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クルーゾン症候群
居倉 宏樹

監修医師
居倉 宏樹(医師)

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浜松医科大学卒業。初期研修を終了後に呼吸器内科を専攻し関東の急性期病院で臨床経験を積み上げる。現在は地域の2次救急指定総合病院で呼吸器専門医、総合内科専門医・指導医として勤務。感染症や気管支喘息、COPD、睡眠時無呼吸症候群をはじめとする呼吸器疾患全般を専門としながら一般内科疾患の診療に取り組み、正しい医療に関する発信にも力を入れる。診療科目
は呼吸器内科、アレルギー、感染症、一般内科。日本呼吸器学会 呼吸器専門医、日本内科学会認定内科医、日本内科学会 総合内科専門医・指導医、肺がんCT検診認定医師。

クルーゾン症候群の概要

クルーゾン症候群は、厚生労働省が難病に指定している遺伝性の先天性疾患で、頭蓋骨や顔面骨の縫合が早期に癒合することによって頭部や顔の形に異常が生じる疾患です。
頭蓋骨は通常、複数の骨から構成されており、隣り合った骨の間に隙間がある状態で産まれます。乳児検診などで医師が頭のてっぺんを触診することがありますが、この隙間のひとつである大泉門を触診しています。これらの骨は、からだ全体の成長とともに、ゆっくりと癒合(ゆごう、接着すること)して形や大きさが整っていきます。
しかしクルーゾン症候群では、この頭蓋骨や顔面の骨の癒合が、胎児期から、多くが1歳までの早期に起こるため、脳や顔面の発達に影響を及ぼします。また症状の個人差が極めて大きいことが知られており、見た目や症状は一様ではありません
この病気は、ほかの遺伝性疾患であるアペール症候群やファイファー症候群などと同様に「症候群性頭蓋縫合早期癒合症」に分類されますが、クルーゾン症候群は合指・趾症(手足の指が正常と異なる先天異常)を伴いません。
クルーゾン症候群は常染色体優性遺伝形式をとるため、患者さんの子は50%の確率で発症しますが、正常遺伝子を持つ親からの突然発症もあります。日本では年間20~30例程度の発症が報告されています。

クルーゾン症候群の原因

クルーゾン症候群の主な原因は、FGFR2(線維芽細胞増殖因子受容体2)またはFGFR3(線維芽細胞増殖因子受容体3)と名付けられている遺伝子の異常です。これらの遺伝子は、骨の成長や発達に関与しています。特にFGFR2遺伝子の変異による発症が多く見られます。
この遺伝子変異によって頭蓋骨や顔面骨の成長が妨げられ、早期に接着してしまいます。その結果として頭蓋骨のサイズが小さいままになり、脳の発達が阻害されたり、眼球が突出したり、呼吸が障害される、といった症状が起こります。

クルーゾン症候群の前兆や初期症状について

クルーゾン症候群には多様な症状があります。主なものを以下に示します。

頭部と顔面の異常

頭蓋骨形状異常

頭蓋骨が小さくなったり、不自然な形になることがあります。

顔面骨の変形

中顔面(鼻や頬)や下顎(あご)の成長が不十分になるため、顔全体が平坦に見えることがあります。

眼球突出

前頭部の骨が正常に発達、成長できず、眼球を収納する眼窩が小さいことで目が飛び出してしまい、視力障害を伴う場合もあります。

脳関連の問題

脳の周囲や脳内の脳室という空間は、脳脊髄液という液体で満たされています。クルーゾン症候群では頭蓋が小さいため脳脊髄液が相対的に過剰になり、以下のような症状を起こします。

頭蓋内圧亢進

頭蓋内の水圧が上昇し、頭痛や視力障害を引き起こす可能性があります。

水頭症

脳室に過剰な脳脊髄液が溜まります。

小脳扁桃下垂

高い脳圧によって小脳の一部が頭蓋から下に押し出され頚椎へ飛び出します。

精神運動発達遅滞

脳圧が高まることで、脳の正常発達が妨げられることがあります。これによって、 年長児以降に言葉の遅れや多動などの精神運動発達遅延などが目立つこともあります。

その他の身体的特徴

聴覚障害

耳小骨の形態異常などによって聴力が低下する場合があります。

歯並び・噛み合わせの問題

歯列不正や噛み合わせに影響を与えることがあります。

呼吸障害

上あごを構成する中顔面骨が正常に成長できず上気道が狭くなることで、睡眠時無呼吸や呼吸困難を起こしたりします。

乳幼児健診で発見されることもありますが、それ以外に心配な場合は小児科を受診しましょう。

クルーゾン症候群の検査・診断

クルーゾン症候群を診断するためには、以下のような手順が取られます。

問診と身体検査

医師は患者さんから詳細な病歴を聴取し、身体的特徴を観察します。ただしクルーゾン症候群は特徴的な頭部や顔面、大泉門の早期閉鎖といった外見上の変化から、ほとんどの場合で胎児期から乳幼児健診に発見されます。

画像診断

X線検査や頭部CT検査を用いて頭蓋骨や顔面骨の状態を評価します。また、頭部MRI検査で水頭症や小脳扁桃下垂がないかなど脳や頚椎の異常を確認します。

遺伝子検査

FGFR2またはFGFR3遺伝子に変異があるかどうかを調べるために血液検査を行います。この検査によって確定診断が可能となります。

クルーゾン症候群の治療

クルーゾン症候群は遺伝子異常による疾患です。この病気自体に対する根本的な治療はなく、各々の症状に対する対症療法が主体となります。頭蓋骨の容量拡張などの対処には、形成外科での手術を行います。また、術後もリハビリテーションをはじめとした多面的な医療管理が必要です。主な治療内容として以下があります。

手術療法

頭蓋骨や顔面骨を広げる手術が行われます。これによって頭蓋の容量を拡張して脳への圧迫を軽減し、正常な成長を促します。乳幼児期から成人になるまで複数回の手術が必要で、10回以上の手術を行うこともあります。
主な手術は、骨延長術(次項を参照)、頭蓋形成術、V-Pシャント術、後頭下減圧術、気管切開術、顔面形成術、後鼻孔狭窄/閉塞解放術、環軸椎固定術、口蓋形成術などです。

骨延長法

伸ばしたい骨の部分を切り、そこに装置を取り付け、少しずつ伸ばしていく方法です。特に頭蓋骨の容量拡張が必要な場合は、1歳までに手術を行うことが望ましいとされています。
癒合した頭蓋骨によって幾つかの方法から選択して行いますが、頭蓋骨をタイル状に分割してヘルメット型の延長器を用いて牽引するMCDO法(Multi-directional Cranial Distraction Osteogenesis: 多方向性頭蓋延長術)が開発されています。

リハビリテーション

発達支援として理学療法や作業療法などを行います。

定期的なフォローアップ

手術で拡張した骨が再癒合したり、成長過程で新たな問題が発生したりする可能性があるため、長期にわたり定期的な医療機関でのフォローアップが重要です。

クルーゾン症候群になりやすい人・予防の方法

クルーゾン症候群は遺伝性疾患で、常染色体有性遺伝という形式で遺伝します。親が罹患者である場合には、子どもに50%の確率でこの病気が遺伝します。また、親が罹患していなくても、突然変異によって突然孤立性に発症することもあります。
クルーゾン症候群自体に対する予防策はありません。しかし、妊娠中の母親による健康管理や適切な医療ケアは重要です。具体的には以下の点に注意してください

妊娠中の健康管理

妊婦さんはバランスの取れた食事を心掛けることとともに、適切なサプリメント(葉酸など)を摂取することで胎児への影響を軽減できます。

定期的な妊婦健診

妊娠中は定期的に医療機関で健診を受けることで早期発見につながります。

家族歴への理解

家族内で同様の疾患歴がある場合には専門医との相談を行いリスク評価を受けることも有効です。


関連する病気

  • 頭蓋縫合早期癒合症
  • アペール症候群
  • ハルス・スミス症候群
  • サザーランド症候群

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