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リンパ脈管筋腫症
松本 学

監修医師
松本 学(きだ呼吸器・リハビリクリニック)

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兵庫医科大学医学部卒業 。専門は呼吸器外科・内科・呼吸器リハビリテーション科。現在は「きだ呼吸器・リハビリクリニック」院長。日本外科学会専門医。日本医師会認定産業医。

リンパ脈管筋腫症の概要

リンパ脈管筋腫症(略称LAM:ラム)は、LAM細胞という異常細胞が、肺やリンパ節、腎臓に増殖する進行性疾患です。
日本での有病率は人口100万人あたり1.9〜4.5人程度のまれな疾患であり、国の指定難病に登録されています。患者のほとんどは成人女性で、特に妊娠可能な年齢での発症が多いと報告されています。

LAM細胞は肺に無数の小さな空洞(のう胞)を形成し、肺の構造を破壊します。
進行すると息切れや呼吸困難などの症状が引き起こされ、重症化し呼吸不全に陥った場合には酸素療法が必要となります。
また気胸(肺から空気が漏れる症状)や腎臓の血管筋脂肪腫(腎臓に発生する良性の腫瘍)を合併することも多いです。

LAMには単独で発症する「孤発性LAM」と、結節性硬化症に関連して発症する「結節性硬化症に合併したLAM」の2種類があります。

リンパ脈管筋腫症

リンパ脈管筋腫症の原因

結節性硬化症に関連するLAMの場合、細胞の増殖を制御する役割を持つタンパク質を生成するTSC1またはTSC2遺伝子の変異が原因です。
TSC1またはTSC2遺伝子の変異によりLAM細胞の増殖を止めることができず、組織を破壊します。
主に肺やリンパ節に不連続な病変を形成し、肺に嚢胞が形成されたり、空洞をつくったりして病変が進行していきます。

孤発性LAMでもTSC2遺伝子の変異が見つかっており、同様のメカニズムでLAM細胞が増殖するのではないかと考えられています。

TSC遺伝子の変異の原因は遺伝的要因や、環境要因が考えられていますが、発症のメカニズムは分かっていません。

リンパ脈管筋腫症の前兆や初期症状について

主な症状は肺に関連するもので、息切れ、咳、血痰、喘鳴などの呼吸器症状が一般的です。
また、気胸や胸水貯留によって胸痛や呼吸困難が起こることもあります。

息切れ

LAM細胞が肺の組織内で増殖し、肺の構造が変化すると、肺胞や細気管支に嚢胞(のうほう)が形成されます。
嚢胞が形成されると、肺の機能が妨げられ、酸素の取り込みを効率的に行えなくなり、労作時(運動などの活動時)に息切れが生じます。

LAM細胞により肺の組織が損傷を受けると、咳反射が刺激されやすくなります。
LAM細胞の増殖に伴い、肺内で発生した炎症が気道を刺激するのも、咳を引き起こす要因の一つです。

血痰

LAM細胞の増殖で肺胞や気道が損傷を受けることで、血管が破れやすくなります。その結果、出血が起こりやすくなり、血痰が出ることがあります。

喘鳴

喘鳴(ぜんめい)とは呼吸の際にヒューヒューと笛のような音が聞こえることです。
LAM細胞が肺や気道に浸潤し、気道を狭くすることで、空気の流れが妨げられ、呼吸時に音が生じます。
LAMに伴う慢性的な炎症により気道の粘膜が腫れ、さらに狭窄が進むことで、喘鳴が悪化する原因となります。

気胸

気胸はLAM細胞で肺の組織が損傷を受け肺に穴が開いてしまい、胸痛や呼吸困難を伴う状態です。
LAMが発見されるきっかけになることが多く、再発を繰り返す傾向があります。

胸水貯留

LAM細胞の増殖によりリンパ管が圧迫・破壊され、リンパの流れを妨害し、胸水が貯留します。
リンパ液が正常に流れず、胸腔内に蓄積される状態を「乳び胸水」と呼び、脂肪分を含むリンパ液が胸腔に貯留することが特徴です。

リンパ脈管筋腫症の検査・診断

LAMの診断には、CT検査、血液検査、肺機能検査が用いられます。
これらの検査を行っても診断がつかないケースでは、肺生検が行われることもあります。

画像検査

CT検査が多く用いられ、肺に散在する「のう胞」が見られることが特徴です。
LAMの確定診断には、通常のCTよりも詳細な画像が撮れる高分解能CT(HRCT)が使われます。
HRCTで確認できる小さなのう胞の有無が診断の重要なポイントです。

血液検査

血液中のVEGF-D(血管内皮増殖因子D)という物質の高濃度が確認されると、LAMの可能性が強く疑われます。
VEGF-Dは、血管やリンパ管が新しく作られるのを助ける「成長因子」と呼ばれる物質です。
また、結節性硬化症を伴う場合は遺伝子の異常(TSC遺伝子)を調べることがあります。
一部のLAM患者では、血清アンジオテンシン変換酵素(ACE)値が上昇することがありますが、LAMのみにみられる特異的な所見ではありません。

肺生検

肺生検は、気管支鏡や胸腔鏡、開胸術によって肺の組織を切り取り、顕微鏡で観察します。
病理検査も行い、LAM細胞の増加や特異的な病変が確認されると、確定診断となります。
肺がんや結核などとの鑑別にも使用されます。

肺機能検査

LAM患者への肺機能検査は、病気の診断や進行状況の評価において非常に重要です。
肺機能検査の結果は、他の呼吸器疾患(喘息や慢性閉塞性肺疾患)との鑑別にも重要です。
定期的に肺機能検査を行うことで、病気の進行状況をモニタリングしたり、治療の効果を評価したりします。

リンパ脈管筋腫症の治療

LAMの治療では、肺機能の低下を遅らせるための薬物療法や合併症に対する処置が行われます。また重症化した際には酸素療法や肺移植が検討されます。
現在のところ根本的な治療方法はなく、病気の進行を遅らせることが治療の目的となります。

米国の研究では、LAMの10年間生存率は86%と報告されています。
参考:難病情報センター/リンパ脈管筋腫症(LAM)(指定難病89)

薬物療法

LAMの治療では肺機能の低下を遅らせる目的で、シロリムスという薬物が使用されます。
胸やお腹に溜まる「乳び」という液体や、腎臓にできる腫瘍(血管筋脂肪腫)の縮小にも効果が期待されています。

気胸や胸水に対する治療

LAMでは、肺に穴が開いてしまう気胸や、胸に溜まる乳び胸水が生じることがあります。
そのため、気胸を防ぐための胸膜癒着術や、溜まった胸水を抜くためのドレナージといった処置が必要です。

酸素療法

LAMが進行すると、肺の機能が低下し、体内の酸素供給が不足するため、酸素療法を行います。
特に、運動時や睡眠中に酸素が不足する場合、酸素療法を行うことで息切れや疲労感などの症状の軽減に効果があります。

肺移植

症状が悪化し、呼吸機能が著しく低下した場合、肺移植が検討されます。
LAM患者は気胸を繰り返すことが多く、気胸は肺の機能をさらに悪化させるため、移植が必要になることがあります。
LAMは移植後も再発する可能性があるため、移植後の管理が重要です。

リンパ脈管筋腫症になりやすい人・予防の方法

LAMはまれな疾患ではありますが、患者の多くは30~40代の妊娠可能な年齢の女性だと言われています。

病状には女性ホルモンが関与すると考えられており、妊娠やエストロゲン製剤(ホルモン薬)の使用によって症状が悪化する可能性があります。

また、気胸が起きやすいため、胸痛や息苦しさがあれば早めに受診することが推奨されます。

現時点で確立された予防方法はありませんが、呼吸機能の低下を防ぐためにも、喫煙習慣がある人は禁煙するようにしましょう。


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