なります。初期には無症状であることが多く、気づかないうちに感染が進行すると後天性免疫不全症候群 (AIDS、エイズ) の発症につながります。急性期
HIV感染から2〜3週間後 、発熱やのどの痛み、リンパ節の腫れ、筋肉痛など、風邪やインフルエンザに似た症状が現れることがあります。症状は数日〜10週間程度続き、多くの場合自然に良くなります。無症状の場合もあり異変に気付きにくいですが、この時期に診断ができると後の治療に非常に有利になります。無症候期
急性期の症状が治まるとしばらく無症候期に入り、数年から10年以上続くこともあります。無症候期の間も、HIVは体内で静かに増殖を続け、免疫システムを徐々に弱めていきます。この期間はHIV感染症に特徴的な症状は見られませんが、性感染症や繰り返す帯状疱疹、肝炎、結核、口腔ガンジダなどが見られることがあり、これらがきっかけとなって診断につながる場合もあります。この時点で適切な治療を受ければ、症状の進行を遅らせることが可能です。エイズ発症期
リンパ球が壊されて一定以下の数になると、日和見感染症 (通常の免疫状態では感染しないような病原体による感染症) や悪性リンパ腫などの特定のがんが発症しやすくなります。この状態を後天性免疫不全症候群 (AIDS、エイズ) と呼びます。食欲低下、下痢を起こし、低栄養状態になり衰弱してしまうこともあります。 (参考文献1)HIV感染症の検査・診断
HIV感染症の検査と診断は、感染の早期発見と適切な治療の開始において非常に重要です。検査は主に血液検査を用いて行われ、感染者の体内にあるウイルスや抗体の有無を調べます。検査の種類
HIV検査はスクリーニング検査と確認検査の二段階で行われます。スクリーニング検査で陰性であれば、HIVに感染していないと判断されます。陽性であった場合は確認検査を実施し、そこでも陽性であればHIVに感染していると考えられます。検査の流れ
スクリーニング検査は匿名で受けることが可能です。保健所や指定された医療機関で行われ、検査方法によって即日で結果がわかる場合もあります。検査結果が陽性の場合、確認検査のために医療機関を受診する必要があります。検査を受けるタイミング
感染から抗体が生成されるまで約3週間〜3か月かかるため、この期間中は「ウインドウ期」と呼ばれ、検査で感染が検出されないことがあります。そのため、感染が疑われる行為 (例:無防備な性行為や針の使い回し) があった場合は、3か月経過後に検査を受けることが推奨されます。(参考文献2)HIV感染症の治療
HIV感染症に対する治療は、抗レトロウイルス療法 (ART) が中心です。ARTでは作用の異なる3種類以上の抗HIV薬を飲むことで、ウイルスの量を非常に少なく抑えて免疫システムの機能を維持します。ARTを適切に行えば、感染者でも非感染者と同じくらい長く、不自由のない社会生活を送ることができるようになっています。かつては煩雑で副作用も多く患者さんの負担の大きい治療法でしたが、現在では1日1錠飲めば済む薬や2か月に1回の注射薬などが開発されており、副作用も軽減されています。しかし、服薬を中断するとウイルスが再活性化して症状が進行してしまうため、治療効果を維持するためには服薬し続ける必要があります。 (参考文献1,2)HIV感染症になりやすい人・予防の方法
世界では、2016年時点でHIV感染者数は約3,670万人と推定されており、年間約180万人が新たに感染しています。日本でも毎年約1,500人の新規感染者が報告されており、累計で約2万7千人を超えています。日本ではHIV感染症 (後天性免疫不全症候群) は5類感染症に分類され、診断した医師は7日以内に最寄りの保健所に届け出なければならないと定められています。 予防のためには、以下の点に注意することが重要です。- 性行為に際して コンドームの正しい使用は、HIV感染を予防する最も効果的な方法の一つです。特に複数の性パートナーがいる場合や、感染リスクが高い環境では、より慎重な行動が求められます。
- 血液感染を防ぐために 注射器の使い回しは絶対に避けましょう。一方で、日本では現在輸血や血液製剤による感染はまず起こりません。
- 母子感染を防ぐために お母さんがHIV検査で陽性であった場合でも、医療機関の指導のもとで適切な治療を受けることで、赤ちゃんへの感染リスクを最小限に抑えることができます。具体的には、妊娠中の服薬や帝王切開で出産すること、そして粉ミルクで子育てすることなどです。
関連する病気
- 肺炎球菌感染症
- 結核
- 細菌性腸炎
- 進行性多巣性白質脳症
- ニューモシスチス肺炎
- トキソプラズマ症
- カポジ肉腫
- HIV関連神経認知障害
- 末梢神経障害
- 糖尿病
- 心血管疾患
参考文献




