

監修医師:
大坂 貴史(医師)
Q熱の概要
Q熱(Q fever)は、コクシエラ・バーネッティ(Coxiella burnetii)によって引き起こされる人獣共通感染症です。家畜の分娩時に排出される胎盤や羊水、排泄物に多く含まれる菌が環境中に拡散し、粉じんを吸い込むことで人に感染します。潜伏期間は2〜3週間で、急性期には発熱や頭痛、倦怠感といったインフルエンザ様の症状が現れます。小児では嘔吐や下痢を伴うこともあります。肺炎や肝炎を合併することがあり、慢性化すると心内膜炎や血管感染といった重篤な病態に至る可能性があります。診断には抗体検査が用いられますが、発症早期では陰性のこともあるため臨床経過と職業歴・渡航歴が重要です。治療は抗菌薬ドキシサイクリンが第一選択で、慢性Q熱では長期併用療法が必要になります。畜産従事者や獣医師など動物に接する機会が多い人が特に感染しやすく、心疾患をもつ人では慢性化リスクが高いため注意が必要です。予防の基本は防護具の使用や家畜舎の衛生管理、未殺菌乳製品の摂取回避です。日本ではワクチンは利用できないため、曝露予防が最も大切です。
Q熱の原因
Q熱(Q fever)は、コクシエラ・バーネッティ(Coxiella burnetii) という細菌によって引き起こされる人獣共通感染症です。この細菌は乾燥や熱、化学物質などに強い抵抗性を有します (参考文献1) 。羊毛の中では1年弱、生の食肉のなかでは1カ月、牛乳の中では3年以上生存することが知られています (参考文献1) 。
日本での報告は少ないですが、ニュージーランドを除く世界中で報告のある感染症です。アメリカでは年間200例程度の感染例が報告されています (参考文献2) 。
自然界においては、牛、羊、ヤギなどの家畜が主な感染源となります。分娩時に排出される胎盤や羊水、尿、糞便などに菌が含まれており、これらに汚染された粉じんを人が吸い込むことによって感染が成立します (参考文献2) 。滅菌されていない乳製品の摂取でも感染するほか、汚染された綿や麦わらなどが風にのって広範囲に広がることもしられています (参考文献1) 。人から人への感染は基本的にありません。
Q熱の前兆や初期症状について
Q熱の潜伏期間は通常 2〜3週間とされていますが、慢性Q熱として発症する場合には数カ月から数年以上の期間をおいて発症します (参考文献1)。
急性Q熱では、発熱、悪寒、強い頭痛、倦怠感などインフルエンザに似た症状で始まります。小児では多くの症例で下痢・嘔吐の症状が現れることが知られています (参考文献1)
慢性Q熱の合併症として代表的なのは心内膜炎です。発熱や体重減少、肝脾腫、汗がひどくて着替えなければいけないような寝汗 (盗汗) といった症状があります (参考文献1) 。慢性Q熱は生命予後に関わる重大な病態です。慢性Q熱では血管が感染巣になることもあり、これも同様に命に関わる病態です。
感染リスクの高い産業に従事していたり、渡航先で感染リスクとなる行動をした方で当てはまる症状がある場合には、近くの内科を受診してください。
Q熱の検査・診断
Q熱の症状は他の感染症でもみられるようなものが多いため診断が難しいです。後述するような感染リスクの高い産業に従事している方や、渡航先でリスクの高い行動をとった方は必ず診察する医師に申し出てください。
確定診断のためには血中の抗体価を3~6週間あけて測定しますが、この結果が陰性であったからといってQ熱を否定することはできません。
Q熱の治療
Q熱患者の多くは自然治癒しますが、症状のある期間を短縮したり重症化を予防するために抗菌薬治療をします。
第一選択薬はドキシサイクリンであり、通常は2週間程度投与されます(参考文献1, 2)。Q熱、特に心内膜炎の治療は長期にわたり、ドキシサイクリンとヒドロキシクロロキンの併用が長期間必要になります (参考文献1)。
Q熱になりやすい人・予防の方法
Q熱に感染しやすいのは、畜産従事者、獣医師、屠殺場の作業員、研究所で家畜や細菌を扱う人など、動物やその排泄物に接触する機会の多い人です。予防の基本は、感染源となる動物や環境との接触を最小限にすることで、次のような予防策が基本です。
- 出産や流産に立ち会う場合は防護具を着用する
- 動物の胎盤や羊水は適切に廃棄処理する
- 家畜舎の換気・清掃を徹底する
海外に渡航した際に牛やヤギのミルクを生で提供されることがあるかもしれませんが、これを口にすることも感染リスクになります。Q熱に限りませんが、渡航先では口にするものが適切な衛生管理がなされたものか注意するようにしてください。
慢性Q熱の発症リスクが高いのは心臓弁膜症の既往がある人や、大動脈置換術を受けたことがある人です。慢性Q熱の致死率は1~2割程度あるので、これらのリスク因子がある人は特に注意してください。
妊娠中の感染が流産、死産、早産、低出生体重に関連する場合があります。妊娠中に海外旅行をする場合にも注意してください。
なお、Q熱に対するワクチンは海外の一部地域では接種可能ですが、日本では利用できません。
参考文献




