全身性アミロイドーシス
副島 裕太郎

監修医師
副島 裕太郎(横浜市立大学医学部血液・免疫・感染症内科)

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2011年佐賀大学医学部医学科卒業。2021年横浜市立大学大学院医学研究科修了。リウマチ・膠原病および感染症の診療・研究に従事している。日本内科学会 総合内科専門医・認定内科医、日本リウマチ学会 リウマチ専門医・指導医・評議員、日本リウマチ財団 リウマチ登録医、日本アレルギー学会 アレルギー専門医、日本母性内科学会 母性内科診療プロバイダー、日本化学療法学会 抗菌化学療法認定医、日本温泉気候物理医学会 温泉療法医、博士(医学)。

全身性アミロイドーシスの概要

私たちの体内では、さまざまなタンパク質が作られ、それぞれ重要な役割を果たしています。通常、これらのタンパク質は正しく折り畳まれて働きますが、アミロイドーシスでは、特定のタンパク質が誤って折り畳まれ、不溶性の線維状の物質「アミロイド」を形成します。このアミロイドは、さまざまな臓器に蓄積し、組織や臓器の構造を破壊し、機能を阻害します。
例えば、腎臓にアミロイドが蓄積すると、腎臓のろ過機能が低下し、タンパク尿や腎不全を引き起こします。

アミロイドーシスは、全身性アミロイドーシス限局性アミロイドーシスの2つに大きく分けられます。
全身性アミロイドーシスは、全身の複数の臓器にアミロイドが沈着するタイプで、生命を脅かす可能性があります。
限局性アミロイドーシスは、特定の臓器にのみアミロイドが沈着するタイプです。

全身性アミロイドーシスの原因

全身性アミロイドーシスの原因は多岐に渡り、大きく分けて後天性遺伝性の2つに分類されます。

後天性アミロイドーシス

AAアミロイドーシス
炎症性疾患や慢性感染症の合併症として発生します。体内で炎症が続くと、肝臓から血清アミロイドAが産生されます。血清アミロイドAは通常、免疫反応において重要な役割を果たしますが、慢性炎症状態では血清アミロイドAが過剰に産生され、アミロイド線維に変換され、組織に沈着します。
ALアミロイドーシス
白血球のひとつである形質細胞によって異常なタンパク質である免疫グロブリン軽鎖に由来するアミロイド(ALアミロイド)を過剰につくり出すことが原因で起こります。多発性骨髄腫という形質細胞のがんで起こることが多いです。
透析アミロイドーシス
長期間の血液透析を受けている患者さんに発生します。透析では、血液中の老廃物を除去しますが、β2ミクログロブリンというタンパク質は除去されにくく、体内に蓄積し、アミロイドを形成します。

遺伝性アミロイドーシス

遺伝子の変異が原因で、異常なタンパク質が作られ、アミロイドとして蓄積します。様々な遺伝子が関与しており、症状や経過も様々です。
トランスサイレチンというタンパク質の遺伝子変異による家族性アミロイドポリニューロパチーは、代表的な遺伝性アミロイドーシスです。家族性アミロイドポリニューロパチーでは、神経や心臓にアミロイドが沈着することが多く、手足のしびれや麻痺、心不全などの症状を引き起こします。

全身性アミロイドーシスの前兆や初期症状について

全身性アミロイドーシスの初期症状は非特異的で、疲労感体重減少食欲不振など、ほかの病気でも見られることがあります。またアミロイドが蓄積する臓器によって、さまざまな症状が現れます。

  • 腎臓:手足のむくみなどが起こります。
  • 心臓:心不全による息切れ・むくみや、不整脈などが起こります。
  • 神経:手足のしびれや動かしづらさ、感覚障害、自律神経障害(起立性低血圧、便秘、勃起障害など)を引き起こすことがあります。
  • 消化管:下痢、便秘、消化不良、消化管出血などが起こります。

全身性アミロイドーシスの症状は多岐に渡るため、どの診療科を受診すればよいか迷うかもしれません。初期症状が非特異的な場合は、まず内科を受診し、必要に応じて専門医に紹介してもらうとよいでしょう。

  • 腎臓内科:腎臓に症状がある場合。
  • 循環器内科:心臓に症状がある場合。
  • 消化器内科:消化管に症状がある場合。
  • 神経内科:神経に症状がある場合。
  • 血液内科:血液疾患によるALアミロイドーシスが疑われる場合。
  • リウマチ膠原病内科:炎症性疾患によるAAアミロイドーシスが疑われる場合。

全身性アミロイドーシスの検査・診断

全身性アミロイドーシスの診断は、組織生検によってアミロイド蛋白の沈着を確認することが必須です。疑われる臓器の一部を採取し、特殊な染色(コンゴーレッド染色)を行い、顕微鏡で観察します。アミロイドはコンゴーレッド染色で赤橙色に染まり、偏光顕微鏡下で緑色の複屈折性を示すのが特徴です。加えてアミロイドタイピングという検査を行い、アミロイド蛋白の種類を決定します。また、以下の検査も参考にします。
血液検査
炎症反応(CRP、血清アミロイドAなど)、血清タンパク質、免疫グロブリン、腎機能、肝機能などを調べます。
尿検査
蛋白尿や血尿、「M蛋白」という異常なタンパク質がないかなどを調べます。
画像検査
超音波検査、CT検査、MRI検査などで、臓器の大きさや形態、アミロイドの沈着部位などを調べます。
血清アミロイドPシンチグラフィー
血清アミロイドPというアミロイド線維に結合するタンパク質に放射性物質を標識し、体内での分布を画像化する検査です。アミロイドの沈着部位や程度を評価することができます。

全身性アミロイドーシスの治療

全身性アミロイドーシスの治療は、「原因に対する治療」と「起こっている臓器障害に対する治療」の2つに分けられます。

原因に対する治療

AAアミロイドーシス
原因となる炎症性疾患や慢性感染症の治療が最も重要です。炎症を抑える薬物療法としては、コルヒチン(家族性地中海熱などの遺伝性炎症性疾患の治療薬で、血清アミロイドA産生を抑制することで、AAアミロイドーシスの予防や治療に効果があります)、免疫抑制薬、生物学的製剤:TNF阻害薬(インフリキシマブ、エタネルセプト、アダリムマブなど)、IL-6阻害薬(とくにトシリズマブなどのIL-6阻害薬は、血清アミロイドA産生を抑制する効果が高く、AAアミロイドーシスの治療に有効であることが示されています)などがあります。

ALアミロイドーシス
異常な免疫グロブリンを産生する形質細胞を抑制するための化学療法が行われます。多発性骨髄腫の治療薬が使用されることが多く、ボルテゾミブ、レナリドミド、デキサメタゾンなどを組み合わせた治療をおこないます。

透析アミロイドーシス
透析方法の改善(高性能透析膜の使用など)や、腎移植などが検討されます。腎移植により、β2ミクログロブリンの血中濃度が低下し、アミロイド沈着が改善することが期待されます。

家族性アミロイドポリニューロパチー
肝移植や、異常なトランスサイレチンの産生を抑える薬物療法(タファミジス、パチシランなど)が行われます。肝移植により、異常なトランスサイレチンの産生源である肝臓を正常なものに置き換えることで、アミロイド沈着の進行を抑制することができます。

その他
原因となるタンパク質の産生を抑制する薬物療法や、遺伝子治療などが研究されています。

臓器障害に対する治療

アミロイド沈着によって臓器障害が起こっている場合は、それぞれの臓器に対する治療が必要となります。

腎障害
末期腎不全では透析療法や腎移植を行います。AAアミロイドーシスでは、末期腎不全に進行することが多く、透析療法が必要となることがあります。腎移植は、腎機能を回復させる有効な治療法ですが、移植腎へのアミロイド沈着のリスクがあるため、血清アミロイドA産生が十分に抑制されていることが条件となります。
心不全
薬物療法(利尿剤、強心剤、血管拡張剤など)、ペースメーカー植え込みなど。
肝機能障害
薬物療法、肝移植など。
神経障害
薬物療法、リハビリテーションなど。

全身性アミロイドーシスになりやすい人・予防の方法

全身性アミロイドーシスになりやすい人

全身性アミロイドーシスは、特定の病気を持っている人、遺伝子変異を持っている人、長期間透析を受けている人などがなりやすいです。

全身性アミロイドーシスの予防方法

全身性アミロイドーシスを完全に予防する方法はありませんが、以下の方法によって発症リスクを低下させることができます。
原因となる病気の早期発見・治療
慢性炎症性疾患や慢性感染症を早期に発見し、適切に治療することで、AAアミロイドーシスの発症リスクを低下させることができます。
透析療法の進歩
高性能透析膜の使用や、透析時間の延長など、透析療法の進歩により、透析アミロイドーシスの発症リスクは低下しています。
遺伝カウンセリング
遺伝性アミロイドーシスは、遺伝カウンセリングを受けることで、将来的な発症リスクや、子供への遺伝の可能性などを知ることができます。遺伝子検査によって、遺伝子変異の有無を調べることもできます。


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